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しおりを挟む数日後、日課の水やりを終えたモモッチが、嬉しそうにアープルに教えてくれた。
「アープルさん、桃の種がね、もうすぐだよって言ったんだよ!」
「そうか、良かったなー。モモッチが頑張って、お世話したからだね」
嬉しそうに報告してくれたモモッチの頭を撫でながら、残りの種のことをアープルは考えた。
さすがに、自宅の裏庭で全部育てることはできない。でもモモッチなら、自分で世話をすると言い出すだろう。近場でいい所はないだろうか。
「モモッチ、マキナ姐さんのところに行こうか。朝ごはんを食べながら、残りの種を育てる場所の相談にのってもらおう」
「うん!」
「────と、いうことなんだ。マキナ姐さんは、心当たりないかな?」
「うーん、そうねぇ……」
マキナとアープルがそんな話をしていると、常連客のおじさんが、自分の土地の空いているところに埋めてもいいと言ってくれた。礼は実がなったら、お裾分けしてくれればいい。という破格のものだった。
もともと誰かに貸せるなら、土地が荒れなくていいと思っていたらしい。モモッチは喜んで、ポポポンッ! と桃を出すと手渡していた。
アープルはモモッチを連れて、自宅からほど近い果樹園に来ていた。モモッチのためにも近くて良かったと思った。もちろん、アープルも付き添って通うつもりなのだが、遠いよりはいいだろう。
「わぁ、広いね! ここに埋めたら、元気に育つかなー」
「モモッチが、大切に育てるんだ。立派に育つよ」
「うん!」
掘るのはアープルも手伝ったが、埋めるときは、モモッチがひとつひとつ祈りながら、土を被せていく。持ってきた、オレンジ色のぞうさんジョウロで、水を撒いた。
「元気に育ってね」
モモッチはそう言って手を振ると、アープルたちは果樹園を後にした。
その翌日のことだった。アープルの日課の鍛錬をモモッチが見学して、そのあと一緒に裏庭に水やりに行く。
「あっ!」
「おお!」
アープルとモモッチは同時に声をあげた。駆け出すモモッチのあとをアープルはついて行く。
「アープルさん! 芽が出た! 桃の芽が出たよ!」
「よかったなー。モモッチが一生懸命お世話したおかげだね」
モモッチがしゃがみ込んで、水をやりながら桃の芽と話しているようだ。真剣な顔でたまに頷いている。少し落ち込んだ雰囲気に疑問を持ちながら、アープルはモモッチの様子を注意深く見ていた。
「モモッチ、どうしたの?」
「うん……あのね。芽が出たのすごく嬉しいんだよ。でも……」
モモッチが考えながら、一生懸命にアープルに伝えようとしている。アープルは、辛抱強くモモッチの言葉の先を待った。
「この子じゃないの。でも、この子も好きだよ。これからも、ちゃんとこの子のお世話をするんだ」
「……そうか」
アープルは、モモッチの言葉に桃の木の精として生まれた理由は、ただ仲間を増やすだけではないのだと感じ取った。慰めるように優しくモモッチの頭を撫でる。大人しく撫でられていたモモッチが「よし!」と小さく言った。
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