〈パンドラ〉-政府直下特殊情報局超高密度情報集積体対策室

とーかちゃん

文字の大きさ
2 / 11
1.遺物と異物

2

しおりを挟む
 エリクシア中心部に位置する、とある雑居ビル。周囲にも似たようなビルは幾つも建てられており、外見上これといった特徴は無い。
 
 眼帯をつけた黒装束の女がそのビルに入っていった。エントランス正面にあるエレベータに乗る。一階から六階までのボタンが並んでいた。彼女はいくつかの階のボタンを決まった順番で押して、最後に閉ボタンを長押しする。
 ボタンがチェッカーとなっており、彼女の魔力を検知した。エレベータは下方向へ動き出す。

 しばらく降下した後、目的の階へ到着した。階数表示は全てのランプが点っている。
 扉が開くと、そこは物置のような部屋だった。壁沿いには木や段ボールの箱が積み重ねられており、真ん中には簡易的な椅子と机、その上には着ぐるみの抜け殻が置いてある。
 
 女は部屋の奥のロッカーへ進み、扉を開ける。中には何も無い。女はその中へ入り、内側から扉を閉めた。
 三秒間待って扉を開けると、女は事務所のような部屋に転送されていた。雑然さで言えば先程の物置と大差は無い。壁沿いには段ボールの山があり、デスクの上にはバインダーや描きかけの魔法陣などが散らかっている。

「ノカくん、おはよう」
 男がそう言った。白髪は多いが姿勢や肌は若く、五十歳前後の風貌をしている。スーツ姿が様になっている。
「おはようございます、早いですね。オーリオさん」
 ノカと呼ばれた女がそう言った。
「今日はこの部署に新人が来るからね」
「そうなんですか。いびりがいのある後輩ですか?」
「うーん、どうだろう。魔防省の特殊部隊出身だから、位でいうと向こうのが上かなぁ」
「げっ、超エリート部隊じゃないですか」
「そうだよ、さぁ迎えに行こうか」
 そう言ってオーリオは、ノカが出てきたロッカーの隣のロッカーの中へ消えていった。
「・・・・・・えっ、私もですか?」

 ロッカーを出るとそこは別の事務室であった。窓は無く、ここも地下室であった。応接セットが備えてあり、先程までの部屋よりも小綺麗であった。
 入り口には男が直立している。新入りだろうか、少し年上かな、とノカは考えた。
「早いね、ムサシくん。私は室長のオーリオだ。ようこそ、まぁとりあえずそちらへ」
「ノカです」
 オーリオは事務室に備え付けられた、応接セットを手で指した。

 ムサシと呼ばれた男は一礼した後、無駄のない動きでソファに座った。
 髪は短く刈り込まれ、眼は鷹のように鋭い。スーツの上からでも筋肉がついていることは明らかであったが、決して無駄に膨張した体ではない。しなやかでパンチのある、理想的な戦闘体型だった。

 オーリオとノカが前に座ったことを確認して、彼は話し始めた。
「魔防省より来ました。アラタと申します。よろしくお願いします」
 アラタは頭を下げた。
「へー、〈ホワイト・マジック〉に所属してたんですか! 超特殊部隊じゃないですか! エリート中のエリートじゃないですか!」
 ノカはパソコンを膝の上に乗せ、目の前の男について検索をかけていた。
「なぜ分かる?」
「そりゃあ、私たちだって秘中の秘の部署ですから」
「でも、本当に有難いよ。そんな最前線の組織から人が来てくれるなんて」
「ええ、私もそう思っています」
 アラタが同意した。ノカの笑顔が張り付く。
「え? 言うじゃないですか」
 ノカの声はワントーン低くなっていた。

「私は魔防省で命を張ってきました。それが期間限定とは言え、どうしてこんな部署に」
 先程までの発言よりも少し抑揚がついている。アラタのより本心に近い言葉だった。
「こんな部署かどうかはこれから決めてくださいよ。私たちだって命張ってます」
 ノカが睨みつける。アラタもそれを迎え撃ち、しばらくの膠着があった。
「・・・・・・悪かった。少し言い過ぎました。ただ本心は変わりません。期間が終了して魔防省に帰る時、私は魔防省で鍛錬を積んだ場合よりも成長しなければいけません。秘中の秘の組織というなら、それに見合った任務を期待しています」
 アラタはオーリオに向き直った。
「いいね。それぐらいの野心が無いと人生つまらないからね。それじゃあ、部屋へ案内するよ。これを」
 オーリオはアラタの言葉に満足したように、カードを差し出した。
「転送用の魔法陣が組み込まれている。ロッカーの中で作動させれば部署室に着くから」
 オーリオは出てきたロッカーに入る。少し経って、ノカが開けるとオーリオは居なくなっていた。そしてノカが入る。最後にアラタが扉を開けた。やはり、ノカは居なくなっていた。アラタが入った。

 アラタが扉を開けると、雑然とした事務室に出た。ノカとオーリオは既に居た。
「ここが、新しい職場だよ。改めて、ようこそ、アラタくん。政府直下特殊情報局超高密度情報集積体対策室、通称、〈パンドラ〉へ」
 アラタは再び敬礼をする。
「アラタくんの席はそこね。昨日頑張って片付けたんだ」
「お気遣いありがとうございます」
 指示されたデスクに荷物を置く。周りが散らかっている分、すぐに侵食されそうだった。



「じゃあ、オリエンテーリングも兼ねまして、開封でもしましょうか。これはこないだ彼の国の工作員から押収した鞄です」
 ノカはジュラルミンケースを取り出した。
「ノカくん、オリエンテーション」
「え? あぁ、そうとも言いますね。細かいことは気にせずにいきましょう。結界は剥がしてあります」
 よし、とか、えい、とか言いながらノカはピッキングを始めた。5分ほど経って、ガチャ、と音が鳴った。
「開きましたね」
 ノカが蓋を開ける。オーリオとアラタはそれを後ろから覗き込んだ。

 アラタの目が少しだけ見開かれた。
 鞄の中にはスポンジが敷き詰められ、中央に円柱形のガラス容器が横たえられている。
 透明な黄色い液体で満たされていて、その中には、人の指と思わしき物体が揺蕩っていた。
「これは指?」
「そう、〈勇者〉の指っすね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...