臆病者の転生ヒストリア〜神から授かった力を使うには時間が必要です〜

たいらくん

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第一章 王国編第一部(初等部)

エピソード? アリアサイド2 イーサン皇子

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 それから連日王城での社交会は続き、ウィンディー様が今回の生誕祭の最後の公務の社交会では、私も初めて帝国の第二皇子を目撃した。
 お父様と一緒に他の貴族と話をしていたので横目でしか見ることなかったが、とにかく一人だけ浮いていた……他国の外交官ではなく王族なので、下手に貴族も話す事が出来ず、万が一の事になると国際問題になる。しかもあまり親交のない帝国……
 謎は深まるばかりだ…………
 それよりもやっと私は連日のパーティーラッシュから抜け出す事ができた……

(残り三週間は何をしようかしら? フィーネにも会いに行きたいしフライドポテトも恋しくなってきたわ)
 
 王城から帰宅する馬車に揺られながら、そんな楽しい事を考えるようにしていた。それだけ連日のパーティーは貴族の大人達の醜い部分が見え隠れしていてこの王国の行く末を考えると今でもストレスが…………

 そして屋敷に帰ってくると、夕食前にまずは気分をリフレッシュさせようとお風呂に入ろうと思っていた。

「ハァ~疲れたわ……」

「お嬢様? 先にお風呂の支度を致しましょうか?」

「ありがとう。疲れが溜まっていてお風呂に入りたかったのでそうするわ」

 私はメイドに一言そう告げると自室に戻り机の中からマンダリンのアロマオイルを取り出した。

「ご準備ができました」

 メイドは私にお風呂の準備ができた事を報告しに来る。生誕祭の影響からか我が家のメイド達も目の下にクマができており、かなりお疲れの様子だったので私はお部屋にキャンドルと鉄の容器にお皿を用意してマンダリンのアロマを焚く事にした。

「私がお風呂から上がるまでに新しい着替えを用意しておいてね。貴方も疲れているでしょうからゆっくり準備してくれて構わないから、私も疲れているので長湯をするので、本当にゆっくり支度してくれて構わないから」
 
 私はそう言ってバスルームに向かった。後ろからは「お嬢様」と声が聞こえるが、自分一人でできる事を誰かの手を借りて服を着たり脱いだりなんて嫌だわ!

「いつもは渋々ながらも聞いてますが、生誕祭が始まってからは使用人の皆さんもお疲れでしょう? 自分の事は自分でするわ。だから少しでも休息する時間を作って下さい!」

 私がそう言う、メイドは口をポカーンと開けて立ち止まったままフリーズしていた。

(普通ありえないわよね。貴族への対応として)

 私の部屋でドレスや装飾品や着替え等の片付けや準備をしているメイド達が少しでもリラックスできる様にとアロマを焚いた事で、次の日から私の部屋では不思議な道具によって、フルーティーでやわらかな甘さの香り広がり、まるで魔法のように心が落ち着き身体の疲労も取れたと使用人達の間で噂されるようになった…………
 勿論お母様にも伝わり、わたしの自作アロマオイル愛用者第一号となった…………

 そして数日後、今日の夕食に大事なお客様が来られるとお母様から聞いていた。
 アランお兄様と私はフォーマルな衣服に着替えて、大事な客人を招く時に使う部屋で待機していた。
 使用人達も緊張していて、エントランスからこの部屋までの動線に塵一つないかチェックしていた。 

(ここまでの対応をすると言う事は…………どこかの国の重要人物…………王族? 帝国の第二皇子?)

 私がそんな事を考えていると目の前の扉が開き、いつものお父様と一緒に、やはりと言うべきかアレクサンダー帝国の第二皇子が我が家に来られらた。

「突然の訪問をすみません。アレクサンダー帝国の第二皇子イーサン・デア・アレクサンダーと申します。今回は王城での諸侯会に慣れておらずウィンゲート侯爵が色々とフォローをして下さり感謝しております。またこのような場を設けて下さりウィンゲート侯爵のご厚意に甘えさせていただきました」

 先日王城でのパーティーで一人浮いていた白い肌に黒髪をサイドに流し黒メガネの奥には吸い込まれそうな黒い目に知的で優しい表情のイーサン皇子が軍隊のような帝国式? の挨拶をしていた。
 アランお兄様はとても驚いていたが、私は何となく予想はついていた。
 それから晩餐会が開かれて、お父様とイーサン皇子がお酒を嗜みながらイーサン皇子がわざわざ生誕祭に外交官代わりに来られた理由についての話になった。

「少し個人的に親交のある王国貴族の方にお礼を言いたくて参りました」

「ほう……その方とは会えましたかイーサン皇子?」

 お父様は帝国からのスパイが王国にいるのではと疑っていたが、私にはそうは思えなかった。

「そう言えばお父様。イーサン皇子様に最近アランお兄様を助けて下さったクライヴ様の話をしてはどうですか? クライヴ様も黒髪に黒目と王国では珍しい方でしたので……」

 すると一瞬だけイーサン皇子の瞳孔が開いた!
 
(やはり食いついてきたわね)

「おぉそうだな。実はこの前の事ですが娘と同い年の平民の少年が息子を助けてくれて、その時なんと護衛とともにオークを倒したと聞いて更に驚いたんですよ。本当に不思議な子で貴族としてのマナーが身に付いている子どもでして、平民が貴族のような教育を受けていたのか? とにかく不思議としか言えない子だったのが印象的な子でした」

 お父様の話を聞いて、先程からイーサン皇子は動揺を隠そうとしているが身体の動きがピタッと止まっていた。

(クライヴ君の話をしてから、何とか感情を抑えているようだけどイーサン皇子は何を隠したがっているのかしら? クライヴ君のスパイの件は消えたし、後はクライヴ君が帝国でイーサン皇子と親しい関係…………もしもイーサン皇子がわざわざクライヴ君に会いに来たとしたら……彼は帝国の高位貴族? もしくは皇子? クライヴ君にも検証が必要ね……)

 そして数日後、使用人達からハピスマイルポテイトン……ウィンゲート侯爵家の使用人と私の間では通称ハピスマと呼んでいるんだけど……ハピスマが生誕祭に開店した事を聞き、急いで馬車で向かった。
 勿論侯爵家の財力を最大限活用して大人買いをするためよ!
 それで使用人達用のフライドポテトもテイクアウトする事で喜ばれる。その後ポテトを通じて会話も生まれて使用人達と仲良くなれる。更に使用人達も時々フライドポテトが貰えるのでモチベーションが上がり作業効率も上がる。不人気だったウィンゲート侯爵家の使用人募集の案内も……今じゃウィンゲート侯爵家は侯爵家で働くステータスだけではなく、ポテトがたまに貰える事と私の色々な試作品のアロマオイルのプレゼント付きで王都の使用人達の間では誰もが羨む憧れの職場となっているらしい。
 まさにポテト効果よ!
 
 そしてハピスマに着くといつものように注文をお願いし、フィーネのいる庭の方へ行く。

(ん? えっ? 噴水……よね……この用水路みたいなのは…………さっぱり分からないわ……あとでフィーネに聞いてみよう)
 
 そして私は熱心に庭の手入れをしているフィーネを見つけてフィーネを呼んだ。

「フィーネ、今忙しい? 久しぶりに会いにきたよ」

 フィーネは満面の笑みで私の方へ駆け寄ってくる。

「アリア! 久しぶりね。アタシはそこまで忙しく無いから、あっちのテラス席でお話ししない?」

 わたしはフィーネに誘われてテラス席に座り、この庭の改築についてフィーネに聞いた。
 フィーネからの情報では、この改築はクライヴの独断で行ったらしい。と言うか久しぶりにみんなで来てみたら既にこの状態でみんな驚いていてらしい。

(流石にいきなりこんなの出来てたら驚くわよね……それにしてもどこからそんな資金が……)

 そして噴水は温度調節が可能で、そこから広がる小さな用水路のような所の先にはベンチがあり、足湯ができるらしい……
 色々と怪しいと思うが私はその思いを心にしまいこみ、その後フィーネと王城での話や貴族の子ども達の話をして時間を過ごした。
 そして一旦帰るように馬車に乗り込んで少し離れた所で馬車を停めてもらった。
 
「すみませんがまたあのお店へ歩いて向かいます。最小限の人数で行きたいので護衛は二名で構いません!」

 そして何か言いたそうな護衛達を黙らせて、ゆっくりとハピスマへ歩いて行った。護衛達とは少し距離をとりながら私は庭にいるクライヴ君の元に忍び寄った。

「はぁ、身も心も温まる~」

「気持ち良さそうね? コレもクライヴ君が作ったのかしら?」

 そこにはベンチに座ったまま後ろを振り向いたクライヴ君が私を見上げて驚いていた。

「ど、どうされましたかアリア様。もしかしてフィーネがアリア様にご迷惑をかけましたか?」

「ちょうど良かったわ。クライヴ君と話したい事がありまして…………生誕祭での貴族達の行事は知っていますか?」

 クライヴ君達平民の間にも生誕祭の貴族の行事は知っているようで、私はクライヴ君の回答に不備がなかったので頷いた。

「良くご存知なのね。ここからが本題なんだけど…………ここで話をしても誰かに聞かれる事はないですか?」

 私は内密に話したい事があるのだが、ここだともしもの事があるからあまり話したく無いのよね。
 するとクライヴ君はお店の二階に密談用の部屋を作っているらしい。
 フィーネからこの建物はクライヴ君が設計していると聞いている。
 
(十歳でここまで考える事ができるのものなの?
 この子は天才だわ。いやだからこそ狙われる事になっているのかもしれないわ)

 私は素直に驚いた事を口にしたのだが、クライヴ君は不信な目で私を見ていた。
 そして部屋の前に到着すると念のために護衛を扉の外で待機させた。


「どうぞお掛け下さい。この部屋は壁を厚くしておりまして、あまり声は漏れないような作りになっております」

 クライヴ君が私にこの部屋の説明をしてくれた後に私は辺りを見渡して壁をコンコンと叩いていた。

(まさか防音処置までしているとは……本当に密談用に作ったとは……末恐ろしい子ね)

 そして私は椅子に腰掛けて、クライヴ君の反応を見るようにゆっくりと生誕祭での出来事を話し始めた。

「王女のパーティーに帝国の使者としてイーサン皇子がやって来ました。他の国は外交官とかでしたので、凄く浮いておられました」

(表情は変わらないように頑張っているけど瞳孔が開いているわよ。やっぱり怪しいわね)

「イーサン皇子は誰かを探しているようでしたが、どこか浮かない表情をされていたようで、父上が気にして声をかけたそうです。誰を探していたのかは教えてくれなかったようですが、親交のある王国貴族を探していたようです」

(フフフッ……不安そうな顔をしてるようじゃ交渉術はやっていけないわよ)

「そして、お父様がイーサン皇子を屋敷に招待をしたところ快く快諾して下さり、歓談しながらお食事会を開いたの。
 お酒で少し酔ったお父様が、最近の面白い出来事で、イーサン皇子の髪の色と目の色と同じ黒髪黒目の少年が来た話をしたのだけど……イーサン皇子が少し焦りというか動揺したのよね。まるでその人物を知っているかのように…………」

 私の話にクライヴ君は明らかに動揺していた。

「私の憶測ではクライヴとイーサン皇子が何らかの関係性があると考えています。
 となると貴方は帝国で言う高位貴族ではないでしょうか?
 そうじゃないと帝国の使者としてわざわざ生誕祭にイーサン皇子が来る理由が分かりませんから。
 しかし、どうしても分からない事があるんです。何故貴方は帝国から亡命をしたのか? どうやって? 王国側から誰かの協力が必要なはずですから…………」

(いくらクライヴ君でも一人で亡命は難しいはず。一緒に亡命した仲間がいるか? もしくは王国側に手引してくれた人がいるのではないのかしら?)

 私はこめかみを指先で触れて、どうやってクライヴ君が亡命をしたのか聞き出そうと考え込んでいた。

「アリア様、詮索しないと約束しましたよね。
 それに学院で学びましたが、マクウィリアズ王国とアレキサンダー帝国を結ぶ唯一の陸路は、山に挟まれてた峠を越えて監視兵のいる砦を通る必要があると習いました。現実的に考えて帝国から亡命する事は可能なのでしょうか?」

 突然クライヴ君は真顔になり正論を言い始めた。しかしその完璧すぎる表情や言葉が逆に演技だと私には分かる。
 私はクライヴ君がボロを出さないかクライヴ君の話に合わせる事にした。
 
「……クライヴ君ごめんなさい。あまりにも偶然が重なり、私なりの仮説を考えると一つ一つの疑問点が、頭の中でカチッと上手く合わさるので……自分の考えに固執してしまいました」

 私は悲しそうな表情を作りクライヴ君に謝ると、クライヴ君は一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。
 そしてその後あまり長い時間の密談は、お互いに噂が出たらまずいので今日は帰る事にした。
 クライヴ君の手慣れたエスコートでイングリッシュガーデン風の庭の方へ連れて行ってくれた。

「ここからお戻りになれば、人の目を気にする心配は無いかと思います」

 ここで笑っちゃいけないのだけど、やはりクライヴ君は抜けている。

(動揺する姿もそうだが、王国では黒髪は珍しい話……私の調べ上げた情報や、ザック達の諜報活動報告では黒髪で黒目の人は王国では一人も存在しない…………そして貴族の子ども達のお手本になるような慣れたエスコート…………貴族しか出来ないわよ! しかもその歳で完璧なのよ。余程礼儀にうるさい貴族……いや高位貴族でも王族に近い関係?)

「フフッ……ありがとう。それではまた」
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