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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくの茶番に少しだけお付き合いを

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まぁまぁな『愛くるしい』のオルビー先生と、向かい合って食事。
実践さえなければ、どれだけ楽しいひと時だったろうか。

年上ではあるが、これ程の『愛くるしい』を目の前にして、ぼくは緊張と羞恥の中にいる。

自分の事とは言え、顔面タイプが『格好良い』な事が、こんなにも面倒だったとは。
せめてタイプが違うか、エイベル兄さんと同じ高ランクぐらいなら、ぼくがもう少し普通な態度でも許されたんだろうに。

一生懸命に『格好良い』に相応しい態度を振る舞う、ぼくの気分はさながら舞台役者。
役柄は、キザな二枚目気取り……かな。


神殿で里村……いや、リウイへの態度も今と似たようなもんじゃないか、と。
そう言われそうな気もするが。
その時と、今とでは、相手も状況も違う。

お互いに前世の記憶があると判明する前でも、リウイと話していた時は二人きり。
ぼくは子爵家の息子で、彼は一介の神官で、しかも年齢も近そうだった。
前世の記憶持ち同士だと分かった後は、それぞれの前世である世野悟と里村竜二は友人だ。
そうした色々な要因が合って、ぼくは気安い態度を取れたんだ。

そうだから、『格好良い』が期待されるような振る舞いをする余裕もあった。
まさか『格好良い』な振る舞いが、本来はずっとずっと目上の人に対してまで、こんなに明確に求められるとは思っていなかったがね。




「アドル様。もし、召し上がった料理にあまり美味しくないと感じる物があった場合、どのように振る舞うべきだと思いますか?」

オルビー先生からの鋭く冷徹な視線を浴び、ぼくは心が震えるような思いだ。
実践の真っ最中なのに、こんな風に甘い罠を散りばめて来るんだから、オルビー先生、狡いよ。

――― うわぁ……。失敗したら殺されるぞ……。

……ハッ。一瞬だが、馬鹿馬鹿しい事を考えてしまった。これは世野悟の所為だ。

「そうだな……。ぅ~ん。特に詳しくは触れない、かな。」
「それでは貴方のお気に召さなかったと判断されてしまいますよ。奇跡ランクをもてなすのに失敗した、と……ホストの評判は下がるでしょう。」

どうやら当たり障りの無い態度では、失格のようだ。
只でさえ引き篭もりだったぼくに『格好良い』はなかなか難しい。


ズルをするようだが、ここは先生に良い解答を教えて貰おう。

「そうか……。オルビー先生が『格好良い』だったら、どうするんだ?」
「私は『格好良い』ではありませんよ?」
「それは分かっているよ。それでも、オルビーに教えて欲しい。……ね? 見せて?」

ぼくは、薄っすらと笑いながら、オルビー先生にお強請りする。
堂々とカンニングをするようなぼくだが、その所作だけはちゃんと『格好良い』と判断して貰ったようだ。
解答そのものでは無いが、するべき態度を教えてくれる事になった。

「そうですね。では仮に、この……『鹿肉のソテー、オレンジソース添え』が苦手だとしましょう。」

オルビー先生は、言いながら鹿肉にナイフを走らせる。

――― 今の。完全に、殺し屋だ。

……ハァッ。また馬鹿な事を考えてしまった。ぼく、集中しろ。

「まずは、ソテーを美味しかったと、さらりと伝えます。その流れで自然に、鹿肉が周辺の地域でどのようなものかを尋ねましょう。鹿肉がその地域でポピュラーな食材なのか、ホストが張り切って手配した希少なものかを確認するのです。」

頑張って微笑を保ちながら、ぼくは頷く。

「もしもポピュラーな食材であれば、次回にはまた違った料理も楽しみだ、と。希少な食材であれば、次回にはこの辺りでよく食べられている物にも興味があると。……次回を匂わせながら、誘導してしまうのです。いずれにせよ……。」

なるほど、リクエストか。
確かにそれが早そうだが……上手く出来るかな。


オルビー先生は指先を交互に組んだ手の上に、そっと顎を乗せてぼくを見上げる。
眼差し同士が一瞬絡んで、生まれた緊張感にぼくは咽喉を鳴らした。

「いずれにせよ。アドル様を不愉快にさせぬよう、ホストは細心の注意を払うはずです。例え、貴方が不愉快に感じなくとも、そのように見えたとしたら……。」

オルビー先生の瞳が細くなる。

「ホストの評判が下がる、で済めば……まだ良い。下手をすると、六大神の主神への冒涜だと……。そう、評されかねない……。」



……えぇ、そこまで言う?
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