ハゲエルフ~薄毛率0%のエルフなのに禿げた

伊瀬カイト

文字の大きさ
3 / 29

第2話 ハゲエルフは森の主

しおりを挟む
 人間の生息域と魔族の生息域を隔てる大魔樹林たいまじゅりん。大魔樹林 には多くの魔物が生息しており、中央部に近付く程に魔物の脅威は大きくなる。

 そんな大魔樹林に、主と言える存在が生息しているのを知る者は少ない。その主とは…。

 何を隠そう禿げ…ハーゲルンである。

「今、禿げって言った?言ったよな?」

 言ってません。

 何故だか禿げに対しては異様に敏感なハーゲルンは、今日も座禅を組んで精神統一を行っている。

「風の精霊」

『何だい?』

 ハーゲルンが虚空に向かって呼び掛けると、無邪気な少年のような声が返ってきた。それは目に見えないが、確かに存在しているもの。クリンとしたミント色の髪を持つ精霊である。

 瞳もミント色。羽衣もミント色。肌の色は白に近い肌色と、途轍もなく目に優しい見た目の小さな少年が、ふよふよと浮かびながら空中涅槃菩薩の構えを取る。

 その姿は、まるで煎餅を齧りながら昼ドラを見る主婦の様だ。

「俺は一つの境地に到達したんだ」

『へぇ!一体どんなだい!?』

 声は興味深げで弾んでいるが、風の精霊は涅槃菩薩の構えを崩さない。ハーゲルンのこの手の発言は、ここ100年間で何万回と聞いてきたからだ。

 つまり風の精霊のリアクションは、半分付き合いみたいなものである。

「禿げを隠して引き籠もっていても、何も始まらない。このまま老いて、死ぬだけだ。禿げが気にならなくなる程の無の境地を目指すにしても、エルフの寿命は長過ぎる」

 エルフの寿命は300年とも500年とも1000年とも言われている。実際に1000歳まで生きたエルフは確認されていないが、その代わりに寿命で死んだエルフも存在しない。人や魔物と戦ったり、流行り病に掛かったり、長い時を生きる分、寿命を迎える前に他の要因で死んでしまうからだ。

 因みに最も多い死因は食べられないと言われている木の実や茸、動物や魔物を食べての食中毒である。長き時を生きるエルフは、多くが新しい知識に対する欲求が強い。故に食べられるか食べられないかわからない物を平気で口にする。食べちゃ駄目と言われると食べちゃう。普通では満足出来なくなって刺激を求めちゃうのだ。

 人はついのエルフを馬鹿と呼ぶ。

 ハーゲルンは言葉を続ける。

「自死を選ぶつもりのない俺は、きっと簡単には死なないだろう。禿げようと、禿げまいと、俺は長き時を生きる事になる。きっと他のどんなエルフよりも長き時を」

 これは真理である。ハーゲルンは大魔樹林の中央部で100年間、怪我無く生きてきた実績がある。

「毛が無いって言った?言ったよな?」

 今回は本当に言ってません。

 兎に角、ハーゲルンは強大な魔物が生息する場所で平然と過ごしているのだ。人間もいないので、人から人へと感染する感染症に罹る心配も無い。食に関しても積極的に開拓を進めるチャレンジャーではないので、食中毒も考え辛い。

 故にこのまま生きていれば、余程の事態に見舞われない限りハーゲルンは、どのエルフよりも長く生きるだろう。

 生涯を掛けて何故禿げたのだと自問自答を繰り返しながら。

 ハーゲルンは言葉を続ける。

「俺は自分が禿げた理由を考えていた。禿げないエルフが禿げた理由を。無毛症を疑ったこともあるが、眉毛も睫毛も抜けていないのだから、それはない。純粋な禿げ。そう、俺は純粋な禿げなんだ」

 髪が抜ける原因は様々ある。しかし、髪だけが完全に無くなるのは純然たる禿げである。サイドもバックも完全に抜けるのは不自然ではあるが、純粋な禿げという言葉に間違いはない。

「異世界に転生しても禿げかよと思った。エルフになっても若禿げかよとも思った。けれど、この禿げにもしも意味があるのだとしたら。この禿げが俺を転生させてくれた何者かの意志なのだとしたら。俺がすべき事は一つだ」

 ハーゲルンは自らの禿げ頭の様にスッキリとした表情で空を見上げた。柔らかな太陽の光が禿げ頭を照らしてキラリと光る。

「禿げにとって住みやすい場所を、禿げである事を誇れる場所を作るぞ。この大魔樹林は人種族も魔族も住まない未開の地。ここに俺は禿げの国を、禿げ達の楽園を作ってみせる。どうだ?風の精霊も手伝ってくれるか?」

 強い決意を秘めた眼差しで未来を見据えたハーゲルンは、風の精霊に問い掛ける。大魔樹林を開拓して国を興す。そんな荒唐無稽な言葉を現実にするには、精霊の手助けが必要だ。

 多くの精霊に愛されるハーゲルンの頼みとあれば、彼の望みを叶えるのに力を貸すのは当然だろう。何よりも精霊は禿げネタが大好物。全ての禿げがその地を目指す、禿げの楽園構想に乗らない筈が無いのだ。

 …

 ……

 ………

 ハーゲルンはまんじりとも動かず日が暮れるまで待ってみたが、精霊からの反応は無かった。

 気紛れな精霊は小難しい話が苦手である。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...