魔力は体で感じるタイプです

竜也りく

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弟: セレス編 〜鉄壁ツンデレ魔術師は、おねだりに弱い〜

鉄壁ツンデレ魔術師は、警告する

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「いや、でもフィンレー、明らかに怒ってるじゃん。なぁ、こっち向いてって」

フィンレーの両肩を掴んでこっちを向かせようとして見たけど、凍りつくような目で一瞥された。

「触るなと言っている」

「なぁ、ごめんって! そんなに怒ると思ってなかったんだよ。機嫌直してさ、ちゃんと二人で一緒に祝おう」

「……」

フィンレーが深い深いため息をつく。

「……本当に怒っていない。頼むから触らないでくれ」

「フィンレー……」

なんかもう悲しくなってきた。

だってフィンレーの魔力、さっきから青から赤、ピンク、それが混ざって変な色、って目が回りそうなくらい目まぐるしく色が変わってる。形だって俺に向かって伸びてくる魔力、それを押さえつける魔力、その一方で俺を押し返そうとする魔力がぐねぐねと入り乱れてめちゃくちゃ混乱してる。

半年間一緒に居て、フィンレーの魔力がこんなに荒れたことなんてなかった。なのに、表情も口調も一切感情を断ったみたいに平坦なのが逆に怖い。

そもそも何がフィンレーの感情をそんなにぐちゃぐちゃにしてるのかが分かってないのが問題なんだよな。だからどうにも対処できない。

帰ってきた時は普通だった。つうかむしろ嬉しそうだったし魔力だって楽しい黄色とかオレンジで、ご機嫌だなって思ったんだよ。

なのに風呂から上がってきたらコレだ。俺がCランクのお祝いを蹴って遊びに出てくってのが、そんなに嫌だったのか? それとも娼館ってのが、潔癖そうなフィンレーには許せなかったのか? 分からねぇ。

「セレス聞いてる? 疲れてるからもう寝たいんだ。頼むから離れてくれ」

急に、フィンレーが微笑んで見せる。その顔に俺はむしろ戦慄した。嫌だけど、どうしても話さなきゃいけない相手にするみたいな作った笑顔を、フィンレーが俺に向けてる。

離れろって言われても、離れられるわけがなかった。

ここまで半年、仲良くやってきたのに。いい相棒だって言い合ってたのに。この手を離した途端、フィンレーが嫌がって触らせもしない有象無象の他のヤツらみたいに、その視界に入らなくなるんじゃないかって思ったら、怖くて逆に指に力が入った。

フィンレーが、またため息をつく。

「僕は散々警告した……」

「えっ?」

俯いて、フィンレーが小さな声で呟いた。

「触るな、離れてくれって、何度も警告した」

「う、うん、ごめん、でも」

「もう無理」

「うわっ!?」

なんの前触れもなくフィンレーに押し倒されて、オレは思わず間抜けな声をあげる。

「な、なんだよもー! いきなり……」

油断してたからって魔法剣士の俺が、高身長とはいえヒョロの代名詞の筈の魔術師に押し倒されるなんて、はっきり言って屈辱だ。

唇を尖らせて文句を言ってやろうと見上げたら、いつもの冷めきったアイスブルーの瞳が、なんか肉食獣みたいにギラギラ光ってた。

「え、なに? オレなんか悪いことした?」

その目が意外すぎて、つい口からそんな言葉が転がり出た。

もちろん失言だ。俺がなんかやらかしてフィンレーを怒らせてるのは分かってるんだ。ただ、どこが怒りに触れたかが分かってないだけで。

「覚えがないとでも? 毎日毎日こっちの気も知らないで、ベタベタベタベタ触ってきて……! なぁセレス、いい加減責任を取ってくれないか?」

「ご、ごめん」

毎日毎日って……今日、今の話じゃなく?

混乱しつつ、でもそれなら確かに思い当たるフシしかないと思った。

人嫌いで触られるのなんかもってのほかだって力説するフィンレーに、あえてスキンシップを多めにしていたのは認める。

いや、でもだって、人馴れしないとって思ったんだよ。冒険者なんてみんなで酒盛りするのなんて普通だしさ、そうなりゃ肩の一つや二つ組んだりするじゃん。

フィンレーみたいな美形が氷レベルの冷たい顔で「触るな」とか言ったらみんな引くじゃん! 俺だってさっき言われた時は心に傷を負ったレベルだぞ!?

言い返したいけど、迫力の美形がめっちゃ至近距離で怖い笑顔を浮かべてるから言えない。

ていうか、もしかしてフィンレー、我慢してただけで俺から触られるのも本当はめっちゃ嫌だったって事なのか? さっき様子がおかしかったのは、我慢の限界がきたとか、そういう事だったりするんだろうか。

そう思うとめちゃくちゃ悲しい。

ベッドに転がったままそっとフィンレーを見あげたら、フィンレーは何かをぐっと堪えるような顔をして、俺をぎゅっと抱きしめてきた。

えっ。

なんで?

なんでこの話の流れでハグ???

あ、でも。

「ていうかめっちゃ触れるようになったんだな。ハグできるって凄い進歩じゃん」

「そうだな、お前限定だがな」

「え、あ、そうなの? ……って、あれ?」

さすがにこの体勢でのハグは気まずくて、話をそらしている間に拘束を逃れようと思ったら、動けなかった。

え、なんで?

「言っておくがその場所からは動けない。縛ってある」

「魔術ずるいじゃん!」

「剣士に力で対抗しようとしても無駄だからな」

にやりと笑う相棒がちょっと怖くなってきた。
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