【完結】私の可愛いシャラン~夏椿に愛を乞う

金浦桃多

文字の大きさ
29 / 54
ルクスペイ帝国編(シャラン視点)

ミカエル様との甘いひととき

しおりを挟む

 日が傾く前に図書館から部屋に帰ると、そっと後ろから抱きしめられた。ふわりと香るレモンの香り。
 ミカエル様の香りだ。僕は腕の中でくるりと向きを変え、抱きしめ返す。

「ミカエル様、ただいま帰りました───会えて嬉しい。」

「シャラン、おかえり。今日は午後の予定が急になくなったから、急ぎのものだけ片付けてシャランに会いに来たよ。シャランの都合が良ければ、ゆっくり過ごそう。」

 僕のこめかみにキスを降らせ、ミカエル様はそう言った。

「午前中で勉強は済みましたし、この後も急ぎのものはありません。話したい事も聞きたい事もたくさんあります。でも、今はくっ付いていたい……。」

 僕はミカエル様の胸元に額をスリスリして甘えた。

「シャラン、可愛い……。ソファに座ろう。さあ、おいで。」

 そう言って、ソファまで誘導すると、ミカエル様が座り、自分の太ももを叩く。
 ────それって、つまり。

「え? そこに座るのですか? 僕、重いですよ?」

「本当かな? じゃあ、試してみないと。」

 ミカエル様が、悪戯っぽく笑う。僕は、恐る恐るミカエル様の膝の上に座った。

「つかまえた。はぁーっ。シャラン、大丈夫だから身体の力を抜いて私に寄りかかって。」

 座った途端、ぎゅっと抱きしめて満足気に息を吐くと、ミカエル様は僕をリラックスさせるように、背中をぽんぽんと叩いた。

 言われた通り、力を抜いてミカエル様に寄りかかる。首筋に頭を乗せると、レモンの奥にミカエル様自身の匂いを感じて、僕はウットリとした。

「ミカエル様の匂い好きです……。」

「───ッ! シャラン。」

 ほんのり首筋が赤くなった気がする。

「ゴホン。」

 僕はハッとして、そちらを見る。ミカエル様は不機嫌そうに、文句を言った。

「無粋だぞ、エイデン。」

「何をおっしゃいます、ミカエル殿下。ご自分で決めたことをお忘れになったのかと……。」

「───。ハァー、忘れてなどいない。」

「?」

 恥ずかしさと会話の意味がわからず、僕はおろおろしてしまう。一度ぎゅっと抱きしめてから、僕を少し離すといつも通りのミカエル様が言った。

「夕食は私の部屋にしよう。シャランが来たのは、部屋の説明の時だけだろう?
 今は私も寝るだけに帰っているから、招く事も出来なかったからね。」

「嬉しいです! ミカエル様は、勉強中に何度か様子を見に来てくれた事はありましたが、お忙しく動いているから、逆は無かったですし。」

「では、今から行こう。」

 とても自然に、ミカエル様が二人の寝室の扉を開く。僕は全く違和感に気付かず、ミカエル様の後をついて行き、大きなべッドにそわそわしながら通り抜けて、ミカエル様の部屋に入った。

「───アイツ、常習犯だな。」

 エイデンの呟きに、

「シャラン殿下の寝顔をご確認に来ているだけですよ。」

 侍従のステンレスが、一応フォローした。
 その場にいた者たちがなんとも言えない表情をしていたなんて、僕は知らない。


 久しぶりにミカエル様と一緒に摂った夕食は、普段より美味しく感じた。食後、ソファに座ると僕は今日あったことを話すことにした。

「実は、図書館に行った時にヤマティ皇国のシャクナゲ皇太子殿下の婚約者、スズラン公爵令嬢に会いました。
 あちらは僕の事を知っていたようで、声をかけてくれたのです。」

 ミカエル様が頷きながら聞いてくれる。

「そんな事があったのか。貴族……あちらでは華族か。
 ヤマティ皇国は花、と言うより植物を大切にしてるよね。シャランと名付けた亡き王太后陛下もそうだったね。」

「はい。どうやら、おばあ様の弟にあたる方もそのようです。スズラン嬢のお祖父様だそうですよ。
 そうだ、そのスズラン嬢が気になる事を言っていたので、お聞きしたいのですが良いですか?」

「うん、何かな?」

「帝国の公爵令嬢が、ミカエル様にご執心なので気を付けた方が良い。と、教えて貰いました。
 ───っ?! ミカエル様っ! 大丈夫ですか?」

 僕が話した途端、ちょうどハーブティーを飲んでいたミカエル様が咳き込んだ。

「ゴホッ! だ、大丈夫だよ。『あの』女の事を聞いたの?
 ───失礼。あの公爵令嬢には、本当に気を付けて欲しい。いいかい? 遠くにリボンの塊みたいな物が見えたら、速やかに逃げなさい。護衛騎士にはちゃんと通達してあるから、遭遇してないはずだけど。」

 ミカエル様にそう言われると、ふと、何度か護衛が通る道を引き返した事を思い出した。

 その時に遠くからも聞こえる女性の甲高い声と、真っ赤な……塊? が見えたのも覚えている。

「あ! 一度だけ遠くから見えたかもしれません。」

「そうなのか。シャラン、無事で良かった。」

 ミカエル様がホッと胸をなでおろしていた。

「スズラン嬢とエイデンの婚約者のミラ嬢も何やら大変だったと聞きました。
 そう言えば、スズラン嬢からお茶会のお誘いを受けました。ミラ嬢も一緒という事なので、三名でするらしいです。招待状が届いたら、行っても良いですか?」

 僕がお伺いをたてると、ミカエル様は微笑んで頷いた。

「ミラ嬢もいるなら心配ないよ。皇国の事も知りたいよね。行っておいで。」

「ありがとうございます。僕もちょっとずつ、帝国に慣れて行きますね。」

 僕がふにゃりと笑うと、ミカエル様が両手を広げた。

「こっちにおいで。ぎゅっとさせて。はぁ、癒される。」

「ミカエル様……。」

 僕は、ミカエル様を見つめて、声には出さないおねだりをする。

「シャラン……、ん」

「ふぁ……んん。」

 願い通りの口付けを貰い、魔力の交換をする。甘く痺れるミカエル様の魔力に、僕は溶けそうだ。

「可愛い……。」

 艶のあるミカエル様の声が僕の鼓膜を震わせる。

 くちゅくちゅと唾液が混ざり合い、こくりと飲み込んだ。

「あっ────。」

 お腹の中まで熱くなった僕を、ミカエル様はゆっくり引き離す。

「これ以上は止まれなくなるから……。大切にしたいんだ。シャラン、部屋に送るよ。」

 ミカエル様の瞳に明らかな欲が見て取れて、僕と一緒なんだ。と、胸を熱くした。
 今度は廊下へ続く扉から僕の部屋へと送ってくれたミカエル様は、おやすみ。と額にキスを落とし、部屋へと帰って行った。

 寝る前の浴室で、僕がミカエル様を想ってした行為は、誰にも秘密。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 花言葉
 レモン→「心からの思慕」「愛に忠実」「熱意」「誠実な愛」



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

処理中です...