life

しゅか

文字の大きさ
2 / 3
lifeとdays

ある少年の独白2

しおりを挟む
 家族誰ひとり回復せずに2週間がすぎた。回復も悪化もしないーーむしろ異常とも言えた。

 どんな専門の、どんな名医に見せても、みな首を傾げるばかりだった。

 ただ、俺は弟を眺めて一日をすごし、やがては教師に説得され高校に復帰し、ただただぼうっとしていた。

  教科書もペンケースも出さない俺を、教師はなにも慰めずに無視していた。

  下手にことばをかけられるよりは良かった。その方が現実逃避できたから。

  今日もため息をつきつつ下校していると、ふわりと甘い花の薫りが鼻についた。
花にしてはやけに濃い薫りだ。

  ふっと目を向けると、茶色とレンガが基調のまるでカフェのようなノスタルジックな外装の一軒が建っていた。

  2階の家なら窓があるあたりーー首が痛くなるくらいに顔を上げなければならないので、普通の人なら目にすることもないだろうーー色合いや飾り文字からチョコレートプレートを連想する看板には、こう書かれていた。

『life』

「ライフ…?なんだここ…」

  オモチャのように可愛らしいが目立ちそうな外装からして、近所にいる暇な主婦の噂にあがりそうだったがそんなものは一つもきいたことがなかった。

  丸っこく使い古した鈍い色で室内用だろうドアノブには、『ferm??』ーーのちにフランス語で閉店という意味だと教えられるーーと書かれた、これまたチョコレートプレートのような小さな板がかけられていた。

  不思議な店に目を奪われていると、カランコロンとドアベルが鳴り、中から人が出ていてきた。

小柄な女の子で、ゆるやかに波打つ亜麻色の髪と、驚くほど深みのある同色の瞳の人形のような人だ。

  茶色とピンクとホワイトで構成された、裾がふわりと膨らむ、花を逆さまにしたようなスカートに、
紐できゅっと身体にフィットさせたトップスのお菓子のようなエプロンドレスを着ていた。

  笑顔ひとつ浮かべれば更に可愛くみえるだろうに、着ている本人はつんとした冷たい表情で
手にはホワイトチョコレートカラーの小さな看板ーー『ouverture』とかかれているーーの鎖をぎぅっと握りしめている。

  かかっていた看板を取り、手にしていた白い看板をかけ、そして、ふっとこちらをみた。

  俺がさきほど『life』を見た時のように。

「…あっ…と」

  口ごもる俺を少女はじぃいっとこちらを見つめ、ふむ…と何度か頷き口を開いた。

「ようこそ言葉を売り、言葉を買う店『life』へ。あなたは言葉によるどんな願いを叶えたいのですか?」

  これが、俺がのちに「運命」と言い表す、店主のアリアとの出会いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...