ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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4章 世界樹のダンジョンと失われし焔たちの記憶

89話

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「もう疲れたよ……」

 焔は優花が変態になってしまったことで、その対応に苦労していた。
 助けた時はこんな女の子ではなかったはずなのだが。

 何かしらの精神的負荷でこうなってしまったのだろうか。
 原因は不明。
 もしかしたら元からこういう女の子だったという可能性すらある。

 優花のお世話をしていた鬼頭聖礼という女性も今思えば変態のようだった。
 変態が近くにいると変態が育ってしまうのかもしれない。
 さすがに助けなければよかったとは思わないが、平和な日々を望む焔にはつらい状況だ。

(ああ……、かわいかった優花ちゃんはどこへ行ってしまったのか……)

 焔は腕の中にいる詩乃の頭をなでながら、現実をなんとか受け入れようとしていた。

「お兄ちゃん大丈夫?」
「うん? ああ、大丈夫だよ。こうやって詩乃ちゃんを抱きしめていると荒れた心が癒されていくよ」

「よくわかんないけど、お兄ちゃんが元気になるなら好きなだけ抱いてていいよ」
「くぅ~、詩乃ちゃんマジ天使!」

 焔は詩乃のやさしさに感動し、その体を強く抱きしめて頬同士をすりすりし始める。
 明日香はその様子を見て若干引いていたが、一部始終を見ていただけあって今回は焔を責める気も湧いてこなかった。

「うう……、焔さんは詩乃ちゃんにはやさしいのに私のことは迷惑そうにする……」
「そ、そんなことはないぞ、俺は優花ちゃんのことも大切に思ってるさ」

「嘘だよ! だって私から連絡しなかったら、きっと今日だって焔さんと会えなかった!」
「それは、俺は優花ちゃんがこの島で自由に暮らしてくれたらいいって思ってるから」

「そんなこと言われたって私、生贄になるために生まれてきたから、いきなり自由にされてもどうやって生きていったらいいかわかんないんだもん!」
「優花ちゃん……」

「焔さんも『お前は俺の性奴隷になるんだ、これから毎日楽しみだな、フヘヘ』とか言っといて何もしてこないし!」
「俺そんなこと言ってねぇよ!」

「これじゃあ私、いらない子だよ……。なんでもいいから命令してよ……」
「そ、そんなこと言われてもだなぁ……」

 まさか優花を助けるために適当に作り上げた話が、優花の中でこんなに重要なものになっているなんて思いもしなかった焔は困り果ててしまった。
 元から命令なんてする気もなく、実際に優花に手を出せるようなら『ヘタレの焔さん』の称号などもらってはいない。

 とりあえずその場しのぎの簡単な命令でも出してみるかと思っても、そういった経験がないのでなかなか思いつかなかった。
 そんななか、明日香がゆっくり優花の前まで歩いて移動する。

 いったい何をする気だと、焔が見守っていると、明日香はなぜか右手を軽く上げた。
 そしてうつむいている優花の頭に思いっきりチョップをかます。

「あうっ」
「いい加減にしなさい! 焔さんが困ってるでしょう? あなたこどもみたいなこと言ってるけど、私とそんなに歳が変わらないんだから自分の人生くらい自分で決めなさい!」

 一気にまくしたてる明日香の前に、ずっとうつむいたままの優花。
 少し心配になった焔は優花をかばうように明日香に話しかける。

「まあまあ明日香、優花ちゃんは今の状況に戸惑ってるんだろうし、もっと優しくしてあげよう」
「焔さんが甘やかすから何も自分で判断できない子に育つんですよ!」
「俺が育てたわけじゃないからね!?」

 明日香に返り討ちにされ、おとなしく詩乃を抱きしめる焔。
 その時、優花の体がプルプルと動いているのが視界に入った。

「ふ、ふひっ」
「うん?」

「お姉様ああああああ! さっきの手刀、とてもきもちよかったですぅうううう! お姉様って呼ばせてください!!」
「もう呼んでるじゃないですか!?」

「ああ、お姉さま。お姉さまならきっと私を満たしてくれる……」
「ひぃっ、気持ち悪い……。そうだ! あの手刀を私に教えてくれたのは焔さんですよ! 師匠の方が素晴らしい手刀をお見舞いしてくれるに違いありません!」

 明日香は身の危険を感じて、優花の矛先が再び焔にむかうように誘導する。

「おいっ、人を売るな!」
「やっぱり焔さんは素晴らしい人なんですね! ご主人様って呼ばせてください!」
「やめてえええええええええええええ!!」

 優花は焔の背中から抱きついて、ぐいぐいと体をくっつけてきていた。
 焔は詩乃と優花に挟まれる、傍から見たらうらやましい状況になっている。
 しかし、後ろから押しつけられる優花の胸の感触も、いつの間にか触りまくっていた詩乃の胸の感触もまったく堪能する余裕が今の焔にはなかった。

「それでは私、これから舞依さんと遊ぶ用事があるので、これにて失礼」
「あ、待って、待ってください明日香様! お願いです、俺を見捨てないで~!」

 明日香を必死に呼び止める焔だったが、舞依と用事があるのは本当らしく、明日香は満面の笑みで手を振りながら去っていった。
 あいかわらず優花は焔の背中ですりすりと動いている。
 詩乃をずっと抱きしめているわけにもいかないので、焔は覚悟を決めて立ちあがる。

「ごめんね詩乃ちゃん、ちょっとだけあっちむいててくれるかな。絶対にこっちを見ちゃダメだよ」
「え? うん、わかったよ」

 詩乃は不思議に思いながらも焔の言うことに従って誰もいない方へむいてじっとしている。

「えっと? 鞭で縛ればいいの?」
「うん!」
「はあ、生き方がわからないことと鞭で縛ることのどこに繋がりがあるんだ……?」

 縛られたいのはただMなだけだろう、と思いながら焔は鞭を振るう。
 やはり鞭自体に何か魔法のようなものが付与されているらしく、鮮やかな軌道をえがいて鞭は優花を縛りあげてベッドへと放り投げた。

「ああ、私生きてる、生きてるって感じられるよぉ~」
「……」

「私は焔さんの特殊な趣味を満たしてあげる人形として生きていくんだね」
「いや、勝手に俺の趣味にしないでね? 君の特殊な趣味だよね、これ」

 ベッドの上で満足そうな顔をして横たわっている優花に、焔は冷ややかな視線を送る。
 今の優花はかなりあられもない姿をしているが、それに対して焔の気持ちは全然盛り上がってこなかった。

 普段なら多少なりとも興奮はしたであろうが、今はもうさっきまでのやり取りで疲れ切っている。
 焔は縛られている優花の近くに腰を下ろす。

「詩乃ちゃん、もういいよ、おいで」
「は~い」

 優花がベッドの上で縛られたままなので、なにがもういいのかはわからないが、焔は詩乃に呼びかけた。
 振り返った詩乃に手招きをして、自分の前に座らせぎゅっと抱きしめて、そして顔を髪の毛にうずめる。

 焔は自分のしていることがもうわかっていないのか、ただの変態になってしまっていた。
 そしてそこにタイミングよく沙織が部屋にやってくる。

「すみません焔さ……」
「え?」
「へ!?」

 開いていた入り口から沙織が見たのは、鞭で縛られベッドの上に横たわる少女と、その隣に座って自分の娘の髪の毛に顔をうずめる変態焔の姿。
 凪のように穏やか状態だった焔の気持ちも、ここでグイっと焦りが生まれる。

「あの、えっと、こういうことをするときはドアを閉めておいていただけると……。あと詩乃ちゃんはまずいと思います」
「ち、違うんです沙織さん! これには事情があリまして……」

「幼女にいかがわしいことをする事情って何ですか? いえ、別に責めているわけではないのですよ?」
「お願いです、話を聞いてください! あとかわいそうな人を見る目もやめてください!」

 この後、時間をかけて沙織の誤解のようなものを解くことになった。

「そうでしたか、まあ、焔さんに縛られたいという気持ちはわからなくもないですけどね」
「お願いだからわからないでください!」
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