ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

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4章 世界樹のダンジョンと失われし焔たちの記憶

96話

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「さて、どうしたもんかね……」

 一度螺旋階段まで撤退した焔たちは、座り込んでユグドラシル攻略について考えていた。
 ここの扉が封鎖されていなかったのは救いだった。
 アイテムを使用し、とりあえず焔たちはLPとMPを全回復させる。

「とにかく魔法攻撃だけじゃ倒せないよな……」
「私のレーザー魔法なら障壁ごと撃ち抜けると思いますけどね」

「マジかよっ、なんで使わなかったんだ」
「だって、焔さんがあれを見たら漏らすって言うから……」

「そんなこと言っとらんわ! もう大丈夫なはずだから遠慮なく使ってくれ」
「でもそれだけじゃ倒せるかはわかりませんよ?」

「まったく……、同じレベルの魔王ですら苦戦するってどんな相手だよ」
「あれは別格ですね。ほら魔王の後に出てくる隠しボスみたいな感じじゃないですか?」

「じゃあ何? ここっておまけダンジョンなの?」
「かもしれませんよ」

 その結論に至って、焔はガクッとうなだれる。
 また面倒なことに巻き込まれたもんだと思いながら、ゆっくりと体を起こす。

「まあ、しゃあないな。危険だけど近距離で戦うしかないか」
「お兄ちゃん、私も行くよ」

「ああ、こうなったら舞依にも頑張ってもらわないとな。でも絶対に無茶はするなよ?」
「うん、いざとなったら電光石火で逃げるよ」
「そういえばそんな技使ってたな」

 高速移動できる舞依に対して、むしろ一番危険なのが焔だった。
 汐音の力を借りるという選択もあるが、焔はここでは使わない方がいい気がしていた。

 まだ何があるかわからない。
 切り札は温存しておくべきだという判断をした。

「じゃあ、再戦といきますか」

 焔たちは準備を整え、フロアへの扉を開いた。
 開いた瞬間、扉のむこうにはフロアが見えなかった。
 代わりに目の前にあるのは木だ。

 焔は背中が冷たくなるのを感じ、変な汗が噴き出していた。
 そう、この木はユグドラシルの体だ。

「ぎゃああああああ!! こんなのアリかよ!?」

 焔が叫んでいる間に、明日香は高速でレーザー魔法を発動し、ユグドラシルにぶつける。
 少し後ろに吹き飛んだユグドラシルに、今度は時間をかけて溜めたレーザー魔法を放つ。

 それは今まで見てきたものよりも格段に強力な魔法だった。
 その一撃でユグドラシルは反対側の壁まで吹き飛んでいく。
 障壁も破壊され、LPは一気に半分近くまで削られていた。

「明日香……、マジですげぇな」
「ふふふ、私が本気で戦ったら焔さん死んじゃうかもしれませんね」
「怖っ」

 ユグドラシルは体勢を立て直すと、再び障壁を展開し、LPもゆっくりと回復を始める。
 それを見て、明日香が魔法で障壁を破壊。
 そして舞依が電光石火で直接攻撃を仕掛ける。

 焔は炎をまとった刀を構えて突進。
 その間に舞依が雷で作り出したナイフのようなものをユグドラシルに突き刺す。

 これでLPの回復が止まった。
 どうやら回復と同程度のダメージを与え続けているようだ。

 舞依と焔が入れ替わり、炎の剣技がユグドラシルを襲う。
 刀を振るうたびに、焔のまわりで炎が舞った。
 意外にも警戒していた反撃が一切なく、LPは順調に削られていく。

 炎の勢いは増し、舞依たちからは焔の体がまるで炎と一体化したかのように見えている。
 このスキルを長時間使うことが今までなかったため、焔自身も初めての体験だった。

 時間が経過するほどに強力になっていくスキル。
 もはや舞依と明日香には容易に手を出せないほどの勢いになっていた。

 しかし、ユグドラシルのLPが残り四分の一を切った時、ついに相手が動き出す。
 急に焔の足元がぐらついたかと思うと、いきなり地面を突き破って植物のツタが焔を襲う。

「うわっ」
「お兄ちゃん!?」

 ツタが焔に絡みつき、身動きがまったく取れなくなる。
 なぜかツタには火が燃え移らず、やがて炎は消えていってしまった。

「焔さんを離せ!」

 明日香は魔法を連射してユグドラシルに攻撃するが、高速で展開される障壁で打ち消されてしまう。
 空中で締め上げられる焔にむかって、ユグドラシルは大剣を振り上げる。

「くそおおお!」

 焔は自身ごと炎の魔法で包み込んでみたりと抵抗していたがまったく効果はなく、ついに焔にむかって大剣が振りかざされる。
 舞依の目に映る焔の危機。

(助けなきゃ……、私のお兄ちゃんが、死んじゃう……)

 舞依がそう思ったときには、すでに体は動き出していた。

「電光石火!」

 まるで自分の体ではないかのように、無意識に体が動く。
 焔の危機に沸き上がった恐怖も一瞬で収まり、恐ろしいほどに冷静だった。
 この体のどこにそんな力があるのか。

 舞依は剣一本でユグドラシルの大剣を受け止めて弾いた。

「ま、舞依……?」

 舞依は焔の体に巻き付いていたツタを切り落とし、ユグドラシルと対峙する。
 そして一気にその巨体の懐に飛び込んでいく。
 ユグドラシルは大剣をすさまじい速さで振りかざすが、それを舞依は簡単に弾き返す。

 そのまま剣を振るい、障壁もすべて破壊する。
 再び振りかざされた大剣をまたも簡単に弾くと、腰を落としてスキルを発動した。

「雷切!」

 雷のような閃光とともに、ユグドラシルの本体が横一閃される。
 相手のLPは0となり、ゆっくりと光の玉となって消えていく。
 焔は立ち上がって舞依のそばに駆け寄る。

「舞依!」

 焔が声を掛けると、舞依はゆっくりと焔の方に顔をむけた。
 その表情と舞依がまとっている雰囲気は、普段の様子とはかけ離れて、恐ろしく冷たいものだった。

「ま、舞依?」
「舞依さん!?」

 焔も、駆けつけた明日香も、その舞依の様子に戸惑っていた。
 この世界に来てから何度か見かけた、暴走状態の舞依と同じ雰囲気をまとっている。
 いま改めてその舞依とむきあって、焔はこの雰囲気に覚えがあると気づいた。

「無事でよかった……」

 そのつぶやきとともに、舞依はその場に崩れ落ちた。
 慌てて支える焔と心配そうな明日香。

 ふたりの目の前に、天井から光の柱が降りてきた。
 恐らく次のフロアへ続いているのだろう。

「どうします?」
「とりあえず行こう。時間が経って消えられても面倒だ」

「そうですね」
「地上に戻れたらラッキーなんだけどな」

 焔は舞依を抱き上げると、明日香とともに光の柱へと入っていった。
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