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29【かつての息子から】
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「マリー姫は大丈夫でしょうか」
妻のアザレは私の気持ちをつぶやく。
とうとう、あの元夫婦は出かけてしまった。
私も付いていきたいのは山々だったが、そもそもこのゲームでは出番のないキャラクター。この世界に居るのかいないのか分からない神に祈る事しかできないのか。
左手の紋章に額をあてがって祈る。
母さん、あなたの人生は始まってまだたったの十二年。無理をしないで。今度こそ健やかに長生きをしてほしいのに。
俺が過去に渡したゲームのせいで何かあっては本当に嫌だ。
城の塔の一番高いところに上り、砂漠につながる空を見上げる。あちらの方角は私の気持ちなのか、どんよりと重い雲が立ち込めていた。
「豊子、豊子」
うかつだった、雨に濡れた豊子の体が少し冷たい。
「健一、大丈夫、ちょっと魔力が急激に減ったせいよ。まだ半分以上はあるの」
ゲルの中の竈で火を焚いてもらう。
濡れた服を着替えさせないと。
だが、今回は侍女を連れてきていない。女の荷物は一人でも増えると多くなるからだ。
「健一、着替えあるかしら」
「ああ。これ」
「着替えないと。あら、腕が上がらないわ」
「俺が着替えさせてもいいか?」
「お願いします」
豊子のべったり濡れた服を脱がす。
砂埃の混じった雨だった。
俺は、竈で沸かしていたお湯に、魔法で出した水を混ぜて、適温にしたお湯でタオルを絞り、豊子の体を拭く。
「ふふふ、健一にお世話をしてもらうのは随分久しぶりね」
「あの時より幼いのに、グラマーになったな。まだ発育途中だろ?」
「そうね。嬉しい?」
「体格はどっちでもいいさ。豊子だったら」
「さっぱりしたわ、ありがとう」
豊子は着替えさせながらも魔法の発動をやめていない。
そうっと外の湖を見る。
今、雨雲は湖の上にだけ集中して発生して、そこだけ雨が降っている。
着替え終わっても少し震えて座っている豊子を後ろから抱き締める。
「横になったら、魔法が途切れてしまいそう」
凄い魔法を発動し続けているが、まだ聖女として覚醒したわけではない。
「父さん、聖女の覚醒条件覚えている?」
太一に言われていた。
覚えているさ。乙女ゲームならではだったよな。
「豊子」
「なあに?健一」
「まだお前は聖女に覚醒したわけではないから、きついんだろう」
「そうかもしれないわね、あれを試すのかしら。悪役令嬢の私でも効き目あるのかな」
「お前は悪役じゃないし、俺の聖女だよ」
「ふふふ、そうね。お願いしてもいいかしら。健一」
「もちろん、他に譲れるわけは無いしな」
そうして俺は豊子に口づけをする。
あの時、
「白雪姫の目覚めみたいね」
って豊子が言ってたお気に入りのシーン。
攻略対象とキスをすると、聖女に覚醒する。
攻略対象は隣のゲルにもいるけれど、この役目を譲るわけはねーし。
ときどき、どさくさの不意打ちでキスをしていたのとは違う。
ゆっくりのキスを。
その瞬間、豊子を中心に俺達を眩い光が包む。それはゲル全体を光らせる。
光が治まると、目の前にいるのは、ゴールデンブロンドに輝く髪の豊子だった。
まつ毛や眉も金色に輝いている。
そのおさげにキスをしながら
「ますます、マリーゴールドだな」
「あら、黄色くなっちゃったわね」
「金色って言うんだよ」
「白髪にならなくてよかったわ」
「何言ってるんだよ」
「フェルゼン殿下!マリー姫、大変です」
外からグラル皇子の声がする。
「健一?」
「俺が先に見てくる」
振り向いてゲルを出ながら、
「どうされました?グラル殿下ってこれは・・・」
そこには、真っ青に水をたたえた大きな湖とその周りを取り囲む緑の大地だった。
おれは、すぐにゲルに戻り、
「豊子、やったぞ」
「なに?何があったの」
手を差し出して豊子を支えながらもう一度、今度は一緒にゲルを出る。
「まあ、なんて美しい、さっきとは全然違う風景ね」
「あっちの方なんかもう、森だぜ」
「ほんとう。異世界にぱっと転移したみたいね」
「ははは、ここは俺らからしたら異世界だがな」
天気は落ち着き、空にはふわふわした綿雲が浮いている。
復活した太陽が雨に濡れた辺りを輝かせていた。
気の早い小鳥がもうやってきている。
「成功しちゃった」
「ああ、聖女の誕生だ」
「これは、忙しくなりそうね」
「絶対無理はするなよ」
「健一は過保護なんだから」
「しょうがないだろ。前はお前短命だったし、聖女の彼氏になるのは初めてなんだから」
「よろしくね」
「ああ、こちらこそだ」
そう言ってもう一度軽くキスをした。
今度は光らなかったけどな。
ゲームになかった事実は
聖女は覚醒したら金色になるんだ。マリーゴールドに。
妻のアザレは私の気持ちをつぶやく。
とうとう、あの元夫婦は出かけてしまった。
私も付いていきたいのは山々だったが、そもそもこのゲームでは出番のないキャラクター。この世界に居るのかいないのか分からない神に祈る事しかできないのか。
左手の紋章に額をあてがって祈る。
母さん、あなたの人生は始まってまだたったの十二年。無理をしないで。今度こそ健やかに長生きをしてほしいのに。
俺が過去に渡したゲームのせいで何かあっては本当に嫌だ。
城の塔の一番高いところに上り、砂漠につながる空を見上げる。あちらの方角は私の気持ちなのか、どんよりと重い雲が立ち込めていた。
「豊子、豊子」
うかつだった、雨に濡れた豊子の体が少し冷たい。
「健一、大丈夫、ちょっと魔力が急激に減ったせいよ。まだ半分以上はあるの」
ゲルの中の竈で火を焚いてもらう。
濡れた服を着替えさせないと。
だが、今回は侍女を連れてきていない。女の荷物は一人でも増えると多くなるからだ。
「健一、着替えあるかしら」
「ああ。これ」
「着替えないと。あら、腕が上がらないわ」
「俺が着替えさせてもいいか?」
「お願いします」
豊子のべったり濡れた服を脱がす。
砂埃の混じった雨だった。
俺は、竈で沸かしていたお湯に、魔法で出した水を混ぜて、適温にしたお湯でタオルを絞り、豊子の体を拭く。
「ふふふ、健一にお世話をしてもらうのは随分久しぶりね」
「あの時より幼いのに、グラマーになったな。まだ発育途中だろ?」
「そうね。嬉しい?」
「体格はどっちでもいいさ。豊子だったら」
「さっぱりしたわ、ありがとう」
豊子は着替えさせながらも魔法の発動をやめていない。
そうっと外の湖を見る。
今、雨雲は湖の上にだけ集中して発生して、そこだけ雨が降っている。
着替え終わっても少し震えて座っている豊子を後ろから抱き締める。
「横になったら、魔法が途切れてしまいそう」
凄い魔法を発動し続けているが、まだ聖女として覚醒したわけではない。
「父さん、聖女の覚醒条件覚えている?」
太一に言われていた。
覚えているさ。乙女ゲームならではだったよな。
「豊子」
「なあに?健一」
「まだお前は聖女に覚醒したわけではないから、きついんだろう」
「そうかもしれないわね、あれを試すのかしら。悪役令嬢の私でも効き目あるのかな」
「お前は悪役じゃないし、俺の聖女だよ」
「ふふふ、そうね。お願いしてもいいかしら。健一」
「もちろん、他に譲れるわけは無いしな」
そうして俺は豊子に口づけをする。
あの時、
「白雪姫の目覚めみたいね」
って豊子が言ってたお気に入りのシーン。
攻略対象とキスをすると、聖女に覚醒する。
攻略対象は隣のゲルにもいるけれど、この役目を譲るわけはねーし。
ときどき、どさくさの不意打ちでキスをしていたのとは違う。
ゆっくりのキスを。
その瞬間、豊子を中心に俺達を眩い光が包む。それはゲル全体を光らせる。
光が治まると、目の前にいるのは、ゴールデンブロンドに輝く髪の豊子だった。
まつ毛や眉も金色に輝いている。
そのおさげにキスをしながら
「ますます、マリーゴールドだな」
「あら、黄色くなっちゃったわね」
「金色って言うんだよ」
「白髪にならなくてよかったわ」
「何言ってるんだよ」
「フェルゼン殿下!マリー姫、大変です」
外からグラル皇子の声がする。
「健一?」
「俺が先に見てくる」
振り向いてゲルを出ながら、
「どうされました?グラル殿下ってこれは・・・」
そこには、真っ青に水をたたえた大きな湖とその周りを取り囲む緑の大地だった。
おれは、すぐにゲルに戻り、
「豊子、やったぞ」
「なに?何があったの」
手を差し出して豊子を支えながらもう一度、今度は一緒にゲルを出る。
「まあ、なんて美しい、さっきとは全然違う風景ね」
「あっちの方なんかもう、森だぜ」
「ほんとう。異世界にぱっと転移したみたいね」
「ははは、ここは俺らからしたら異世界だがな」
天気は落ち着き、空にはふわふわした綿雲が浮いている。
復活した太陽が雨に濡れた辺りを輝かせていた。
気の早い小鳥がもうやってきている。
「成功しちゃった」
「ああ、聖女の誕生だ」
「これは、忙しくなりそうね」
「絶対無理はするなよ」
「健一は過保護なんだから」
「しょうがないだろ。前はお前短命だったし、聖女の彼氏になるのは初めてなんだから」
「よろしくね」
「ああ、こちらこそだ」
そう言ってもう一度軽くキスをした。
今度は光らなかったけどな。
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聖女は覚醒したら金色になるんだ。マリーゴールドに。
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