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ひとときの安息
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レティシアは目の前の光景が、まるで時が止まったかのように見えた。
暴走する魔法陣から光があふれ出した瞬間、彼女はベルクールの言葉を思い出した。
『防御魔法で囲ってしまえばいい』
レティシアはすぐさま自分が持てる最大の魔力で、防御魔法を描く。
いつも描く魔法陣を反転させ、動作する方向を逆転させる。対象はレティシアとアロイスではなく、魔法陣を暴走させようとしているシャルルだ。
臨界点に達したシャルルの暴走させた魔法が発動する。
その瞬間に合わせて、レティシアは作り上げた防御魔法をシャルルに向けて放つ。
防御魔法はシャルルを包み込み、まばゆい光が拡散する。
けれど暴走した魔法陣は防御魔法に阻まれ、全てを内側に反射した。
「あががががああぁぁああ!」
シャルルは自ら暴走させた攻撃魔法によって焼かれた。
何回分もの魔法を食らったシャルルは、レティシアの放った防御魔法の中でもみくちゃになりながら、何度も攻撃魔法を浴びる。
アロイスは息を呑み、レティシアを強く抱きしめながらその光景を見つめていた。
レティシアもまた自分の想定した以上の威力に、背筋が凍りつく。
やがて役目を終えた防御魔法が消失した。
「レティ……いま、のは?」
アロイスは茫然とした表情で地面に倒れているシャルルを見つめた。
「魔法陣の暴走……ですね。所長の助言を思い出して、防御魔法を反転させてみたのだけど、想定以上の威力でした」
「あれを食らっていたら、私たちも無事では済まなかっただろう。また……、あなたに助けられたな」
アロイスはレティシアを強く抱きしめた。
彼女の無事を確かめるようにしばらくそうしていたが、やがて腕を離し、うずくまりながら呻いているシャルルに近づく。
「う……」
生きているのが不思議なほどシャルルの全身は魔法の炎に焼かれ、焦げていた。
脈と呼吸を確かめたアロイスは冷たい表情で口を開いた。
「とりあえず、生きてはいる」
「……そう、ですか」
あの魔法の威力で生き延びることができたのは奇跡だった。
けれどレティシアには彼の命が助かったことを素直には喜べない。
シャルルにはまだ聞きたいことがある。彼の協力者と、本当の狙いを確かめるまでは、生きていてもらわなければ困るのだ。
それでも、当面の危機は去ったことに、レティシアは一気に緊張が解け、全身から力が抜けた。
くらりと目の前が暗くなる。
「レティ!」
その場に崩れ落ちそうになったレティシアを、アロイスが抱きとめる。
「大丈夫か?」
「ちょっと、くらっとしただけ」
「ちっ……」
アロイスは舌打ちした。
魔力は幾分かアロイスから補給できたものの、先ほどの防御魔法でほとんど使い切ってしまっている。
とても調子がいいとは言えなかった。
レティシアは自身の魔力の欠乏を痛いほど自覚していた。
「最悪……とまではいかないけれど、あまりよくはない……かな」
「すぐに治癒士に診てもらおう」
アロイスはレティシアの膝の裏に手を回し、軽々と彼女を抱き上げた。
「あっ、アル! 私、歩けるから」
「だめだ。大人しくしていろ」
「でも、アルだって、あまり調子が良くないのでしょう?」
「あなたほどじゃない」
アロイスはレティシアに有無を言わせず、馬車を乗り捨てた方向へ足を向ける。
見上げたアロイスの表情は険しく、厳しい。
レティシアは抵抗を諦め、アロイスの首のうしろに手を回した。少しでも彼がかかえやすいように体勢を変える。
胸に顔を埋めると、爽やかで少しスパイシーな彼の香りがレティシアの鼻をくすぐった。
レティシアはアロイスの匂いを深く吸い込んで、改めて生き延びたことを強く感じる。
レティシアの腕に力がこもった。
ふいにアロイスが動きを止める。
不審に思ったレティシアはアロイスの顔を見上げた。
「アル?」
「静かに」
アロイスは厳しい表情で、耳を澄ませている。
レティシアも耳を澄ませると、かすかに声が聞こえた。大勢の足音も近づいて来るようだ。
「アロイスー! レティシア夫人、どこだー?」
かすかにアロイスたちを呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声にアロイスははっと気づき、足を早める。
「エヴァ! ここだ!」
アロイスが声を張り上げると、声は更に大きくなる。
やがてヴァリエ卿が兵士を引き連れて、木々の間から姿を現す。
「アロイス、無事か!」
息せき切って現れたヴァリエ卿は、アロイスの姿に目を輝かせた。
「夫人も、よく無事で」
「はい、どうにか」
にこりとほほ笑んだヴァリエ卿に、レティシアはアロイスの腕に抱かれたまま苦笑を返した。
ヴァリエ卿はここへたどり着くまでに、レティシアが乗り捨てることになった馬車や馬の惨状を目にしたのだろう。
「むこうにシャルルがいる。捕まえてくれ。あの魔法陣を仕掛けた犯人だ」
「やはり、シャルルか……。行け!」
ヴァリエ卿はすぐに兵士たちに捕縛を命じた。
「近衛から裏切り者がでるとはな……」
ヴァリエ卿の表情は暗い。
「詳しい話はあとだ。レティが魔力切れだ。一刻も早く治癒士に診せたい」
「承知した。むこうに私たちが乗ってきた馬車がある。すぐに王城へ行け!」
「すまないが、借りるぞ」
「ああ」
レティシアはアロイスの胸に顔を埋めたまま、目を閉じた。
彼の腕はたくましく、ゆらゆらと揺れる感触がレティシアの眠気を誘った。
「レティ、眠いのか?」
「ごめんなさい。ちょっとだけ……」
心配そうなアロイスの声に、レティシアは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
けれど全身がだるく、もう目を開けていられない。
「わかった。馬車に乗るまでは我慢してくれ。運びにくくなる」
「う……ん」
レティシアはどうにか返事をしたものの、彼女の意識はすぐに闇にのまれた。
暴走する魔法陣から光があふれ出した瞬間、彼女はベルクールの言葉を思い出した。
『防御魔法で囲ってしまえばいい』
レティシアはすぐさま自分が持てる最大の魔力で、防御魔法を描く。
いつも描く魔法陣を反転させ、動作する方向を逆転させる。対象はレティシアとアロイスではなく、魔法陣を暴走させようとしているシャルルだ。
臨界点に達したシャルルの暴走させた魔法が発動する。
その瞬間に合わせて、レティシアは作り上げた防御魔法をシャルルに向けて放つ。
防御魔法はシャルルを包み込み、まばゆい光が拡散する。
けれど暴走した魔法陣は防御魔法に阻まれ、全てを内側に反射した。
「あががががああぁぁああ!」
シャルルは自ら暴走させた攻撃魔法によって焼かれた。
何回分もの魔法を食らったシャルルは、レティシアの放った防御魔法の中でもみくちゃになりながら、何度も攻撃魔法を浴びる。
アロイスは息を呑み、レティシアを強く抱きしめながらその光景を見つめていた。
レティシアもまた自分の想定した以上の威力に、背筋が凍りつく。
やがて役目を終えた防御魔法が消失した。
「レティ……いま、のは?」
アロイスは茫然とした表情で地面に倒れているシャルルを見つめた。
「魔法陣の暴走……ですね。所長の助言を思い出して、防御魔法を反転させてみたのだけど、想定以上の威力でした」
「あれを食らっていたら、私たちも無事では済まなかっただろう。また……、あなたに助けられたな」
アロイスはレティシアを強く抱きしめた。
彼女の無事を確かめるようにしばらくそうしていたが、やがて腕を離し、うずくまりながら呻いているシャルルに近づく。
「う……」
生きているのが不思議なほどシャルルの全身は魔法の炎に焼かれ、焦げていた。
脈と呼吸を確かめたアロイスは冷たい表情で口を開いた。
「とりあえず、生きてはいる」
「……そう、ですか」
あの魔法の威力で生き延びることができたのは奇跡だった。
けれどレティシアには彼の命が助かったことを素直には喜べない。
シャルルにはまだ聞きたいことがある。彼の協力者と、本当の狙いを確かめるまでは、生きていてもらわなければ困るのだ。
それでも、当面の危機は去ったことに、レティシアは一気に緊張が解け、全身から力が抜けた。
くらりと目の前が暗くなる。
「レティ!」
その場に崩れ落ちそうになったレティシアを、アロイスが抱きとめる。
「大丈夫か?」
「ちょっと、くらっとしただけ」
「ちっ……」
アロイスは舌打ちした。
魔力は幾分かアロイスから補給できたものの、先ほどの防御魔法でほとんど使い切ってしまっている。
とても調子がいいとは言えなかった。
レティシアは自身の魔力の欠乏を痛いほど自覚していた。
「最悪……とまではいかないけれど、あまりよくはない……かな」
「すぐに治癒士に診てもらおう」
アロイスはレティシアの膝の裏に手を回し、軽々と彼女を抱き上げた。
「あっ、アル! 私、歩けるから」
「だめだ。大人しくしていろ」
「でも、アルだって、あまり調子が良くないのでしょう?」
「あなたほどじゃない」
アロイスはレティシアに有無を言わせず、馬車を乗り捨てた方向へ足を向ける。
見上げたアロイスの表情は険しく、厳しい。
レティシアは抵抗を諦め、アロイスの首のうしろに手を回した。少しでも彼がかかえやすいように体勢を変える。
胸に顔を埋めると、爽やかで少しスパイシーな彼の香りがレティシアの鼻をくすぐった。
レティシアはアロイスの匂いを深く吸い込んで、改めて生き延びたことを強く感じる。
レティシアの腕に力がこもった。
ふいにアロイスが動きを止める。
不審に思ったレティシアはアロイスの顔を見上げた。
「アル?」
「静かに」
アロイスは厳しい表情で、耳を澄ませている。
レティシアも耳を澄ませると、かすかに声が聞こえた。大勢の足音も近づいて来るようだ。
「アロイスー! レティシア夫人、どこだー?」
かすかにアロイスたちを呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声にアロイスははっと気づき、足を早める。
「エヴァ! ここだ!」
アロイスが声を張り上げると、声は更に大きくなる。
やがてヴァリエ卿が兵士を引き連れて、木々の間から姿を現す。
「アロイス、無事か!」
息せき切って現れたヴァリエ卿は、アロイスの姿に目を輝かせた。
「夫人も、よく無事で」
「はい、どうにか」
にこりとほほ笑んだヴァリエ卿に、レティシアはアロイスの腕に抱かれたまま苦笑を返した。
ヴァリエ卿はここへたどり着くまでに、レティシアが乗り捨てることになった馬車や馬の惨状を目にしたのだろう。
「むこうにシャルルがいる。捕まえてくれ。あの魔法陣を仕掛けた犯人だ」
「やはり、シャルルか……。行け!」
ヴァリエ卿はすぐに兵士たちに捕縛を命じた。
「近衛から裏切り者がでるとはな……」
ヴァリエ卿の表情は暗い。
「詳しい話はあとだ。レティが魔力切れだ。一刻も早く治癒士に診せたい」
「承知した。むこうに私たちが乗ってきた馬車がある。すぐに王城へ行け!」
「すまないが、借りるぞ」
「ああ」
レティシアはアロイスの胸に顔を埋めたまま、目を閉じた。
彼の腕はたくましく、ゆらゆらと揺れる感触がレティシアの眠気を誘った。
「レティ、眠いのか?」
「ごめんなさい。ちょっとだけ……」
心配そうなアロイスの声に、レティシアは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
けれど全身がだるく、もう目を開けていられない。
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レティシアはどうにか返事をしたものの、彼女の意識はすぐに闇にのまれた。
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