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意外な展開 6
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彼の目に留まるように、これ見よがしに顔の前でジムのパンフレットを丸め、
「先ほどはお恥ずかしところをお見せして」そう言いながらパンフレットで口元を隠す仕草をした。
「あれ、それジムのパンフレット」
早速清水君は食いついてきた。
「ええ、最近運動不足なのでジムに通おうかなって。ここの見学に来たんです」
「奇遇ですね。僕、ここの会員なんですよ。通い始めて三年になるかな。良かったら色々教えますよ」
ホントですかぁ。と柄にもなく可愛い子ぶって笑顔を作る。
「立ち話もなんだから、もし食事がまだだったらこの上のレストラン行きませんか?」
そうこなっくっちゃ。内心でほくそ笑む。
「そうですね。お礼にご馳走させて下さい」
「いいですよ、僕が誘ったんだから」
うんうん、男気も合格。
唯ちゃん、絶対別れちゃダメだ。
清水君に案内されて、数件あるレストランの中で、私たちは定番のイタリアンを選んだ。
本当はラーメンのほうが美味しそうだったのだけれど、ゆっくり話をするなら落ち着いて座れるほうがいい。
席に案内され、向かい合わせに座ると私が先に口を開いた。
「えっと、私たちまだお互いの名前知りませんよね。私、山田みはると言います。所属は技術部 第一技術課です」
ほら、とばかりに鞄の中から社員証ケースを取り出す。
私は、満天堂グループ全部署の社員証を持っている。
「へー、技術部にこんな綺麗な人がいたなんて、知らなかったです」
部署は清水君に一番縁の無い所を言っておけば大丈夫。因みに彼の同期がいないことは確認済。
実際清水君が技術部に行く用事はないだろうし、万が一彼が連絡を取ろうとしても第一技術課の方で『勘違いしたのでは?』と門前払いをしてくれる。
私の存在は煙に巻けるという訳だ。
「第一技術課だと、横浜事業所ですか?」
「ええ、今日は本社で会議があって」
「じゃあ、みはるさんに会えるってすごい偶然なんですね」
「うふふ」
目の前にグラスワインが運ばれる。
「乾杯」
私たちはグラスを合わせる。
「横浜事業所からだと、ここのジム通いにくくないですか?」
当然の疑問だろう。
けれど、私は難なく彼に答える。
赤山駅には鉄道二社が乗り入れていた。
「本社へ行く路線とは違うのだけど、もうひとつの路線で家がここから五つ先の駅なの」
「ああ、それで」
納得しながら清水君はサラダにフォークをのばす。
会話は技術系の話になったけれど、そこもちゃんと下調べしてあるから話に詰まることは無かった。
そして私は本題に入る。
「そう言えば、妙なSNSが流れてきましたよね」
「SNS?」
「ええ、満天堂にとってあまり良いイメージを持たれない内容の」
ああ、と彼はフォークを置く。
一瞬で顔色が曇る。
私はスマホを取り出すと、「――本橋唯香さん?名前まで出されちゃって、可哀想」
さっきまで饒舌だった清水君が黙り込む。
「本橋唯香さんて、確か市田常務の秘書をしている可愛い子よね」
「彼女を知っているんですか?」
「市田常務は技術出身でしょ。だから二、三度お会いしたことがあるの。その時に本橋さんを見かけたくらいだけど、受け答えがとても感じのいい子だったわ。気が利くし、しかも可愛いし」
唯ちゃんをメチャ褒めて、彼女のイメージアップを図る。
清水君は溜息をつく。
「常務も褒めてらしたわ。今までで最高の秘書だって」
「確かに性格はいいと思います。つき合ってても……。あっ」
口を滑らせ慌てる清水君に私は素知らぬ振りをする。
「へー、彼女とつき合ってるの?」
しまった。と舌を出すあたり、少々あざとさを感じるけれど女性ウケ抜群だな、と思う。
「はい。一年くらいですけど。でも終わったんです僕たち。新しい彼女も出来そうだし」
はぁ!? 今なんと言った!?
新しい彼女だって!?
おいおい待て待て、今日の今日だぞ。
清水君の潔さ?心変わりの早さについて行けないでいる。
おそらく新しい彼女は、山下さんで間違いないだろう。
「もう新しい彼女が出来るなんて、清水君モテモテね。どんな子なのか聞かせてよ」
お酒のせいなのか、照れているのか彼の頬が赤らむ。
「前々から付き合いたいって言われてたんですよ。僕には唯がいたから断ってたんですけど、こんなことになったし、その彼女に押され負けたと言うか」
「社内の子?」
「ええ、広報の子なんですけどね」
やっぱり山下さんだ。
ギリギリと奥歯をかみしめる。
話の展開が上手すぎやしないか。SNSのデマが流れ、清水君と唯ちゃんの関係がおかしくなり、すぐに今度は山下さんと付き合うなんて。
やはりこれは仕組まれたものだ。私は確信する。
「でもあんないい子と別れちゃったの?もったいないけどな」
「原因は例のSNSです」
「まさか整形が理由?」
グラスに手をのばすと、清水君はワインを一気に飲み干した。
「色々考え方はあると思うんですけど、僕は嫌なんです。友達なら全然いいんですけど、やっぱり彼女となると……」
「彼女、本当に整形したと思う?」
「否定してます。けど、否定するに決まってるじゃないですか。自分からわざわざ白状するとは思えない」
苦虫をかみ潰したような顔の清水君。
「ちなみにだけど、私もしてるわよ、整形」
「えっ!?」
清水君の瞳が大きく開かれた。
「涙袋作ってる」
「へー、そうなんだ」
まじまじと私の顔を凝視する。
「整形なんて、今どき誰でもちょっとくらいは内緒でやってるものよ」
「そうでしょか?」
「そうよ。満天堂の女の子の半分はやってるんじゃないかな」
「まさかっ」
素でエロゲ―に出て来るような可愛いい女子が、あちこちいると思うなよ。
それなりに手を加えれるんだって。
「二重にしたり、目頭切ったりとか。本橋さんも目が大きいけど、それ以上に大きい子いるでしょ」
「ああ、受付の島内さんとか……」
「ね、みんな内緒でやってるのよ。だから大して気にすることじゃないの。それに本橋さんは整形してないって言ってるんだから良かったじゃない」
「でも……」
まだ何か問題が?
「実は……」
清水君は教えてくれた。
唯ちゃんの同期の池入ひなのから、『彼女整形してるけど内緒ね』と教えられたと言うではないか。
確かにダメ押しされれば、まぁ信じるかもね。
池入ひなのは、唯ちゃんが清水君との交際を打ちあけた同期のひとり。この時点で、海外販売部の飯島さんの関与は無くなったと言っていいだろう。
信頼していた同期から最悪の形で裏切られたってこと?
真犯人はほぼほぼ池入さん……で確定。ただSNSを流した証拠がない。
「それだけじゃないんです。僕と同じ職場の増田さんも、同じようなことを言っていたので間違いないかなと」
はい?まだいたんかいっ。
増田さんは、池入さんと同じ部署のひとつ上の先輩だ。
池入さんと増田さん……か。
同じ部署の先輩後輩。どこか怪しい臭いがする。
「先ほどはお恥ずかしところをお見せして」そう言いながらパンフレットで口元を隠す仕草をした。
「あれ、それジムのパンフレット」
早速清水君は食いついてきた。
「ええ、最近運動不足なのでジムに通おうかなって。ここの見学に来たんです」
「奇遇ですね。僕、ここの会員なんですよ。通い始めて三年になるかな。良かったら色々教えますよ」
ホントですかぁ。と柄にもなく可愛い子ぶって笑顔を作る。
「立ち話もなんだから、もし食事がまだだったらこの上のレストラン行きませんか?」
そうこなっくっちゃ。内心でほくそ笑む。
「そうですね。お礼にご馳走させて下さい」
「いいですよ、僕が誘ったんだから」
うんうん、男気も合格。
唯ちゃん、絶対別れちゃダメだ。
清水君に案内されて、数件あるレストランの中で、私たちは定番のイタリアンを選んだ。
本当はラーメンのほうが美味しそうだったのだけれど、ゆっくり話をするなら落ち着いて座れるほうがいい。
席に案内され、向かい合わせに座ると私が先に口を開いた。
「えっと、私たちまだお互いの名前知りませんよね。私、山田みはると言います。所属は技術部 第一技術課です」
ほら、とばかりに鞄の中から社員証ケースを取り出す。
私は、満天堂グループ全部署の社員証を持っている。
「へー、技術部にこんな綺麗な人がいたなんて、知らなかったです」
部署は清水君に一番縁の無い所を言っておけば大丈夫。因みに彼の同期がいないことは確認済。
実際清水君が技術部に行く用事はないだろうし、万が一彼が連絡を取ろうとしても第一技術課の方で『勘違いしたのでは?』と門前払いをしてくれる。
私の存在は煙に巻けるという訳だ。
「第一技術課だと、横浜事業所ですか?」
「ええ、今日は本社で会議があって」
「じゃあ、みはるさんに会えるってすごい偶然なんですね」
「うふふ」
目の前にグラスワインが運ばれる。
「乾杯」
私たちはグラスを合わせる。
「横浜事業所からだと、ここのジム通いにくくないですか?」
当然の疑問だろう。
けれど、私は難なく彼に答える。
赤山駅には鉄道二社が乗り入れていた。
「本社へ行く路線とは違うのだけど、もうひとつの路線で家がここから五つ先の駅なの」
「ああ、それで」
納得しながら清水君はサラダにフォークをのばす。
会話は技術系の話になったけれど、そこもちゃんと下調べしてあるから話に詰まることは無かった。
そして私は本題に入る。
「そう言えば、妙なSNSが流れてきましたよね」
「SNS?」
「ええ、満天堂にとってあまり良いイメージを持たれない内容の」
ああ、と彼はフォークを置く。
一瞬で顔色が曇る。
私はスマホを取り出すと、「――本橋唯香さん?名前まで出されちゃって、可哀想」
さっきまで饒舌だった清水君が黙り込む。
「本橋唯香さんて、確か市田常務の秘書をしている可愛い子よね」
「彼女を知っているんですか?」
「市田常務は技術出身でしょ。だから二、三度お会いしたことがあるの。その時に本橋さんを見かけたくらいだけど、受け答えがとても感じのいい子だったわ。気が利くし、しかも可愛いし」
唯ちゃんをメチャ褒めて、彼女のイメージアップを図る。
清水君は溜息をつく。
「常務も褒めてらしたわ。今までで最高の秘書だって」
「確かに性格はいいと思います。つき合ってても……。あっ」
口を滑らせ慌てる清水君に私は素知らぬ振りをする。
「へー、彼女とつき合ってるの?」
しまった。と舌を出すあたり、少々あざとさを感じるけれど女性ウケ抜群だな、と思う。
「はい。一年くらいですけど。でも終わったんです僕たち。新しい彼女も出来そうだし」
はぁ!? 今なんと言った!?
新しい彼女だって!?
おいおい待て待て、今日の今日だぞ。
清水君の潔さ?心変わりの早さについて行けないでいる。
おそらく新しい彼女は、山下さんで間違いないだろう。
「もう新しい彼女が出来るなんて、清水君モテモテね。どんな子なのか聞かせてよ」
お酒のせいなのか、照れているのか彼の頬が赤らむ。
「前々から付き合いたいって言われてたんですよ。僕には唯がいたから断ってたんですけど、こんなことになったし、その彼女に押され負けたと言うか」
「社内の子?」
「ええ、広報の子なんですけどね」
やっぱり山下さんだ。
ギリギリと奥歯をかみしめる。
話の展開が上手すぎやしないか。SNSのデマが流れ、清水君と唯ちゃんの関係がおかしくなり、すぐに今度は山下さんと付き合うなんて。
やはりこれは仕組まれたものだ。私は確信する。
「でもあんないい子と別れちゃったの?もったいないけどな」
「原因は例のSNSです」
「まさか整形が理由?」
グラスに手をのばすと、清水君はワインを一気に飲み干した。
「色々考え方はあると思うんですけど、僕は嫌なんです。友達なら全然いいんですけど、やっぱり彼女となると……」
「彼女、本当に整形したと思う?」
「否定してます。けど、否定するに決まってるじゃないですか。自分からわざわざ白状するとは思えない」
苦虫をかみ潰したような顔の清水君。
「ちなみにだけど、私もしてるわよ、整形」
「えっ!?」
清水君の瞳が大きく開かれた。
「涙袋作ってる」
「へー、そうなんだ」
まじまじと私の顔を凝視する。
「整形なんて、今どき誰でもちょっとくらいは内緒でやってるものよ」
「そうでしょか?」
「そうよ。満天堂の女の子の半分はやってるんじゃないかな」
「まさかっ」
素でエロゲ―に出て来るような可愛いい女子が、あちこちいると思うなよ。
それなりに手を加えれるんだって。
「二重にしたり、目頭切ったりとか。本橋さんも目が大きいけど、それ以上に大きい子いるでしょ」
「ああ、受付の島内さんとか……」
「ね、みんな内緒でやってるのよ。だから大して気にすることじゃないの。それに本橋さんは整形してないって言ってるんだから良かったじゃない」
「でも……」
まだ何か問題が?
「実は……」
清水君は教えてくれた。
唯ちゃんの同期の池入ひなのから、『彼女整形してるけど内緒ね』と教えられたと言うではないか。
確かにダメ押しされれば、まぁ信じるかもね。
池入ひなのは、唯ちゃんが清水君との交際を打ちあけた同期のひとり。この時点で、海外販売部の飯島さんの関与は無くなったと言っていいだろう。
信頼していた同期から最悪の形で裏切られたってこと?
真犯人はほぼほぼ池入さん……で確定。ただSNSを流した証拠がない。
「それだけじゃないんです。僕と同じ職場の増田さんも、同じようなことを言っていたので間違いないかなと」
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