ハゲエルフ~薄毛率0%のエルフなのに禿げた

伊瀬カイト

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第5話 ハゲエルフ、少年を拾う

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『ハーゲルン!ハーゲルン!』

 公園のブランコで楽しい遊びに興じている少女の様に、燥いだ声色で声を掛けたのは火の精霊。火の精霊は他属性の精霊と比べても特に幼く、無邪気な印象を抱かせる者が多い。

「誰が禿げだよ!禿げって言うな!」

『『『『『あはははははは!』』』』』

 爆笑。周囲一帯の大爆笑である。

 精霊が名前を呼ぶ→禿げと言われたと勘違いしてキレ気味にツッコむ。この下りは、既に100年も続く伝統芸能であり、鉄板ネタである。

 どうして100年も同じネタで笑えるんだ。

 ハーゲルンは毎日毎日繰り返される同じ下りに、一ネタだけを一生求め続けられる一発屋芸人や、ヒット曲が一曲しか無い一発屋歌手と同じで飽き飽きしている。

 しかし、振られれば必ず応えるのがハーゲルンというエルフである。

 それ故にハーゲルンは禿げネタ一本で100年もの長き時を駆け抜け、精霊からの人気も今なお右肩上がりである。

 さて、いつもであれば禿げネタを振られてツッコめば終わり。精霊達は自由気ままに漂いだす所なのだが、どうやら火の精霊はハーゲルンに用があるらしい。

 これは非常に珍しく、ここ100年の中でも3年ぶり83回目の事だった。

『ハーゲルン!こっちよ、こっち!こっち来て!』

 火の精霊に頭頂部を引かれ、何処かへと案内されるハーゲルン。

 風の精霊が禿げ頭に群がって頭を中心に体を浮かせてハーゲルンを運んでいく。

 髪があったなら禿げてたぐらいの超高速で運ばれた先は、大魔樹林の外れ。人間の生息域から十数㎞の場所であった。

『ここよ!ここなのよ!』

 火の精霊が合図を出して、風の精霊達がハーゲルンを地上に下ろす。するとそこには人族の少年が倒れていた。

「人間の子供…?」

 少年は随分と痩せ細っていて、年齢は10歳に満たないぐらい。顔や体に幾つもの痣があって、服は無理矢理引き千切られたようなボロボロだった。

 大魔樹林は人間や魔族の生息域付近であっても、多くの魔物が生息している。不思議と魔物達は大魔樹林から出ようとしないが、時々人里に出た魔物によって多くの犠牲者が出るぐらいには危険な森である。

 そんな場所で未だ生きていて、死に直面する程の怪我もしていない少年の存在は奇跡と言って良いだろう。

「これも何かの縁か」

 ハーゲルンは怪我をした少年を抱き上げ、禿げ頭を中心とした空の旅で50階建ての木造ビルへと帰宅したのであった。

「ん…ここは…」

「目を覚ましたか。ここは俺の家だ。腹が減ってるだろう。今お粥を作ってやるから待っていなさい」

 ハーゲルンは大魔樹林で採れる米に似た穀物を炊いてお粥を作る。味付けは塩のみ。こちらはハーゲルンが住んでいた洞穴から採掘された岩塩を使用している。

 少年は明らかに何日も食べていないと見える。故にお粥を用意するのは、胃が吃驚しないようにと消化に良い物を用意する気遣いである。

「良い匂いがする…」

 少年は米の炊ける香りを感じ取って息を漏らした。奴隷として親に売られ、主人からの度重なる虐待に耐え切れず森に逃げ込んで数日。それよりも前から隙間風の吹く納屋で寝起きしていた少年は、いつも寒い思いをしていた。

 しかし、今は暖炉にくべた火で温まった部屋の中で、柔らかいベッドの上に寝かされている。つい数時間前、死を覚悟しながら意識を手放して、目が覚めたらこの場所にいた。

 何が起きたのか。先程目にした禿げエルフは何者なのか。この世のものとは思えない程に美しい顔をしているのに、何故か禿げたエルフは何者なのか。ツルンとして毛穴すら見えない美しい禿げ頭のエルフは一体何者なのか。あの禿げは誰なのか。

「禿げって言ったか?」

「い、言ってません!」

 まさか心の声を聞かれていた?いや、だとしたらもっと早い段階で指摘された筈だ。

 少年はそう考えて、自らの現状とハーゲルンについて考えた。そして…。

 グーーーー

 お腹が空いたので考えるのを放棄した。

「出来たから食べなさい。俺はこの100年、自分の味付けでしか食事しか作っていない。口に合えば良いんだけどな」

 そう言って差し出された銀のスープ皿に盛られたお粥に、少年の喉がゴクリと鳴った。

 本当に食べて良いのだろうか?食べたら殴られるのではなかろうか?だが、だとしても、少年は耐えられない空腹感に負け、匙で掬ったお粥を口にした。

「美味しい…。美味しい!」

「それは良かった。おかわりもあるから好きなだけ食べなさい。その代わり、胃に負担が掛かるから、がっついて食べるのは止しなさい。良く噛んで、味わって食べるんだ。誰も君の食事を邪魔したりはしないからね」

 少年はハーゲルンの言葉に従って、一口一口、一噛み一噛みを味わって食べ進めた。

 一杯目を食べてはおかわりをし、二杯目を食べてはおかわりをする。

 結局三十二杯もお粥を食べた。総重量は凡そ5kg。ハーゲルンは、どこぞのフードファイターじゃないんだからとガチ目にドン引きしたのであった。

「成程な。奴隷か。人間は何とも愚かなことをする」

 少年はハーゲルンに身の上を話し、ハーゲルンは真面目な表情で少年の話を聞いた。ハーゲルンは、ただ時折それっぽい事を言っているだけなのだが、奴隷である自分の話を親身になって聞いてくれるハーゲルンが、まるで神様の様に思えた。

 倒れていた自分を拾って、食事まで与えてくれた慈悲深い優しさ。見た目の美しさ。禿げ頭の神々しさ。

 どれを取っても神にしか思えなかったからだ。

「髪の話してる?」

 神にしか思えなかったのだ。

 あと住んでる家がありえないぐらい神秘的にデカかった。そりゃ神様だって言われなくても自家発電で信じちゃうよね。

「まだ名前を聞いていなかったね。君の名は?」

「タキです」

「そうか、タキか。色んな人から怒られそうな下りやっちゃったな」

「え?」

 タキはハーゲルンが何を言っているか理解出来なかったが、きっと神の世界の話なのだろうと理解した。

 ハーゲルンは言葉を続ける。

「タキ、良かったらここに住まないか?何せ部屋が開きまくっていてね。一人だと持て余してるんだ」

 そりゃ50階建てのビルをソロで使うのは持て余すどころの話ではない。但し一人が二人に増えた所で大して変わらないと思うのだが。それでも50階の半分で25階になると考えれば非常に大きくはあるのだが。

「本当に、良いんですか?」

 タキはハーゲルンの言葉に感激して、顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくった。

 そんなタキの姿に、ハーゲルンはタキが天に召されるその日まで、親代わりとして成長を見守ろうと心に決めたのであった。

 これが、後にハーゲルンに大きな影響を齎す人族の少年、タキとの出会いのお話である。
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