偽りだらけの花は、王様の執着に気付かない。

葛葉

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第二章

第26話

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 例の同線婚の法案について、教会からの認可が下り後は採決し施行までもう少しというところだった。
 シャーロットは上機嫌で書類に判を押していた。
「まさか、サファルティア殿下が亡きキャロー前公爵のご子息だったとは……」
 シャーロットの腹心であるエイヒャル・アドリー伯爵は小さくため息を吐いた。
「そして陛下が迎えたい正妃が殿下だったとは……」
 嘆きのため息が止まらないエイヒャルにさすがにシャーロットもイラっとしてくる。
「煩い。本人の言質も取ってあるんだぞ」
 大嘘である。サファルティアはまだ「いい」とも「だめ」とも言っていない。保留中である。
 しかし、外堀を埋めることは大事だ。
 サファルティアは自分の本当の出自を公表したことで逃げ道を用意したつもりだろうが、そうはさせない。
「まぁ、陛下のことですから、その辺は抜かりないでしょうよ。憐れなのはサファルティア殿下です。いえ、キャロー公爵と呼んだ方がいいのでしょうか……?」
「いや、サフィはまだ王子のままだ。さすがに継承権については下げざるを得ないが、本人はこれで王位に就かなくなると喜んでいたぞ」
 身分と継承権は必ずしも一致しない。
 戸籍もまだフェリエール家のものだし、外すにしても手続きにはまだ時間がかかる。
「でも、ティルスディア殿下は良かったのですか? あれだけご執心でしたのに」
「ティルは元々契約婚のようなものだからな。だが、後ろ盾になってくれたコアルク公爵には伝えたほうがいいだろうな……」
「コアルク公爵……、ああ、キャロー前公爵の弟君でしたか。確か、彼がティルスディア殿下の後ろ盾になっていましたね」
 コアルク公爵とは、故ジョルマン・キャローの実弟で、留学中に出逢ったガリア公国の公爵令嬢と恋に落ち婿入りした、サファルティアにとっての伯父にあたる人だ。
 ティルスディアの経歴を作るにあたり、シャーロットはなかなか足を掴みづらい彼を頼り後ろ盾になって貰っていた。
「とはいえ、ティルとは養子関係ではないからな。ティルには王家の別荘の1つを与えてそこで不自由なく過ごしてもらうつもりだ」
「はぁ……随分とあっさりと手放しますね。いっそ怖いくらいですが」
「ティルとももう話しているし、本人も安心しているから問題ない」
「確かに、王宮と違って毒殺される危険性は減りますからね」
 不審に思いながらもエイヒャルはもういいや、と書類を回収してシャーロットの執務室を後にする。
 入れ替わるようにシャーロットの侍従が入ってくる。
「陛下、ロクドナ帝国からお手紙が」
「ロクドナ帝国?」
 きな臭い話はあるものの、最近は双方穏やかな関係だったはずだ。
 現在、キャロー領に孤児院の慰問訪問へ行っているティルスディアを思い浮かべ一瞬不安が過る。
「それが……皇女をひとり、陛下に嫁がせたい……と」
「は?」
 シャーロットの婚約者選びの際、ロクドナ帝国の皇女も婚約者候補に挙がった。真っ先に打診したものの、適齢期でないことを理由にあっさりと断られたことがある。
(それを今になって……?)
 何か裏がありそうだとシャーロットは封書を開ける。
 そこには次のような内容が書かれていた。
 
 我がロクドナ帝国は、貴国との友好関係をさらに強固なものとするため、我が愛娘である皇女を貴国王室に嫁がせることを希望しております。これは両国にとって新たな未来を切り拓く重要な一歩であると確信しております。
 つきましては、皇女の新たな門出に際し、貴国より使節団をお送りいただければ幸いに存じます。その際、我が帝国の要請として、「サファルティア・フェリエール第二王子」および「ティルスディア・キャロー妃」を使節団の代表としてご派遣いただきたくお願い申し上げます。この両名は貴国を代表するにふさわしい方々であり、皇女も深い敬意を抱いております。
 このご提案が陛下に受け入れられ、実現に向けて準備が進められることを、心より祈念しております。貴国と我が国の絆がさらなる実りをもたらし、未来永劫にわたり繁栄することを楽しみにしております。

 正直な感想を言えば「胡散臭い」である。
「ロクドナ帝国の皇女……確か5人くらいのはず……。そのうち適齢期なのは……」
 第一皇女は既に国内の貴族に嫁入りしていたはずだ。シャーロットよりも10歳ほど年上だった記憶がある。
 第二皇女も同じく、国外に嫁入りしたはずだ。彼女もシャーロットとは5歳ほど年上で、数年前にシャーロットが打診した婚約者候補は彼女だった。
 その次の第三皇女はシャーロットと同い年だが、騎士の道を歩むとかで皇族から除外されている。
 残りは第四皇女と第五皇女だが、第四皇女は婚約者がいて、第五皇女はまだ10歳かそこらでとてもではないが結婚適齢期ではない。
 一番有力なのは第四皇女だが、他にも庶子の皇女がいればわからない。
 そしてもう一つ問題なのが、サファルティアとティルスディアを使節団の代表に指名されたことだ。
「2人同時……替え玉しかない……だろうな……」
 シャーロットはキャロー領の孤児院に慰問訪問しているティルスディアが無事に戻ってくることを祈った。
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