幼馴染とマッチポンプ

西 天

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第4章

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 現在またまたニュートンである。
 昨日来たばっかりだというのに小娘が僕の束の間を返せ。しかしお互いに別々の場所に座るのは不自然だし,もう目も何回かあっている。何なら向こうから手を振って手招きをしている。
 そんな先輩面をした行為が気に食わないが仕方ない僕の方が年上だ。少しは年上らしく振舞おうじゃないか。
 ということで手招きに従い僕は昨日と同じテーブルの同じ席に腰を据える。従順なところを見せたのではザ思春期みたいな感じが滲み出てしまう。やはり僕は大人だ。
「手を招いただけでホイホイノコノコと座るなんて,やっぱり犬」
「!?」
「陽葵。お手」
 こいつ朝からやり過ぎだ。お灸をすえなければならんのか。
「いいのか彼氏を邪険に扱っても。この契約なんかなかったことにできるんだからな」
「邪犬? やっぱ犬じゃん。せっかく会えたんだし弄ってあげないと可愛そうじゃん」
 いや,僕は理解できたけど多分他の人はわからんと思う。筆談ならまだしも,というかそんな気質はない。
 この流れに付き合っていたら堂々巡りもいいとこだ。店が閉まってしまう。
「すいませんケーキセット。ケーキはモンブラン,飲み物はホットの紅茶で」
 さっさと注文を済ます。
「かしこまりました」 
 見れば柚葉の前にはもうすでに昨日と同じくモンブランとカフェラテが置いてあった。まだ手は付けてないようだった。
「気に入ったんだな」
「まあモンブラン美味しいし。それに陽葵が来るかもしれないし」
 いつものように僕の反応を見ているだけだ。気にしたらいけない…が思わず目を逸らしてしまった。
「いい反応ですねーダーリン。で今日も奢ってくれるんでしょう?」
「誰がダーリンだ。不気味なこと言うな。今日は自分で払え」
 そういうことかだからあんなことを。そう考えると勘違いも甚だしいし,ただただ恥ずかしい。
「いいじゃん彼氏なんだよ陽葵。男なら奢って当然でしょ」
「それはずるいぞ。だいたいフリって言うんなら皆の前だけそれっぽく振舞えばいいだけなんじゃあ?」
 色々考えはしたがこいつのこういう態度を見ていたら結局この考えに行きついた。
「あーいえばこういうよね。うーん…わかった。ならお互いにルールを決めよう」
 それはいい考えだ。このままではなかなか立ち振る舞いに困っていたところだ。 

「よしわかった。じゃ―」
 じゃあと口にしようとしたら遮られた。女子の方がやはり声がよく通るとでもいうのか。神の次は地球か。
「まずは私からね。じゃあ朝一緒に登校すること。それとお昼ご飯は…まあお昼ぐらいはいいか。陽葵にも貴重な友達との時間を過ごしてもらわないとだしね。それから下校は必須よね。登下校は他の男子に見せつける格好の場面だし―」
「ちょっと待て。こういうのは一つずつ提示していくのがそれこそルールってもんだろうが。登下校ってお前電車だし僕と通学路反対だろ」
「じゃあ帰りだけ。駅までならいい?」
 あーいえばこういうのはどっちだ。そこまで食い下がる理由が理解できない。
 柚葉は父親が医者でお金持ち。僕が借りている1Kのアパートと違い柚葉が住んでいるアパートは2LDKだ。なぜ人一人が住むだけなのにとも思ってしまう。
 雪が丘学園には寮というのは存在しない。昔はあったみたいだが男女間で問題が起こったらしい。
 看護科では看護師の卵を育成し普通科では有名大学に毎年多く現役合格者を出している雪が丘学園。その知名度から僕みたいに遠くから入学し,そして一人暮らしを始める生徒もいる。有名な割に全校生徒が少ないのは学業や部活に力を入れるため。いわば少数精鋭。そんな学校にたまたま僕は合格した。
 その一人暮らしの生徒のほとんどが学園近くの安くて学生が一人で住むには最低限取るに足る間取りのアパートに住んでいる。
 そんな中柚葉はわざわざ学園の最寄り駅から二駅離れた洒落たアパートに住んでいる。昨日この話題が出た時に場所と間取りを携帯サイトで見せてきた。
 最寄りと言っても歩けば二十分はかかるので柚葉は駅からはバスを使っている。ハード面の設備は整っているのだが駅からは遠いのがネックなところではある。徒歩の僕からしたらそんなことは関係ないけれど。休日に出かけるときは僕もバスや自前のスクーターを使うしそれらに乗れば十分程で大型ショッピングモールに着く。この点やはり都会は素晴らしい。
 しかし一緒に下校するともなると僕にとってはハード過ぎるしいささか面倒だ。
「いやそれも却下だ。お前はいいとしても僕は送った後帰らなきゃいけないんだぞ。こう見えてきちんと勉強してるんだよ」
「うわ勉強を盾にした。頭悪い子が言うやつじゃんそれ。全くあれもダメこれもダメ,何ならいいの?」
 頭悪い子はこの学園には入れない。言い訳が下手なだけです。しかし全て断るのも如何せん了見が狭いというものだ。一つくらいは意見をのんでやろうではないか。やはり僕は大人だ。
「わかった。一つだけにしてくれ。そしたら明日からはその通りにするから」
 途端,柚葉は表情を煌めかす。まるで子供が欲しかった物をかってもらったときのような顔。やはりいつまでたっても子供のままだな柚葉は。
「そしたら…」
 しかし彼女は思いのほか悩んでるようだカフェラテが入ったグラスを見つめながら顎に右手を乗せ考え込んでいる。
 今回は制限をかけてないので不安は拭えないが何回も言うようだが僕は大人だ。言ったことは政治家みたいになかったことにしない。
 すると何か閃いたのか彼女はこちらにきらきらした目を向け。ここが喫茶店であることをすっかり忘れたかのようなボリュームで言う。
「じゃあ―デート。週末に一回デートする。これもダメだっていうんなら妹ちゃんに陽葵が毎日とっかえひっかえ女子と夜遊んでるって言うから」
 パートのおばさんが見てきて「若いなー。やらしっ」とか言ってる。誤解も誤解とんでもない誤解。僕はとりあえずそのおばさんに向かって首を全力で横に振る。何回かここには来ているので顔なじみではあるがそんな印象を持たれてはここに通えなくなりそうだ。そのほかにも何人かお客様がいる。妹には誤解だと言えば済むかもしれないが,周りのこの状況はどうしてくれるんだ。昨日といい今日といい僕の印象は悪くなる一方だ。冤罪なのに。というか罪など犯していない。
 そんなことより早く否定しなければいけない。僕のレッテルについてばかり気にしていたがデートとか言ったなそこについても何か言わなければ。さっきからハードルがどんどん上がってるし。
「根も葉もないことを言うな。デートついては…」
 言葉にしていると柚葉がニヒルに笑いまた机に伏せようとする。あれだまた泣く(嘘)つもりだ。ここに来れなくなるのは是が非でも避けなければ。もうそれは仕方なくだった。喫茶店を盾にされては仕方なかった。
「わかった。仕方なくだ。そのかわりもう僕について変な噂を言うのは勘弁してくれ」
 僕がそういうと柚葉はこれまで見たことのないような笑顔をした。
 ―今日も夕焼けが柚葉の顔を赤くきれいに染めている。夕焼けに照らされているはずなのに,いや照らされているからこそ透き通っていて真っすぐな表情。見ている僕が赤くなりそうなほどに。

「ありがとう。早速明後日の日曜に私の家に迎えに来てね。初回のデートプランは任せたよ」
 初回って。僕は会員様か何かか。
 一般的に計画立案は早い人の方が重宝されるが,ここまで強引ともなると考え物だ。最後は丸投げかよ。最後まで自ら推し進めた方が達成感を味わえるのではないのだろうか…
 それでも決まったものは仕方ない。休日返上するのは癪だが,休日もくそもない社畜オブ社畜の自動販売機様の事を思えば少しは楽になれる気がする。全国の自動販売機様,本日もお勤めお疲れ様でございます。いつもお世話になっております。

 そんなこんなで明後日は柚葉と久しぶりに遊びに行く。柚葉本人に遊びに行くとか言ったら多分怒るので言わないが。

「アーデートタノシミダナア」
 とりあえず棒読みではあるがそんなに嫌ではないことを伝えておく。
「何それ私の方が楽しみなんだけど」
 何? 伝わっていないだと。伝わらなければどうということはない。
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