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1.遺物と異物
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エリクシア中心部に位置する、とある雑居ビル。周囲にも似たようなビルは幾つも建てられており、外見上これといった特徴は無い。
眼帯をつけた黒装束の女がそのビルに入っていった。エントランス正面にあるエレベータに乗る。一階から六階までのボタンが並んでいた。彼女はいくつかの階のボタンを決まった順番で押して、最後に閉ボタンを長押しする。
ボタンがチェッカーとなっており、彼女の魔力を検知した。エレベータは下方向へ動き出す。
しばらく降下した後、目的の階へ到着した。階数表示は全てのランプが点っている。
扉が開くと、そこは物置のような部屋だった。壁沿いには木や段ボールの箱が積み重ねられており、真ん中には簡易的な椅子と机、その上には着ぐるみの抜け殻が置いてある。
女は部屋の奥のロッカーへ進み、扉を開ける。中には何も無い。女はその中へ入り、内側から扉を閉めた。
三秒間待って扉を開けると、女は事務所のような部屋に転送されていた。雑然さで言えば先程の物置と大差は無い。壁沿いには段ボールの山があり、デスクの上にはバインダーや描きかけの魔法陣などが散らかっている。
「ノカくん、おはよう」
男がそう言った。白髪は多いが姿勢や肌は若く、五十歳前後の風貌をしている。スーツ姿が様になっている。
「おはようございます、早いですね。オーリオさん」
ノカと呼ばれた女がそう言った。
「今日はこの部署に新人が来るからね」
「そうなんですか。いびりがいのある後輩ですか?」
「うーん、どうだろう。魔防省の特殊部隊出身だから、位でいうと向こうのが上かなぁ」
「げっ、超エリート部隊じゃないですか」
「そうだよ、さぁ迎えに行こうか」
そう言ってオーリオは、ノカが出てきたロッカーの隣のロッカーの中へ消えていった。
「・・・・・・えっ、私もですか?」
ロッカーを出るとそこは別の事務室であった。窓は無く、ここも地下室であった。応接セットが備えてあり、先程までの部屋よりも小綺麗であった。
入り口には男が直立している。新入りだろうか、少し年上かな、とノカは考えた。
「早いね、ムサシくん。私は室長のオーリオだ。ようこそ、まぁとりあえずそちらへ」
「ノカです」
オーリオは事務室に備え付けられた、応接セットを手で指した。
ムサシと呼ばれた男は一礼した後、無駄のない動きでソファに座った。
髪は短く刈り込まれ、眼は鷹のように鋭い。スーツの上からでも筋肉がついていることは明らかであったが、決して無駄に膨張した体ではない。しなやかでパンチのある、理想的な戦闘体型だった。
オーリオとノカが前に座ったことを確認して、彼は話し始めた。
「魔防省より来ました。アラタと申します。よろしくお願いします」
アラタは頭を下げた。
「へー、〈ホワイト・マジック〉に所属してたんですか! 超特殊部隊じゃないですか! エリート中のエリートじゃないですか!」
ノカはパソコンを膝の上に乗せ、目の前の男について検索をかけていた。
「なぜ分かる?」
「そりゃあ、私たちだって秘中の秘の部署ですから」
「でも、本当に有難いよ。そんな最前線の組織から人が来てくれるなんて」
「ええ、私もそう思っています」
アラタが同意した。ノカの笑顔が張り付く。
「え? 言うじゃないですか」
ノカの声はワントーン低くなっていた。
「私は魔防省で命を張ってきました。それが期間限定とは言え、どうしてこんな部署に」
先程までの発言よりも少し抑揚がついている。アラタのより本心に近い言葉だった。
「こんな部署かどうかはこれから決めてくださいよ。私たちだって命張ってます」
ノカが睨みつける。アラタもそれを迎え撃ち、しばらくの膠着があった。
「・・・・・・悪かった。少し言い過ぎました。ただ本心は変わりません。期間が終了して魔防省に帰る時、私は魔防省で鍛錬を積んだ場合よりも成長しなければいけません。秘中の秘の組織というなら、それに見合った任務を期待しています」
アラタはオーリオに向き直った。
「いいね。それぐらいの野心が無いと人生つまらないからね。それじゃあ、部屋へ案内するよ。これを」
オーリオはアラタの言葉に満足したように、カードを差し出した。
「転送用の魔法陣が組み込まれている。ロッカーの中で作動させれば部署室に着くから」
オーリオは出てきたロッカーに入る。少し経って、ノカが開けるとオーリオは居なくなっていた。そしてノカが入る。最後にアラタが扉を開けた。やはり、ノカは居なくなっていた。アラタが入った。
アラタが扉を開けると、雑然とした事務室に出た。ノカとオーリオは既に居た。
「ここが、新しい職場だよ。改めて、ようこそ、アラタくん。政府直下特殊情報局超高密度情報集積体対策室、通称、〈パンドラ〉へ」
アラタは再び敬礼をする。
「アラタくんの席はそこね。昨日頑張って片付けたんだ」
「お気遣いありがとうございます」
指示されたデスクに荷物を置く。周りが散らかっている分、すぐに侵食されそうだった。
◆
「じゃあ、オリエンテーリングも兼ねまして、開封でもしましょうか。これはこないだ彼の国の工作員から押収した鞄です」
ノカはジュラルミンケースを取り出した。
「ノカくん、オリエンテーション」
「え? あぁ、そうとも言いますね。細かいことは気にせずにいきましょう。結界は剥がしてあります」
よし、とか、えい、とか言いながらノカはピッキングを始めた。5分ほど経って、ガチャ、と音が鳴った。
「開きましたね」
ノカが蓋を開ける。オーリオとアラタはそれを後ろから覗き込んだ。
アラタの目が少しだけ見開かれた。
鞄の中にはスポンジが敷き詰められ、中央に円柱形のガラス容器が横たえられている。
透明な黄色い液体で満たされていて、その中には、人の指と思わしき物体が揺蕩っていた。
「これは指?」
「そう、〈勇者〉の指っすね」
眼帯をつけた黒装束の女がそのビルに入っていった。エントランス正面にあるエレベータに乗る。一階から六階までのボタンが並んでいた。彼女はいくつかの階のボタンを決まった順番で押して、最後に閉ボタンを長押しする。
ボタンがチェッカーとなっており、彼女の魔力を検知した。エレベータは下方向へ動き出す。
しばらく降下した後、目的の階へ到着した。階数表示は全てのランプが点っている。
扉が開くと、そこは物置のような部屋だった。壁沿いには木や段ボールの箱が積み重ねられており、真ん中には簡易的な椅子と机、その上には着ぐるみの抜け殻が置いてある。
女は部屋の奥のロッカーへ進み、扉を開ける。中には何も無い。女はその中へ入り、内側から扉を閉めた。
三秒間待って扉を開けると、女は事務所のような部屋に転送されていた。雑然さで言えば先程の物置と大差は無い。壁沿いには段ボールの山があり、デスクの上にはバインダーや描きかけの魔法陣などが散らかっている。
「ノカくん、おはよう」
男がそう言った。白髪は多いが姿勢や肌は若く、五十歳前後の風貌をしている。スーツ姿が様になっている。
「おはようございます、早いですね。オーリオさん」
ノカと呼ばれた女がそう言った。
「今日はこの部署に新人が来るからね」
「そうなんですか。いびりがいのある後輩ですか?」
「うーん、どうだろう。魔防省の特殊部隊出身だから、位でいうと向こうのが上かなぁ」
「げっ、超エリート部隊じゃないですか」
「そうだよ、さぁ迎えに行こうか」
そう言ってオーリオは、ノカが出てきたロッカーの隣のロッカーの中へ消えていった。
「・・・・・・えっ、私もですか?」
ロッカーを出るとそこは別の事務室であった。窓は無く、ここも地下室であった。応接セットが備えてあり、先程までの部屋よりも小綺麗であった。
入り口には男が直立している。新入りだろうか、少し年上かな、とノカは考えた。
「早いね、ムサシくん。私は室長のオーリオだ。ようこそ、まぁとりあえずそちらへ」
「ノカです」
オーリオは事務室に備え付けられた、応接セットを手で指した。
ムサシと呼ばれた男は一礼した後、無駄のない動きでソファに座った。
髪は短く刈り込まれ、眼は鷹のように鋭い。スーツの上からでも筋肉がついていることは明らかであったが、決して無駄に膨張した体ではない。しなやかでパンチのある、理想的な戦闘体型だった。
オーリオとノカが前に座ったことを確認して、彼は話し始めた。
「魔防省より来ました。アラタと申します。よろしくお願いします」
アラタは頭を下げた。
「へー、〈ホワイト・マジック〉に所属してたんですか! 超特殊部隊じゃないですか! エリート中のエリートじゃないですか!」
ノカはパソコンを膝の上に乗せ、目の前の男について検索をかけていた。
「なぜ分かる?」
「そりゃあ、私たちだって秘中の秘の部署ですから」
「でも、本当に有難いよ。そんな最前線の組織から人が来てくれるなんて」
「ええ、私もそう思っています」
アラタが同意した。ノカの笑顔が張り付く。
「え? 言うじゃないですか」
ノカの声はワントーン低くなっていた。
「私は魔防省で命を張ってきました。それが期間限定とは言え、どうしてこんな部署に」
先程までの発言よりも少し抑揚がついている。アラタのより本心に近い言葉だった。
「こんな部署かどうかはこれから決めてくださいよ。私たちだって命張ってます」
ノカが睨みつける。アラタもそれを迎え撃ち、しばらくの膠着があった。
「・・・・・・悪かった。少し言い過ぎました。ただ本心は変わりません。期間が終了して魔防省に帰る時、私は魔防省で鍛錬を積んだ場合よりも成長しなければいけません。秘中の秘の組織というなら、それに見合った任務を期待しています」
アラタはオーリオに向き直った。
「いいね。それぐらいの野心が無いと人生つまらないからね。それじゃあ、部屋へ案内するよ。これを」
オーリオはアラタの言葉に満足したように、カードを差し出した。
「転送用の魔法陣が組み込まれている。ロッカーの中で作動させれば部署室に着くから」
オーリオは出てきたロッカーに入る。少し経って、ノカが開けるとオーリオは居なくなっていた。そしてノカが入る。最後にアラタが扉を開けた。やはり、ノカは居なくなっていた。アラタが入った。
アラタが扉を開けると、雑然とした事務室に出た。ノカとオーリオは既に居た。
「ここが、新しい職場だよ。改めて、ようこそ、アラタくん。政府直下特殊情報局超高密度情報集積体対策室、通称、〈パンドラ〉へ」
アラタは再び敬礼をする。
「アラタくんの席はそこね。昨日頑張って片付けたんだ」
「お気遣いありがとうございます」
指示されたデスクに荷物を置く。周りが散らかっている分、すぐに侵食されそうだった。
◆
「じゃあ、オリエンテーリングも兼ねまして、開封でもしましょうか。これはこないだ彼の国の工作員から押収した鞄です」
ノカはジュラルミンケースを取り出した。
「ノカくん、オリエンテーション」
「え? あぁ、そうとも言いますね。細かいことは気にせずにいきましょう。結界は剥がしてあります」
よし、とか、えい、とか言いながらノカはピッキングを始めた。5分ほど経って、ガチャ、と音が鳴った。
「開きましたね」
ノカが蓋を開ける。オーリオとアラタはそれを後ろから覗き込んだ。
アラタの目が少しだけ見開かれた。
鞄の中にはスポンジが敷き詰められ、中央に円柱形のガラス容器が横たえられている。
透明な黄色い液体で満たされていて、その中には、人の指と思わしき物体が揺蕩っていた。
「これは指?」
「そう、〈勇者〉の指っすね」
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