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ルクスペイ帝国編(シャラン視点)
三人のお茶会
しおりを挟む数日後、約束通りスズラン嬢からお茶会の招待状が届いた。場所は王宮内の迎賓館の一室。
───確かに、皇国の未来の皇太子妃となる令嬢を預かるのだ。待遇としてはこうなるだろう。
もう少しごねると思っていた心配性のミカエル様が、あっさり許した理由もわかってしまう。僕は、思わず笑ってしまった。
「ミカエル様は、わざと隠してたよね?」
「きっと、シャラン殿下を驚かせたかったのでしょうね。以前のミカエル殿下を知る者達にとっても、驚きの毎日ですよ。本当にミカエル殿下は、シャラン殿下に出会われてから変わられました。」
帝国に来てから仕えてくれる中年の侍女が、穏やかに笑い、教えてくれた。
「僕にとってのミカエル様は、ずっとあんな風に優しいから、想像つかないな。ミカエル様もご自身で『人間嫌い』と言っていたけど……。
でも、何度か遠くから見たミカエル様の真面目な表情は格好良かったな。」
思い出して、ほんのりと頬を染める僕を、仕えてくれるもの達が微笑ましく見ているのがわかる。
ちなみに、今日は侍従のステンレスと護衛騎士のイノックス夫夫はお休みだ。なるべく揃って休ませている。
最初は僕が心細い思いをしないか心配していたが、ミカエル様がつけてくれたもの達は信頼出来ると判断してからは、二人共安心して休暇を取ってくれるようになった。
「そうだ、お茶会に着ていく服も決めないと。ステンレスが居ない時に決めて拗ねちゃうといけないから、皆で候補三つに絞ろうか?」
侍女達が楽しそうに選んでいるのを、僕はゆったりと眺めて……いられたのは紅茶一杯分を飲む時間だけだった。
「───で、散々着せ替え人形となって選んだのが、この三着なのですね?」
翌日、そう言ってステンレスは笑いを噛み殺しながら、僕を茶化してくる。僕は昨日のことを思い出し、ゲンナリしながら頷いた。
「僕はもうその三着のどれでも良いよ。ステンレスが決めて。」
「フフフ、何でも着こなしてしまうので、侍女達も楽しかったのでしょう。そうですね、この淡いブルーの物がよろしいかと。髪にはミカエル殿下から頂いた蝶のものを着けましょうか。」
「うん。ふふ、ステンレスならそうすると思ってた。」
「シャラン様なら、この組み合わせがお好きだろうと思っただけですよ。」
僕は、ステンレスが帝国に着いてきてくれて本当に良かったと思った。
お茶会当日。
スズラン嬢が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。シャラン殿下、こちらが私の親友のミラ侯爵令嬢です。」
「初めまして。ご紹介にあずかりました、侯爵家のミラでございます。殿下とお会い出来て光栄に思います。」
美しいカーテシーをする女性は、チョコレート色の髪の色に若草色をした可愛らしい方だった。
うん。エイデンが惚気けていた婚約者だな。
「スズラン嬢、今日はお招きありがとう。」
次に僕は、視線をミラ嬢へ向ける。
「初めまして。プロスペロ王国第三王子のシャランです。ふふ、エイデンから惚気けられてましたから、ミラ嬢とは初めてあった気がしないですね。」
「私もエイデン様から、ミカエル殿下とシャラン殿下のお話を聞いておりましたので、是非ともお会いしたいと思っておりました。」
「ウフフ。お話はお席に着いてからになさって。」
スズラン嬢が、席へ促した。
「今日はヤマティ皇国のお茶とお菓子を用意しましたのよ。シャラン殿下のお口に合うと良いのですけど。」
「あら? 私には言ってくれないの? スズラン?」
「ミラはいつも食べてるじゃない。」
二人のやり取りに思わず僕はくすくす笑ってしまった。
「お二人は、本当に仲が良いのですね。僕はモクレンおばあ様とよくヤマティ皇国のお菓子とお茶を頂いていました。懐かしいな……。
僕はお茶もお菓子も好きですよ。もなかは外側がパリパリしていて、あんこが甘すぎないのが好きでした。」
スズラン嬢が嬉しそうに頷きながら聞いている。
ミラ嬢は目をキラキラさせながら大きく頷きながら、食いついてきた。
「私は、みたらし団子が好きです!
スズランとお茶をする時は、いつもお願いしているんですよ。」
「みたらし団子も美味しいですよね。庶民のは串に刺さっているだと、おばあ様が教えてくださいました。」
しばらく、皇国のお菓子の話をした後、スズラン嬢が真面目な表情で話題を変えた。
「本題なのですが、先日お話した令嬢についてです。
既にミカエル殿下が手を打っていると思いますが、シャラン殿下は遭遇したことはありますか?」
「いえ、スズラン嬢の言う通り、ミカエル殿下が気を遣っていてくれた事がこの前わかりました。甲高い女性の声を聞いて、一度だけ遠目に見た赤い……人? が、その令嬢だったようですね。」
「あの方は、リボンをこよなく愛しているので、ドレスが独特なのです。おそらくそれで間違いないでしょう。相手に気づかれる前に速やかにその場を離れるのが最善ですよ。」
ミラ嬢まで、大きく頷き賛同して、教えてくれた。
「万が一、話す事になってもあの方の言う事を鵜呑みにしてはなりません。特にミカエル殿下に関することは完全にあの方の妄想です。」
「ミカエル様に関してですか? 何やら言い寄られて困っている事は少し聞きましたけど。」
「あの方は、ご自分が婚約者だと言い振らしております。誰も信じておりませんし、真実でもないことはシャラン殿下ご自身がよく存じ上げていますでしょう。
もちろん、過去そういった事もございません。むしろミカエル殿下の機嫌が急降下するので、令嬢を止めることをしない公爵家に、他の貴族の信用はまるでございません。」
ミラ嬢は、緑茶を一口飲むと心配げに僕を見た。
「ですので、いつかシャラン殿下に何か仕出かすのではないかと、気が気でないのですよ。」
心配そうにこちらを見る二人に申し訳ないけど、僕は笑顔を浮かべてしまう。
「お二人が心配してくれてるのにごめんね。僕は今、とても嬉しく感じてしまう。会って間もないのに、これ程までに心配して貰えるなんて、僕は幸せ者だ。」
「シャラン殿下……。」
「二人とも、心配しないで。今もちゃんと周囲の者たちが守ってくれているし、僕自身も改めて気を付ける。ありがとう。」
「スズランとシャラン殿下はやはり似ておりますね。笑い方がそっくり。」
僕の笑顔を見て、ミラ嬢が楽しそうに笑うと、スズラン嬢も笑いながら教えてくれた。
「似ているといえば、シャクナゲ様もシャラン殿下と同じ銀髪金眼ですよ。
皇太子としてご苦労したからでしょうか、シャクナゲ様は用心深いです。仇なす者には容赦ありませんが、一度懐に入れると、とてもお優しい方です。
ミカエル殿下とは何やら気が合ったらしく、シャクナゲ様にしては、すんなり仲が良くなられたようですね。
先日もお手紙で、シャラン殿下に偶然会った事を書いたら、シャクナゲ様がミカエル殿下に揶揄いの手紙を送ったらしいのです。その後ミカエル殿下から手紙で散々惚気られたと昨日お手紙が来ましたわ。」
どうやら密に連絡をとる程、皇太子殿下とスズラン嬢の仲は良好のようだ。でも、僕の知らないところで話題にされているのは、少し恥ずかしい。
公爵令嬢に関しては、気を引き締めなければならないと改めて思ったが、ヤマティ皇国のことや、ミラ嬢とエイデンの話も聞けて非常に楽しいお茶会だった。
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