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第52章

ソウハル悲願の夢叶うか!

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月日は流れ、美晴は小学6年生、美妃は小学3年生になっていた。

ソウハルはこの世に復活して38年、これまで中々、将棋の大会に出場しても結果を残せなかったが、始めてアマチュア主催の全国将棋大会で決勝戦まで進出した。決勝戦の相手は奨励会三段リーグで次点を獲得(現在、奨励会において三段リーグで次点を2回獲得すればフリークラスのプロ棋士になれる)したこともあり、奨励会退会後、あえて女流棋士の道を選ばなかった西見朋奈さんが対戦相手だった。

西見朋奈さんの得意戦法は振り飛車で三間飛車、四間飛車、中飛車、相振り飛車などを指し、今大会においても次々にアマチュアタイトルホルダーを撃破してきた。今大会、圧倒的な強さで勝ち上がってきた藤羽聡治対西見朋奈の対局はどちらが勝つのかアマチュア強豪達の間でも話題になっていた。

Aさん「力将棋には定評のある藤羽と華麗な捌きが得意の西見さんの対局は目が離せないよな」

Bさん「西見さんはプロになる目前までいったんだし、彼女の終盤力の強さが一歩リードしてるんじゃないかな」

Cさん「いゃ、今大会の藤羽はアマ名人を準決勝で圧勝しているんだし、どっちが勝ってもおかしくないんじゃないかな」

若干、優勝は西見朋奈を予想しているギャラリーの方が多かった。

藤羽聡治と西見朋奈が対局室に入ると、館内は異様な空気に包まれていた。「振り駒の結果先手が西見さんに決まりました。持ち時間はそれぞれ60分。使い切ると1手60秒未満の秒読みになります。それではよろしくお願いいたします」。

ソウハルと西見さんが一礼をして挨拶をすると対局が始まった。西見さんは初手7六歩と指した。将棋の初手は30通りありますが、通常は7六歩もしくは2六歩と指すことがほとんどです。対するソウハルはなんと4二玉と指した。通常、後手は3四歩ないしは8四歩と指すことが多く、ソウハルの4二玉には観戦していたギャラリーも「えっ」って表情をしていた。

通常、対戦相手が居飛車党ならば後手番で4二玉と指すのは論外であるが、あえて振り飛車党にはこうした挑発的な手は作戦として有効な場合もある。仮にここで4二玉を咎めにいくのであれば2六歩と飛車先を突くのも有力であるが、西見さんはソウハルの挑発にはのらずに7八飛車と指した。

以下、西見さんの三間飛車に対してソウハルは変則的な右四間飛車を採用し、六筋を焦点に戦いが始まった。西見さんの美濃囲いに対しソウハルは陣形の低いエルモ囲いだった。ソウハルは中盤7八銀と打って有利になったが、西見さんの4三歩と急所の叩きが入って大熱戦となった。

最終盤に入り、両者秒読みとなった。双方が詰めろと詰めろ逃れの叩きあいとなり、ソウハルの玉に11手詰が生じていたが西見さんが見落としてしまったため、ソウハルが最後の最後で西見玉を仕留めて初優勝を飾った。

将棋は最後にミスをした方が負ける厳しいゲームですが、それが魅力の一つでもあります。

西見さんが「負けました」と一礼をすると双方が「ありがとうございました」と深く一礼をして感想戦に入った。感想戦を行うことで対局においてどこがポイントだったのかを、両対局者や解説者等も含めて感想を述べ合うことを感想戦といいます。

感想戦は敗者側が「あの時こう指すべきでしたね」と反省点を述べながら口火を切るパターンと勝者側が「あの時こう指されていたら負けていました」と相手側を気遣い始める場合や解説者が「初手からお願いします」などと指示を出すケースもあります。

ソウハルは45歳で念願のアマチュアのタイトルを獲得して、はじめてプロ棋戦の出場資格を得たので、その報告を聞いたミキは大喜びをし、ソウハルが家に戻ると家族揃って祝勝会をした。ソウハルは「よし、次はプロ棋士に挑戦だ」とますます将棋に専念するようになった(続)








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