臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード117 毒のような薬のような

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 ランチ後はフィーネとリアナは最近できたスイーツ店に行くらしい。
 オレはあのスリムなスタイルの二人のどこにそんなに食べ物が入るのだろうと不思議に思ったが、モーガンとショーンもフィーネとリアナの行動に苦笑していた。
 
(考えただけで吐き気がしてきた)

「クライヴ大丈夫? ボクはもう学生寮に帰って休もうと思っているけど……」

 モーガンは心配そうに声をかけてくれるが、オレは先程のフィーネ達のスイーツの話を聞いて気持ち悪くなった事を伝えた。

「ワシもこれから家の手伝いじゃけぇ、また後じゃな」

 ショーンはそう言って平民通り東通りに走っていった。どうやら本当に急がないといけないのだろう……

「オレも、一度ハッピースマイルポテイトンにちょっと用事があるから、じゃあな」

「クライヴ無理はしないようにだよ」

 モーガンはオカンか! と言いたいぐらい心配をしてくれた。そして午後からみんなそれぞれ行動する事になった。

 オレは一度、ハッピースマイルポテイトンの二階の多目的部屋(通称クライヴの趣味の部屋)に向かった。分からないなりにもハンドガンに付いて詳しくは調べようと思ったからだ。
 理由は洞窟の街ドームガーフのドワーフ達に最低限の説明ができるようにしないと相手に失礼だと思ったからだ。まぁ前世の記憶をフル活用しても分からないのだが……
 しかしやはり今日は何かおかしい……【身体強化】の筋肉痛は毎度の事だが【クロノス】での倦怠感が抜けない……いやむしろ悪化しているようにも感じる…………

(食欲ないのに昼ごはんを食べ過ぎて、余計に疲れてしまったのかもしれない……)

 オレは重い足取りでハッピースマイルポテイトンに向かう最中も徐々に気分が悪くなってきたので、ハッピースマイルポテイトンに着くとすぐ庭に移動して噴水の縁に腰掛けて休む事にした。
 
 「えっ…………」

 オレは腰掛けて気づいたのだが、オレの両手が震えている…………しかも右手の指の色がいつもとは違い黒ずんだ紫色に変色していて、手首の方に色が広がろうとしていた……
 流石のオレでも身体の異常事態に気付いた…………

(えっ? 何が? どこでどうなって……それよりこの症状は一体なんだ? まるで毒を受けたような…………)

 そしてオレは一つの仮説にたどり着いた!

「もしかして、ミッタールマウスと闘っていた時に気付いたらできていたあの時のすり傷?」

 あの時は右手の指にうっすらと擦り傷のような小さな傷が出来ていたが、今はその指から黒ずんだ紫色に変色していて、そこから色が広がっているようにも見える…………

(これ、まずいヤツだろ! ミッタールマウスの牙の毒?)

 オレは立ち上がって。庭から人通りの多い学生通り西通りに向かおうとしたが……足に力が入らず、上手く立ち上がれず地面に崩れるように倒れた。
 全身の力が抜けていき、痛みと燃えるような熱さが身体の中を駆け巡る。
 そしてオレは何とか力を振り絞って震える声で助けを呼んだ!

「誰かぁ! 助けぇてぇくださぁ~い!」

 静寂に包まれたハッピースマイルポテイトンのイングリッシュガーデン、噴水から流れる水の音……そこには誰も立ち寄るはずがない……
 
(こんな所で死んでたまるか!)

 オレは這いずりながら店舗前と庭を結ぶタイルを敷き詰めている所まで目指そうとした。
 しかし途中で目眩がしてきて頭痛もひどくなる一方だ…………もう心が折れそうだ……けどこんな所で死ぬわけにはいかない!

 その時!

「クライヴどうしたの! フィーネ達は!」

 この場に一番似つかわしくない女の子がオレを一瞬見て何かを悟ったような顔をして立っていた。

「アリアさ……すみ……せん……身体が…………」

 オレは何とかそれだけ伝えると、アリア様は急いで、自分のドレスのポケットや持ってきているカバンから小瓶に入った何かを取り出しながらオレに話しかけてきた。

「症状は言える? 思い当たる原因は?」

「ミッ……タ……マウス」

 オレの言葉に反応してすぐに小瓶を取り出し、錠剤のような物を数粒出していた。


「ミッタールマウスの毒に特化した解毒剤よ。飲める?」

 オレは何とか頷き震える口を開けた。
 
「お嬢様!」

 護衛達は驚いているようだが、どうやらオレは膝枕をされているような姿勢で水筒の水を注ぎ込まれた。
 そもそも侯爵令嬢が平民に膝枕をするなんてあるまじき行為だ……後でアーロン侯爵様に殺されないか心配だが………………今は毒によって死なない事の方が優先だ。
 体感時間で十分程度苦しさは続いたが、これ以上悪化はしなかった。
 アリアはオレの汗びっしょりな額をハンカチで拭いてくれて優しい笑みを浮かべてくれていた。
 そして薬が効き出したのか徐々に瞼が重くなってくる……

「ミッタールマウスの牙の毒は遅効性なのよ。どうしてここまでほっといたの? 身体の異変は感じていたでしょ。確かにミッタールマウスの毒は飲み込んでも胃で溶けて毒の効力がなくなると言われているけど、噛まれると噛まれた所によっては危険よ。
 噛まれた所より心臓に近い所を圧迫して、身体の中心に毒が流れないようしてから、四十八時間以内に吸い出す必要があるから、次からは気をつけるのよ」

 オレはボーとする頭で説教を受けていたが、多分半分も頭には入ってこない…………

「すみませんが護衛の一人は学生寮の方にクライヴ君の事を伝えてくれませんか? それと迎えを寄越すように伝えて下さい。容態が悪化した時の対応を考えるとしばらくは動けないと思うので私がここに居ます。護衛は二人で大丈夫です」
 
 アリア様はテキパキと護衛に指示を出しているようだ。

「はぁ……良かった……死な……なくて」

 オレは心の声がついポロッと口に出てしまい、それを聞いたアリアは苦笑を浮かべた。

「ふふっ……もう大丈夫よ。副作用で眠たくなるから起きたらいつもの部屋にいると思うわ」

 普段なら何でアリア様は毒物や薬に詳しいのか? 
 オレは聞いていたと思うが、今は弱りきっていて、そこまで頭が回らない…………むしろ副作用であたまがボーとしていて現実と夢の世界がごちゃごちゃになってきたようだ。

「あ、りが……とう…………アネッ…………サ」

 オレは虚な表情でアリア様を見ていると重なるようにアネッサが見えた。何とも不思議な事だ。夢との境界線が分からなくなってきた…………
 
「え?…………」
 
 アリア様はいつの間にかいつものクールビューティーな表情に戻ったが…………オレが瞼を閉じる寸前、アリア様の目尻から一粒の雫が頬をつたっていったかのように見えた気がした。

「……ぁ……んで……」

 何がポツリと呟いた声が聞こえるが誰の声で何と言ったか、薄れゆく意識のオレには分からなかった…………
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