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しゅか

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lifeとdays

とある少年の独白

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 生まれた時から普通の人間だった。

 普通の家庭、普通の両親、普通のレールに敷かれた人生。

  まあそれでいいと思っていた。平々凡々。よろしい。

 それでいいと思っていた。両親が揃って突然死するまでは。
 




 世の中には言葉というものがある。それは人ひとりに使える上限があって(個人差があるのが常なのだけれど)上限を超えると死んでしまうのだ。

 有名な小説家なんかがぶつっといきなり死んでしまうのはまさにこのせいだと言えるだろう…、言葉を消費し本を書く、その作業は上限を容易く超えてしまう。

 それがこの世界の仕組み。言葉で人生が変わる世界。

 ただ、この事実は暗黙の了解によって世間は目を背けているのだ。もちろん、幼い子供は知らない、知っているのは大人だけ。

 物事を理解する大人になった時、やっと理解するのだ。誰かが若くして死ぬ時、または死にそうな時に人々が口々に囁く言葉を。

 ことばは絶対のルールであり、正義であり、才能豊かな人物が若くして人生の幕を閉じて悲劇だと涙するための便利な道具であるのだ。

「あの人は言葉に殺されたのねぇ…かわいそうに…」

 そしてとある少女はその悲劇に涙していた。
愛しい最後の家族が言葉によって幕引きを強制されるのだった。

 少女はずっと家族が欲しかった。死にゆくひとは、やっと手に入れたかわいいかわいい家族だった。

 少女はもう思春期で、大人と呼べる成熟した精神とまだ幼く頼りなさげな痩せたぎすぎすとした身体を持っていた。

 愛しい最後の家族は延命のために気の遠くなるようなお金が必要で、少女は笑顔で自分を犠牲にした。少女はふらつき、骨が浮かび、働くどころか生きるのさえ不安になる有様だった。

もう働けない、お金がない。でもわたしの家族はお金が必要で、まだ生きたいと思ってるんだろう。

 途方にくれて帰宅し、けれど安穏と休む訳にはいかないヒビ割れたアパートの外壁を眺める少女にスーツの男はとんとん、と優しく肩を叩き、にこやかに声をかけた。

「もしもし、君の願いを叶えようか」

 少女は振り向いて、骨張った手で肩にかかる男の手を振り払い、眉をひそめながら距離をとった。

「言葉で延命しようか、と言っているんだよお嬢さん。きみはもう知っているだろう」

 目を見開く少女ににこやかに、胡散臭くスーツは語りかける。

「きみは貧しき悲劇の主人公だ。それを哀れに思うわたくしは、こう提案しているんだよ。言葉で家族を延命してあげよう。ただし、きみには店を経営してもらう。言葉の売買の店をね」

 もしかしたらこの人は魔法使いなのかもしれない。
 南瓜を馬車に変えないし、私のぼろ切れのようなワンピースもそのままだけれど、家族は救ってくれるもの…!

 少女は徐々にのめりがちになり、スーツの魔法使いの話しを聞き始めた。スーツは笑った。

「簡単な話しさ。きみは家族が消費する命代わりの言葉以上に人々から言葉を取ればいいのだからね。
あぁ、安心してくれ。駄賃をやって言葉を買い取るんだ、これは安全な、いたって安全な取引さ」

 なにせ、人々は言葉よりもインクが塗られた紙切れの方がだいすきみたいだからねぇ、とあざ笑ったスーツは、少女と目線を合わせるためかがみこむ。

「さてさて。きみは私と取引を交わすのかい?」





 いたって普通の人生だった。悲劇なんて起こらない、普通の人生だった。

 機械とチューブに囲まれた家族たちはじゃあ一体何なんだろう。

 ひとり立つ俺は一体何なんだろう。

 チューブを差し込まれた弟に訊いてみても、プラスチックの筒とマスクを通した独特の呼吸音しか返ってこなかった。

「喋れない方がいいか、まあ…」

 喋れると言葉を消費する。死に近づいてしまう。

もしかしたら、年の離れていて健気に自分を追ってきていた弟は、こちらに語りかけてチューブに阻まれ呼吸音になっている可哀想な『無駄遣い』状態かもしれない。

 それでも別に良かった。どうせ自分にはそれを解決する方法などなく、ただ突っ立っているだけで。

 語りかけられても自分には相槌すら打てないみっともない兄だからだ。
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