ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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2章 島の外の世界とフローラ牧場

39話

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 現在焔は、沙織と詩乃の二人と一緒に街の外へとお出かけしていた。
 弱いとはいえモンスターも出る場所をこんな風に歩いていていいのだろうかと、焔はやはり心配になっている。

 しかし、よく思い返してみても焔はこのあたりで、クエスト扱いだったロック鳥以外モンスターと遭遇していない。
 舞依たちはプルルのようなスライムと戦ったらしいが、それもクエストとしてだった。

 もしかするとクエストなしだとモンスターは出現しないエリアなのかもしれない。
 そのまま特に何事もなく教会との分かれ道まで進むことができた。
 沙織はそこで立ち止まることなく、教会とは逆の方へと歩みを進める。

 その道は、昨日ロック鳥と遭遇し探索を中止した道だった。
 沙織の様子からしてこの先に行ったことがあるのだろう。
 焔も特に危険はなさそうだと判断した。

「沙織さん、この先っていったい何があるんですか?」
「そうですね、これから行く泉とお花畑くらいしか私も知りませんね。その先には行ったことありませんので」
「へえ」

 確かに街に住んでる普通の住人が、何があるのかわからないのにどんどん先に進むことなんて、なかなかそんな機会はないだろう。
 マップ上ではただの森になっていて、沙織の言う泉すらもあるかわからない状態だ。

 つまり森の中に何かがあっても、実際に足を運ばないと見つけることができないようになっている。
 これは仕様なのか、それともそれが可能になるレベルやスキルがあるのか。

「興味があるのですか?」
「そうですね、この前は先まで探索できなかったので」

「じゃあ行ってみますか?」
「いえいえ、今日は沙織さんや詩乃ちゃんと楽しく遊ぶのが目的なので」

 沙織からのありがたい提案も、焔は遠慮することにした。
 探索はいつでもできるが、詩乃はともかく、沙織と遊びに行く機会はいつでも手に入るわけではないからだ。

「焔さんはやさしいですね」
「そんな大袈裟な。それに俺が沙織さんたちと遊びたいだけですから」

 焔の言葉に嘘はない。
 そもそもこの世界がゲームでなくなった時点で、探索をするのは目的ではなくなった。

 この世界で幸せに生きていければそれでいい、それが焔の考えだ。
 なのでどちらかというと、沙織や詩乃と遊んでいる方が焔の目的を達成していると言える。

「さあ、行きましょう」
「はい」

 焔たちは道を進んでいき、ロック鳥と遭遇した地点も無事に通過した。
 モンスターが出てくる様子もなく、のんびりと歩いていく。
 するとしばらくして詩乃が元気のない声をあげた。

「もう疲れた~」
「大丈夫? 詩乃ちゃん」

 詩乃は歩き疲れたようで、何かをねだるように焔の足にしがみついてきた。

「俺がおんぶしようか?」
「抱っこがいい~!」
「よし、わかった」
「やった~!」

 焔は詩乃の脇の下に手を入れ、一気に抱き上げる。

「えへへ~」

 うれしそうに笑う詩乃を見て沙織がからかうように言う。

「あらあら、これくらいいつもはちゃんと歩いてるのに」
「いいでしょ~、今日はお兄ちゃんがいるんだし」

「あんまり油断してると、焔さんが狼になっちゃいますよ」
「お兄ちゃんはやっぱり狼人間なの?」

 沙織の言葉の意味を理解していない詩乃に、焔はくすっと笑ってしまった。

「なんで笑ったの? お兄ちゃん」
「いや、詩乃ちゃんがかわいくてさ」
「やった、ほめられた~」

 焔は腕の中にいる天使によからぬ感情を抱きつつ、今はそれをおさえてお兄ちゃんを頑張っていた。
 舞依に対しても同じようなものなので、こんなことは慣れているのだ。

 ただその様子を見て沙織は焔の感情を察したようで、少し頬を膨らませながらジト目をむけている。
 その視線も、目の前の詩乃に夢中の焔には届かなかった。

 焔たちの歩く道はやがて森の中へと入っていく。
 それでも道自体はしっかりとしていて、歩きづらいということはまったくなかった。

 この先にはなにかがあって、そこにむかう道だということだろう。
 そのまましばらく進んでいくと、道が二手に分かれていた。

「こっちです」

 沙織は左の道を指さして歩いていく。
 右の道は緩やかな上り坂になっているので、山の方へとむかう道のようだった。

 左の道を進みながら、焔は空気がひんやりとしてきているのを感じる。
 この先に水場のようなものがあるのではないだろうか。
 ということは、沙織が目的地としている泉が近いということだ。

 さらに進んでいくうちに奥の方できらきらと水面で反射する光が見えた。

「見えてきましたね。あれが目的地の泉ですよ」
「おおっ」

 焔の想像していたよりもかなり大きい泉が目の前に広がっている。
 そしてまわりにはきれいな花がたくさん咲いていた。
 あまりに美しい光景に焔は居ても立っても居られず、走り出して花の中へとダイブした。

「俺一度でいいからこういうところで寝っ転がってみたかったんですよね」

 現実世界だと何があるかわからないから変なことはできないが、ゲームの世界なら余計なものは再現しないだろう。
 焔はそう思って、お花に囲まれながらコロコロと転がってみた。
 お花のいい香りに包まれながらクルクルと回転する。

 そしてその途中でむにゅっと何かを下敷きにしてしまって動きを止める。
 焔の下敷きになったそれは、なんと全裸の幼女だった。

 しかも焔の顔はちょうどその子の胸の真ん中あたりに乗っかっている。
 サーっと焔の頭から血の気が引いていって、いろいろな恐怖から慌てて立ち上がった。

「お、俺は何もしていない!」

 誰に言い訳しているのか、焔はその場でそう口にした。
 沙織も詩乃も何事かわかっていない様子だ。

「……ふあぁ」

 ふたりが焔の近くに来るよりも先に、その幼女が目を覚まし、そして立ちあがる。
 それを見て、沙織と詩乃が固まり、焔はどうすればいいのかわからず慌てまくっていた。

 一方の女の子は、特にさきほどのことは気にしていない様子で、焔と目が合うと笑顔で手を振ってくれる。
 その様子に焔は少し冷静になることができ、ちらちらと女の子の体を拝んでいた。

 しかしすぐにこれはいけないことだと自分に言い聞かせ、さっと自分の着ていた服を一枚女の子に羽織らせる。

「……?」

 焔の行動を理解できなかったのか、女の子は首を傾げて焔を見上げていた。
 その姿が愛くるしく、焔はまた暴走しそうになるが必死にそれをおさえている。
 そこに沙織が近づいてきて、女の子を見ながら何かに気づく。

「この子、スライムですね」
「え? スライム?」
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