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本編●主人公、獲物を物色する

ぼくはそろそろアルフォンソさんに会いたい

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オルビー先生に初めて会ってから、早や十日が経過していた。


この十日間の間に、ぼくはもう二回、先生の授業を受けている。
神聖国家の公爵から、合計して三回も授業を受けるなんて贅沢だね。

これには母だけでなく父、兄や弟までもが同席してのものだ。
『格好良い』が奇跡ランクなぼくの家族として、必要な事を教わったんだ。

場所はいずれも同じく、あの部屋。
父と一緒に浮遊昇降機に乗った母は、どうやら初回のあれがトラウマになってしまっていたようだ。
乗り込む時にはやや震えながら父の腕をそっと掴み、装置が動いている時には父の胸に『麗しい』の顔を埋めてしがみ付いていた。
普段は若干のツンデレ気味な母のそんな姿に、父の鼻の下がすっかり伸び切っていたのが印象的だったな。

弟とは本当に久し振りに、数年振りの邂逅だったんだが、ヴェールを被ったきりの弟とはまともに会話が出来なかったのが残念だ。
ぼくもオルビー先生の授業と実践、その他諸々で。
レストランでも、家に帰ってからも、余裕が無かった。






そして、十日後の、今日。

ぼくは母と兄に連れられて、三人で王城を訪れていた。




城門の所で一度衛兵に止められたが、顔を晒した兄を伴った母が登城理由を告げると、ちゃんとお達しが来ていたんだろう、難なく中へ入る事が出来た。
街に出たのもついこの間なぼく一人が、馬車の中ではらはらしていたと思う。

ぼくの顔面偏差値についてはまだ秘密扱いになっている。
王城へ来る前に、神殿とオルビー先生を通じて、国王陛下には伝わっているはずだが、それは内々の話であり、正式な報告ではない。
内容的に面倒な報告となりそうなので、その前に、報告の時期や方法などについて、話を合わせておく必要があるかららしい。

だから今日、ぼくが王城へ来た理由は表向き、別な物が用意されている。

王妃様が……母と同じで、この方ももちろん男性だ……日頃から息子と仲良くしてくれている友人とその母、弟を招いての茶会に招待された。という体だった。

王妃様の息子というんだから、当然、それは王子なんだが。
王子の友人というのが、我が自慢の『麗しい』高ランクなエイベル兄さんなんだよ。
子爵家の息子だが、エイベル兄さんは高ランクだからね。
その扱いは筆頭侯爵。友人として招待されるのに相応しい。


馬車が城門を潜り抜け、少し行くとようやく王城に辿り着いた。
メイドに城内を案内されながら、ぼくは、面倒九割、楽しみ一割な心境だ。

面倒九割の理由はもちろん。
これから王妃様が仰られるだろう内容……ぼくの顔面偏差値について、正式な報告前に色々と決めておかねばならない事柄だ。
恐らくだが、ぼくと王族の人々との立場上の問題から生じる、お互いに対する振る舞い方は特に慎重に打ち合わせておかなければならないだろう。
基本的には母に任せるつもりだが、ぼくも意見を求められれば「どうでも良い」とは言えない。
父が不在の、あくまでも非公式、前準備的なものだという扱いになっているが、気を抜いてはいけないのは当然だろう。

ささやかな楽しみ一割は、ここが王城だという事だ。
王城の使用人であれば、その顔面偏差値もある程度は採用時に重要視されているはずだ。
つまり、アドル的な目線で、いい男が沢山いるに違いない。
更に言えば、王城ならそこで働く執事やメイドといった使用人の他にも、文官や武官も出入りしているだろう。
つまり、もしかすると、サトル的な目線で、良さそうな男がいるかも知れない。

正直に言うと、アドル的なぼくよりもサトル的なボクが、癒しを欲しているんだ。

アルフォンソさんみたいな、ああいうタイプの美形が見たい!




王妃様が待つサロンは、王城の建物を抜けた先の大きな庭にある、立派なガーデンハウスだった。
普通のガーデンハウスと言えば、日本庭園にある『東屋(あずまや)』のように、散策中に少し休憩する為だけの、小さくて控えめで壁が無い建物のイメージなんだが、流石は王妃様のガーデンハウス。
咲き誇る花を楽しむ為の三方向を、透明度の高いガラス壁で囲み、強い日差しが入り込む一方向は、落ち着いたレンガ調の壁になっていた。

三方向がガラスの温室、みたいなものかな。
中に入る前から、王妃様らしきお人と数名の姿を確認出来る。
こちらの方を向いていなかったり、動いているメイドで遮られたりで、全員の顔が見えているわけじゃないが。


不意に立ち上がった一人の顔に、視線を釘付けにされた。

彼の蜂蜜のような金髪が、窓から差し込む光できらきらと輝いている。
ヴェールに隠されていない、その顔は。



「アルフォンソさんだ……。」


嘘みたいだ。夢でも見ているのか。

会いたいと思っていたアルフォンソさんに、まさか、王城で会えるなんて。
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