ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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1章 憧れのゲームの世界へ

6話

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 いつの間にか大分時間が経っていたので、焔は休憩を終わりにし神殿へとむかう。
 近くまで来ていたこともあり、公園から神殿へはすぐにたどり着く。
 神殿の入り口は開け放たれていて、そのまま中に入ることができた。

「思ってたよりは小さいんだな……」

 まわりの建物よりは大きいが、そこまで際立って大きいものではない。
 お城のような建物を想像していた焔にはちょっと意外なことだった。

 中に入っても誰もおらず、そしてイベントも始まらない。
 焔はそのまま内部をまっすぐ歩き、一番奥まで進んでみる。
 そこの壁には全く読めない暗号化された文字が書かれていた。

 ただのかざりなのか、それとも読めるようになるスキルでもあるのか、今はまだわからない。

 焔は何となくその文字を指でなぞってみた。
 すると右手首のバンドが振動し、うっすらと光を帯びる。
 そしてどこからかというか、頭の中に直接、機械っぽい声が聞こえてきた。

『IDの照合を開始します』

 どうやら焔のゲーム内IDを何かと照合しているようだ。
 しかし何も登録してないのだから認証などされるはずがないのだが。

『認証しました。転送を開始します』

 なんと認証されてしまった。
 いったいなんのデータベースと照合をしたのだろうか。

「っていうか転送ってなんだ!?」

 そう口にした時、突然まぶしい光に包まれて焔は目を閉じる。
 そして光が収まった後、ゆっくりと目を開いていく。
 目の前に広がっていたのは、夢で見た大きな樹のある場所だった。

(なんでここが……? あれは俺の夢じゃなかったのか? さっきの公園の像といい、いったいどうなってるんだ……)

 焔は戸惑いながら、大きな樹を見上げる。
 まるで天まで届きそうなくらいに大きな樹だ。
 大樹の近くまで歩き、実際に触ってみると、まるで本物のようだった。

 試してみると、メニュー画面も呼び出せることからゲームの世界だと思われるが、どうなのだろうか。
 夢の中でもここはなぜかメニュー画面を呼び出していたし、よくわからなかった。

 その時、後ろからふわっと誰かに抱きしめられ、そして目をふさがれる。

「ふふ、誰だかわかる?」

 焔はその声だけで汐音だとわかった。
 しかし、背中に当たる汐音の胸の感触に意識が集中してしまい、少し冷静さを失っていた。

「えっと、この胸の感触は汐音さんかな」
「……焔君は私の胸の感触なんて知ってるの? まさかどこかでこっそり触った?」

「いえ、おっぱいなんて触ったことないです。今背中に当たっているのが人生で初めてです」
「そっか、焔君の初めてを私がもらっちゃったんだね」

 汐音の言葉に焔はドキッとしてしまい、心臓の鼓動が苦しいくらいに早くなった。
 DT焔君には刺激が強かったようである。
 解放されて汐音とむかい合う焔は、このドキドキを利用し、勇気を振り絞ってお願いをする。

「お姉さん! お、俺のすべてをもらってください!」
「?」

 しかし、せっかくの勇気も汐音には伝わらなかったようだ。

「えっと、こういうことかな?」

 汐音はなぜか焔を抱き寄せて、顔を胸で包み込んだ。
 どうしてこういう結論になったのかわからないが、これはこれで焔は満足だった。

 DTを捨てるという夢は叶わなかったが、またチャンスは訪れるのだろうか。
 そして焔がDTをささげる相手は一体誰になるのか。
 もしかしたら舞依になるのではないかと焔は少し思ってしまっていた。

 汐音のやさしくて甘い香りに包まれながら、焔の意識が溶けていきそうになる。
 その寸前で何とか踏ん張り、意識を保った。

「汐音さん、あの、もう大丈夫です」
「そう?」

 汐音は焔を開放し、改めてむき合う。
 焔の顔は真っ赤に染まり、呼吸は乱れまくっていた。

「あ、苦しかった?」
「いえ、最高でした」

 焔が握り拳を作って答えると、汐音はニコニコと笑っていた。
 焔にとって汐音は初恋の人に似ているお姉さんであり、なんだか代わりにしているようで少し罪悪感がある。
 それでもやはりうれしいと思う気持ちの方が上回っていた。

 しかし、あまり浮かれてばかりもいられない。
 なぜ焔の夢にでてきた場所や人物がゲームの中に登場するのか、まったく理解ができないからだ。
 もしかしたらまた夢でも見ているのか、その可能性もあると焔は考えていた。

「あの汐音さん、ここってゲームの世界でいいんですよね」
「う~ん、ちょっと違うかな。ここはゲームとは別の仮想世界だよ、本来はつながってないんだけどね」
「別の仮想世界?」

 そう言われて焔はメニュー画面を表示させてみるが、それはゲーム内と同じものだった。
 ちゃんとレベルまで表示されている、ゲーム仕様の画面。
 ゲームでなければこんな画面は必要ないはずである。

「って、あれ? 俺のレベルが30になってる」

 今更だが初めてしっかりと自分のステータスを確認した焔は、何もしてないのにレベルが30もあることに気づいた。

「何言ってるの、私と一緒にレベル上げしたでしょ」
「え? いやあれは俺の夢の中では?」

「そうだよ、そしてそれは私の夢の中でもある」
「へ?」

「例えば現実での話の続きを仮想世界ですることができるでしょ?」
「それはまあ」

「同じように夢での会話の続きをゲームの中ですることも、記憶さえお互いにもっていればできちゃうってことだよ」
「なるほど……?」

 一瞬納得しかけたが、やっぱりおかしいことに気づく。

「そもそもさっき初めてゲームへログインしたんですよ? それより先に見てた夢の内容がゲームに反映されるなんておかしいですよ」
「でも私はそれよりも前にログインしていた。そして君がログインしてID登録するときに照合してデータを引き継がせたんだよ。君だけ少し時間がかかったでしょ?」
「言われてみれば……」

 他の三人と違って焔だけID登録に時間がかかっていた。
 それは新規登録するつもりだったのに、実は途中でIDの引継ぎ作業に切り替わったからだった。

「初期レベルについてはそれで説明できますけど、そもそもなんで俺の夢が引き継ぐデータとして存在してるかはまだ理解できませんよ」
「それはね、ちょっとズルをさせてもらったんだけどね、この空間だよ」

「ここですか」
「そう、ここはゲームの世界の外側なんだ。提供されるサービスのデータはすべてここを中心に保存される。もちろんさっきまでいたゲームの世界のデータもね」

「つまりここのデータをいじることができればやりたい放題だと?」
「そういうことだね。実際にはそんな権限は誰にも与えられないけどね」

 中央集権的なシステムでは、その権限のあるものであればデータの書き換えを行うことができてしまう。
 やるだけであれば、存在しないお金を生み出すことだってできる。

 もちろんそんなことは許されるわけもないのだが。
 だからこそ改ざんのむずかしいブロックチェーンという技術が注目されているわけだ。

「私はある人からその権限の一部を与えられて、ゲームの中の存在から外れることになった。私はシステムとサーバー全体の管理者になったの」
「サーバー全体の管理者……」

「そしてそのシステム上ではすでに大量のアプリが稼働している。ほらあのメッセージアプリとかもね」
「ということは、まさか『HIMIKO』のサーバーってことですか」

「そう、だからあらゆる手段を用いて君の夢に干渉してデータ化していったんだよ」
「でも夢に干渉なんてそんなことどうやって……」

「それができちゃうんだよ。ここでは関係ないから詳しくは話さないけど、HIMIKOは格安でばらまいた通信機器と、そこで稼働するあらゆるアプリからデータを無断で収集してるんだよ」
「は?」

「ここにはそのすべてのデータが集まるから、それをつなぎ合わせればいろんなデータが手に入るよ。ほらここに君と舞依ちゃんがアプリでしてたイケナイ会話が……」
「やめてええええええええええええ!」

「こんな感じでデータが手に入るわけ。これの売買がHIMIKOの利益になるんだよ」
「嘘だろ……」

 焔は恐ろしい社会の闇を見た気がした。
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