【完結】私の可愛いシャラン~夏椿に愛を乞う

金浦桃多

文字の大きさ
30 / 54
ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

三人のお茶会

しおりを挟む
  

 数日後、約束通りスズラン嬢からお茶会の招待状が届いた。場所は王宮内の迎賓館の一室。
 ───確かに、皇国の未来の皇太子妃となる令嬢を預かるのだ。待遇としてはこうなるだろう。
 もう少しごねると思っていた心配性のミカエル様が、あっさり許した理由もわかってしまう。僕は、思わず笑ってしまった。

「ミカエル様は、わざと隠してたよね?」

「きっと、シャラン殿下を驚かせたかったのでしょうね。以前のミカエル殿下を知る者達にとっても、驚きの毎日ですよ。本当にミカエル殿下は、シャラン殿下に出会われてから変わられました。」

 帝国に来てから仕えてくれる中年の侍女が、穏やかに笑い、教えてくれた。

「僕にとってのミカエル様は、ずっとあんな風に優しいから、想像つかないな。ミカエル様もご自身で『人間嫌い』と言っていたけど……。
 でも、何度か遠くから見たミカエル様の真面目な表情は格好良かったな。」

 思い出して、ほんのりと頬を染める僕を、仕えてくれるもの達が微笑ましく見ているのがわかる。
 ちなみに、今日は侍従のステンレスと護衛騎士のイノックス夫夫はお休みだ。なるべく揃って休ませている。
 最初は僕が心細い思いをしないか心配していたが、ミカエル様がつけてくれたもの達は信頼出来ると判断してからは、二人共安心して休暇を取ってくれるようになった。

「そうだ、お茶会に着ていく服も決めないと。ステンレスが居ない時に決めて拗ねちゃうといけないから、皆で候補三つに絞ろうか?」

 侍女達が楽しそうに選んでいるのを、僕はゆったりと眺めて……いられたのは紅茶一杯分を飲む時間だけだった。


「───で、散々着せ替え人形となって選んだのが、この三着なのですね?」

 翌日、そう言ってステンレスは笑いを噛み殺しながら、僕を茶化してくる。僕は昨日のことを思い出し、ゲンナリしながら頷いた。

「僕はもうその三着のどれでも良いよ。ステンレスが決めて。」

「フフフ、何でも着こなしてしまうので、侍女達も楽しかったのでしょう。そうですね、この淡いブルーの物がよろしいかと。髪にはミカエル殿下から頂いた蝶のものを着けましょうか。」

「うん。ふふ、ステンレスならそうすると思ってた。」

「シャラン様なら、この組み合わせがお好きだろうと思っただけですよ。」

 僕は、ステンレスが帝国に着いてきてくれて本当に良かったと思った。


 お茶会当日。
 スズラン嬢が出迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました。シャラン殿下、こちらが私の親友のミラ侯爵令嬢です。」

「初めまして。ご紹介にあずかりました、侯爵家のミラでございます。殿下とお会い出来て光栄に思います。」

 美しいカーテシーをする女性は、チョコレート色の髪の色に若草色をした可愛らしい方だった。

 うん。エイデンが惚気けていた婚約者だな。

「スズラン嬢、今日はお招きありがとう。」

 次に僕は、視線をミラ嬢へ向ける。

「初めまして。プロスペロ王国第三王子のシャランです。ふふ、エイデンから惚気けられてましたから、ミラ嬢とは初めてあった気がしないですね。」

「私もエイデン様から、ミカエル殿下とシャラン殿下のお話を聞いておりましたので、是非ともお会いしたいと思っておりました。」

「ウフフ。お話はお席に着いてからになさって。」

 スズラン嬢が、席へ促した。

「今日はヤマティ皇国のお茶とお菓子を用意しましたのよ。シャラン殿下のお口に合うと良いのですけど。」

「あら? 私には言ってくれないの? スズラン?」

「ミラはいつも食べてるじゃない。」

 二人のやり取りに思わず僕はくすくす笑ってしまった。

「お二人は、本当に仲が良いのですね。僕はモクレンおばあ様とよくヤマティ皇国のお菓子とお茶を頂いていました。懐かしいな……。
 僕はお茶もお菓子も好きですよ。もなかは外側がパリパリしていて、あんこが甘すぎないのが好きでした。」

 スズラン嬢が嬉しそうに頷きながら聞いている。
 ミラ嬢は目をキラキラさせながら大きく頷きながら、食いついてきた。

「私は、みたらし団子が好きです!

 スズランとお茶をする時は、いつもお願いしているんですよ。」

「みたらし団子も美味しいですよね。庶民のは串に刺さっているだと、おばあ様が教えてくださいました。」

 しばらく、皇国のお菓子の話をした後、スズラン嬢が真面目な表情で話題を変えた。

「本題なのですが、先日お話した令嬢についてです。
 既にミカエル殿下が手を打っていると思いますが、シャラン殿下は遭遇したことはありますか?」

「いえ、スズラン嬢の言う通り、ミカエル殿下が気を遣っていてくれた事がこの前わかりました。甲高い女性の声を聞いて、一度だけ遠目に見た赤い……人? が、その令嬢だったようですね。」

「あの方は、リボンをこよなく愛しているので、ドレスが独特なのです。おそらくそれで間違いないでしょう。相手に気づかれる前に速やかにその場を離れるのが最善ですよ。」

 ミラ嬢まで、大きく頷き賛同して、教えてくれた。

「万が一、話す事になってもあの方の言う事を鵜呑みにしてはなりません。特にミカエル殿下に関することは完全にあの方の妄想です。」

「ミカエル様に関してですか? 何やら言い寄られて困っている事は少し聞きましたけど。」

「あの方は、ご自分が婚約者だと言い振らしております。誰も信じておりませんし、真実でもないことはシャラン殿下ご自身がよく存じ上げていますでしょう。
 もちろん、過去そういった事もございません。むしろミカエル殿下の機嫌が急降下するので、令嬢を止めることをしない公爵家に、他の貴族の信用はまるでございません。」

 ミラ嬢は、緑茶を一口飲むと心配げに僕を見た。

「ですので、いつかシャラン殿下に何か仕出かすのではないかと、気が気でないのですよ。」

 心配そうにこちらを見る二人に申し訳ないけど、僕は笑顔を浮かべてしまう。

「お二人が心配してくれてるのにごめんね。僕は今、とても嬉しく感じてしまう。会って間もないのに、これ程までに心配して貰えるなんて、僕は幸せ者だ。」

「シャラン殿下……。」

「二人とも、心配しないで。今もちゃんと周囲の者たちが守ってくれているし、僕自身も改めて気を付ける。ありがとう。」

「スズランとシャラン殿下はやはり似ておりますね。笑い方がそっくり。」

 僕の笑顔を見て、ミラ嬢が楽しそうに笑うと、スズラン嬢も笑いながら教えてくれた。

「似ているといえば、シャクナゲ様もシャラン殿下と同じ銀髪金眼ですよ。
 皇太子としてご苦労したからでしょうか、シャクナゲ様は用心深いです。仇なす者には容赦ありませんが、一度懐に入れると、とてもお優しい方です。
 ミカエル殿下とは何やら気が合ったらしく、シャクナゲ様にしては、すんなり仲が良くなられたようですね。
 先日もお手紙で、シャラン殿下に偶然会った事を書いたら、シャクナゲ様がミカエル殿下に揶揄いの手紙を送ったらしいのです。その後ミカエル殿下から手紙で散々惚気られたと昨日お手紙が来ましたわ。」

 どうやら密に連絡をとる程、皇太子殿下とスズラン嬢の仲は良好のようだ。でも、僕の知らないところで話題にされているのは、少し恥ずかしい。

    公爵令嬢に関しては、気を引き締めなければならないと改めて思ったが、ヤマティ皇国のことや、ミラ嬢とエイデンの話も聞けて非常に楽しいお茶会だった。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

呪いの姫は祝いの王子に愛される

七賀ごふん
BL
【俺は彼に愛される為に生まれてきたのかもしれない】 呪術師の家系で育った青年、ユノは身内が攫ってきたリザベルと出会う。昏睡の呪いをかけられたリザベルを憐れに思い、隠れて彼を献身的に世話していたが…。 ─────────── 愛重めの祝術師✕訳あり呪術師。 同性婚│異世界ファンタジー。 表紙:七賀ごふん

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。 しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。 ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。 しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。 ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。 しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!? 弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです

トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

必要だって言われたい

ちゃがし
BL
<42歳絆され子持ちコピーライター×30歳モテる一途な恋の初心者営業マン> 樽前アタル42歳、子持ち、独身、広告代理店勤務のコピーライター、通称タルさん。 そんなしがない中年オヤジの俺にも、気にかけてくれる誰かというのはいるもので。 ひとまわり年下の後輩営業マン麝香要は、見た目がよく、仕事が出来、モテ盛りなのに、この5年間ずっと、俺のようなおっさんに毎年バレンタインチョコを渡してくれる。 それがこの5年間、ずっと俺の心の支えになっていた。 5年間変わらずに待ち続けてくれたから、今度は俺が少しずつその気持ちに答えていきたいと思う。 樽前 アタル(たるまえ あたる)42歳 広告代理店のコピーライター、通称タルさん。 妻を亡くしてからの10年間、高校生の一人息子、凛太郎とふたりで暮らしてきた。 息子が成人するまでは一番近くで見守りたいと願っているため、社内外の交流はほとんど断っている。 5年間、バレンタインの日にだけアプローチしてくる一回り年下の後輩営業マンが可愛いけれど、今はまだ息子が優先。 春からは息子が大学生となり、家を出ていく予定だ。 だからそれまでは、もうしばらく待っていてほしい。 麝香 要(じゃこう かなめ)30歳 広告代理店の営業マン。 見た目が良く仕事も出来るため、年齢=モテ期みたいな人生を送ってきた。 来るもの拒まず去る者追わずのスタンスなので経験人数は多いけれど、 タルさんに出会うまで、自分から人を好きになったことも、本気の恋もしたことがない。 そんな要が入社以来、ずっと片思いをしているタルさん。 1年間溜めに溜めた勇気を振り絞って、毎年バレンタインの日にだけアプローチをする。 この5年間、毎年食事に誘ってはみるけれど、シングルファザーのタルさんの第一優先は息子の凛太郎で、 要の誘いには1度も乗ってくれたことがない。 今年もダメもとで誘ってみると、なんと返事はOK。 舞い上がってしまってそれ以来、ポーカーフェイスが保てない。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...