声が聴こえる

金浦桃多

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野分の秋

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「結果は異常なしですよ。無呼吸症候群の症状は出ていません」
「そうですか……ありがとうございました」

 耳鼻咽喉科で俺は、異常なしの診断を受けた。
 受付で支払い、病院を後にする。

「疲れた」

 無意識にポロリと出た最近の口癖。
 病院から簡易検査キットを高い金を払って借りた。
 その日の晩、鼻に管をつけるホルダーをして眠った。
 睡眠中に呼吸が止まっていないか調べるためだ。
 翌日には、ホルダーを受付に返した。
 結果を今日聞いたのだ。
 
 寝ても疲れが取れず眠い。
 エアコンも新しくなった。
 学生の夏休みも終わった。

 なのに──
 
 眠りが浅いのが気になり、スマホで調べてみた。
 たどり着いたのは無呼吸症候群。これだと思った。

 スマホでいびき録音アプリを使ったが、上手くいかなかった。
 てっきり、寝言でも叫んでいると思っていたが、たまにいびきが録音される程度だった。
 
 いよいよ疲れが取れなくなって、病院で調べてもらったが空振りだった。

 ゆっくり眠れるようになると思ったのだが。
 結果にガッカリしながら、会社に向かう。
 病院に行くことを話しておいたので、昼食を食べてからでも良かったが、コンビニで弁当を買って行くことにした。

「お疲れ様です」

 若手社員が、カップ麺を啜ってた。おにぎりも食べている。
 
「おう。午前中、何かあったか?」
「いえ、いつも通りでした」
「そうか」

 俺は席につくと弁当を食べはじめる。

「あ、台風が来るから、残業しないで帰るようにとの事でした」
「わかった。ありがとう」

 弁当を食べ終わると、椅子に深く座ってため息を吐く。午後だけ頑張ればいい。
 
「どうぞ。これで元気出してください」
「ん、ありがとう」

 若手社員から、チョコレートを一個貰った。
 本当に気の利く奴だ。
 微笑んで、自分の席に戻って行ったアイツの背中を眺めた。
 

 強い風が吹きつける。台風が接近すると、ニュースでやっていた。会社も定時退社してきた。

「買い物して帰るか」

 俺はだるいのを誤魔化すように歩いて、最寄りのスーパーで買い物をして帰宅した。

 ──ガタガタ
 ──ヒュウゥゥ

 真っ暗になった窓の外。
 気分が悪い風の唸り声。
 まるで人の声のようだ。
 
 気になって、カーテンを乱暴に閉めた。
 古いアパートが軋む音を立てて、絶えず何らかの音が聞こえる。

 テレビでは明け方には暴風域から抜けると伝えている。
 朝には落ち着く。そう俺は自分に言い聞かせた。

 つまらない番組が続く。お笑い芸人が出てきたところで、俺はテレビを消した。

 電気を消して、布団に入った。
 眠ろうと目を閉じる。風の音が、窓が揺れる音が、家鳴りの音が耳に入ってイライラする。

「うるさいっ」

 俺は、どうにもならないことに文句をつけて布団に潜り込んだ。
 
 物音に何度も目が覚めた。
 長い夜だった。

 明け方、ようやく静かになってウトウト眠ったかと思えば、スマホのアラームが鳴った。

「……疲れた」

 朝に相応しくない言葉が漏れた。
 まだ火曜日。
 休みまで長くて憂鬱になった。




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