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第3章 魔族王国の迷子令嬢

90 籠城戦の次は?

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 私達は『タイガーケイブ』の拠点を襲撃した刺客達全員を、庭に集めてロープで拘束しました。


 鳥もちに絡まって動けなかった男達に対しては、

「鳥もちだけをインベントリに収納!」してから、「男達を【洗浄】【乾燥】!」してみました。


「さすが鳥もちだわ。【洗浄】しても完全に綺麗にする事はできないけど、襲って来たのが悪い事なのだから、我慢してもらいましょうね。 アダモちゃんとジークンでロープで縛ってから、担いで庭まで運んで下さいな」

『は~い』
「……」


 アダモちゃんとジークンは、片手に1人づつの両手で2人を軽々と持ち上げて、外庭まで運びました。
 まずは味方の怪我を治療します。
 幸いにも大怪我をしている者はいませんでしたが、普通に【回復】を施しました。
 続いて、刺客達の怪我も【回復】してあげます。

【浄化】も敵味方全員に掛けてあげました。
 戦塵を綺麗に落として、ついでに刺客達の心の灰汁あく抜きもしたのです。
 その結果、刺客達は穏やかな顔になり、襲撃した事を後悔する様になりました。
 そして全てを吐いて、領主と両替商の悪事を知ってる限り暴露しました。
 ミレーヌがそれを全て記録して、賊全員に署名をさせたのです。


 ジルベルトが両パーティーのメンバーを集合させて口を開きます。

「ふむ、上々の結果にお礼を言わせてもらおう、良くやってくれた……。 しかし魔族が支配するこの地では、基本的に支配者層にいる上位の者には、どんな事があっても逆らえん。この後どういう展開になるかは分らんが、もう後戻りは出来ないからな、覚悟しとけよ」

「領主は魔族なのですか?」

「そうだよ、お嬢ちゃん。ここノスロンド町の領主はアッコロカムイという上級魔族なんだ」

「そうなんですね」


「ただし、魔族はその特性から領地経営に関しては何もせず、獣人の王やリーダーに丸投げするのが通常だ。魔族は個人主義で単独行動を好むが、獣人は群れで生活する習性を持っているからなんだ。
 それに、魔族は傲岸ごうがんで強欲で我儘で、協調性が皆無かいむの為に、領民を支配して内政をする事に全く向いていない。
 それでも、国民や領民が働いて社会生活をいとなんでくれないと、国や領がすたれてしまうので、獣人の代官に政治をゆだねて丸投げするしかないのだ。

 今回の事件は、欲深い領主と両替商の悪事を暴くチャンスだと思う。
 今まで被害にあっても泣き寝入りしていた者たちの無念を晴らしたいと思っているんだ。

 実は最初の強盗事件の時に、冒険者ギルドの王都本部に経緯報告書を送っている。
 ギルド本部で何かしらの対応を王宮に働きかけているかもしれないから、相手の出方をしばらく静観したほうがいいだろうと思うんだ。
 あくまでもこちらは正当防衛で迎え撃っただけで、何も悪いことをしていないという姿勢を貫き通して、相手の自滅を待とうと思う」

「えぇぇっ、領主を退治しちまわないのかぁ? 悪い領主はやっつけちまおうぜ、残ってるのは雑魚の衛兵ばかりだから、皆で領主館に攻め込もうぜ!」


「領主を倒して、その後どうするんだ? おそらく王都から反乱軍征討の軍隊が派遣されるだろう。王国軍に囲まれて勝てる戦力は無いのだぞ。それよりも領主の悪行を暴いて、自滅させた方が将来的にも良いと思うぞ」

「う~ん、そっかぁ。王国軍には勝てないかぁ……」


「まぁとりあえず、ギルドにこいつらを連行して経過報告をしようぜ」

「「「おぅ」」」



 数珠じゅずつなぎ状態の男達を、アダモちゃんとジークンが涼しい顔で引っ張っていきます。
 手を縛られているので、転んでも立てずに引きられるのでした。

 ズズズズズズズズ……、

「まっ、待ってくれぃ。たっ、立たせてくださぁぁいっ!」

『えぇぇいっ、モタモタするなっ! キリキリ歩かんかぁぁぁっ!』

 と、アダモちゃんは言いますけど……優しく立たせて上げてから、又引っ張っていきます。


『お約束ですからねぇ』

「あいたたたっ……でも、少し痛みが少なくなってきたわ。多分、その言い方は時代劇のセリフだね」

『御嬢様、記憶が戻って来たんですね。はやく突っ込んでください、アダモはボケ倒したいのです!』

「あいたたたっ……、突っ込みってボケの相方だっけ。う~ん、もう少しで思い出せそうなんだけどねぇ……」

『アダモはいつまでも待っています。シェ~ン、カンバァァァックですぅ』

「あいたたたっ、はいはい、待っててね」


 ◇ ◆ ◇


「捕まえたこの人たちを、どうするのですか?」

 ミレーヌが冒険者ギルド長に聞きました。
 捕まえた刺客達は約30人います。


「冒険者ギルドの留置場には入りきらないだろうな。衛兵に渡せば領の留置場に連れて行かれるが、それだと領主に返すようなものだしなぁ」

「ギルド長、冒険者も結構混ざってますけど」

「そうなんだよなぁ、困った連中だ! もう少し頭を使って欲しかったよな」

「まぁ、こういう連中もいるのが冒険者だからな」


「冒険者登録は永久剥奪でしょうがないな」

「職に就けなければ盗賊になっちまうぞ」

「もしくは犯罪奴隷だろうな」


「これに懲りて真面目に生きてくれればいいが、中々まともな職には就けないだろうしな」

「「「心を入れ替えて働きまーす」」」


「【浄化】の効果が効いてるうちは良いだろうが、いずれ悪人に戻る者もいるだろう」

「よしっ、手間が掛かるが王都のギルド本部に護送しよう。『タイガーケイブ』と『ベアーファング』に指名依頼をしたい、報奨を奮発するから頼まれてくれ!」


「奮発って、どのぐらいだ?」

「そうだなぁ、通常の馬車輸送護衛の3割増しでどうだ?」

「5割増しだっ! それなら引き受けてやるよ」

「う~ん、犯罪者の引き渡しで賞金も30人分入るからぁ……」


「ギルド長、指名手配書の賞金首も混ざっているようですが」
 ギルドスタッフの女性がそう言いました。

「あっ、……分かってて計算してたのに、言っちゃうんだからなぁぁ」


「ギルド長ずるいぞ。賞金首がいるならもっと出せるだろう!?」

「分かった分かった、通常の2倍出そう。指名手配の賞金もお前達の物だから、それで受けてくれ」

「よし、俺達はそれでいいぞ」

 ジルベルトが了承しました。


「俺達もオッケーだ。壁の上からちょっと攻撃しただけだしな」

『ベアーファング』リーダーのドリー・ファングも、そう言って指名依頼を受けました。


 ◇ ◆ ◇


「って事は、私達は王都に行くって事ですか?」

「そうなるわね。でも遠いわよ、長旅になるわ」


「しかし、ギルド長は食えない野郎だな」

「したたかですね」

「あぁ、本当はもっと貰っても良かったんじゃないか?」

「いや、こっちもある意味計画通りだから、このあたりで妥協してもいいと判断したんだ」

「そうだったんだ、さすがリーダーだな」

「へへへ、そう言う訳だから準備を怠るなよ」

「「「は~い」」」


「どういう訳なんですか?」

「町の外で領主とドンパチするって事でしょうね」

「あぁ、まず間違いなく襲ってくるだろうな」


「A級冒険者パーティーが2組で護送してても、きっとなりふり構わず襲うだろうな」

「まぁ、魔族の領主と言えども、王都に証人を連れて行かれたら立場が危ういって事だ」

「領地経営の資質と責任を問われるわね、最悪は領地没収かもね」


「そうなんですか?」

「ギルド長は分かってて俺達に指名依頼を出して、丸投げしたって事だ。食えない奴め」

「それもこれも、予想していた通りだがな」


「そうだったんですか。ジルベルトさんは頭がいいのですね」

「今頃かよ。A級まで登るって事はそういう事なんだぞ」

「自画自賛だなぁ、は~はっはっは~」


「でも領主に勝てるんですか?」

「A級パーティー2組なんだから、きっと勝てるさ」


「なんか私が大変な事に巻き込んでしまったみたいで、申し訳ありません」

「いやいや、たまにはこういう事も面白いぜ。それにアダモがいるから楽勝だろう、アダモなら敵兵が1000人いても勝てるだろうよ」


『オラ、ワキワキすっぞ!』

「ワキじゃなくてワクでしょ!」


『それです御嬢様ぁ、アダモは久しぶりに突っ込んで貰えて嬉しいですぅ』

「あぁ、はいはい、良かったねぇ」
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