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善意の悪意/4
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建設予定地を円状にぐるりと一周する城壁じみた仮囲いが守るべき城すらなく、この殺風景な更地をより際立たせている。
しかし、完全な更地では無い。
二人が入ってきた出入り口の反対側、相当な距離があるが、向かいには小さな出入り口では無く、トラックが資材を搬入する為の大きなゲートがあった。
それを見たアリスがげんなりと呟く。
「まさか、あそこまで歩くのか……?」
「そうだ」
「今更だが、キミは私を殺したいのか……!?」
ぶんぶんと両腕を振るって訴えるアリスを見て梁人は舌打ちをして言葉を続けた。
「ちっ、当たり前だ。お前みたいなクソを生かしておく理由、本来なら無いからな。今生かしてるのは上から命令されてるだけだ。もしお前が少しでも僕の命令を受け付けなかったら即座に殺す。直ちに殺す。迅速に殺す。即刻殺す。それくらいの許可は僕も貰ってるんだ、身の程は弁えろよ?」
その波濤の様な罵倒にアリスは眉をへの字に愁眉を寄せ、喉を鳴らす。
「ぐっ……理解しているが、せめて私への殺意を語る時だけ饒舌になるのやめてくれないか?」
「この事件が解決したら一考してやる」
そう言われ、アリスがその愁眉を開く。
「本当か!? ────くっくっく、うまい悪意も食えて待遇も改善する……成る程、やる気が出てきた……!」
「はぁ……」
何を下らない事をやってるんだ、と梁人は自己嫌悪しつつ先を見やる。
ゲートまでは直線距離とは言え歩いても十分は掛かるだろうと、梁人は背後で未だほくそ笑むアリスを置いて先へと歩き出した。
「こら梁人、置いていくんじゃない!」
遅れて、小さい歩幅で追ってくる声を聞きながら歩む足を速めた。
+++
ゲートまで辿り着いた時、梁人の後ろを息も絶え絶えにアリスが追いついた。
「ぜぇ……体力の無さは……子どもに……なっても……変わらないんだな……!」
無視して梁人はゲートを開く為の操作盤が無いか見回してそこに小さな小屋を見つけて見当を付けた。
更地の中に残されていた小さな簡易事務所。
一人で中へと入り、梁人は事務所の入り口付近にあった開閉と刻まれているレバーを押し上げた。
すると、がが、と大きな音が鳴ったのを聞き届けた梁人が事務所の外に出ると、ゆっくりとゲートが開き始めていた。
多少錆び付いてはいるようだったが問題なく動き始めた事に梁人は一先ず安堵するが、当初の目的はゲートの向こう側、〈ペイルライダーズ〉のアジテーティング・ポイント、略して言うならアジトである。
そこへ。
「おいおい、なんだよてめぇら」
ゲートが半分ほど開いたくらいで、向こう側から黒のライダースを羽織った坊主頭の若い男が出てきて開口一番吠えた。
「こう言う者だ」
淡々と言って梁人が警察手帳を見せつけると、坊主頭はぎょっ、と目を丸くしたがすぐに険しい顔つきで迫ってきた。
「一瞬ビビったが、今時警察手帳くらい簡単に偽造できるだろ! 偽物チラつかせて大物気取りか!?」
所謂メンチを切って坊主頭は鼻が触れ合いそうな程顔を近付けてきた事で梁人の顔へと唾が飛沫となって飛ぶ。
こう言った手合いに慣れた梁人は顔色一つ変えずに続けた。
「言っておくけど本物だ。捜査の邪魔をするなら公務執行妨害で刑務所に行ってもらう事になるが」
「やれるもんならやってみな! そんなお眠なガキ引き連れて歩き回ってるサツなんざ俺は見た事ないけどな!」
言われて視線をアリスへと移し、少し考える。
銀髪赤目、明らかに場違いな服装である白衣を羽織った少女は、背後で自らの眠気によってぐらぐらと揺れている。
「ガキ連れてとっとと帰りな!」
坊主頭が嘲笑するのを聞き流して梁人はアリスへと向き直って屈んだ。
「おい、起きろ」
「んお……おお、寝ていたか」
ぺちぺちとその白い頬を叩くと寝ぼけ眼のままアリスは落ちる瞼と格闘を始める。
「はぁ……」
連れてくるべきじゃなかったか、と今更な後悔を抱いて梁人は坊主頭を見た。
「あんた名前は?」
「ああ? 俺は松井崇。元ここの作業員だよ」
坊主頭もとい松井はそう言って梁人を睨みつけた。
しかし、完全な更地では無い。
二人が入ってきた出入り口の反対側、相当な距離があるが、向かいには小さな出入り口では無く、トラックが資材を搬入する為の大きなゲートがあった。
それを見たアリスがげんなりと呟く。
「まさか、あそこまで歩くのか……?」
「そうだ」
「今更だが、キミは私を殺したいのか……!?」
ぶんぶんと両腕を振るって訴えるアリスを見て梁人は舌打ちをして言葉を続けた。
「ちっ、当たり前だ。お前みたいなクソを生かしておく理由、本来なら無いからな。今生かしてるのは上から命令されてるだけだ。もしお前が少しでも僕の命令を受け付けなかったら即座に殺す。直ちに殺す。迅速に殺す。即刻殺す。それくらいの許可は僕も貰ってるんだ、身の程は弁えろよ?」
その波濤の様な罵倒にアリスは眉をへの字に愁眉を寄せ、喉を鳴らす。
「ぐっ……理解しているが、せめて私への殺意を語る時だけ饒舌になるのやめてくれないか?」
「この事件が解決したら一考してやる」
そう言われ、アリスがその愁眉を開く。
「本当か!? ────くっくっく、うまい悪意も食えて待遇も改善する……成る程、やる気が出てきた……!」
「はぁ……」
何を下らない事をやってるんだ、と梁人は自己嫌悪しつつ先を見やる。
ゲートまでは直線距離とは言え歩いても十分は掛かるだろうと、梁人は背後で未だほくそ笑むアリスを置いて先へと歩き出した。
「こら梁人、置いていくんじゃない!」
遅れて、小さい歩幅で追ってくる声を聞きながら歩む足を速めた。
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ゲートまで辿り着いた時、梁人の後ろを息も絶え絶えにアリスが追いついた。
「ぜぇ……体力の無さは……子どもに……なっても……変わらないんだな……!」
無視して梁人はゲートを開く為の操作盤が無いか見回してそこに小さな小屋を見つけて見当を付けた。
更地の中に残されていた小さな簡易事務所。
一人で中へと入り、梁人は事務所の入り口付近にあった開閉と刻まれているレバーを押し上げた。
すると、がが、と大きな音が鳴ったのを聞き届けた梁人が事務所の外に出ると、ゆっくりとゲートが開き始めていた。
多少錆び付いてはいるようだったが問題なく動き始めた事に梁人は一先ず安堵するが、当初の目的はゲートの向こう側、〈ペイルライダーズ〉のアジテーティング・ポイント、略して言うならアジトである。
そこへ。
「おいおい、なんだよてめぇら」
ゲートが半分ほど開いたくらいで、向こう側から黒のライダースを羽織った坊主頭の若い男が出てきて開口一番吠えた。
「こう言う者だ」
淡々と言って梁人が警察手帳を見せつけると、坊主頭はぎょっ、と目を丸くしたがすぐに険しい顔つきで迫ってきた。
「一瞬ビビったが、今時警察手帳くらい簡単に偽造できるだろ! 偽物チラつかせて大物気取りか!?」
所謂メンチを切って坊主頭は鼻が触れ合いそうな程顔を近付けてきた事で梁人の顔へと唾が飛沫となって飛ぶ。
こう言った手合いに慣れた梁人は顔色一つ変えずに続けた。
「言っておくけど本物だ。捜査の邪魔をするなら公務執行妨害で刑務所に行ってもらう事になるが」
「やれるもんならやってみな! そんなお眠なガキ引き連れて歩き回ってるサツなんざ俺は見た事ないけどな!」
言われて視線をアリスへと移し、少し考える。
銀髪赤目、明らかに場違いな服装である白衣を羽織った少女は、背後で自らの眠気によってぐらぐらと揺れている。
「ガキ連れてとっとと帰りな!」
坊主頭が嘲笑するのを聞き流して梁人はアリスへと向き直って屈んだ。
「おい、起きろ」
「んお……おお、寝ていたか」
ぺちぺちとその白い頬を叩くと寝ぼけ眼のままアリスは落ちる瞼と格闘を始める。
「はぁ……」
連れてくるべきじゃなかったか、と今更な後悔を抱いて梁人は坊主頭を見た。
「あんた名前は?」
「ああ? 俺は松井崇。元ここの作業員だよ」
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