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第四章 交錯
策略 大輝side
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ユグリルにニッチスが城へ来たと聞いてラウリアの部屋から出た後、用意してもらった城の薬部屋へと向かった。城の1階で騎士たちの寄宿舎へとつながる廊下の1室だ。隣は医務室で怪我人にもすぐに対応できるように配慮されているようだ。
薬部屋に入って間も無く、トントンとする音が聞こえ、返事をすると騎士団長のユグリルが入ってきた。
『ユグリル、どうしたんだ?ラウリアはどうした?』
『ラウリア様は対談準備をされています。その……良太様について……』
ユグリルが珍しく言いづらそうに口を開いた。話を聞くと、良太は結界作業を大人しくラウリアと現状しているものの、何か腹に抱えているようなところがあり、心配だということだ。
良太に魔力があり、救世主であることはルウファ新聞で周知されてしまっている。そして、今日のニッチスとの対談で婚約者ではないことが正式に発表される。
そうなると、ユグリルは他国が良太を利用しようと接触してくる可能性があると懸念しているのだ。おそらく自分の条件に合えば良太は寝返るだろう。
ラウリアはあの調子で良太に好意を寄せているものだから頼りにならならず、ユグリルがその心配を抱えていることに同情を覚える。そう言えば一度、婚約者ではないと声明を出したもののもみ消すことができなかったと聞いたが、ユグリルが裏であえて消さなかったのかもしれない。
ユグリルとしては、良太がこの国を裏切らずに魔物討伐に協力してくれれば良いという考えのようだ。
俺も馬車の中でラウリアに提案した内容だけでは良太を優馬から引き離すのには難しいだろうと考えていた。
もう1歩踏み込んだ計画があったが、俺からの助言では実現は難しそうでタイミングを考えていたのだ。
良太をよく思っていないユグリルならラウリアを誘導することができるかもしれないと考え、その計画をユグリルに話すことにした。
『契約魔法石を使用しよう』
『……契約魔法石ですか?』
契約魔法石とは外交交渉時、国同士で力関係に大幅な差がある時に利用されるものだ。
無理難題を一方的に押し付けられないように、弱小国が不利益にならないように契約するもので公の場で宣言することで効力が発揮される。契約違反をすると契約違反した側が相手に重要なものを献上する代償がある。
国同士でしか契約できないので、ユグリルも疑問に思ったのだろう。
『あぁ、良太は今はグルファン王国に住んでいるが、元々は違う世界の人間だ。良太とラウリアで契約魔法石を使用することはできると思う』
『なるほど……しかも、良太様の魔力は……ラウリア様より上回っていますし……』
自分の主の魔力が救世主より劣っていると言いにくいのだろう、ユグリルは口を濁して言った。
魔物討伐において結界作業と他国交渉に協力し、夜20時に魔物討伐会議に参加することを中心に、夜は外交交渉のため会食の場としてダイニングルームで食事し、緊急時すぐに連絡が取れるようにラウリアの隣の部屋で過ごすという条件を魔法石に入れてもらうことにした。
優馬を図書館に行かせるというような外交交渉に関係のないことは入れることはできないが、外交交渉に関係するという内容にして食事と部屋については魔法石に入れることができた。
『ラウリアから良太に契約魔法石を渡す前に”婚約者ではなく、部屋を繋げる扉もない、とただ言うだけではあまり信憑性がない。だから、婚約者ではなく結界作業として協力関係を結んでいて、外交問題にも取り組んでいると発表していいか?”と聞いてもらえ。了承を得られて対談でそのことを伝えた後、良太に何も言わずに契約魔法石を渡そう』
『……かしこまりました』
自分の主人を差し置いて、また救世主を騙し討ちのような形で契約させることに少し悩んだのだろう、ユグリルは一瞬沈黙した後、自分の国の利益を優先することを選んだようだ。
契約魔法石の効力を発揮させるには条件がある。まずは契約魔法石に契約内容を付加させ、相手と契約内容をすり合わせ、公の場で宣言ーー今回の場合、ニッチスに宣言し新聞に載せることが当てはまるだろう、そして契約魔法石を渡せば締結するはずだ。
そうそう上手くいくか分からなかったが、ユグリルがうまくラウリアに説明し、またラウリアも良太に他国へ行かれたくないのか、良太と無事に契約させることができた。
ただダイニングルームで良太が食事していると知るや否やラウリアは『えぇ?!良太がダイニングルームで食事してるの?!僕が今まで何度誘っても食べてくれなかったのに!』と暴走したのだ。引き止めるも『いいじゃない!皆で仲良く食べようよ!』と俺の腕を引っ張りダイニングルームの扉を開けてしまった。
良太の機嫌を今はこれ以上損ねたくなかったので、このタイミングで優馬に会うつもりはなかったが、こうなってしまってはしょうがないと腹を括る。案の定、良太は不機嫌になり殺意を向けてくる。
優馬が心配そうにして俺を見てくれるので、安心してくれるように目配せで頷いた。良太が優馬との関係を俺にバラすつもりだったのか「ゆうにぃは……」と口を開いた時に、優馬が立ち上がり制止した。こちらを見向きもせず優馬は部屋を出ていった。今、俺が追いかけても状況は悪化してしまう……。こんな形で会ってしまったことを悔やみ、思わずラウリアを睨んでしまったが、ラウリアは気にした風もなかった。
その後、契約魔法石を結んだおかげか、良太はきちんと食事はダイニングルームで取り、夜は魔物討伐会議とラウリアの横の部屋で過ごしている。ただこんなのは一時しのぎにしかならない。
そして、俺が城で働き始めてからあからさまに騎士たちの怪我が増えていった。どうも良太は魔物討伐隊の馬車にわざと結界を張り忘れたり、効力が薄い結界を施しているようだった。契約違反にならない範囲で。
効力が薄い結界と簡単に言ったが、実際魔術の調整は難しいので、良太の魔術が以前より上がっているということだろう。良太は俺に対して殺意も隠していないので、俺に注力して優馬に危害を加えなければいいと考えている。
以前、良太に殺意を向けられた時「人を殺める薬だって作れる」と思わず言ってしまった。売り言葉に買い言葉ではないが自分でも大人気なかったと思う。もちろん良太を殺すつもりなんてない。
優馬を良太から引き離す方法について考えているものの良太の魔力をなくす、もしくは良太の力が及ばない所へ逃げるかだ。念密に計画を立てて実行しないと、途中で失敗すれば次はないだろう……。
覚悟を決めたところで、負傷した騎士が医務室へと運ばれてきて、良太はこれからも何かしらの妨害を仕掛けてくるだろうとため息をついた。
薬部屋に入って間も無く、トントンとする音が聞こえ、返事をすると騎士団長のユグリルが入ってきた。
『ユグリル、どうしたんだ?ラウリアはどうした?』
『ラウリア様は対談準備をされています。その……良太様について……』
ユグリルが珍しく言いづらそうに口を開いた。話を聞くと、良太は結界作業を大人しくラウリアと現状しているものの、何か腹に抱えているようなところがあり、心配だということだ。
良太に魔力があり、救世主であることはルウファ新聞で周知されてしまっている。そして、今日のニッチスとの対談で婚約者ではないことが正式に発表される。
そうなると、ユグリルは他国が良太を利用しようと接触してくる可能性があると懸念しているのだ。おそらく自分の条件に合えば良太は寝返るだろう。
ラウリアはあの調子で良太に好意を寄せているものだから頼りにならならず、ユグリルがその心配を抱えていることに同情を覚える。そう言えば一度、婚約者ではないと声明を出したもののもみ消すことができなかったと聞いたが、ユグリルが裏であえて消さなかったのかもしれない。
ユグリルとしては、良太がこの国を裏切らずに魔物討伐に協力してくれれば良いという考えのようだ。
俺も馬車の中でラウリアに提案した内容だけでは良太を優馬から引き離すのには難しいだろうと考えていた。
もう1歩踏み込んだ計画があったが、俺からの助言では実現は難しそうでタイミングを考えていたのだ。
良太をよく思っていないユグリルならラウリアを誘導することができるかもしれないと考え、その計画をユグリルに話すことにした。
『契約魔法石を使用しよう』
『……契約魔法石ですか?』
契約魔法石とは外交交渉時、国同士で力関係に大幅な差がある時に利用されるものだ。
無理難題を一方的に押し付けられないように、弱小国が不利益にならないように契約するもので公の場で宣言することで効力が発揮される。契約違反をすると契約違反した側が相手に重要なものを献上する代償がある。
国同士でしか契約できないので、ユグリルも疑問に思ったのだろう。
『あぁ、良太は今はグルファン王国に住んでいるが、元々は違う世界の人間だ。良太とラウリアで契約魔法石を使用することはできると思う』
『なるほど……しかも、良太様の魔力は……ラウリア様より上回っていますし……』
自分の主の魔力が救世主より劣っていると言いにくいのだろう、ユグリルは口を濁して言った。
魔物討伐において結界作業と他国交渉に協力し、夜20時に魔物討伐会議に参加することを中心に、夜は外交交渉のため会食の場としてダイニングルームで食事し、緊急時すぐに連絡が取れるようにラウリアの隣の部屋で過ごすという条件を魔法石に入れてもらうことにした。
優馬を図書館に行かせるというような外交交渉に関係のないことは入れることはできないが、外交交渉に関係するという内容にして食事と部屋については魔法石に入れることができた。
『ラウリアから良太に契約魔法石を渡す前に”婚約者ではなく、部屋を繋げる扉もない、とただ言うだけではあまり信憑性がない。だから、婚約者ではなく結界作業として協力関係を結んでいて、外交問題にも取り組んでいると発表していいか?”と聞いてもらえ。了承を得られて対談でそのことを伝えた後、良太に何も言わずに契約魔法石を渡そう』
『……かしこまりました』
自分の主人を差し置いて、また救世主を騙し討ちのような形で契約させることに少し悩んだのだろう、ユグリルは一瞬沈黙した後、自分の国の利益を優先することを選んだようだ。
契約魔法石の効力を発揮させるには条件がある。まずは契約魔法石に契約内容を付加させ、相手と契約内容をすり合わせ、公の場で宣言ーー今回の場合、ニッチスに宣言し新聞に載せることが当てはまるだろう、そして契約魔法石を渡せば締結するはずだ。
そうそう上手くいくか分からなかったが、ユグリルがうまくラウリアに説明し、またラウリアも良太に他国へ行かれたくないのか、良太と無事に契約させることができた。
ただダイニングルームで良太が食事していると知るや否やラウリアは『えぇ?!良太がダイニングルームで食事してるの?!僕が今まで何度誘っても食べてくれなかったのに!』と暴走したのだ。引き止めるも『いいじゃない!皆で仲良く食べようよ!』と俺の腕を引っ張りダイニングルームの扉を開けてしまった。
良太の機嫌を今はこれ以上損ねたくなかったので、このタイミングで優馬に会うつもりはなかったが、こうなってしまってはしょうがないと腹を括る。案の定、良太は不機嫌になり殺意を向けてくる。
優馬が心配そうにして俺を見てくれるので、安心してくれるように目配せで頷いた。良太が優馬との関係を俺にバラすつもりだったのか「ゆうにぃは……」と口を開いた時に、優馬が立ち上がり制止した。こちらを見向きもせず優馬は部屋を出ていった。今、俺が追いかけても状況は悪化してしまう……。こんな形で会ってしまったことを悔やみ、思わずラウリアを睨んでしまったが、ラウリアは気にした風もなかった。
その後、契約魔法石を結んだおかげか、良太はきちんと食事はダイニングルームで取り、夜は魔物討伐会議とラウリアの横の部屋で過ごしている。ただこんなのは一時しのぎにしかならない。
そして、俺が城で働き始めてからあからさまに騎士たちの怪我が増えていった。どうも良太は魔物討伐隊の馬車にわざと結界を張り忘れたり、効力が薄い結界を施しているようだった。契約違反にならない範囲で。
効力が薄い結界と簡単に言ったが、実際魔術の調整は難しいので、良太の魔術が以前より上がっているということだろう。良太は俺に対して殺意も隠していないので、俺に注力して優馬に危害を加えなければいいと考えている。
以前、良太に殺意を向けられた時「人を殺める薬だって作れる」と思わず言ってしまった。売り言葉に買い言葉ではないが自分でも大人気なかったと思う。もちろん良太を殺すつもりなんてない。
優馬を良太から引き離す方法について考えているものの良太の魔力をなくす、もしくは良太の力が及ばない所へ逃げるかだ。念密に計画を立てて実行しないと、途中で失敗すれば次はないだろう……。
覚悟を決めたところで、負傷した騎士が医務室へと運ばれてきて、良太はこれからも何かしらの妨害を仕掛けてくるだろうとため息をついた。
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