元夫婦のきずなはゲームの運命を超えるのか~ファミリーリインカーネーション~

前野羊子

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22【お兄様のお願い】

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 「フェルゼン殿下、お願いだ!相談に乗ってくれ。マリーもこの通りだ」

 ナルシオお兄様はディアナ王国では王位継承権第二位。つまり国では三番目の地位にある人だ。なのに、他人のために頭を下げて知恵を乞う事が出来る。私にも自慢の兄弟だ。ま、あの一般の国民の感覚が理解できるお母様の教育の賜物ね。
 そう思いながらお兄様の言葉の続きを聞く。

「先日学園が休みの日に、カタゴヤ帝国のグラル第一殿下が、屋敷を訪れてきて」
 その日は健一と冒険者をしていたわね。
「なんでも、さくらを聖女として育てなおしてくれないかと言われたのだ」
「誰がですか?」
 健一が少しかすれた声で聴き返す。
 私も嫌な予感がする。

「マリーに」
「・・・どうしてそういう事になったのですか」

「カタゴヤ帝国は、このハルキア王国や、我々のディアナ王国より、砂漠地帯が多くて、交易で成り立っている国だ」
 たしかに、国民が沢山いるように見えて、二割ぐらいは商人が滞在している。その滞在費や入国税、関税などで外貨を稼ぎ、栽培の難しい食料を得ているのだ。
「だが、すべてを交易で賄うのは難しいし、何より水まで金で買うとなると相当だ。あの地域としてはまだ干ばつとは言い切れないが、少し近づいているらしい。何より移動に使っている動物の水食糧まで確保できなければ、交易の商人も来なくなって出て行ってしまう」

「そこで、出現した聖女に浮き足立ったのだ。一年でも早く学業を終わらせて、カタゴヤ帝国を干ばつの危機から救ってほしいと」
「だから、予定より一年早く来ちゃったのね」
「しかし、サクラに聖女の勤めをする気は全然ないらしいとカタゴヤ帝国のグラル殿下から相談されて」
 あちゃー。
「それどころか、本当に聖女だったのか、力が弱すぎるし、初めに計測した鑑定の道具がつぶれていたのかもしれないと噂されているそうだ」
「せめて、聖女としての本来の働きが出来なくても、もっと勉強するとか、奉仕活動するとかね」
「ああ、そのために地位を引き上げて貴族と同等の色々な優遇措置が取られているのだ」

 聖女は基本、どの国に現れるかは決まっていない。
 ゲームでもリセットしてやり始めたら、悪役令嬢と同じディアナ王国出身の時もあった。
 だから、聖女が現れたら、所在している国に、他国からも補助金を負担し、聖女からの恩恵を世界で共有出来ることになっていて、困っている国に優先的に派遣できるようになっている。・・・という設定だ。

「ねえ、健一私・・・」
「だめだ」
「でも」
 あの、肉食女子のサクラを何とかするより私が動いた方が速いのでは?

「健一、いえフェルゼン殿下」
 お肉を置いて居住まいを正して、言う。
「なんだ」
「一つだけ、何とかお願いしたいことが」
「なんだい?」
「もう一度、サクラ嬢の鑑定を出来ないでしょうか。それで、やっぱり聖属性魔法があって、聖女だというなら、サクラ様の魔法の授業をお手伝いさせていただきます」
「!なるほど。そうだ、私もこの目で確認してみたい」
 カタゴヤ帝国での聖女出現の内容は文章でしか他国へは伝わっていない。
 聖女の出現は何十年に一回ぐらいしかいないから、出現するときの状況やデータの共有は、その時によって変わっていく。

「もし、最初に聖女を見出した教会がお金欲しさでとか・・・」
「ああ、そこへ他の国からもカタゴヤ帝国に聖女への援助資金が流れている」

「国王陛下(太一)にも手伝ってもらって、何らかの方法で再鑑定させていくのもいいかもしれぬな」
「ああ。もし拒絶するなら偽物かもしれないし」

「本物だったら、皆でお金を出しているのだから、頑張ってもらわなければ。頑張れば後でご褒美はあるんでしょう?」
「そりゃあ、国を救うのだからな。金か地位かは分からないが、困っていたら救われたらひねり出すだろう」

 一月後、ハルキア王后が久しぶりにガーデンパーティを開いてくれることになった。

 今回私はサクラと真っ向勝負したいと健一にお願いして、フェルゼン殿下の婚約者として出席する。
 そのためにすごいものを魔法師団長のローリー先生が用意してくれた。

 私は、ゲーム通りの悪役令嬢の衣装を用意してもらった。
 けれど、全体的な縦ロールは髪が痛むのが嫌なので、アップスタイルにしてサイドの髪だけ垂らして、コテで巻く。十二歳になった私は、バレエに打ち込んでいた前世と違ってすごく発育が良くてスタイルも良い。太らないように節制するのが大変よ。
 これだから冒険者をやめられない。お部屋でバレエストレッチだけじゃカロリー食わないもの。

「それにしてもコルセットってすごいのね」
 ちゃんと、胸がバイーンとなってます。
 悪役令嬢のナイスバディ。

「これでさらにフェルゼン殿下を悩殺ですわよ」
「な、なにを言うのよミミ」

 コンコンコン
「マリー姫どうだい?」
「お兄様!大丈夫ですわ」
「今日もとても素敵だよ、私の聖女マリー。父上(国王陛下)や兄上(王太子)じゃなく、私だけが見れるのが何より嬉しいね」
「まあ、お兄様。フフフ」

「姫様まだですよ、フェルゼン殿下からこちらが届いていますよ」

 金色に輝くマリーゴールドをモチーフにしているネックレスとイヤリング。そしてそこにサファイアがいくつか座っている。
 フェルゼン殿下は紺の髪色に金色の瞳。

 乙女ゲームやラノベのセオリー通りに彼の色を身に着けるという事ね。
 やだわ、緊張する。

 まあ、私もオレンジサファイアって宝石がバーンとくっついて、その周りをマリーゴールドを意識した金色の台座が飾っているブローチを渡している。
 ちょうどこの左手の紋章と同じような。

 フェルゼン殿下色のアクセサリーを装着した私は、すごく強くなった気がする。
 鎧で固めた騎士じゃないけど。

 そんな私を見てナルシオお兄様が若干ひいている。

「うわ、フェルゼン殿下の執着がまとわりついている」
「ほほほ、でもエスコートしていただけるんでしょ」
「もちろん、姫、行きましょうか」

 お兄様の手に左手を出す、その手袋には懐かしいデザインの指輪が。

 ほんと、全身固められちゃってるわね。
 恥ずかしいけど、ほっこりしたりして。
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