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その日、事件は起こった 5

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 小走りで社食に戻ると、予想通り飯島さんはお冠だった。

「ちょっと、どこで油売ってたのよ」

 やっぱり口の端をぴくぴくさせている。

「ごみ捨て場ってさぁ、そんなに遠かったっけ。もしかして地球の裏側まで行ってたとか?ブラジルの人~」
「ごめんなさいっ」

 飯島さんに自分の言葉をかぶせたのだった。

 彼女はパートリーダーの職務を全うすることに全力を注いでいるから、口うるさいだけ。なんだかんだいい人なのだけれど、なにせお説教が長いし、冗談が古い。

「すみません。途中でお腹痛くなってトイレ行ってました」
「あら、そうだったの。じゃあ仕方ないわね。だけど……」

 私の分のまかないは無いと言われてしまった。

「ええ!まかない無いんですか!メチャお腹空いてたのにぃ」

 頬を膨らませても後の祭り。

「悪いわね」

 道平のばあちゃんも、ひるちゃんも笑顔でまかないを食べている。

「全然悪いと思ってないですよね」

 私はふて腐れた。

「今日はいつもより定食が売れたのよ。だからきっちり五人分しか残らなかったの」

 道平のばあちゃんが、私が作ったポテサラを口へ放り込んでいる。

「だったら私の分あるじゃないですかぁ。飯島さんでしょ、ばあちゃんとひるちゃん、西田さん。それと私。ちょうど五人分じゃないですか」

 なんで無いのか意味不明。

 すると飯田さんは厨房の奥をゆび指す。

「西田さんにあげたわ」
「えー、西田さん二人前も食べるんですか?」
「なんでもお孫さんが遊びに来ているそうよ。だからお孫さんの朝食として持って帰りたいんだって」

 へっ?そんなイレギュラー有り?
 
 でも、それだったら仕方ないか。
 西田さんにはいつもお世話になってるし。

「悪いね」

 言葉とは裏腹に、悪びれてるところが全く感じられない笑顔を西田さんに向けられて、私は「全然いいですよ」と思いっきり笑顔を返し、仕方なくみんなより一足先に、社食を後にしたのだった。


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