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第2話 ハゲエルフは森の主
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人間の生息域と魔族の生息域を隔てる大魔樹林。大魔樹林 には多くの魔物が生息しており、中央部に近付く程に魔物の脅威は大きくなる。
そんな大魔樹林に、主と言える存在が生息しているのを知る者は少ない。その主とは…。
何を隠そう禿げ…ハーゲルンである。
「今、禿げって言った?言ったよな?」
言ってません。
何故だか禿げに対しては異様に敏感なハーゲルンは、今日も座禅を組んで精神統一を行っている。
「風の精霊」
『何だい?』
ハーゲルンが虚空に向かって呼び掛けると、無邪気な少年のような声が返ってきた。それは目に見えないが、確かに存在しているもの。クリンとしたミント色の髪を持つ精霊である。
瞳もミント色。羽衣もミント色。肌の色は白に近い肌色と、途轍もなく目に優しい見た目の小さな少年が、ふよふよと浮かびながら空中涅槃菩薩の構えを取る。
その姿は、まるで煎餅を齧りながら昼ドラを見る主婦の様だ。
「俺は一つの境地に到達したんだ」
『へぇ!一体どんなだい!?』
声は興味深げで弾んでいるが、風の精霊は涅槃菩薩の構えを崩さない。ハーゲルンのこの手の発言は、ここ100年間で何万回と聞いてきたからだ。
つまり風の精霊のリアクションは、半分付き合いみたいなものである。
「禿げを隠して引き籠もっていても、何も始まらない。このまま老いて、死ぬだけだ。禿げが気にならなくなる程の無の境地を目指すにしても、エルフの寿命は長過ぎる」
エルフの寿命は300年とも500年とも1000年とも言われている。実際に1000歳まで生きたエルフは確認されていないが、その代わりに寿命で死んだエルフも存在しない。人や魔物と戦ったり、流行り病に掛かったり、長い時を生きる分、寿命を迎える前に他の要因で死んでしまうからだ。
因みに最も多い死因は食べられないと言われている木の実や茸、動物や魔物を食べての食中毒である。長き時を生きるエルフは、多くが新しい知識に対する欲求が強い。故に食べられるか食べられないかわからない物を平気で口にする。食べちゃ駄目と言われると食べちゃう。普通では満足出来なくなって刺激を求めちゃうのだ。
人は終のエルフを馬鹿と呼ぶ。
ハーゲルンは言葉を続ける。
「自死を選ぶつもりのない俺は、きっと簡単には死なないだろう。禿げようと、禿げまいと、俺は長き時を生きる事になる。きっと他のどんなエルフよりも長き時を」
これは真理である。ハーゲルンは大魔樹林の中央部で100年間、怪我無く生きてきた実績がある。
「毛が無いって言った?言ったよな?」
今回は本当に言ってません。
兎に角、ハーゲルンは強大な魔物が生息する場所で平然と過ごしているのだ。人間もいないので、人から人へと感染する感染症に罹る心配も無い。食に関しても積極的に開拓を進めるチャレンジャーではないので、食中毒も考え辛い。
故にこのまま生きていれば、余程の事態に見舞われない限りハーゲルンは、どのエルフよりも長く生きるだろう。
生涯を掛けて何故禿げたのだと自問自答を繰り返しながら。
ハーゲルンは言葉を続ける。
「俺は自分が禿げた理由を考えていた。禿げないエルフが禿げた理由を。無毛症を疑ったこともあるが、眉毛も睫毛も抜けていないのだから、それはない。純粋な禿げ。そう、俺は純粋な禿げなんだ」
髪が抜ける原因は様々ある。しかし、髪だけが完全に無くなるのは純然たる禿げである。サイドもバックも完全に抜けるのは不自然ではあるが、純粋な禿げという言葉に間違いはない。
「異世界に転生しても禿げかよと思った。エルフになっても若禿げかよとも思った。けれど、この禿げにもしも意味があるのだとしたら。この禿げが俺を転生させてくれた何者かの意志なのだとしたら。俺がすべき事は一つだ」
ハーゲルンは自らの禿げ頭の様にスッキリとした表情で空を見上げた。柔らかな太陽の光が禿げ頭を照らしてキラリと光る。
「禿げにとって住みやすい場所を、禿げである事を誇れる場所を作るぞ。この大魔樹林は人種族も魔族も住まない未開の地。ここに俺は禿げの国を、禿げ達の楽園を作ってみせる。どうだ?風の精霊も手伝ってくれるか?」
強い決意を秘めた眼差しで未来を見据えたハーゲルンは、風の精霊に問い掛ける。大魔樹林を開拓して国を興す。そんな荒唐無稽な言葉を現実にするには、精霊の手助けが必要だ。
多くの精霊に愛されるハーゲルンの頼みとあれば、彼の望みを叶えるのに力を貸すのは当然だろう。何よりも精霊は禿げネタが大好物。全ての禿げがその地を目指す、禿げの楽園構想に乗らない筈が無いのだ。
…
……
………
ハーゲルンはまんじりとも動かず日が暮れるまで待ってみたが、精霊からの反応は無かった。
気紛れな精霊は小難しい話が苦手である。
そんな大魔樹林に、主と言える存在が生息しているのを知る者は少ない。その主とは…。
何を隠そう禿げ…ハーゲルンである。
「今、禿げって言った?言ったよな?」
言ってません。
何故だか禿げに対しては異様に敏感なハーゲルンは、今日も座禅を組んで精神統一を行っている。
「風の精霊」
『何だい?』
ハーゲルンが虚空に向かって呼び掛けると、無邪気な少年のような声が返ってきた。それは目に見えないが、確かに存在しているもの。クリンとしたミント色の髪を持つ精霊である。
瞳もミント色。羽衣もミント色。肌の色は白に近い肌色と、途轍もなく目に優しい見た目の小さな少年が、ふよふよと浮かびながら空中涅槃菩薩の構えを取る。
その姿は、まるで煎餅を齧りながら昼ドラを見る主婦の様だ。
「俺は一つの境地に到達したんだ」
『へぇ!一体どんなだい!?』
声は興味深げで弾んでいるが、風の精霊は涅槃菩薩の構えを崩さない。ハーゲルンのこの手の発言は、ここ100年間で何万回と聞いてきたからだ。
つまり風の精霊のリアクションは、半分付き合いみたいなものである。
「禿げを隠して引き籠もっていても、何も始まらない。このまま老いて、死ぬだけだ。禿げが気にならなくなる程の無の境地を目指すにしても、エルフの寿命は長過ぎる」
エルフの寿命は300年とも500年とも1000年とも言われている。実際に1000歳まで生きたエルフは確認されていないが、その代わりに寿命で死んだエルフも存在しない。人や魔物と戦ったり、流行り病に掛かったり、長い時を生きる分、寿命を迎える前に他の要因で死んでしまうからだ。
因みに最も多い死因は食べられないと言われている木の実や茸、動物や魔物を食べての食中毒である。長き時を生きるエルフは、多くが新しい知識に対する欲求が強い。故に食べられるか食べられないかわからない物を平気で口にする。食べちゃ駄目と言われると食べちゃう。普通では満足出来なくなって刺激を求めちゃうのだ。
人は終のエルフを馬鹿と呼ぶ。
ハーゲルンは言葉を続ける。
「自死を選ぶつもりのない俺は、きっと簡単には死なないだろう。禿げようと、禿げまいと、俺は長き時を生きる事になる。きっと他のどんなエルフよりも長き時を」
これは真理である。ハーゲルンは大魔樹林の中央部で100年間、怪我無く生きてきた実績がある。
「毛が無いって言った?言ったよな?」
今回は本当に言ってません。
兎に角、ハーゲルンは強大な魔物が生息する場所で平然と過ごしているのだ。人間もいないので、人から人へと感染する感染症に罹る心配も無い。食に関しても積極的に開拓を進めるチャレンジャーではないので、食中毒も考え辛い。
故にこのまま生きていれば、余程の事態に見舞われない限りハーゲルンは、どのエルフよりも長く生きるだろう。
生涯を掛けて何故禿げたのだと自問自答を繰り返しながら。
ハーゲルンは言葉を続ける。
「俺は自分が禿げた理由を考えていた。禿げないエルフが禿げた理由を。無毛症を疑ったこともあるが、眉毛も睫毛も抜けていないのだから、それはない。純粋な禿げ。そう、俺は純粋な禿げなんだ」
髪が抜ける原因は様々ある。しかし、髪だけが完全に無くなるのは純然たる禿げである。サイドもバックも完全に抜けるのは不自然ではあるが、純粋な禿げという言葉に間違いはない。
「異世界に転生しても禿げかよと思った。エルフになっても若禿げかよとも思った。けれど、この禿げにもしも意味があるのだとしたら。この禿げが俺を転生させてくれた何者かの意志なのだとしたら。俺がすべき事は一つだ」
ハーゲルンは自らの禿げ頭の様にスッキリとした表情で空を見上げた。柔らかな太陽の光が禿げ頭を照らしてキラリと光る。
「禿げにとって住みやすい場所を、禿げである事を誇れる場所を作るぞ。この大魔樹林は人種族も魔族も住まない未開の地。ここに俺は禿げの国を、禿げ達の楽園を作ってみせる。どうだ?風の精霊も手伝ってくれるか?」
強い決意を秘めた眼差しで未来を見据えたハーゲルンは、風の精霊に問い掛ける。大魔樹林を開拓して国を興す。そんな荒唐無稽な言葉を現実にするには、精霊の手助けが必要だ。
多くの精霊に愛されるハーゲルンの頼みとあれば、彼の望みを叶えるのに力を貸すのは当然だろう。何よりも精霊は禿げネタが大好物。全ての禿げがその地を目指す、禿げの楽園構想に乗らない筈が無いのだ。
…
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ハーゲルンはまんじりとも動かず日が暮れるまで待ってみたが、精霊からの反応は無かった。
気紛れな精霊は小難しい話が苦手である。
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