異世界ダンジョン【ラブホテル】~ダンジョンマスターに転生したので異世界でラブホテル経営してみる。破茶滅茶転生者のちょっとエッチなスローライフ

伊瀬カイト

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ラブホテル in ヤーサン

商売の話をしようじゃないか②

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 とある商会の応接室。
 そこにいるのは二人の人物である。

 一人はこの商会で商会主をしているタスケ。
 もう一人はCランク冒険者パーティー蒼剣の誓いのリーダーネイトだ。
 通常は来客があればタスケの他にお茶汲みをする下働きがいるのだが、ネイトが人払いを要求してタスケが受け入れる形で部屋の中は二人きりになっている。
 これから二人のラブロマンスが始まる可能性は、、、残念ながらほぼ0だろう。
 人生は何が起こるかわからないので絶対に無いとは言い切れないが。

「ラブホテルで提供されているフルーツですか?」

「ああ。タスケさんは食べた事があるかな?」

「ええ。とても甘くて美味しいですよね。行くたびに注文しますが妻も娘も大好きですよ」

「それなら良かった。実はだな。落ち着いて聞いて欲しい事があるんだが」

「落ち着いてですか?私はこれでも商人として生きて来ましたからね。ちょっとやそっとの事では驚きませんし、どんな話だとしても顔色一つ変えずに聞いてみせましょう」

 タスケの言葉に。

「そうだよな。失礼な事を言ってしまった。すまない」

 ネイトは申し訳なさそうに。
 けれども少し安心した様子を見せた。
 自分はその話を聞いた時、相当に驚いて取り乱してしまったのだ。
 しかし百戦錬磨の商人であるタスケであれば少しも心を乱す事はないのだろう。

 正直に言えば、今でもネイトからすれば現実感のない話なのだ。
 しかしタスケにとってみればそんなものは些事なのだろう。
 だからネイトは安心してタスケに伝える。
 ある人物から依頼された内容を。

「実はラブホテルのオーナーさんから、フルーツ盛りとして出している果物も含めた作物を適切な価格で買い取ってくれる商人を探しているらしいんだ」

「なぁぁんですとぉぉぉおお!?!?!?!!!?」

 ネイトの言葉を聞いて椅子から飛び上がったタスケ。
 どう見ても錯乱状態でメンタルぐっちゃぐちゃである。
 ネイトはそんなタスケを見て。
 『うん、まあそうなるよね』と内心でタスケに理解を示したのであった。

 話の内幕はこうである。

 時間は少し遡って今朝の事。

 近頃心身共に漲っていて。
 時間が短くて実入りの良い依頼を中心に熟していた蒼剣の誓いは、金が貯まったので今日からの5日間を完全休養と決めた。
 冒険者はランクが上がれば一般的な仕事と比べて稼げる職業だが、常に死と隣り合わせの危険な職業でもある。
 そんな仕事を毎日毎日続けていれば精神が擦り減ってしまい、人によっては精神を病んで廃業する者も多い。
 廃業までいかなくとも精神を病めば冒険者にとって重要な平常心を保てずに怪我が増えたり、最悪の場合は魔物にやられて死ぬ事だってある。
 故に冒険者はしっかりと休んでリフレッシュをする必要があるのだ。
 蒼剣の誓いはその辺りをしっかりと弁えていて、金が貯まれば休みを取る。

 だってラブホテルに通いたいから。

 毎日のラブホテル通いは冒険者として上位ランクに位置するCランクパーティーであってもそれなりに痛いのだ。
 ラブホテルに通う為の金が無くなりつつあったから必死で依頼を熟したのに、依頼に追われてラブホテルに通えないとか目的と手段を見誤っているとしか言えない。

 故に蒼剣の誓いはしっかりと休むし。
 しっかり以上にラブホテルに通うのだ。

 そうして朝も早くからラブホテルへと訪れたネイト。
 パーティーメンバーのニックは後でマシマシオーク亭のプニータと来るのだろうし。
 モルトとルイスは午後から派だ。
 なのでパーティーメンバーとは顔を合わせる事無くネイトはラブホテルを利用出来る。

 入口の扉を開けて中に入ると、いつもいる店員が今日もフロントに立っていた。
 このラブホテルは普通の宿屋と同じ意味でも違った言葉を使うものが幾つもある。

 受付はフロントだし染肌色はピンク色だ。
 ネイトは何度もラブホテルに通っているのでそう言った言葉も覚えてしまった。
 最早ベテランラブホテルフリークと言っても過言では無いだろう。

 ネイトが初めて調査に訪れた時には誰も足を踏み入れた事のなかったラブホテルも。
 今やフロントには常に他の客がいるくらいに人気の宿となった。

 自分と同じで一人の者も二人で来ている者もいる。
 ラブホテルの設備とサービスを考えれば必然と言って良い繁盛ぶりなのだが。
 出現したての頃を知っている身としては何だか感慨深い。
 ネイトはそんな風に思考を巡らせながら自分の受付の番を待っていた。

 5分少々経ち、ネイトの番がやって来た。
 丁度客が途切れたのでフロントにはネイトといつもの女店員の二人である。

 ネイトは女店員の前に移動して「ランクEを休憩で」と美しい流れで受付を済ませようとしたのだが。
 タイミング悪くフロントの電話が鳴ってしまった。
 客が前にいる時には電話を無視をする女店員だが。
 何かブンブン鳴っている。
 今回はいつもと鳴っている音が違うので何か意味があるのだろう。

 ベテランラブホテルフリークだからこそ出来る気遣いで電話を取る事を促したネイト。
 女店員はすりガラス越しに会釈をして受話器を上げた。

「え!?はい。わかりました」

 女店員は驚き混じりの声を上げると。

「うちのオーナーがお客さんと話がしたいって言ってるんですけど、電話を代わって貰えますか?」

 あまりにも予想外の言葉が女店員の口から零れたのであった。

 はっきり言ってラブホテルのオーナーには興味がある。
 こんなにも夢に溢れた素晴らしい空間を作り出したのが一体どんな人物なのか。
 そもそも人物なのかどうかは疑わしいが。
 どんな発想を持っていて、どんな話をするのか。
 非常に興味はあるのだが。

 ネイトは早く部屋に入って一人遊びがしたかった。
 だって昨日は時間が無くて1時間しかいられなかったから。

 悩んで悩んで。
 悩みに悩んで悩みまくって。
 漸く決断をしたネイトは女店員から受話器を受け取った。

「もしもし」

 ネイトは既に何度も料理を注文しているので、電話を取った時には“もしもし”という挨拶から入る事を知っている。
 ネイトの挨拶は受話器の向こう側にいるオーナーに伝わっている筈である。
 しかし。

「簡潔に用件だけ伝える」

 オーナーはもしもしを返さない。
 ネイトは何か間違えているのだろうかと焦る気持ちに襲われる。
 しかも電話越しに聞こえるオーナーの声は今までに聞いた事も無い、人なのか魔物なのかも判別出来ない独特な声をしているのだから恐ろしい。

「俺はラブホテルのオーナーだ。君は冒険者だと聞いている。そんな君を見込んでオーナーから依頼をしたい。」

 何度か女店員の口から聞かれていた“オーナー”と言うのは、どうやら役職では無く人物名だったらしい。
 ネイトは勘違いを恥じ。
 それ以上にオーナーから自分に依頼をしたいという言葉に驚き、言葉を失った。
 “オーナー”は役職だから恥じる必要は何処にも無いのだが。

「ま、待って下さい。冒険者に依頼を出す場合は冒険者ギルドを通して貰わないと困ります」

 呆気に取られていたが、どうにか気を取り直して言葉を絞り出したネイト。
 この後、客室に入って別のものを搾り出そうと思っていたのにまさかの絞り出し被りだ。
 ネイトは被っていないが被ったのだ。
 本人の名誉の為にもネイトは被ってはいないが。

 普段は他人から舐められない様に誰に対してもタメ口のネイトが敬語を使っているのは念の為だ。
 得体の知れないオーナーに対しては出来るだけ刺激しない方が良いとの判断だ。

 そして冒険者として。
 世話になっている冒険者ギルドへの不義理は絶対に出来ないので依頼はギルドを通して欲しいと説明しようとしたのだが。

「それについては聞いている。冒険者ギルドを通さずに個人的な依頼で金を受け取るのは拙いのだろう。だから俺は金では無く君が欲しがりそうな物を報酬として用意する事にした」

「欲しがりそうな物、ですか?」

 ネイトはオーナーの言葉を推察する。
 ネイトは間違いなくオーナーと会ったことは無い。
 こんな声の相手に会っていたとしたら忘れる筈が無い。
 だからネイトが欲しがる物をオーナーが知っているとは思えない。

 あるとすれば身に着けている装備よりも良い装備とかだろうか。

 そう予想をしたネイトに。

「ランクAまでの部屋を無料で一日利用出来るタダ券だ」

「やります!例えどんな依頼でも!」

 ネイト、即落ちである。

 その後、オーナーから依頼の内容を確認。
 達成可能と思われる内容だったので依頼を受諾した。
 そしてランクEの部屋で2時間一人遊びをしてから。
 しっかりと洗面所で手を洗ってから。
 ネイトはタスケの元を訪れたのであった。

 因みに。

 ネイトが一人遊びに向かった後のフロントにて。
 エマはアイトに内線を掛けた。

「もしもしオーナー?どんな話だったんですか?」

 急に客と話したいと言い出したアイトがネイトと何を話したのか気になっていたのだ。

「農園の作物を買い取ってくれる商人を」

「オーナー!ボイスチェンジャー使わないで下さいよ!その声ちょっと吃驚するんですよ!」

「わっはっは!良いではないか良いではないか!減る物でもあるまいし!」

 どうやらアイトはボイスチェンジャーを使って前世のテレビで良く聞いたプライバシー保護の為に声を変えた証言者の声になっていた様であった。
 ネイトが人か魔物かわからないと言うのも納得である。
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