臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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序章

エピソード? イーサン 帝国サイド 後編

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 スノウには時間が限られている。
 ボクは信頼できる貴族や護衛、使用人、街の民達から情報を集めてきた。
 母上の計画はかなり進んでいる。
 まだ今は春前だが来年の冬頃に向けて怪しい動きがある。
 どうすれば母上達に怪しまれず阻止できるのか?
 ボクが直接動くと危険過ぎる。今は計画に気付いてない振りをするのが最善なはずだ。
 しかし、刻を待つだけでは状況が悪くなる。

「布石を打っておくか……」

 ボクは一人呟いた。後々スノウの身を守る為に。
 
 いつも通りの穏やかな日々が続いているが、ボクには嵐の前の静けさのように感じる。
 ボクは勉強や訓練をスノウと一緒にして少しでも吸収して貰えたらと思っている。
 その後はスノウと一緒に城下の視察に行き、様々なことを目にして帝国での民の実際の暮らしを学んでいる。
 そして最後にスノウが楽しみにしている教会に足を進めた。
 スノウが教会の子ども達と遊んでいる隙にボクはヒュンメルに話しかけた。

「ヒュンメル、ちょっとすまな 」
「はい、なんでしょうか」

 スノウの言う通りヒュンメルは食い気味で答えることがあり、少し驚いた。もう少し落ち着いて話を聞いてほしいんだが……

「以前話していたスノウの剣の事なんだが」

「はい、すでに出来上がっております」

「間に合ったんだね、安心したよ」
「ここは安全だから暫くボクがスノウを見ている。ヒュンメルは鍛冶屋に行ってスノウの剣を取りに行ってくれないかい」

「イーサン様、一言よろしいでしょうか?」

 ん? 一体なんだろう? とても深刻そうな顔をしている。もしや! 既に追手が迫ってきているのか? 
 ボクは腰に差している剣に手を掛けて周囲に耳を澄ませて集中する。

「先程から我慢をしていたのですが、用を足してから受け取りに行ってもよろしいでしようか?」

「はい? ああ…………そうだね」

 何故その鬼気迫る顔で曇一点ない目でボクにお伺いを立てるのだ! 護衛として間違ってはいない!
 間違ってはいないが! そして確かにヒュンメル的には危機なのだが! 今の流れでそんな話の腰の折り方を普通する? 人に例えるなら凄く背筋を伸ばしていた話の腰が【くの字】に折れたよ、豪快に! 骨折かな? それとも驚いてギックリ腰かな?

 ボクは最近疲れ過ぎているのかもしれない。何故か無性にそんな言葉をヒュンメルに返してしまうのをグッと堪えた。
 何だろうこの久しぶりに理解が追いつかない現象が起きたのは…………色々と疲れたなぁ。

 しばらくスノウを眺めていると、子ども達に懐かれていた。

 (スノウは子どもの扱いに長けているなぁ。まぁスノウも子どもだけどね)

 そろそろ帰る時間になった時に教会の子ども達がスノウに何か感謝をしているような言葉をかけていた。
 スノウの肩が震えているが子ども達にバレまいとしている姿に微笑ましく思えた。こちらに帰ってきた時に少し俯いていたけど、目がうるうるとして涙を流すまいと耐えている顔がバレバレだった。
 スノウは優しい子だ。スノウの年相応の喜怒哀楽の感情を見る度に、出来る事なら命を狙われない安心できる生活を送ってあげたかったと胸が痛くなる。
 そして、スノウの命を脅やかす母上達に対しての憎しみが強くなる。


 離宮までスノウを送って、ヴァネッサ様から少し休憩されてはと声をかけられた。

 テラスで少しアフタヌーンティーを味わいながら、ヒュンメルがスノウに剣を渡すのを見ていた。

 (ハハハッ! スノウらしいや 全く興味を示していない)

 これからはヒュンメルの特別メニューも追加してもらおうかな?

 そんな事を考えているとヴァネッサ様は真剣な表情で、スノウの身を案じて何かできることはないかと聞いてきた。
 多分ヴァネッサ様も知っているのだろう。

 「イーサン皇子にはお伝えしますがスノウには内緒にして下さい。私はスノウの身を案じてマクウィリアズ王国にへの亡命を考えております」

 やはり! ボクもスノウを助ける為には亡命だと考えていた。そして落ち着いた頃に戻れる準備をしておこうと考えていた。

「ヴァネッサ様! 私も同じ考えです。その為にスノウに気付かれず生きる為の術を学ばせています。そして母上達は来年の冬頃に計画を考えています」

「計画とは…………」

「………………スノウの暗殺です……」

「これからはスノウを中心に事態が動きますので、私は自分の策を母上に悟られない為にスノウと会えなくなる事が多くなります」
「来年の冬に母上が計画している日に王宮での社交パーティーを開こうと思います。兄上や私の婚約者選びも兼ねて盛大に行うつもりです。ですのでパーティー会場付近は厳重態勢となり、こちらの監視の手が少なくなるはずです。何名か信頼できる護衛兵を送り、監視達を引きつけておきます」
「それとヒュンメルにも協力していただき、母上のスパイとして潜んでいるメイドを買収しておきますので」
 
 あまりのボクの気迫にヴァネッサ様は驚かれた様子だった。
「何故イーサン皇子は、そこまでスノウの為に手を差し伸べて下さるのですか」

「彼はこの帝国に必要は人物です。しかし今は……私の身内の事情で情けない事ですが…………ヴァネッサ様とスノウは命の危険が迫っています。私は帝国でお二人が安心して帰って来れるように何年かかるかわかりませんが準備をしておきます。それまでは祖国を離れて耐え忍ぶ事となり……申し訳なく……」

 ボクは自分でも分からないが涙を流して話していた。僕自身の無力さが悔しいのか? それともスノウの境遇に同情しているのか? 
 違う! ボクはスノウに会えなくなる事が寂しくて泣いているんだ。同じ志を持つ才能のある異母弟で、ボクとこの帝国の未来について語り明かせる唯一の存在を帝国から失う事が辛くて泣いているんだ…………


 季節は春に変わり無事に越権も終わり、スノウの誕生日祝いも兼ねて城下の料亭に連れて行った。
 目をキラキラさせながら食べていた。

 ありきたりな言葉だが
「スノウ八歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう兄さん。ヒュンメルがプレゼントしてくれたサーベルより、ここの料亭の料理の方が何倍も嬉しいよ」
「ハハハ、それはそれで困るけどね」

 そんな雑談が幸せに感じていたが、秋に入ってからスノウが誘拐された…………

 冬と思っていたが予想以上に犯行が早い。
 一瞬スノウが殺されてしまうと脳裏に過ったが、どうやら無事に帰ってこれたらしい。

 ボクは一安心して、事後報告では犯行も雑であった為、母上派の下っ端貴族の暴発だろう。
 そして芋づる式に悪行に手を染めていた貴族達が炙り出された。多くは母上派の貴族だったが、所属不明の者もいた……
 既に自害しており分からないが、どうやらこの国の者では無いらしい。
 これはボクでも分からないなぁ、母上が他国と内通しているとなれば立派な謀反だが、そこまでリスクを負う必要性がない。
 貴族の誰かが王族に不満を持っているのか?
 それとも別の誰かを追っていたのか?
 ボクは違和感が残ったまま月日を迎えた。



 そしてスノウは謁見の間で父上から功績を讃えられていた。
「民衆の支持を集め帝国に貢献し、次期帝王に相応しいとも言える働きであった」

 父上の意図が読めない。今そんな事をすると冬を待たず確実にスノウに刺客を送ってくるだろう。
 父上もスノウの才能を高く評価しているはずだ。

 ボクの方も計画と早急に進めて冬を迎えた。最後にスノウ宛に手紙を一枚、そして亡命計画の当日の朝にヒュンメルにもう一枚の手紙を送った。

 そして、ボクはスノウを助ける為に計画した社交会に足を進めた。

 社交会では様々は貴族とご子息とご令嬢が多く参加しており、厳重な警備がしかれていた。
 兄上やボクの婚約者選びもあるので母上も身動きが取れないだろう。そして、目星をつけている母上派の貴族達には、ボクの信頼している貴族達と会話をさせ足を止めさせた。
 さぁボクができるのは今はこれぐらいだ。後は不測の事態に動けるように常に周囲に目を光らせる。

 しばらくすると離宮方向から爆発音が聞こえてきた。パーティー会場もパニックになったが、ボクはすぐにベイグランド宰相に声をかけて護衛兵達に全て扉を塞いで、密室の環境を作ってもらった。

 母上は焦った表情で、
「敵襲でしたら遠くの方でしたので、皆様急いで逃げましょう」
 と言った。

 白々しい。

「母上、敵襲でしたらここが一番安全な場所です。これだけ多くの護衛に守られて、外にはもちろん多くの護衛兵がいるでしょう」

 その後にベイグランド宰相が話を合わせてくれた。
「帝王、王妃、皇太子様達は王座の近くにいてください護衛を五名付けます。貴族の皆様は東側にお集まり下さい。使用人達は西側に並びなさい」

 布石は完成した。
 現在ボクらの護衛は母上がスノウ暗殺に加担させようとした五名だ。これで動きを封じたが、確か後二名いたはずだが……逃がしてしまったか!
 
 更にベイグランド宰相は一人一人使用人に声を掛けていき、奥の方へ退避させる。そこで十名程名前を呼ばれていない使用人がいた。情報通り刺客は十名だ。
 その刺客達の顔には余裕がなかった。

 そして刺客達は、何か暗器の様な物やナイフをベイグランド宰相に向けていた。その距離にして約五メートル。

 会場に緊張が張り詰める。

 緊張を破ったのは父上の声だった。

「王族や貴族達が集まる大事な社交会を狙っての計画的な犯行、そして我の命を狙う不届き者め! これだけの護衛兵の中では逃れる事は出来ぬぞ!」

 刺客達は顔を青くして、武器を離して両手を上げた。
 
「捕らえよ」

 ベイグランド宰相の言葉とともに十名の刺客は捕まえる事ができた。
 これがボクのできる全てだ。少しでもスノウ達の追手を減らす事、そして更に刺客を送った貴族達への制裁。
 
 父上は、
「牢屋に連れて行け、そして背後に誰がいるのか必ず吐かせろ。この帝王の命を狙った不届き者を」

 会場にいる何名かの貴族は青ざめている。
 あの時、父上がスノウに言った言葉の真意がやっと理解できた。
 父上は多分気付いていたのだろう……母上を利用して権力を強めようとする貴族達が思ったよりも帝国内部の深くまで暗躍している事を。
  そして国と父親という立場に天秤をかけて、息子スノウを餌に反乱分子を粛清するのを選んだのだろう。
 また平和ボケで勘違いしている貴族達へ威光を示し、能力ある者がのし上がる事ができる環境を作ろうとしているのではないだろうか?
 そして、その象徴としてスノウを帝王の椅子に座らせたいのでは?

 ボクにできる事は陰ながらスノウの無事を祈る事と帰れる場所を作る事だ。
 また会える日を夢見て…………
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