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はじまり
1日目. 豆腐建築士の称号をいただきました
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屋根ができそうな見通しがついたので、足場に乗ってどんどんと屋根を作っていく。
屋根部分となる土ブロックをくっつけるたびに小屋の中がどんどんと暗くなっていく。
「あ、明かりがない……」
このままだと出入り口も窓もないただの土の塊ができてしまう。
葉月は屋根の中央部分に明かり取り用の五十センチ四方の穴を残して、全て土ブロックでふさいだ。
大きな窓を開けてもいいのだが、敵対MOBが侵入してこないとも限らない。
出入り口だけは必要なので、池に面した壁の一部を万能ツールで壊し、縦二メートル、横五十センチほどの穴を地面から少し高い場所に開けることで解決した。
とりあえずだが、今夜をやり過ごす小屋が完成した。
葉月は小屋の外に出て、外から小屋を眺めた。
「豆腐建築だ……」
葉月はそう呟いてがっくりとうなだれる。
まるで豆腐のように四角い建物のことをファークラのプレイヤーの中では豆腐建築と評していた。
初心者にありがちな拠点の建築方法で、ここから脱却できるかが、脱初心者の鍵となっている。
(ま、最初の拠点だし、材料もなかったし……。あっ!)
嫌な予感がして葉月がステータス画面を開くと案の定、称号欄には『豆腐建築士』の文字が増えていた。
「くっ……!」
葉月は力なく地面に崩れ落ちた。
ファークラにかなりのプレイ時間を費やしていた葉月としてはかなり恥ずかしい称号といえるだろう。
悔しいが、どうせこの小屋は一時的な避難場所でしかない。
葉月は次こそはもっといい家を建ててやると決心する。
スキル欄も確認すると土木が『土木:Lv.2』に上がっていた。更に『建築:Lv.1』のスキルが増えている。
「けっこう嬉しいかもしれない」
ファークラにはなかったスキルシステムだが、意外と楽しい。
どんなスキルがあるのか、葉月は楽しみになっていた。
ついでに空腹度を確認すると、5/10となっていたので、葉月はインベントリに残っていたりんごを食べる。
空腹度が三割を切ると体力が減ってしまうので、きちんと食事を取り、空腹度を適切に管理しなければ即死亡に繋がってしまう。
残りは十個。このりんごがなくなる前にどうにかして食料を確保する必要がある。
だが食料となる作物を育てるには畑を作らなくてはならない。
幸いにして、葉月のインベントリには神様からもらった謎の種と、りんごから採った種がある。これを育てられれば、なんとかなるだろうと彼女は考えていた。
(ま、やってみるしかない、よね)
葉月はインベントリから万能ツールを取り出し、クワに変化させる。
池から二、三メートル離れた場所をクワで耕していく。
とりあえずは五メートル四方の畑を二面ほど耕した。
万能ツールはチートぶりを遺憾なく発揮し、ほとんど疲れを感じることなく畑を耕し終える。
ゲームの中では農業を楽しんでいた葉月だが、現実でクワを握ったのはこれが初めてだった。現実世界――今では前世と呼ぶべき世界では、これほどクワを振るえば腰痛必死だっただろう。
しかも、最近はほとんどまともに休みも取れず、布団へダイブする日々が続いており、運動不足状態もここに極まっていた。
そんな葉月が大した疲労もなく作業を終えられたのは、きっと万能ツールのおかげだろう。
(本っ当に、ありがとう。神様)
葉月は心の中で神様に感謝をささげる。
耕したばかりの畑のうち、一面は謎の種を植えていく。もう一面にはりんごの種を、五、六メートルの間隔をあけて植える。
野菜ならいざ知らず、果樹なのである程度大きくなることを見越しておく必要がある。
葉月は万能ツールがジョウロになるように念じた。
池から水を汲んで、ジョウロを使って畑に水をまく。
「大きく育ってね~♪」
葉月は即興で作った歌を歌いながら水をまいた。
この種がもしも二十日大根だとしても収穫には二十日はかかる計算だ。だが種から野菜が収穫できるまで、インベントリにあるりんごだけではとても持ちそうにない。種を育てる以外の方法で食料を確保する必要がある。
(ないものは考えても仕方がないよね……)
葉月は食糧問題を明日以降の課題にすることにした。
「よし、寝よう」
残念ながら時間切れだ。
周囲が落陽の色に染まり、太陽が地平線の向こうに消えようとしている。
敵対MOBが発生する夜がやって来る。
その前に安全な小屋の中で一晩をやり過ごすしかない。
木材と羊毛を採取できればベッドをクラフトできたのだが、葉月の異世界生活一日目では土以外を採取することができなかった。
葉月は完成したばかりの小屋に入り、入り口の半分を土ブロックで塞ぐ。
葉月が出入りできるくらいの大きさでは、敵対MOBが家の中に入り込んでしまう。
屋根に開けた五十センチ四方くらいの大きさならば通り抜ける事ができないので、安全なのだ。
幸いにして気温は熱くも寒くもなく、布団がなくても風邪を引くことはなさそうだった。
葉月は手にした万能ツールを剣へと変化させる。完全に日が落ちてしまえば敵対MOBが発生し始める。
それまでのわずかな時間だが、一休みしようと葉月は小屋の床に腰を下ろした。
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異世界移住1日目
名前:ハヅキ
種族:人間
性別:女
年齢:18歳
<装備>
頭部:なし
腹部:なし
脚部:なし
装飾品:なし
右手:万能ツール(剣)
左手:なし
空腹度:●●●●●●●○○○
体力:●●●●●●●●●○
経験:Lv.10
称号:移住者(かけだし)、豆腐建築士 New!
スキル:土木:Lv.1→2、建築:Lv.1 New!
屋根部分となる土ブロックをくっつけるたびに小屋の中がどんどんと暗くなっていく。
「あ、明かりがない……」
このままだと出入り口も窓もないただの土の塊ができてしまう。
葉月は屋根の中央部分に明かり取り用の五十センチ四方の穴を残して、全て土ブロックでふさいだ。
大きな窓を開けてもいいのだが、敵対MOBが侵入してこないとも限らない。
出入り口だけは必要なので、池に面した壁の一部を万能ツールで壊し、縦二メートル、横五十センチほどの穴を地面から少し高い場所に開けることで解決した。
とりあえずだが、今夜をやり過ごす小屋が完成した。
葉月は小屋の外に出て、外から小屋を眺めた。
「豆腐建築だ……」
葉月はそう呟いてがっくりとうなだれる。
まるで豆腐のように四角い建物のことをファークラのプレイヤーの中では豆腐建築と評していた。
初心者にありがちな拠点の建築方法で、ここから脱却できるかが、脱初心者の鍵となっている。
(ま、最初の拠点だし、材料もなかったし……。あっ!)
嫌な予感がして葉月がステータス画面を開くと案の定、称号欄には『豆腐建築士』の文字が増えていた。
「くっ……!」
葉月は力なく地面に崩れ落ちた。
ファークラにかなりのプレイ時間を費やしていた葉月としてはかなり恥ずかしい称号といえるだろう。
悔しいが、どうせこの小屋は一時的な避難場所でしかない。
葉月は次こそはもっといい家を建ててやると決心する。
スキル欄も確認すると土木が『土木:Lv.2』に上がっていた。更に『建築:Lv.1』のスキルが増えている。
「けっこう嬉しいかもしれない」
ファークラにはなかったスキルシステムだが、意外と楽しい。
どんなスキルがあるのか、葉月は楽しみになっていた。
ついでに空腹度を確認すると、5/10となっていたので、葉月はインベントリに残っていたりんごを食べる。
空腹度が三割を切ると体力が減ってしまうので、きちんと食事を取り、空腹度を適切に管理しなければ即死亡に繋がってしまう。
残りは十個。このりんごがなくなる前にどうにかして食料を確保する必要がある。
だが食料となる作物を育てるには畑を作らなくてはならない。
幸いにして、葉月のインベントリには神様からもらった謎の種と、りんごから採った種がある。これを育てられれば、なんとかなるだろうと彼女は考えていた。
(ま、やってみるしかない、よね)
葉月はインベントリから万能ツールを取り出し、クワに変化させる。
池から二、三メートル離れた場所をクワで耕していく。
とりあえずは五メートル四方の畑を二面ほど耕した。
万能ツールはチートぶりを遺憾なく発揮し、ほとんど疲れを感じることなく畑を耕し終える。
ゲームの中では農業を楽しんでいた葉月だが、現実でクワを握ったのはこれが初めてだった。現実世界――今では前世と呼ぶべき世界では、これほどクワを振るえば腰痛必死だっただろう。
しかも、最近はほとんどまともに休みも取れず、布団へダイブする日々が続いており、運動不足状態もここに極まっていた。
そんな葉月が大した疲労もなく作業を終えられたのは、きっと万能ツールのおかげだろう。
(本っ当に、ありがとう。神様)
葉月は心の中で神様に感謝をささげる。
耕したばかりの畑のうち、一面は謎の種を植えていく。もう一面にはりんごの種を、五、六メートルの間隔をあけて植える。
野菜ならいざ知らず、果樹なのである程度大きくなることを見越しておく必要がある。
葉月は万能ツールがジョウロになるように念じた。
池から水を汲んで、ジョウロを使って畑に水をまく。
「大きく育ってね~♪」
葉月は即興で作った歌を歌いながら水をまいた。
この種がもしも二十日大根だとしても収穫には二十日はかかる計算だ。だが種から野菜が収穫できるまで、インベントリにあるりんごだけではとても持ちそうにない。種を育てる以外の方法で食料を確保する必要がある。
(ないものは考えても仕方がないよね……)
葉月は食糧問題を明日以降の課題にすることにした。
「よし、寝よう」
残念ながら時間切れだ。
周囲が落陽の色に染まり、太陽が地平線の向こうに消えようとしている。
敵対MOBが発生する夜がやって来る。
その前に安全な小屋の中で一晩をやり過ごすしかない。
木材と羊毛を採取できればベッドをクラフトできたのだが、葉月の異世界生活一日目では土以外を採取することができなかった。
葉月は完成したばかりの小屋に入り、入り口の半分を土ブロックで塞ぐ。
葉月が出入りできるくらいの大きさでは、敵対MOBが家の中に入り込んでしまう。
屋根に開けた五十センチ四方くらいの大きさならば通り抜ける事ができないので、安全なのだ。
幸いにして気温は熱くも寒くもなく、布団がなくても風邪を引くことはなさそうだった。
葉月は手にした万能ツールを剣へと変化させる。完全に日が落ちてしまえば敵対MOBが発生し始める。
それまでのわずかな時間だが、一休みしようと葉月は小屋の床に腰を下ろした。
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異世界移住1日目
名前:ハヅキ
種族:人間
性別:女
年齢:18歳
<装備>
頭部:なし
腹部:なし
脚部:なし
装飾品:なし
右手:万能ツール(剣)
左手:なし
空腹度:●●●●●●●○○○
体力:●●●●●●●●●○
経験:Lv.10
称号:移住者(かけだし)、豆腐建築士 New!
スキル:土木:Lv.1→2、建築:Lv.1 New!
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