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1.遺物と異物
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ノカとアラタはとあるビルの地下室にいた。ここも表向きは一般の雑居ビルだが、実際は国の所有物だった。
セッティングを始める。魔法陣に魔力を流すと、円状のレーダが浮かび上がった。投影された模様をよく見ると、今いるビルを中心とした地図だと分かった。
「当然ですが、開けるとこちらの場所もバレてしまいます。いざという時はよろしくお願いします」
「ところで」
ムサシが口を開いた。
「俺たちが工作員を追うのは分かる。だが、そもそも工作員は何で〈勇者〉の肉片なんかを欲しがるんだ?」
「平たく言えば国力になるからです」
「国力? 軍事目的か?」
「そうです。今はまだ実用化されていませんが、あと数年もすれば、おそらく〈勇者〉の持つ力を運用できるようになります。筆頭は海の向こうの東の超大国ですね」
「・・・・・・シルヴァ公国か」
しー、ノカは人差し指を口の前で立てる。
近年の軍拡競争は軍部にいたアラタもよく知っていた。しかし、やはりそれと指切れの争奪戦が結びつくとは考えられない。
「ちなみに〈勇者〉の肉片を研究する部署はエリクシアにもありますよ。トップ・オブ・トップのシークレットですが」
「しかし〈勇者〉なんて御伽噺だよな、というか未だにいまいち信じられない」
「なら、これから見る全てのことを踏まえて判断してください。アラタさんだって、中を見てはいけないと厳命された荷物の一つや二つあるでしょう?」
「・・・・・・」
アラタはノカの吸い込まれるような青い目を、じっと見るしかなかった。心あたりがないと言えば、嘘になる。
レーダに反応が映る、北西の方角へ伸びていった。二人は黙ってその行方を見守った。しばらくしてある点で止まった。
屋上からその地点を確認する。よくは見えなかったが、エリアは確認できた。
「繁華街の辺りか?」
「そうですね。どうせ中継地点だと思いますが」
「その先は追えないのか?」
「今やってます・・・・・・どうすか?」
レーダに映った線が、中継地点で折れ曲がった。そして再び直線が伸び、二人の位置から西の方角で止まった。
「ここは・・・・・・シルヴァ公国の大使館?」
「まぁ勝手に送られてきたと言えば、シラは切れますからね」
「・・・・・・本当にシルヴァ公国が」
アラタは単純に驚いていた。特殊部隊として国家の最前線で戦っていたという自負が揺らぐ。
「アラタさんの過去を否定するつもりはないです。ただ、これから情報局で働く以上、拒絶はできません」
「しかし、やはり、特殊部隊は何も知らずにそんなモノに関わっていたのか?」
「知る、ということはリスクです。貴方はこれから、知っているサイドの人間になります。どちらが偉いという話ではないです」
「それはお前の本心か?」
「少なくともベターだとは思っています」
「・・・・・・わかった。改めてよろしく頼む。先輩」
「ええ、こちらこそ」
◆
「反応のある地点へ乗り込むか?」
「いえ、餌は撒きました。放っておいても向こうからなんらかのアクションはあるかと」
地下のリノリウム張りの通路を抜け、駐車場にでた。コンクリートの柱が等間隔で立ち、見通しは悪い。
アラタは全ての状況に対応できるように、腰を据え気持ちだけゆっくりと歩いた。
車にたどり着いた。自然な仕草でぐるりと周り、床についた人の痕跡を探した。砂の擦れなどは来た時と変わっていない。
助手席に座ったノカに遅れて、アラタも運転席についた。アクセルを踏み込み、ゆっくりと動き出した。
地上へ上がり、都心部を走る。二車線道路で車の通りは多い。しばらく鞄を開け魔力を撒きながら走ることにした。
「三台目」
ノカがぼそっと言った。アラタもその車は捕捉していた。駐車場からつけられている。試しに数回角を曲がってみたが、距離をとり、入れ替わりながらもついてきた。
「こんなに早く釣れるとは。相当たくさんのリソースが注ぎ込まれてますね」
「行くあてはあるのか?」
「いつもは私が囮になって、オーリオさんがいい感じに捕まえてくれます」
「ノープランか」
「すみません」
ノカは頬の辺りで切り揃えた髪をいじる。こうしてみると学生と言っても通じるようなあどけなさがあった。
「全く・・・・・・魔防省の施設で車を乗り換えて後ろから追跡するぞ」
「流石です」
こんなのが国のインテリジェンス機関の中枢か、とアラタは内心ため息をついた。
赤信号で車が止まった時に、秘匿回線で魔坊省に在籍している後輩へ連絡を行った。
◆
車は魔防省管轄のビルの地下へ入っていく。立ち入り禁止であるため、追手は入ってこれない。
駐車場で魔防省の職員と入れ替わり、これまで乗ってきた車を先に行かせた。ノカとアラタは代わりの車で待機している。
「先輩。ターゲット食いついてきました」
「了解」
しばらくしてムサシに連絡が入った。それを聞いて、二人が乗る車も発進した。
地上に上がり、車を確認する。先程追いかけてきた車が前方に見える。
「囮の車はどこに向かいますか?」
ノカが聞いた。
「斜向かいに車を停められる場所がある喫茶店」
「なるほど」
囮車両、追手の車、追跡車両の3台は絶妙な距離と位置関係を保ちながら走る。幹線道路から外れ、車線と車の通りは減った。アラタはターゲットの車とさらに距離を取る。
アラタのイヤホンに着信があった。
「喫茶店に現着です。奥の方に座っておきます」
「了解」
ターゲットより手前の角をいくつか曲がり、路地裏に車を停める。二人は車を降りた。
「ここからは歩いていく。うまく釣れていれば、駐車場で監視をしているはずだ」
「素晴らしい手際ですね」
「褒めても何も出ないぞ。それに、まだ終わってない」
「ええ、それもそうでした」
セッティングを始める。魔法陣に魔力を流すと、円状のレーダが浮かび上がった。投影された模様をよく見ると、今いるビルを中心とした地図だと分かった。
「当然ですが、開けるとこちらの場所もバレてしまいます。いざという時はよろしくお願いします」
「ところで」
ムサシが口を開いた。
「俺たちが工作員を追うのは分かる。だが、そもそも工作員は何で〈勇者〉の肉片なんかを欲しがるんだ?」
「平たく言えば国力になるからです」
「国力? 軍事目的か?」
「そうです。今はまだ実用化されていませんが、あと数年もすれば、おそらく〈勇者〉の持つ力を運用できるようになります。筆頭は海の向こうの東の超大国ですね」
「・・・・・・シルヴァ公国か」
しー、ノカは人差し指を口の前で立てる。
近年の軍拡競争は軍部にいたアラタもよく知っていた。しかし、やはりそれと指切れの争奪戦が結びつくとは考えられない。
「ちなみに〈勇者〉の肉片を研究する部署はエリクシアにもありますよ。トップ・オブ・トップのシークレットですが」
「しかし〈勇者〉なんて御伽噺だよな、というか未だにいまいち信じられない」
「なら、これから見る全てのことを踏まえて判断してください。アラタさんだって、中を見てはいけないと厳命された荷物の一つや二つあるでしょう?」
「・・・・・・」
アラタはノカの吸い込まれるような青い目を、じっと見るしかなかった。心あたりがないと言えば、嘘になる。
レーダに反応が映る、北西の方角へ伸びていった。二人は黙ってその行方を見守った。しばらくしてある点で止まった。
屋上からその地点を確認する。よくは見えなかったが、エリアは確認できた。
「繁華街の辺りか?」
「そうですね。どうせ中継地点だと思いますが」
「その先は追えないのか?」
「今やってます・・・・・・どうすか?」
レーダに映った線が、中継地点で折れ曲がった。そして再び直線が伸び、二人の位置から西の方角で止まった。
「ここは・・・・・・シルヴァ公国の大使館?」
「まぁ勝手に送られてきたと言えば、シラは切れますからね」
「・・・・・・本当にシルヴァ公国が」
アラタは単純に驚いていた。特殊部隊として国家の最前線で戦っていたという自負が揺らぐ。
「アラタさんの過去を否定するつもりはないです。ただ、これから情報局で働く以上、拒絶はできません」
「しかし、やはり、特殊部隊は何も知らずにそんなモノに関わっていたのか?」
「知る、ということはリスクです。貴方はこれから、知っているサイドの人間になります。どちらが偉いという話ではないです」
「それはお前の本心か?」
「少なくともベターだとは思っています」
「・・・・・・わかった。改めてよろしく頼む。先輩」
「ええ、こちらこそ」
◆
「反応のある地点へ乗り込むか?」
「いえ、餌は撒きました。放っておいても向こうからなんらかのアクションはあるかと」
地下のリノリウム張りの通路を抜け、駐車場にでた。コンクリートの柱が等間隔で立ち、見通しは悪い。
アラタは全ての状況に対応できるように、腰を据え気持ちだけゆっくりと歩いた。
車にたどり着いた。自然な仕草でぐるりと周り、床についた人の痕跡を探した。砂の擦れなどは来た時と変わっていない。
助手席に座ったノカに遅れて、アラタも運転席についた。アクセルを踏み込み、ゆっくりと動き出した。
地上へ上がり、都心部を走る。二車線道路で車の通りは多い。しばらく鞄を開け魔力を撒きながら走ることにした。
「三台目」
ノカがぼそっと言った。アラタもその車は捕捉していた。駐車場からつけられている。試しに数回角を曲がってみたが、距離をとり、入れ替わりながらもついてきた。
「こんなに早く釣れるとは。相当たくさんのリソースが注ぎ込まれてますね」
「行くあてはあるのか?」
「いつもは私が囮になって、オーリオさんがいい感じに捕まえてくれます」
「ノープランか」
「すみません」
ノカは頬の辺りで切り揃えた髪をいじる。こうしてみると学生と言っても通じるようなあどけなさがあった。
「全く・・・・・・魔防省の施設で車を乗り換えて後ろから追跡するぞ」
「流石です」
こんなのが国のインテリジェンス機関の中枢か、とアラタは内心ため息をついた。
赤信号で車が止まった時に、秘匿回線で魔坊省に在籍している後輩へ連絡を行った。
◆
車は魔防省管轄のビルの地下へ入っていく。立ち入り禁止であるため、追手は入ってこれない。
駐車場で魔防省の職員と入れ替わり、これまで乗ってきた車を先に行かせた。ノカとアラタは代わりの車で待機している。
「先輩。ターゲット食いついてきました」
「了解」
しばらくしてムサシに連絡が入った。それを聞いて、二人が乗る車も発進した。
地上に上がり、車を確認する。先程追いかけてきた車が前方に見える。
「囮の車はどこに向かいますか?」
ノカが聞いた。
「斜向かいに車を停められる場所がある喫茶店」
「なるほど」
囮車両、追手の車、追跡車両の3台は絶妙な距離と位置関係を保ちながら走る。幹線道路から外れ、車線と車の通りは減った。アラタはターゲットの車とさらに距離を取る。
アラタのイヤホンに着信があった。
「喫茶店に現着です。奥の方に座っておきます」
「了解」
ターゲットより手前の角をいくつか曲がり、路地裏に車を停める。二人は車を降りた。
「ここからは歩いていく。うまく釣れていれば、駐車場で監視をしているはずだ」
「素晴らしい手際ですね」
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