【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian

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第五章 逃亡

祈りの魔法石

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 翌朝、目が覚めて2人で木の穴蔵を出た。生い茂った木々の中、太陽の光が差し込み、風が靡くと自然の香りが漂う。
 タルラーク国付近の森やフグラセン国のジャングルとはまた違い、青々しい木々でいっぱいだった。
 大輝さんはグルファン王国をまず抜けることと、ナミルへの供え物を集めながら進もうと言った。と言っても、クーアラの森はとても大きい森らしく中々抜けることはできない。

 久しぶりに自身で歩く地面はふわふわしていた。体力が落ちていた俺の歩くスピードに合わせて大輝さんは歩いてくれる。
 時折、大輝さんは木々から葉や植物の実を採ったりしていた。その都度「それは何ですか?」と尋ねると大輝さんは丁寧に効能や特徴を教えてくれる。

「これはコリンという果物で甘くて美味しい。優馬は体重が軽いから沢山食べとけ」

「……はい」

 大輝さんは俺の身体が軽かったことを単純に心配してくれているのに、俺は大輝さんに抱きかかえられていたことを思い出し、恥ずかしくなった。
 それを隠すように渡された果物のコリンを1口齧ると、甘くて疲れや悩みが消されるようなみずみずしい美味しさだ。コリンという果物はりんごのような見た目で少し小ぶりなものの真っ赤な色艶をして、噛むたびに口の中でシャリシャリと音を立てる。
 
 その時、背後からガサッと言う音がして大輝さんが俺の目の前に立ち、辺りを警戒する。その音がした草むらを見るも人の気配はなく、少しすると小さな野ネズミのような見た目なのに、胴体より大きい尻尾をふさふさと泳がせて走り抜ける生き物がいた。その可愛らしい生き物が音の正体だと分かり、2人で緊張の糸を解いた。

 また森を歩き始めた時、俺が寝込んでいた期間は思うように進めなかったと考えて、できる限り早く歩こうとした。
 すると大輝さんが立ち止まり、安心させるかのような優しい表情で「無理しなくて大丈夫だ」と声をかけてくれた。その優しい気遣いは俺が少しでもスピードを速めようとする度に声かけられた。

 クーアラの森に差し込む日差しは暖かく、小鳥の羽ばたきや鳴き声、風で揺らいで葉がこすれる音は追われている世界とは思えないような雰囲気があった。
 大輝さんは歩きながら小鳥たちの名前を教えてくれたり、傷薬になる植物や食べれる木の実を2人で採りながら進んだ。

 ある程度クーアラの森を突き進み、夜を迎えた頃、大木を見つけたので穴蔵で寝支度をした。火を起こし、魔物除けを焚きつつ、一緒に採ったトミルや木ノ実、大輝さんがカバンから出したパンを食べた。お腹が膨れてウトウトした頃、大輝さんが毛布をそっとかけてくれた。

「ちょっと外へ行くが、疲れてるだろうからこのまま寝てていいぞ。外と言ってもこの穴蔵の前だから安心しろ」

 大輝さんは俺を安心させるかのような声音で言った。でも、1人で穴蔵にいるのは心細く大輝さんにくっついて穴蔵の外へと行った。
 大輝さんが穴蔵の前に座ると魔法石らしきものを取り出し、月の光に掲げた。その魔法石は真っ黒だったのに、月の光を浴びると白く輝いた。
 俺も大輝さんの横に座り、その魔法石をその引き込まれるような輝きを放つ魔法石をじっと見た。

「……それは何ですか?」

「祈りの魔法石と言って、ナミルへ行くために必要なものなんだ。毎夜、月の光を吸収させて審査の日に捧げ物の1つとしてお供えするんだ」

 その魔法石は大輝さんの大きな手にちょこんと収まっていた。その白く輝く石はとても綺麗で、魅入ってしまう。

「……俺も掲げてもいいですか?」

「あぁ、もちろんだ」

 大輝さんが俺に祈りの魔法石を渡してくれる。俺の手の上でも祈りの魔法石は白く輝き、その神秘さは全てを忘れさせてくれるような気がした。
 パサっと肩に何かがかかり、見上げると大輝さんが毛布を俺にかけてくれた。このクーアラの森はあまり季節感を感じさせず、穏やかな気候だったものの夜は確かに少し冷えた気がした。
 俺の横に座る大輝さんの肩が毛布越しに触れると、少しドキッとした。

「綺麗……ですね……」

「ナミルは自然溢れて、魔力のあるなしに関わらず人々が助け合って過ごしているという言い伝えがある。他国との争いを避けるため、半年に1回入国審査がある以外に、手紙は3ヵ月ごとの満月の日に1回、出国は4ヵ月ごとの満月に1回と決められてるんだ。入国審査には月の光を集めた祈りの魔法石、捧げ物、入国石が必要で、入手国できる場所もどこかの森にランダムで決まるから中々行けた人間はいない……」

「そんな国があるんですね……。まるでお伽話みたいです……」

 この世界では魔力のない人間はただ嫌われているかと思っていたけど、魔力のあるなし関係なく人々が助け合う国があると聞いて、この世界でも俺が生きていいと言われているような気がした。

 その日から大輝さんと一緒に祈りの魔法石を月に掲げるのが俺の日課となった。
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