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しおりを挟む「マキナ姐さん、お腹すいた」
アープルは、子猫亭と書かれた猫のかたちをした看板のあるお店に入ると、そう言った。
「いらっしゃい、アープル。あら? あなたその肩に乗せてる子は?」
「こんにちは! ぼくはモモッチ。アープルさんが名前をつけてくれたんだよ」
モモッチは、アープルさんの肩の上から、マキナ姐さんに元気に挨拶した。
「こんにちは、モモッチ。私は猫獣人のマキナ。なんでも美味しいものを食べさせてあげるわよ」
はちみつ色をした艶々の髪の毛は緩く巻かれていて、頭には同じ色の猫耳がある。長いまつ毛に縁取られたエメラルドの瞳。唇に引かれた紅が良く似合う。メリハリのあるボディにマキナ姐さんのファンは多い。ただ、ものすごく厳つい旦那様がいるので、常連は誰も馬鹿な真似はしない。
「アープルさん、おろして? ぼく大きくなっていっぱい食べたい」
「大きくなる?」
アープルは、モモッチに言われた通り、床にそっとおろしてやった。するとモモッチは、ポムッ! と音を立てて十歳くらいまで成長した姿になった。
「あらっ!? 本当に大きくなったわ」
「モモッチ、すごいな」
「えへへ。これでいっぱい食べられるよね」
アープルはモモッチの頭を撫でてやると、カウンター席にひょいと持ちあげて、モモッチを座らせる。足をプラプラさせるモモッチの隣に、アープルも座った。
「モモッチは、何でも食べられるのかな?」
「うん、食べる!」
「アープルは、いつものスペシャルメニューね。モモッチには、おすすめランチにするわよ?」
「わーい!」
マキナ姐さんが、モモッチのふわふわな桃色の髪の毛を撫でると、機嫌良く尻尾をゆらゆらさせて厨房へと向かった。
「モモッチ。これから行くあてはあるの?」
「?」
モモッチは首を傾げた。
「あるわけないか。俺ん家に来る?」
「アープルさんのお家? いいの?」
「気ままな一人暮らしだからね。おいで」
「うん! ありがとう、アープルさん!」
アープルが、にっこり頷いているとマキナが二人の前にできたてのごはんを持ってきた。
「おまたせ。今日も美味しくできたわよ」
「わぁー、おいしそう。すごーい!」
アープルの目の前には、ボリューム満点のお肉が置かれた。特に骨付き肉の存在感がすごい。その時、アープルは背後から覚えのある気配を感じた。
「ふむ。今日のおすすめは、ホロホロ鳥のハーブの蒸し焼きか。マキナ、わらわもこれにするぞ」
モモッチのプレートを覗き込んだのは、濡羽色の長い髪と黒曜石のような瞳をした美しい少女だった。
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