ゲームの世界で始める憧れのファンタジー生活

朝乃 永遠

文字の大きさ
97 / 121
4章 世界樹のダンジョンと失われし焔たちの記憶

97話

しおりを挟む
 光の柱に入った焔たちは、目の前が真っ白になった後、気付いた時には青空の下にいた。
 池やお花畑もあり、そこはまるで庭園のように見える。
 焔たちが導かれた場所は世界樹の頂上部分だった。

「まるで空中庭園みたいだな」
「きれいな場所ですね」

「とりあえずあのベンチが置いてあるあたりで舞依を休ませよう」
「そうですね」

 焔たちは気を失っている舞依を連れて、公園の休憩スペースのようなところへ移動する。
 舞依をいったん降ろし、焔は上着を脱いでベンチに敷いてから舞依を寝かせた。
 そして近くのベンチに明日香と焔は腰を下ろす。

「ふぅ」
「何なんでしょうねここは」
「さあ……」

 まるで楽園を思わせるようなきれいな庭園だ。
 ゆっくりと目の前を飛んでいくちょうちょを目で追いながら、焔たちはさきほどの激しい戦いのことなど忘れそうになるくらいに緊張が解けていた。

「まさかここに来るためにあんなダンジョンを用意したりはしないだろう」
「でも何も起きませんね」

「最初の方も怪しかったしなぁ。まだ何も実装されてないとか?」
「汐音さんがくれた種からできたダンジョンですよ? それはないんじゃないですか」

「それもそうだなぁ、汐音さんに聞いてみるか……。こっちは死にかけてるんだしな」

 焔は視線を舞依に移す。
 守るはずの相手に助けられて、このような状態を招いてしまったことに焔は悔しさをにじませる。

「舞依さん、なんだか雰囲気が違いましたよね」
「ああ……、ただ、俺はあの舞依をどこかで知ってるんだよな」

「え?」
「実は舞依ってな、昔から今みたいにいつも笑顔でいるような子じゃなかったはずなんだ」

 焔が舞依について思い出していると、急に記憶が流れ込んでくるかのように、現実の世界で過ごした幼き頃の記憶が蘇っていった。
 それは今の焔には覚えのない記憶だった。



 舞依がまだ小学生になりたてくらいの頃。
 この頃の舞依はいつも無表情で、周りのこどもたちが騒いでいる中でもずっと静かにひとりでいることが多かった。

 何を考えているのかまったくわからず、舞依のことをこの時の焔は少し苦手に感じていたほどだ。
 母親である神楽はなにやら忙しいらしく、幼い焔たちを残してよく家を空けていた。

「お兄ちゃんなんだから、舞依ちゃんのこと、ちゃんと面倒見てあげるんだよ?」

 神楽からそれだけを何度も言われていた焔は、よくわからないまま、でもなんとなく舞依のことを守らないといけないんだと思っていた。
 そもそも焔は舞依が生まれた日のことを知らない。

 なぜかそのことが思い出せず、気付けば一緒にいたという感じだった。
 普通の兄妹とは違う。
 舞依がしゃべらないから焔との会話もほとんどない。

 同じ家に他人と住んでいるような感覚。
 そんな状態だとしても一応家族だった。

 そして迎えた、舞依にとっての初めての夏休み。
 今までとは違い、普段学校にいる時間も家でともに過ごすことになる。

 あいかわらず神楽は家を留守にすることが多い。
 何をしているのかさっぱりだったが、ご飯は一応用意しに戻ってきていた。

「焔君、舞依ちゃんのこと、ちゃんと面倒見てあげてね。お兄ちゃんなんだから」

 それは何度も聞かされた言葉だった。
 なんでそんなに何回も言うのかと焔は思っていたが、言われたからにはちゃんとしようと思っていた。

 そんな状態なので、会話がほとんどないままでも焔は舞依の世話をしっかりとこなす。
 お世話をしているうちに、自分が兄なんだといまさらながらに実感がわいてきていた。

 舞依の方はいつからかお昼過ぎになるとどこかに出かけるようになる。
 焔は、友達と遊びに行ったんだろうと思って特に気にしていなかった。

 同じような日々が続き、七月が終わろうかという頃。
 いつも帰ってくる時間になっても舞依が帰ってこないという事態が起こる。
 初めは気にしていなかった焔も、だんだんと心配になってきていた。

 全然話しをしてくれないが、見た目はかわいい女の子だ。
 よからぬことを考える輩がいないとも限らない。
 心配になった焔は家を飛び出し、あてもなく舞依を探し始めた。

 難航するかと思われた舞依捜索も、意外とあっさり終わりをむかえる。
 家の近くにある公園で、舞依はボーっとブランコに乗っていた。

「舞依、何してんの?」
「あ、お兄ちゃん……」
「……」 

 ボーっとしていたからなのか、この時焔は初めて舞依に「お兄ちゃん」と呼ばれたのだった。

「遅いから迎えに来た。帰るぞ」
「うん」

 ブランコから降りる舞依に背をむけて、先に歩き出す焔。
 舞依はトテトテと走って焔の隣に並んだ。

「お兄ちゃんに初めて舞依って呼ばれたよ」
「え? そうだったか?」
「うん」

 そう、実は焔の方も舞依のことを名前で呼んだのはさっきが初めてだった。
 と言っても、焔はそんなことまったく気づいてはいなかったが。

「俺もお兄ちゃんって呼ばれるの初めてだったぞ」
「……そうだっけ?」

「ああ」
「これからはもっと呼んであげるね」

「なんでちょっと上から目線なの」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんって読んであげると喜ぶってお母さんが言ってた」

「何吹き込んでるんだあの人」

 家に着くまでの短い間だったが、それでも二人にとってはほぼ初めてと言えるまともな会話だった。
 この出来事で一気にふたりの距離が縮まる。

 ……かと思われたが、翌日にはすっかり元に戻っていた。
 あいかわらず焔と舞依の間にはほとんど会話はない。

 変わったことがあるとすれば、焔の方が舞依のことを気にするようになったことだろう。
 昨日の会話が少しうれしかった焔は、また舞依と話がしたいと思うようになった。

 ただ、いつものように無口な舞依を見ていると、焔はなんだか自分だけが浮かれているみたいで恥ずかしくなってしまう。
 しかし、舞依は見た目がかわいい女の子。

 しかも今まで妹というよりは突然家に現れた女の子という気持ちで接していたので、焔の心は揺さぶられていた。
 なんとか少しくらいは仲良くなれないかと考えてみるが、あまりビビッとくる案は浮かばなかった。

 なにせこの頃の焔も、お友達がたいしていなかったからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...