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ラブホテル in ヤーサン
悩めるイケオジを救いたい。救いたいんや!①
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「ご無沙汰しております」
「うむ、久しいな。して、ヤーサンの商人が態々会いたいとはどんな用向きだろうか?」
ラブホテルの常連となってから一月と少し。
こっそりとオーナーから宣伝部長と呼ばれている商人のタスケはとある人物の下を訪れていた。
ガッシリとした体躯に口ひげをたっぷりと蓄えたその人物の名はフォルカー・エライマン。
エライマン伯爵家の当主様である。
フォルカーは若かりし頃は数々の武功を上げ。
それはもう勢い付いていたものだが、ここ数年はその勢いも鳴りを潜めている。
既に年齢は50代となり。
快活な印象だった赤毛の髪には白髪が増えて、気強そうだった彫りの深い顔も何処か自信無さげに見える。
まだまだ経験が不足していて心配な息子に当主を譲って隠居しようかと考える程度には自らの衰えを感じていた。
タスケとは以前にパーティーで知り合い。
何度か妻のドレスを仕立てて貰った関係性である。
自領の商人と比べれば薄い繋がりなのだが。
それが数日前に手紙が来て、会って話をしたい事があると面会を求めて来たのだから何と無しに興味を持ったフォルカーは予定を開けて面会を許可した。
そして今、エライマン領の領都にある屋敷で二人は向かい合っているのである。
「実はフォルカー様のお耳に入れておきたい情報がございまして」
「ほう。何だろうか?」
何度も会った訳では無いが、フォルカーの印象ではタスケはやり手の商人である。
人当たりが良く人の懐に入るのが上手い善人だが、利益が絡むと急に腹の内が読めなくなるタイプの遣り辛い相手。
そんな印象を持っているので多少の警戒心を持って面会に当たっていたのだが。
「実はヤーサンの街の傍に染肌色の、ピンク色と言うそうなのですが。ピンク色の塔が出現しまして。これがもう凄いのなんのって」
楽し気に。
そして何処か自慢気に。
何の商売っ気も無しに流暢に語り始めたタスケ。
身振り手振りを交えて話すタスケの動きは貴族相手と考えれば少々目に余る立ち振る舞いだが。
身分を振り翳すタイプではないフォルカーは然程気にすることは無く。
どうやら単に自慢話をしに来ただけなのかと肩の力を抜いたフォルカー。
それにタスケの話す内容はフォルカーにとって非常に興味をそそられる内容であった。
曰く、この世界の何処を探しても味わえない素敵な体験が出来る。
曰く、貴族のパーティーでも食べられない珍しい料理が味わえる。
曰く、まるで夢の様な空間で贅沢な時間を過ごす事が出来る。
「あの塔はダンジョンなのですけれどね。普通のダンジョンとはまるで違っていまして」
サラッととんでもない事を言い出したタスケ。
フォルカーも森の中に突然塔が現れたとか聞いて、『あれ?それってもしかしてダンジョンじゃね?』と思いはしたが敢えて口にはしなかったのだ。
ダンジョンとは多くの魔物がいて罠があり、宝を求めて冒険者が潜る場所であるとの常識があったから。
戦闘能力の無い一介の商人が入れば簡単に死んでしまう様な場所だから。
武に自信のあるフォルカーは貴族家の当主となる前に冒険者としてダンジョン潜った経験があったが。
予想外の場所から魔物が現れたり不意に出現した魔物に背後を取られたりと足手纏いの商人を引き連れて入る様な場所ではないと知っている。
それも。
「私は妻と娘を連れて三人で訪れる事が多いのですがね」
護衛の冒険者では無く家族を連れてダンジョンの中に入っているのだと言う。
暫く会っていない間にタスケは物凄く強くなっていたのだろうか?
いや、そんな風には見えない。
どう見ても単なる腹の出た中年だ。
「一つ聞いて良いだろうか?」
流暢と言うか早口で、延々と続くタスケの話に口を挟み。
「はい、勿論です。料金システムについてでしょうか?」
全く以て見当違いな事を言い出したタスケに。
以前に感じていた遣り手商人の印象が音を立てて崩れ去ったタスケに。
「言い方は悪いが戦闘の素人が入って危険は無いのか?」
気になって気になって仕方の無い事柄について質問をした。
すると。
「全く問題ございません。あ、私アンデッドになったとか操られているとかはありませんよ。寧ろ体の悪い所が治って前より随分と健康になりました」
確かに。
言われてみれば肌艶が良いし。
いや、異常に良いし。
大して興味は無いが髪もふんわりツヤツヤとしている。
どこからどうみてもアンデッドには見えないし。
洗脳されている者は以前に何人も見てきたが、そういった印象も無い。
只々楽し気で言葉が止まらないだけである。
それでも充分におかしいと言えばおかしいのだが。
「妻と娘も見違える程に美しくなりましたよ」
「それについて詳しく聞かせて貰おうか」
フォルカーは愛妻家で有名だ。
それは10人以上もいる側室に対しても同様であり。
妻と娘が綺麗になったと伝えれば、必ず興味を示すだろうとタスケは確信していた。
そこに至るまでの助走が尋常じゃなく長かったのは単にラブホテルについて語り出したら口が回りに回って止まらなくなってしまったからである。
タスケはフォルカーに詳しい話を伝えて。
折角来たついでにフォルカー領の特産品を仕入れてヤーサンの街へと帰って行った。
数日後。
ピンク色の塔の前に一台の馬車が停まった。
それは見るからに貴族の乗る馬車であり。
数人の騎士が付いている事からも中にいるのが貴族であると容易に想像出来た。
その物々しい雰囲気に塔を訪れた者達は遠目から様子を見守る。
なんて事はせずにさっさと入口の扉を開けて中へと入って行ったのであった。
「何かフロントが物騒じゃない?」
マスタールームでフロントの様子を視聴していたアイトはほんの僅かな異変に気が付いた。
何となく。
何となくだが侵入者の肉体的な強さを数値化した単位、パウが高めの者が何人も入店している。
しかも全員レザーアーマーを着て武装しているのだから、どう見たって物騒である。
そして武装した者達の後から入って来たのが白髪混じりの中年男性と娘と言うよりは孫と言った方が正しいと思われるスタイルの良い金髪の美少女。
美少女の方は派手ではないが空色のドレスを着ていて可憐な印象がある。
何よりも驚くべきは、その美少女が中年男性にべったりとくっ付いている事だ。
あれは誰がどう見たってリア充のみに許されたあれである。
「私が行って殲滅してきましょうか」
物凄く物騒な事を言うヒショに。
「強そうな客が来たら殲滅を検討する思想やめようね!?取り敢えず様子見でいこう。防犯面は強化したから大丈夫だろうし」
アイトの言う通り、客の増加に伴ってフロントの防犯対策は強化した。
具体的に言うとスタッフのプライバシーを守る目的のすりガラスに加えて防弾ガラスを設置して外からの攻撃を防げる仕様になっている。
防弾ガラスには声が通る用の小さな穴あって、手元にはウェルカムドリンクなどを渡す時の為に隙間が開けてある。
なので現在はラブホテルの受付ではなく動物園や美術館の券売所の様になっていて、アイト的には違和感しかないのだが、外の世界の住人からすれば動物園?何それ美味しいの?状態なので一切の違和感なく受け入れられている。
「ミーアの見解を聞いてみたいな。もしもし?ちょっとマスタールームに来んしゃい。今良い所?ゲームばっかりやってないで少しは外に出なさい!貴女部屋に戻ってからずーっとゲームやってるでしょう!昼ご飯早く食べちゃいなさい!」
まるで口煩い母親でも乗り移ったかのようなアイトの呼び出しに渋々応じてマスタールームへやって来たミーア。
「なんっすかもう。漸く3面クリア出来たんすよ。もしもし。ヤマオカさんっすか?カレー一人前お願いするっす。あと部屋に持って帰るんで食後にポテトチップスも」
ミーアは文句を言いつつ早く食べられるからと言ってヘビロテしているカレーを注文してソファーに座った。
そしてテレビモニターに目を向けて。
「あーなるほどっすね。これお忍びで来た貴族っすよ多分。それか成金の商人っすけど。多分貴族の方っす。商人にしては女の人の身形が良過ぎるっすもん。護衛の装備品が揃ってるのも貴族っぽいっす」
客の身分を的確に言い当てたミーア。
部屋に引き籠ってスーパー鞠男ばっかりやっているが、ミーアは貴族からの依頼も何度か受けた事がある有能な冒険者なのだ。
今や肩書に元、は付いてしまうのだが。
「これの何処が忍んでんの?」
何人も護衛を引き連れて何処が忍んでいるのかと。
アイトの疑問は最もだが。
ミーアはこれでも忍んでいるのだと言う。
「それで、私が行って殲滅して来ましょうか?」
相変わらず物騒な事を言うヒショに対し。
「いやー。確かにそれが一番早いっすけどね。普通に利用させて普通に帰すのが良いと思うっす。誰かからの口コミを聞いて来たなら特別な事をする必要も無いと思うっすよ」
意外にも的確なアドバイスをしたミーアは。
話は終わったとばかりに立ち上がって自分の部屋へと戻って行った。
「取り敢えずステイ!」
アイトはミーアの言葉から方針を決めて、暫くは様子を見る事に決めてテレビモニターに齧り付いた。
物理的に。
「うむ、久しいな。して、ヤーサンの商人が態々会いたいとはどんな用向きだろうか?」
ラブホテルの常連となってから一月と少し。
こっそりとオーナーから宣伝部長と呼ばれている商人のタスケはとある人物の下を訪れていた。
ガッシリとした体躯に口ひげをたっぷりと蓄えたその人物の名はフォルカー・エライマン。
エライマン伯爵家の当主様である。
フォルカーは若かりし頃は数々の武功を上げ。
それはもう勢い付いていたものだが、ここ数年はその勢いも鳴りを潜めている。
既に年齢は50代となり。
快活な印象だった赤毛の髪には白髪が増えて、気強そうだった彫りの深い顔も何処か自信無さげに見える。
まだまだ経験が不足していて心配な息子に当主を譲って隠居しようかと考える程度には自らの衰えを感じていた。
タスケとは以前にパーティーで知り合い。
何度か妻のドレスを仕立てて貰った関係性である。
自領の商人と比べれば薄い繋がりなのだが。
それが数日前に手紙が来て、会って話をしたい事があると面会を求めて来たのだから何と無しに興味を持ったフォルカーは予定を開けて面会を許可した。
そして今、エライマン領の領都にある屋敷で二人は向かい合っているのである。
「実はフォルカー様のお耳に入れておきたい情報がございまして」
「ほう。何だろうか?」
何度も会った訳では無いが、フォルカーの印象ではタスケはやり手の商人である。
人当たりが良く人の懐に入るのが上手い善人だが、利益が絡むと急に腹の内が読めなくなるタイプの遣り辛い相手。
そんな印象を持っているので多少の警戒心を持って面会に当たっていたのだが。
「実はヤーサンの街の傍に染肌色の、ピンク色と言うそうなのですが。ピンク色の塔が出現しまして。これがもう凄いのなんのって」
楽し気に。
そして何処か自慢気に。
何の商売っ気も無しに流暢に語り始めたタスケ。
身振り手振りを交えて話すタスケの動きは貴族相手と考えれば少々目に余る立ち振る舞いだが。
身分を振り翳すタイプではないフォルカーは然程気にすることは無く。
どうやら単に自慢話をしに来ただけなのかと肩の力を抜いたフォルカー。
それにタスケの話す内容はフォルカーにとって非常に興味をそそられる内容であった。
曰く、この世界の何処を探しても味わえない素敵な体験が出来る。
曰く、貴族のパーティーでも食べられない珍しい料理が味わえる。
曰く、まるで夢の様な空間で贅沢な時間を過ごす事が出来る。
「あの塔はダンジョンなのですけれどね。普通のダンジョンとはまるで違っていまして」
サラッととんでもない事を言い出したタスケ。
フォルカーも森の中に突然塔が現れたとか聞いて、『あれ?それってもしかしてダンジョンじゃね?』と思いはしたが敢えて口にはしなかったのだ。
ダンジョンとは多くの魔物がいて罠があり、宝を求めて冒険者が潜る場所であるとの常識があったから。
戦闘能力の無い一介の商人が入れば簡単に死んでしまう様な場所だから。
武に自信のあるフォルカーは貴族家の当主となる前に冒険者としてダンジョン潜った経験があったが。
予想外の場所から魔物が現れたり不意に出現した魔物に背後を取られたりと足手纏いの商人を引き連れて入る様な場所ではないと知っている。
それも。
「私は妻と娘を連れて三人で訪れる事が多いのですがね」
護衛の冒険者では無く家族を連れてダンジョンの中に入っているのだと言う。
暫く会っていない間にタスケは物凄く強くなっていたのだろうか?
いや、そんな風には見えない。
どう見ても単なる腹の出た中年だ。
「一つ聞いて良いだろうか?」
流暢と言うか早口で、延々と続くタスケの話に口を挟み。
「はい、勿論です。料金システムについてでしょうか?」
全く以て見当違いな事を言い出したタスケに。
以前に感じていた遣り手商人の印象が音を立てて崩れ去ったタスケに。
「言い方は悪いが戦闘の素人が入って危険は無いのか?」
気になって気になって仕方の無い事柄について質問をした。
すると。
「全く問題ございません。あ、私アンデッドになったとか操られているとかはありませんよ。寧ろ体の悪い所が治って前より随分と健康になりました」
確かに。
言われてみれば肌艶が良いし。
いや、異常に良いし。
大して興味は無いが髪もふんわりツヤツヤとしている。
どこからどうみてもアンデッドには見えないし。
洗脳されている者は以前に何人も見てきたが、そういった印象も無い。
只々楽し気で言葉が止まらないだけである。
それでも充分におかしいと言えばおかしいのだが。
「妻と娘も見違える程に美しくなりましたよ」
「それについて詳しく聞かせて貰おうか」
フォルカーは愛妻家で有名だ。
それは10人以上もいる側室に対しても同様であり。
妻と娘が綺麗になったと伝えれば、必ず興味を示すだろうとタスケは確信していた。
そこに至るまでの助走が尋常じゃなく長かったのは単にラブホテルについて語り出したら口が回りに回って止まらなくなってしまったからである。
タスケはフォルカーに詳しい話を伝えて。
折角来たついでにフォルカー領の特産品を仕入れてヤーサンの街へと帰って行った。
数日後。
ピンク色の塔の前に一台の馬車が停まった。
それは見るからに貴族の乗る馬車であり。
数人の騎士が付いている事からも中にいるのが貴族であると容易に想像出来た。
その物々しい雰囲気に塔を訪れた者達は遠目から様子を見守る。
なんて事はせずにさっさと入口の扉を開けて中へと入って行ったのであった。
「何かフロントが物騒じゃない?」
マスタールームでフロントの様子を視聴していたアイトはほんの僅かな異変に気が付いた。
何となく。
何となくだが侵入者の肉体的な強さを数値化した単位、パウが高めの者が何人も入店している。
しかも全員レザーアーマーを着て武装しているのだから、どう見たって物騒である。
そして武装した者達の後から入って来たのが白髪混じりの中年男性と娘と言うよりは孫と言った方が正しいと思われるスタイルの良い金髪の美少女。
美少女の方は派手ではないが空色のドレスを着ていて可憐な印象がある。
何よりも驚くべきは、その美少女が中年男性にべったりとくっ付いている事だ。
あれは誰がどう見たってリア充のみに許されたあれである。
「私が行って殲滅してきましょうか」
物凄く物騒な事を言うヒショに。
「強そうな客が来たら殲滅を検討する思想やめようね!?取り敢えず様子見でいこう。防犯面は強化したから大丈夫だろうし」
アイトの言う通り、客の増加に伴ってフロントの防犯対策は強化した。
具体的に言うとスタッフのプライバシーを守る目的のすりガラスに加えて防弾ガラスを設置して外からの攻撃を防げる仕様になっている。
防弾ガラスには声が通る用の小さな穴あって、手元にはウェルカムドリンクなどを渡す時の為に隙間が開けてある。
なので現在はラブホテルの受付ではなく動物園や美術館の券売所の様になっていて、アイト的には違和感しかないのだが、外の世界の住人からすれば動物園?何それ美味しいの?状態なので一切の違和感なく受け入れられている。
「ミーアの見解を聞いてみたいな。もしもし?ちょっとマスタールームに来んしゃい。今良い所?ゲームばっかりやってないで少しは外に出なさい!貴女部屋に戻ってからずーっとゲームやってるでしょう!昼ご飯早く食べちゃいなさい!」
まるで口煩い母親でも乗り移ったかのようなアイトの呼び出しに渋々応じてマスタールームへやって来たミーア。
「なんっすかもう。漸く3面クリア出来たんすよ。もしもし。ヤマオカさんっすか?カレー一人前お願いするっす。あと部屋に持って帰るんで食後にポテトチップスも」
ミーアは文句を言いつつ早く食べられるからと言ってヘビロテしているカレーを注文してソファーに座った。
そしてテレビモニターに目を向けて。
「あーなるほどっすね。これお忍びで来た貴族っすよ多分。それか成金の商人っすけど。多分貴族の方っす。商人にしては女の人の身形が良過ぎるっすもん。護衛の装備品が揃ってるのも貴族っぽいっす」
客の身分を的確に言い当てたミーア。
部屋に引き籠ってスーパー鞠男ばっかりやっているが、ミーアは貴族からの依頼も何度か受けた事がある有能な冒険者なのだ。
今や肩書に元、は付いてしまうのだが。
「これの何処が忍んでんの?」
何人も護衛を引き連れて何処が忍んでいるのかと。
アイトの疑問は最もだが。
ミーアはこれでも忍んでいるのだと言う。
「それで、私が行って殲滅して来ましょうか?」
相変わらず物騒な事を言うヒショに対し。
「いやー。確かにそれが一番早いっすけどね。普通に利用させて普通に帰すのが良いと思うっす。誰かからの口コミを聞いて来たなら特別な事をする必要も無いと思うっすよ」
意外にも的確なアドバイスをしたミーアは。
話は終わったとばかりに立ち上がって自分の部屋へと戻って行った。
「取り敢えずステイ!」
アイトはミーアの言葉から方針を決めて、暫くは様子を見る事に決めてテレビモニターに齧り付いた。
物理的に。
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