2 / 29
第1話 ハゲエルフ
しおりを挟む
ここは人間の生息域と魔族の生息域を隔てる大魔樹林。数多くの魔物が生息し、人が足を踏み入れない未踏の地と呼ばれる森の中央部。
そんな危険地帯の崖の上、一人の男が座禅を組んでいる。
男の名はハーゲルン。
凡そこの世のものとは思えない程に見目麗しいエルフの男である。
ハーゲルンは瞼を閉じ、そよ風程の揺らぎすら感じさせない穏やかな心で、人の身で到達するのが不可能とも言える無の境地へと達しようとしていた。
全ての欲を捨て、全ての穢れを祓い、まるでそこにあってもそこにない、空気に溶け込んでしまったかのように、自然と一体となり、そこにある。
ハーゲルンは土や石や草花や木々の如く、完全に森の一部となり、歴史上存在したエルフ達が到達し得なかった、無欲の高みへと到達したのであった。
そして今…。
「何故だ…。何故禿げた…。何故禿げたんだ…」
ハーゲルンは自問自答を繰り返していた。
トークテーマは、自身の禿げについてである。
「30歳を過ぎて抜け毛が増えた辺りから、もしや…と思ってはいたんだ。しかし、エルフは禿げないって常識があったから特にヘアケアに力を入れなかったんだ。もしもあの時、ヘアケアを始めていたら俺の髪は救われたのか…?いいや、それは考えにくい。ヘアケアをした所で、ほんのちょっぴり毛根の寿命が伸びるだけ。精々5年もしたら禿げてただろう。つまり俺は禿げる運命だったんだ。運命なのだから、恥じる必要はない。憂う必要も悲しむ必要もない。ただ禿げたという事実だけを認め、受け止め、そしてありのままを受け入れれば良いんだ。そうだ。そうに決まっている」
空飛ぶ魔物同士が争い合い、地上では大岩同士がぶつかり合ったような轟音が聞こえる中。ぶつぶつと自らに問い掛け、答えを導き出したハーゲルンは、瞼を閉じて、色すら存在しない無で心を染めた。
こうなったハーゲルンは、どんな雑音が耳に入ろうとも動じない。完全な無であり、まるで土や石や草花や木々のように、ただそこにあって森の一部として完全に溶け込むのである。
「何故禿げた」
全然無じゃなかった。滅茶苦茶に雑念が入っていた。
しかし、自らを禿げと蔑むハーゲルンに異を唱える者が現れた。
それは目には見えないが、確かにそこに存在している。
『貴方は禿げてなんかいないわ。ちょっぴり髪の毛が少ないだけよ』
「え…。そうなのか…?」
ハーゲルンは耳元で囁かれる幼女のような声に耳を傾ける。
『そうだよ。君は少しも禿げてない。自信を持って』
「そう…なのだろうか…?」
今度は年端もいかない少年の声で囁きが聞こえた。
『そちは完全にふさふさじゃ。禿げだなどと世迷いごとを言うでない』
「そうか…。そうだよな」
今度は艶っぽい大人の囁きが聞こえ、ハーゲルンは胸のつっかえがとれたスッキリした表情を浮かべた。
自分は禿げじゃなかった。
そう納得して、ハーゲルンは自らの頭を両手で入念に確認する。
「禿げてるじゃないか!完全に禿げてるじゃないか!髪の一本もありはしないじゃないか!」
『『『『『あははははは!』』』』』
ハーゲルンの周囲で至る所から聞こえる笑い声。
エルフだけが会話を許された精霊と呼ばれる存在は、禿げネタが大好物である。
そんな危険地帯の崖の上、一人の男が座禅を組んでいる。
男の名はハーゲルン。
凡そこの世のものとは思えない程に見目麗しいエルフの男である。
ハーゲルンは瞼を閉じ、そよ風程の揺らぎすら感じさせない穏やかな心で、人の身で到達するのが不可能とも言える無の境地へと達しようとしていた。
全ての欲を捨て、全ての穢れを祓い、まるでそこにあってもそこにない、空気に溶け込んでしまったかのように、自然と一体となり、そこにある。
ハーゲルンは土や石や草花や木々の如く、完全に森の一部となり、歴史上存在したエルフ達が到達し得なかった、無欲の高みへと到達したのであった。
そして今…。
「何故だ…。何故禿げた…。何故禿げたんだ…」
ハーゲルンは自問自答を繰り返していた。
トークテーマは、自身の禿げについてである。
「30歳を過ぎて抜け毛が増えた辺りから、もしや…と思ってはいたんだ。しかし、エルフは禿げないって常識があったから特にヘアケアに力を入れなかったんだ。もしもあの時、ヘアケアを始めていたら俺の髪は救われたのか…?いいや、それは考えにくい。ヘアケアをした所で、ほんのちょっぴり毛根の寿命が伸びるだけ。精々5年もしたら禿げてただろう。つまり俺は禿げる運命だったんだ。運命なのだから、恥じる必要はない。憂う必要も悲しむ必要もない。ただ禿げたという事実だけを認め、受け止め、そしてありのままを受け入れれば良いんだ。そうだ。そうに決まっている」
空飛ぶ魔物同士が争い合い、地上では大岩同士がぶつかり合ったような轟音が聞こえる中。ぶつぶつと自らに問い掛け、答えを導き出したハーゲルンは、瞼を閉じて、色すら存在しない無で心を染めた。
こうなったハーゲルンは、どんな雑音が耳に入ろうとも動じない。完全な無であり、まるで土や石や草花や木々のように、ただそこにあって森の一部として完全に溶け込むのである。
「何故禿げた」
全然無じゃなかった。滅茶苦茶に雑念が入っていた。
しかし、自らを禿げと蔑むハーゲルンに異を唱える者が現れた。
それは目には見えないが、確かにそこに存在している。
『貴方は禿げてなんかいないわ。ちょっぴり髪の毛が少ないだけよ』
「え…。そうなのか…?」
ハーゲルンは耳元で囁かれる幼女のような声に耳を傾ける。
『そうだよ。君は少しも禿げてない。自信を持って』
「そう…なのだろうか…?」
今度は年端もいかない少年の声で囁きが聞こえた。
『そちは完全にふさふさじゃ。禿げだなどと世迷いごとを言うでない』
「そうか…。そうだよな」
今度は艶っぽい大人の囁きが聞こえ、ハーゲルンは胸のつっかえがとれたスッキリした表情を浮かべた。
自分は禿げじゃなかった。
そう納得して、ハーゲルンは自らの頭を両手で入念に確認する。
「禿げてるじゃないか!完全に禿げてるじゃないか!髪の一本もありはしないじゃないか!」
『『『『『あははははは!』』』』』
ハーゲルンの周囲で至る所から聞こえる笑い声。
エルフだけが会話を許された精霊と呼ばれる存在は、禿げネタが大好物である。
11
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
スーパーのビニール袋で竜を保護した
チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。
見つけ次第、討伐――のはずだった。
だが俺の前に現れたのは、
震える子竜と、役立たず扱いされたスキル――
「スーパーのビニール袋」。
剣でも炎でもない。
シャカシャカ鳴る、ただの袋。
なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。
討伐か、保護か。
世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。
これは――
ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる