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第4章
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言わずと知れた大手CDショップタワーレコード。
がいくら探せど見当たらない…三階にあったはずなんだけどな。
ここで勘違いに気付く―タワーレコードは地元のショッピングモールにはあった。しかしここには違うCDショップがあったんだっけ。
まあいいか。とりあえずそこでもいいということになったので店内に入る。来たことなかったけど,案外と言っては失礼だが店内は広く品数も豊富に取り揃えてあった。タワーレコードと遜色ない。
柚葉が行きたいと言っていたが音楽に興味があるなんて聞いたことがない。何を探しているんだろうか? まさかとは思うがイケメンで構成されている関西のアイドルユニットに最近嵌りだしたとか。なくはないな,大阪では特に人気あるし女子高生とか好きそうだし,クラスメイトにもファン多いしな。イケメンとはなんて得な生き物なんだ。それに歌って踊れて芝居もできてMC回しもうまいとか反則だぞ。
とか勝手に想像している僕。まあ別にイケメンになりたいなんて全然思ってないし。そうだそんなこと思ってないし。産んでくれた両親その先の先代に僕はとても感謝している。可もなく不可もなくなんてイケメンよりいいじゃないか。だってチヤホヤされる気苦労なんて皆無だし。はい終わろ。妬みは別に嫌いな感情ではないけれど,いや別に妬んではないけれど。終わり終わり。
さて僕も好きなアーティストのもってないライブDVDでも観ますか。でも一応何を観るかぐらい聞いておいてやるか。
イケメングループだとしたら僕の好きなアーティストへの愛をとくと語ってやろう。帰るまで語ってやろう。
ということで僕は何事もなく平然と毅然に聞いてみる。
「何探してるんだ? お前がCD見に来るとか意外だな」
どんな返答かなぜか内心ソワソワしながら待っている。すると柚葉からは「そう?」とだけ返事があった。質問したはずなんだけどな。
「まあいいか。どの辺だ? 手伝うか?」
「うーん,そうね。じゃあ一緒に探してくれる?」
探すということは僕が懸念していたのとは違うのか。となんだか少し安心。
「で,どんな曲?」
柚葉は額に指をあて考え込む。
「んーと。洋楽は洋楽だと思うんだけど。曲名がわからない…この前陽葵と喫茶店にいた時に流れてたんだけど…フフーンフフンタンタタンっみたいなメロディー。陽葵この曲知ってる」
知ってるも何も洋楽で聞くというとその曲しかない―ギルバード・オサリバンのアローンアゲイン・ナチュラリーだ。
僕といた時に聞いたってとこでほとんどわかった。
「ああ。あの時の。いい曲って言ってたもんな確か。でもなんていうか…」
あの曲は確かにとてもいい曲だとは思うけどメロディーに反して歌詞がな。しかも柚葉の境遇にダブるとこあるし,実際はおじさんや僕の家族がいるんだけど。さすがに堪えるものがあるんではないだろうか?
そういう風に思うところもあり薦めるのは正直迷う。
僕自身は神なんていないという中二心をくすぐるところにすごい感嘆した。
ごく普通に一人なんだと思えるところと,寂しさと強さが同居しているような感覚に魅了された。
生きていれば当然どんな形であれ別れが来ることを改めて実感した。
陽気なメロディーに反している歌詞。でもその歌詞はごく当たり前のことを綴っていて。それをギルバード・オサリバンは歌っている。
そしてなぜ僕が柚葉にこの曲を薦めようとしていないのか理解できた気がした。
―僕は同情しているのか。それかもっとひどい憐れみの感情を柚葉に対して抱いているのかもしれない。
だとしたらそれは柚葉が僕に一番抱いて欲しくない感情なんだろう。
僕は今まで幼馴染だからという大義名分で柚葉と一緒にいたが,その根本には僕が勝手に抱いてしまった同情や憐れみといった気持ちがあったのかもな。つくづく最低だな。
でも実際柚葉は強がってるところもある。
だとしても,そんな感情なんて無責任極まりない。同情や憐れみを人から持たれるのが嫌で今まで母の事を誰にも言ってこなかったんじゃないか。少しは彼女の強さを肯定してやることができるんじゃないか。
これ以上コーティングされただけの強がりは何も生み出さないと思う。弱さをひっくるめて本当の柚葉は強くて優しんだって,僕だけでも思うことが本当の意味で出来るなら柚葉は少しは楽になるのかもしれない。さらに前に進んでくれるのかもしれない,それこそ僕の事なんて気にすることなんかなく。怖がらずに。ごく当たり前に…
当然不安もある。この歌詞を知って柚葉がつらい思いをするかもしれない。でもそのつらさは強がりを続けてきた彼女の仮面を酸のように溶かしていくかもしれない,もちろん辛さといった痛みも伴ってだが。その痛みやつらさを同情するのではなくまたは共感するのではなく,ただそのつらさや痛みを近くで見守っていけたら。
柚葉と僕は出来やしない共感なんて,人間離れしたものとしてどこか嫌悪感を抱いている。
実際ヒトの事を全部理解し同じ気持ちになるなんて綺麗事は不可能だ。だってそんなの宗教的な考えでそこにはどこか胡散臭さすら感じる。食べてみて美味しいや物を見て綺麗だ,といった気持ちを同じ感覚で捉えるのはかなり難しい,それは確かめようがないものだから。ならどんな表現でその感情をあてがうのがいいかと言われればそれもかなり難しい。それはやっぱり見る人から見れば共感なんだろう。それでも尚違和感を感じる。だからこれは屁理屈でしかない。
もう同情をしないのなら…柚葉が助けを求められたら僕は何も考えず彼女を結果的に助けることになるかもしれない。例えどんなに微力であってもそれが柚葉が望んでいるのなら。それが同情や共感ではないものとして僕が判断したうえでだけど。
僕がそうするのはやっぱり幼馴染の柚葉だから。
「―ギルバード・オサリバンだな。案外いいセンスしてるな」
「でしょ。曲名や歌詞がわかんなかったから聴きたくても聴けなくて超モヤモヤしてたの。でもこれでなんかスッキリした。たまには役に立つじゃん。ありがと。この曲携帯で聴けばいいんだけど何かどうしてもCDを買いたいなって思っちゃてね」
彼女は屈託のない笑みでそう告げ。洋楽コーナーの『O』の棚からCDを取り出しそれを購入した。
会計を終え入口で待っている僕の所へ少し小走りでやってきて,これまた屈託のない笑顔だ。
「知ってたってことは和訳の歌詞も知ってるってこと? 自分で調べたいけどちょっと英語は…その点陽葵って英語と古文無駄に得意だし…理数系さっぱりだけど。知らないで聴くより歌詞の意味知ってた方が分かりやすいじゃん。それに英語の勉強にもなるし,それと日本語の勉強にもなりそうだし。あと日本語に直すと人によって違う訳し方するところとか興味ある,ほら日本語って色んな意味合いあるし」
言いたいことを言いやがる。でも探求心すごいな。てっきり家に帰ってその作業をするもんだと思ってた。
説明するのはここではなんだと思い場所を同じく三階のコーヒーショップに変えた。
やっぱりちゃんと柚葉と向き合おうと思ったので僕は和訳の歌詞を僕なりの解釈で伝えていく。同情や憐れみもなく。淡々と。
「…」
柚葉は俯いてしまい無言―予想通りの反応といえばそうなんだけど。
僕も心が痛む。多分これは正しいことではないのかもしれない,だけど強がりな柚葉と向き合うためには必要なことだと信じ込む。
「僕も初めて聴いたときは人懐っこいなって感じたけど,歌詞知ったらすごいショックで…でも歌詞を受け入れることができたら…まあ全部は飲み込み切れてはないけど,歌詞も含めていい曲だと思えた」
ごめんなんて言わない。それはこれまでの決心が無駄になる,意味がない。
「教えてくれてありがとう。―でも大丈夫な気がする」
涙を左手の中指で拭いながら強がりか本心かどっちつかずの声で柚葉は自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
「いや。別にいいけどお前強がってないか? 辛い時はつらさに慣れることもいいけど頼れる人を頼れよ。まあ…僕とか」
いいながらやっぱ恥ずかしい。気障過ぎたか? 少なくとも僕は自分の気持ち悪さに陶酔して吐きそうだ。
でも柚葉の顔を見ると長い睫毛にまだ涙を携えながら笑っている。
「いつ私が強がったの? 厚かましいんじゃっ。つらさ? そんなのとっくのまえに慣れたし,パパや陽葵たちのおかげで慣れ…た…し…」
笑ったかと思えば言葉に詰まる。やっぱり強がっていたんじゃないか。
「お前なあ,それはさすがに苦しいぞ。やっぱりそうじゃないか。そういうの僕の前とか妹の前ではやめろ,共感とかしてほしくないのはわかってる。だから僕は頼られたとき柚葉の気持ちに寄り添うことはしない,けど自分本位あくまで僕の意思で助けることはあるかもしれない。物理的にこうやって近くに…結果的に寄り添う形を選ぶ可能性だってあるから」
こういうセリフを言うと分かっていれば少し勉強したのかもしれない。でも多分それも意味ないんだろうな。
僕の言葉を受け,柚葉は今度は人目を憚らず泣いている。僕が泣かせたみたいだ。僕が泣かせたんだけど。これはこれでこの状況を受け入れよう。今は逃げてはいけないし言い訳なんかしてはいけない。
「なんで初めてのデートなのに泣かな,じゃなくて泣かされなきゃいけないの? でも…本当,ありがとう」
まあそうだろう,僕は泣かせるかもしれないと最低なことを思ってたけど。今度のありがとうは仮面を外した柚葉からのありがとうだと受け取ってよさそう。
彼女はまた涙を拭う。
「私どこかでまだ陽葵たちの前で強がってた。でももっとありのままの私を見せてあげる。それで今度は頼ってそれで私の全部をぶつけてやる…ママの事,ホントはまだ信じられないし,許せない気持ちもある。でも乗り越える」
涙をも化粧にしてしまう柚葉。
同情を抱いてしまっていた僕はその顔を見て心が痛む。けどそれに反してこれでよかったと安堵している。
僕も同情や憐れみは柚葉に対して捨てるし柚葉は僕に対して強がりを捨てる。こうやって向き合っていくと決めたから。
「いつでも頼ってこい。でもこれ以上わがままなのは困る。そうだ。英語の勉強にはなったか? 辞書で引くより奥深いだろ,単語の意味とか関係ない箇所もあるからな。こうして和訳するのも一つの勉強方法かもな。まあ英語が全くできない柚葉にとってはなんのこっちゃ,だよな」
「もっと教え方がうまい人ならわかったかもしれないのになぁ」
こいつまた。教えるも何も僕はただ和訳をしただけだろうに。
でも柚葉は本当の意味で楽しそうにしていた。その笑顔は全部が全部吹っ切れてはないんだろうけど。今はこれでいい。
「それを僕に言うなよ,英語の先生に直接言え。勉強で僕を頼るな。自分でやれ! あと途中で昔の僕の真似しただろ?」
「え? しとらんのじゃけど?」
「それじゃって! あっ」
「あっ,て。べた過ぎじゃろ」
あのありがとうは本心からだったんだろうけど猛烈にこいつのことを置いて帰りたくなってきた。
大人な僕はそんなことをするはずなく,その後も他愛のないことを話し,ただブラブラとデートをして柚葉を送ってクタクタになりながら帰路についた。
明日は学校休みたい。
がいくら探せど見当たらない…三階にあったはずなんだけどな。
ここで勘違いに気付く―タワーレコードは地元のショッピングモールにはあった。しかしここには違うCDショップがあったんだっけ。
まあいいか。とりあえずそこでもいいということになったので店内に入る。来たことなかったけど,案外と言っては失礼だが店内は広く品数も豊富に取り揃えてあった。タワーレコードと遜色ない。
柚葉が行きたいと言っていたが音楽に興味があるなんて聞いたことがない。何を探しているんだろうか? まさかとは思うがイケメンで構成されている関西のアイドルユニットに最近嵌りだしたとか。なくはないな,大阪では特に人気あるし女子高生とか好きそうだし,クラスメイトにもファン多いしな。イケメンとはなんて得な生き物なんだ。それに歌って踊れて芝居もできてMC回しもうまいとか反則だぞ。
とか勝手に想像している僕。まあ別にイケメンになりたいなんて全然思ってないし。そうだそんなこと思ってないし。産んでくれた両親その先の先代に僕はとても感謝している。可もなく不可もなくなんてイケメンよりいいじゃないか。だってチヤホヤされる気苦労なんて皆無だし。はい終わろ。妬みは別に嫌いな感情ではないけれど,いや別に妬んではないけれど。終わり終わり。
さて僕も好きなアーティストのもってないライブDVDでも観ますか。でも一応何を観るかぐらい聞いておいてやるか。
イケメングループだとしたら僕の好きなアーティストへの愛をとくと語ってやろう。帰るまで語ってやろう。
ということで僕は何事もなく平然と毅然に聞いてみる。
「何探してるんだ? お前がCD見に来るとか意外だな」
どんな返答かなぜか内心ソワソワしながら待っている。すると柚葉からは「そう?」とだけ返事があった。質問したはずなんだけどな。
「まあいいか。どの辺だ? 手伝うか?」
「うーん,そうね。じゃあ一緒に探してくれる?」
探すということは僕が懸念していたのとは違うのか。となんだか少し安心。
「で,どんな曲?」
柚葉は額に指をあて考え込む。
「んーと。洋楽は洋楽だと思うんだけど。曲名がわからない…この前陽葵と喫茶店にいた時に流れてたんだけど…フフーンフフンタンタタンっみたいなメロディー。陽葵この曲知ってる」
知ってるも何も洋楽で聞くというとその曲しかない―ギルバード・オサリバンのアローンアゲイン・ナチュラリーだ。
僕といた時に聞いたってとこでほとんどわかった。
「ああ。あの時の。いい曲って言ってたもんな確か。でもなんていうか…」
あの曲は確かにとてもいい曲だとは思うけどメロディーに反して歌詞がな。しかも柚葉の境遇にダブるとこあるし,実際はおじさんや僕の家族がいるんだけど。さすがに堪えるものがあるんではないだろうか?
そういう風に思うところもあり薦めるのは正直迷う。
僕自身は神なんていないという中二心をくすぐるところにすごい感嘆した。
ごく普通に一人なんだと思えるところと,寂しさと強さが同居しているような感覚に魅了された。
生きていれば当然どんな形であれ別れが来ることを改めて実感した。
陽気なメロディーに反している歌詞。でもその歌詞はごく当たり前のことを綴っていて。それをギルバード・オサリバンは歌っている。
そしてなぜ僕が柚葉にこの曲を薦めようとしていないのか理解できた気がした。
―僕は同情しているのか。それかもっとひどい憐れみの感情を柚葉に対して抱いているのかもしれない。
だとしたらそれは柚葉が僕に一番抱いて欲しくない感情なんだろう。
僕は今まで幼馴染だからという大義名分で柚葉と一緒にいたが,その根本には僕が勝手に抱いてしまった同情や憐れみといった気持ちがあったのかもな。つくづく最低だな。
でも実際柚葉は強がってるところもある。
だとしても,そんな感情なんて無責任極まりない。同情や憐れみを人から持たれるのが嫌で今まで母の事を誰にも言ってこなかったんじゃないか。少しは彼女の強さを肯定してやることができるんじゃないか。
これ以上コーティングされただけの強がりは何も生み出さないと思う。弱さをひっくるめて本当の柚葉は強くて優しんだって,僕だけでも思うことが本当の意味で出来るなら柚葉は少しは楽になるのかもしれない。さらに前に進んでくれるのかもしれない,それこそ僕の事なんて気にすることなんかなく。怖がらずに。ごく当たり前に…
当然不安もある。この歌詞を知って柚葉がつらい思いをするかもしれない。でもそのつらさは強がりを続けてきた彼女の仮面を酸のように溶かしていくかもしれない,もちろん辛さといった痛みも伴ってだが。その痛みやつらさを同情するのではなくまたは共感するのではなく,ただそのつらさや痛みを近くで見守っていけたら。
柚葉と僕は出来やしない共感なんて,人間離れしたものとしてどこか嫌悪感を抱いている。
実際ヒトの事を全部理解し同じ気持ちになるなんて綺麗事は不可能だ。だってそんなの宗教的な考えでそこにはどこか胡散臭さすら感じる。食べてみて美味しいや物を見て綺麗だ,といった気持ちを同じ感覚で捉えるのはかなり難しい,それは確かめようがないものだから。ならどんな表現でその感情をあてがうのがいいかと言われればそれもかなり難しい。それはやっぱり見る人から見れば共感なんだろう。それでも尚違和感を感じる。だからこれは屁理屈でしかない。
もう同情をしないのなら…柚葉が助けを求められたら僕は何も考えず彼女を結果的に助けることになるかもしれない。例えどんなに微力であってもそれが柚葉が望んでいるのなら。それが同情や共感ではないものとして僕が判断したうえでだけど。
僕がそうするのはやっぱり幼馴染の柚葉だから。
「―ギルバード・オサリバンだな。案外いいセンスしてるな」
「でしょ。曲名や歌詞がわかんなかったから聴きたくても聴けなくて超モヤモヤしてたの。でもこれでなんかスッキリした。たまには役に立つじゃん。ありがと。この曲携帯で聴けばいいんだけど何かどうしてもCDを買いたいなって思っちゃてね」
彼女は屈託のない笑みでそう告げ。洋楽コーナーの『O』の棚からCDを取り出しそれを購入した。
会計を終え入口で待っている僕の所へ少し小走りでやってきて,これまた屈託のない笑顔だ。
「知ってたってことは和訳の歌詞も知ってるってこと? 自分で調べたいけどちょっと英語は…その点陽葵って英語と古文無駄に得意だし…理数系さっぱりだけど。知らないで聴くより歌詞の意味知ってた方が分かりやすいじゃん。それに英語の勉強にもなるし,それと日本語の勉強にもなりそうだし。あと日本語に直すと人によって違う訳し方するところとか興味ある,ほら日本語って色んな意味合いあるし」
言いたいことを言いやがる。でも探求心すごいな。てっきり家に帰ってその作業をするもんだと思ってた。
説明するのはここではなんだと思い場所を同じく三階のコーヒーショップに変えた。
やっぱりちゃんと柚葉と向き合おうと思ったので僕は和訳の歌詞を僕なりの解釈で伝えていく。同情や憐れみもなく。淡々と。
「…」
柚葉は俯いてしまい無言―予想通りの反応といえばそうなんだけど。
僕も心が痛む。多分これは正しいことではないのかもしれない,だけど強がりな柚葉と向き合うためには必要なことだと信じ込む。
「僕も初めて聴いたときは人懐っこいなって感じたけど,歌詞知ったらすごいショックで…でも歌詞を受け入れることができたら…まあ全部は飲み込み切れてはないけど,歌詞も含めていい曲だと思えた」
ごめんなんて言わない。それはこれまでの決心が無駄になる,意味がない。
「教えてくれてありがとう。―でも大丈夫な気がする」
涙を左手の中指で拭いながら強がりか本心かどっちつかずの声で柚葉は自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。
「いや。別にいいけどお前強がってないか? 辛い時はつらさに慣れることもいいけど頼れる人を頼れよ。まあ…僕とか」
いいながらやっぱ恥ずかしい。気障過ぎたか? 少なくとも僕は自分の気持ち悪さに陶酔して吐きそうだ。
でも柚葉の顔を見ると長い睫毛にまだ涙を携えながら笑っている。
「いつ私が強がったの? 厚かましいんじゃっ。つらさ? そんなのとっくのまえに慣れたし,パパや陽葵たちのおかげで慣れ…た…し…」
笑ったかと思えば言葉に詰まる。やっぱり強がっていたんじゃないか。
「お前なあ,それはさすがに苦しいぞ。やっぱりそうじゃないか。そういうの僕の前とか妹の前ではやめろ,共感とかしてほしくないのはわかってる。だから僕は頼られたとき柚葉の気持ちに寄り添うことはしない,けど自分本位あくまで僕の意思で助けることはあるかもしれない。物理的にこうやって近くに…結果的に寄り添う形を選ぶ可能性だってあるから」
こういうセリフを言うと分かっていれば少し勉強したのかもしれない。でも多分それも意味ないんだろうな。
僕の言葉を受け,柚葉は今度は人目を憚らず泣いている。僕が泣かせたみたいだ。僕が泣かせたんだけど。これはこれでこの状況を受け入れよう。今は逃げてはいけないし言い訳なんかしてはいけない。
「なんで初めてのデートなのに泣かな,じゃなくて泣かされなきゃいけないの? でも…本当,ありがとう」
まあそうだろう,僕は泣かせるかもしれないと最低なことを思ってたけど。今度のありがとうは仮面を外した柚葉からのありがとうだと受け取ってよさそう。
彼女はまた涙を拭う。
「私どこかでまだ陽葵たちの前で強がってた。でももっとありのままの私を見せてあげる。それで今度は頼ってそれで私の全部をぶつけてやる…ママの事,ホントはまだ信じられないし,許せない気持ちもある。でも乗り越える」
涙をも化粧にしてしまう柚葉。
同情を抱いてしまっていた僕はその顔を見て心が痛む。けどそれに反してこれでよかったと安堵している。
僕も同情や憐れみは柚葉に対して捨てるし柚葉は僕に対して強がりを捨てる。こうやって向き合っていくと決めたから。
「いつでも頼ってこい。でもこれ以上わがままなのは困る。そうだ。英語の勉強にはなったか? 辞書で引くより奥深いだろ,単語の意味とか関係ない箇所もあるからな。こうして和訳するのも一つの勉強方法かもな。まあ英語が全くできない柚葉にとってはなんのこっちゃ,だよな」
「もっと教え方がうまい人ならわかったかもしれないのになぁ」
こいつまた。教えるも何も僕はただ和訳をしただけだろうに。
でも柚葉は本当の意味で楽しそうにしていた。その笑顔は全部が全部吹っ切れてはないんだろうけど。今はこれでいい。
「それを僕に言うなよ,英語の先生に直接言え。勉強で僕を頼るな。自分でやれ! あと途中で昔の僕の真似しただろ?」
「え? しとらんのじゃけど?」
「それじゃって! あっ」
「あっ,て。べた過ぎじゃろ」
あのありがとうは本心からだったんだろうけど猛烈にこいつのことを置いて帰りたくなってきた。
大人な僕はそんなことをするはずなく,その後も他愛のないことを話し,ただブラブラとデートをして柚葉を送ってクタクタになりながら帰路についた。
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