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1.遺物と異物
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「〈勇者〉の指?」
「ええ、エリクシアの礎を築いた、あの、伝説の〈勇者〉です。この間、闇ルートから出てきた物で、他国に持ち出されそうになったので確保しました」
ノカがケースの方から視線を外さずに言った。アラタも当然〈勇者〉についての基本的なことは知っていた。しかし、千年以上前の肉片が存在するなんて、思ってもいなかった。
「そんなものが」
「ええ、世界各地にバラバラになって保管されたり、されてなかったりします。それを管理するのが私たちの仕事です」
「これが〈勇者〉の指」
ノカが円柱形の容器を持ち上げ、光に透かす。小指のようだ。
「・・・・・・いや、これは本物じゃないっすね。結界の陣が資料と異なります」
「え?」
「これは、よくできた偽物です。まんまとデコイを掴まされました」
ノカはフラットな口調で言った。さほど悔しくないのか、それとも偽物と予測していたのか。
「よく分からないが、罠ってことか?」
「まぁ、そんな感じです」
鞄に敷かれたスポンジを剥がす。丁度ジュラルミンケースの内側にあたる部分に魔法陣が見えた。
「決まった波形の微量な魔力を飛ばすだけの単純な仕掛けですね」
「見ただけでわかるのか?」
「そこまで複雑じゃないですし」
「そんなものか?」
アラタは魔法陣を改めて眺めた。陣に対する知識は特殊部隊での経験から、一般以上に持っているはずだったが、とても瞬時に読み取れるような模様では無かった。
「この部屋は魔力を遮断するので、今のところ心配は無いです」
「わざと奪わせて、敵のアジトごと潰すっていう感じか?」
「うーん、奪った状況からして、複数の運び屋に何も伝えずに運ばせた感じですかね。どちらにしても何らかの組織が噛んでいるのは確かです」
「どうする? ノカくん」
「逆探知して返り討ちにしましょう。国境の警備は厳しくなっているので、指もまだ国内のはずです」
ノカは骨を鳴らす。
「それじゃあ、二人はコンビということになるね」
「え? 室長、私はまだ何も聞いてませんが」
「行きましょう。アラタさん、私もオーリオさんより強い人が一緒に居てくれると嬉しいです」
「わかったよ。どこに向かう?」
「それはこれからです」
「とりあえず、陣を改造して、飛んでいく魔力に目印をつけましょう」
そう言ってノカはペンを取り出した。簡易的な魔法陣を書く用のものである。数回空中でストロークを試した後、フリーハンドで魔法陣に直接加筆を始めた。
「お、おい、大丈夫なのか?」
一般に魔法陣は緻密に計算して描かれる精密機器である。無計画に手書きでできる代物ではない。
「大丈夫ですよぅ。ここをこうして、はーん、なるほどね」
その後、五分ほど黙々とノカは作業を続けた。そしてゆっくりとペンを閉まった。
「次はレーダーですね」
立ち上がったノカはバサバサとデスクの上に散らかった紙に書かれた魔法陣を漁り始めた。
アラタも手伝おうと紙を見るが、複雑な模様ばかりで、よくわからない。オーリオの方を見ると、いつものことなのか、手伝おうともしていなかった。
「普通こういうのは、何の魔法を組み込んだのか、ラベリングとかしないのか?」
アラタが半分文句の意志を込めて言った。
「そんなの無くても模様を読めば分かるじゃないですか」
ノカは何でも無いように返事をする。
普通は読んでも分からないよ、と心の中で突っ込む。アラタは加勢を求めて、オーリオを見た。
「ノカくんはそんな子だから。ほら、彼女は飛び級で大学出てるし」
「・・・・・・」
何とも放任主義な事だ。
「あぁ、これだこれだ。よし、改めて行きましょう。アラタさん」
「おう・・・・・・」
「ん? もしかして、呼び名に困ってますか?」
ノカはムサシの顔を覗き込んだ。アラタは悟られまいと顔を微妙に逸らす。
「だったら、先輩って呼んでください!」
ノカは目を輝かせる。
「先輩だって?」
「ええ、この部署では私の方が先輩です」
胸に手を添える。アラタの持つ前情報では、この部署はノカとオーリオの二人だったはず、余程、そのような関係に飢えているのだろう、とアラタは勝手に解釈した。
「・・・・・・わかったよ、先輩。行くぞ」
「ええ、行きましょう」
二人はロッカーへ向かった。ロッカーの扉に同じタイミングで手が触れる。
「ああ、すまん」
アラタは隣の扉を開ける。
「そっちのロッカーだと繋がってる場所が違いますよ」
ひょっこり顔を出したノカがそう言い残して、バタンと扉を閉じた。
「ええ、エリクシアの礎を築いた、あの、伝説の〈勇者〉です。この間、闇ルートから出てきた物で、他国に持ち出されそうになったので確保しました」
ノカがケースの方から視線を外さずに言った。アラタも当然〈勇者〉についての基本的なことは知っていた。しかし、千年以上前の肉片が存在するなんて、思ってもいなかった。
「そんなものが」
「ええ、世界各地にバラバラになって保管されたり、されてなかったりします。それを管理するのが私たちの仕事です」
「これが〈勇者〉の指」
ノカが円柱形の容器を持ち上げ、光に透かす。小指のようだ。
「・・・・・・いや、これは本物じゃないっすね。結界の陣が資料と異なります」
「え?」
「これは、よくできた偽物です。まんまとデコイを掴まされました」
ノカはフラットな口調で言った。さほど悔しくないのか、それとも偽物と予測していたのか。
「よく分からないが、罠ってことか?」
「まぁ、そんな感じです」
鞄に敷かれたスポンジを剥がす。丁度ジュラルミンケースの内側にあたる部分に魔法陣が見えた。
「決まった波形の微量な魔力を飛ばすだけの単純な仕掛けですね」
「見ただけでわかるのか?」
「そこまで複雑じゃないですし」
「そんなものか?」
アラタは魔法陣を改めて眺めた。陣に対する知識は特殊部隊での経験から、一般以上に持っているはずだったが、とても瞬時に読み取れるような模様では無かった。
「この部屋は魔力を遮断するので、今のところ心配は無いです」
「わざと奪わせて、敵のアジトごと潰すっていう感じか?」
「うーん、奪った状況からして、複数の運び屋に何も伝えずに運ばせた感じですかね。どちらにしても何らかの組織が噛んでいるのは確かです」
「どうする? ノカくん」
「逆探知して返り討ちにしましょう。国境の警備は厳しくなっているので、指もまだ国内のはずです」
ノカは骨を鳴らす。
「それじゃあ、二人はコンビということになるね」
「え? 室長、私はまだ何も聞いてませんが」
「行きましょう。アラタさん、私もオーリオさんより強い人が一緒に居てくれると嬉しいです」
「わかったよ。どこに向かう?」
「それはこれからです」
「とりあえず、陣を改造して、飛んでいく魔力に目印をつけましょう」
そう言ってノカはペンを取り出した。簡易的な魔法陣を書く用のものである。数回空中でストロークを試した後、フリーハンドで魔法陣に直接加筆を始めた。
「お、おい、大丈夫なのか?」
一般に魔法陣は緻密に計算して描かれる精密機器である。無計画に手書きでできる代物ではない。
「大丈夫ですよぅ。ここをこうして、はーん、なるほどね」
その後、五分ほど黙々とノカは作業を続けた。そしてゆっくりとペンを閉まった。
「次はレーダーですね」
立ち上がったノカはバサバサとデスクの上に散らかった紙に書かれた魔法陣を漁り始めた。
アラタも手伝おうと紙を見るが、複雑な模様ばかりで、よくわからない。オーリオの方を見ると、いつものことなのか、手伝おうともしていなかった。
「普通こういうのは、何の魔法を組み込んだのか、ラベリングとかしないのか?」
アラタが半分文句の意志を込めて言った。
「そんなの無くても模様を読めば分かるじゃないですか」
ノカは何でも無いように返事をする。
普通は読んでも分からないよ、と心の中で突っ込む。アラタは加勢を求めて、オーリオを見た。
「ノカくんはそんな子だから。ほら、彼女は飛び級で大学出てるし」
「・・・・・・」
何とも放任主義な事だ。
「あぁ、これだこれだ。よし、改めて行きましょう。アラタさん」
「おう・・・・・・」
「ん? もしかして、呼び名に困ってますか?」
ノカはムサシの顔を覗き込んだ。アラタは悟られまいと顔を微妙に逸らす。
「だったら、先輩って呼んでください!」
ノカは目を輝かせる。
「先輩だって?」
「ええ、この部署では私の方が先輩です」
胸に手を添える。アラタの持つ前情報では、この部署はノカとオーリオの二人だったはず、余程、そのような関係に飢えているのだろう、とアラタは勝手に解釈した。
「・・・・・・わかったよ、先輩。行くぞ」
「ええ、行きましょう」
二人はロッカーへ向かった。ロッカーの扉に同じタイミングで手が触れる。
「ああ、すまん」
アラタは隣の扉を開ける。
「そっちのロッカーだと繋がってる場所が違いますよ」
ひょっこり顔を出したノカがそう言い残して、バタンと扉を閉じた。
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