NOT THE GAME~現実世界とリンクする

伊瀬カイト

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プロローグ

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「成木原君!」

 奇妙な光景。
 謎に満ちた情景。
 その瞳、まるで憧憬。

 10分と少し前に出現した扉の前で、俺達…もとい俺は、ある人物に声を掛けられた。
 プレイヤー名が見えない距離から手を振って、こちらへと駆け寄る。
 その瞳がやけに輝きを孕んでいて、モブ校生には少々居心地の悪い気分だった。

 そもそもの話、どうして俺の名前を知っているんだ?

 齋藤真吾。
 NOT THE GAMEでは、いじめっ子のNPC鮫島凌に反撃の刃で報いたいじめられっ子。
 現実でも同じ場面に遭遇して、その時は俺が機転を利かせて鮫島を追い払ったんだったか。

 NOT THE GAMEをやっていると、一日が倍ほどに感じる。
 故に齋藤の事なんてすっかりと忘れていた。

「齋藤真吾君だね。成木原君は友達なのかい?」

 流石は【いつ友達が出来る好機が来ても良いように】学年全員の名前を覚えている東雲鈴音。
 齋藤の名前も知っていた。

「いいや、話した事すらなかったと思う」

 齋藤は視線が常に下を向いているし、誰かにぶつかると逃げる様に去ってしまうってタイプ。
 同学年でも関わりのある方が少ないだろう。

「そうなのかい?それなのに、あんなにもフレンドリーに話掛けてくるなんて。成木原君は友達作りの天才か?是非アドバイスを求めたいのだが」

「いや、うん、無理」

 東雲鈴音はしょんぼりした。

 齋藤はNPC鮫島を刺し殺したNPCKエヌピーシーキラー
 いつでも銃を抜ける様にして、一応警戒はしておく。
 齋藤の武器種は短剣。
 接近戦にさえならなければ、こちらの有利は揺るがない。

 そんな警戒、無意味ってぐらいに両手を振っているけれども。
 憧れの戦隊ヒーローを見付けた幼稚園児かってぐらいに無防備だけれども。
 俺がPKプレイヤーキラーだったら、お前もう死んでるぜ?

「成木原君!」

 齋藤はもう一度俺の名を呼んだ。
 距離としては、大きく一歩踏み込まなければ短剣の届かない距離。
 俺の警戒をわかってか、かなり気を使った距離感には見える。

 敵意は、今の所無さそうだな。

「ああ、齋藤真吾だよな。話をするのは初めてだったよな?」

 齋藤とは3年間同じクラスにはなっていない。
 ちょっとした挨拶もしていない筈だ。

「うん、初めてだよ。だけど、その、どうしてもお礼を言いたくて」

「お礼か…」

 というと、齋藤の世界の俺も、齋藤に絡んでいた鮫島を追い払ったのかもしれないな。
 そもそもどうしてNOT THE GAME内で鮫島に絡まれたコンビニにいたんだ?って疑問は無しだ。
 俺だって柊と接触したんだし、同様に齋藤も気になって足を向けたって可能性は十二分にあり得る。
 時間軸的には、俺と齋藤が同じような時間にログインログアウトしていれば、あり得ない話じゃない。
 偶然で片付けられる程度の内容だ。

「何かしてあげたのかい?」

「いや、まあ。俺は大した事をしてないよ。気にしなくていい」

 現実世界がパラレルワールドになっている前提で。
 齋藤の世界の俺が、何をして齋藤から感謝されているのか断定は出来ない。
 それを齋藤に聞くのも、齋藤を刺激する可能性がある。
 PVPをする気が無いこちらとしては、信用していない相手とは、無難な会話に終始するのが吉だろう。

「本当に、成木原君は凄いよ!ありがとう!」

 何をしたかもわからないのに、こんなに感謝されると居心地が悪いな。
 そもそも齋藤って、こんなに明るくて人の目を見て話す奴だったのか?
 何か大きな心境の変化でもあったのだろうか?

「齋藤真吾君だね。東雲鈴音だ。中学から同じだったけれど、話をするのは初めてだよね?」

 東雲鈴音が齋藤に話掛ける。
 口角が非常に美しく引き上がっていて、横顔を見ているだけで見惚れてしまう程だ。
 もしも俺が東雲鈴音の外見を好みで、残念な内面を知らなかったら、恋でもしてしまった事だろう。

 当然齋藤も同様に見惚れて…。

「東雲さん?いたんだ。ところで成木原君は、ここで何をしているの?」

 一瞬だけ目を向けただけで、ほぼ無視だと?
 あの東雲鈴音を?

 齋藤は、東雲鈴音がまるで視界に入っていないみたいに、真っ直ぐ俺だけを見ている。
 どういう状況だ?
 あまりにも不可思議な状況過ぎて、少々頭が混乱する。

 俺を油断させて、まずは俺から始末する作戦か?
 頭は混乱しているが、動揺を見せるのは隙になる。
 ここは平静を保って、努めて冷静に振舞うべきだろう。

「ああ、これだよ。齋藤はこれの開放を知って来たんじゃないのか?」

 偶然俺を見掛けたから寄ってきたって可能性もなくはないだろう。
 しかし、タイミング的には扉の開放を知って見に来たって方が有力だ。

「その通りだよ。けど、試練の扉NORMALか…」

 齋藤は扉に表示された難易度を見て、残念そうに首を振った。
 試練の扉:難易度NORMALは、確定死コースだから入らない方が良いとSNSで注意喚起されているヤバい扉だ。
 恐らくサービス開始数日でクリア出来る設計になっていない、トラップみたいなものだろう。

「その様子なら、入る気は無さそうだな。俺達は扉の開放を知って来たプレイヤーに注意喚起するつもりで待ってるんだ。自分達が出した扉で、誰かに死なれても寝覚めが悪いからな」

 待っているのは俺と東雲鈴音のみ。
 オイラは「おいら退屈だから散歩してくるんだぞ」と言って何処かへ行ってしまった。
 現実だと外が暑くて昼間の散歩は出来ないからな。
 NOT THE GAMEで気ままなお一匹様散歩を楽しむらしい。

 俺も本当は放置して狩りに行きたいんだけれど…って、齋藤の目の輝きが一層増したんだけど、一体全体どうしたっていうんだ?

「流石は成木原君だね!優しくて気遣いが出来て頭が良くて!何て人間力が神様みたいだよ!」

「は?いや…はあ?」

「そうだろう、そうだろう。成木原君は素晴らしいのだよ」

「東雲さんは、どうして得意げなんだ…?」

 何処に俺を絶賛する要素が?
 態々注意喚起の為に待ってるってところか?
 それだって東雲鈴音の提案に渋々付き合っているだけで、別に俺が言い出した訳じゃないんだぜ?
 言わなかったから、俺発かなって誤解されても仕方がないけれども。

 東雲鈴音と齋藤が、俺の話で意気投合している。
 なんだこれ…なんて居心地の悪さだよ…。
 何か…何か話題を逸らさなければ…。

「そ、そうだ!齋藤はガチでNOT THE GAMEをやってるのか?よかったら不用な装備やアイテムを交換しないか?部位被りの装備とか色被りのオーブとかがあれば、なんだけど」

 NOT THE GAMEの装備は、全部を闇雲に身に着ければ良いって物ではない。
 装備品ごとにステータスが付いてるので、めっちゃ重ね着して着れば着るだけ強くなるって思うが、同じ部位で加算されるステータスは一つだけって仕様だ。

 最大で身に着けられる装備品は8種類。
 頭、アウター、インナー、腕、手、ベルト、脚、足となっている。
 同じ部位装備を身に着けた場合、先に着けていた方のステータスだけが反映される。

 この仕様を考えると、自分も仲間も使わない装備は、他のプレイヤーとの交換に使ってしまう方が利口だ。
 特に装備のセット効果を狙うのであれば、宝箱からのドロップだけを頼りにするより何倍も効率的だと断言出来る。

 交換は手渡しとなり、直接会わなければならい以上、選択肢はエリアという壁に阻まれてかなり狭まる。
 しかし、もしエリア内で交換可能な取引相手が出来たなら。
 非常に大きなアドバンテージになるのは間違いない。

 PVPに発展する危険性を考慮しても、トライしてみる価値は十分にあるだろう。
 少なくとも、現時点で齋藤に敵対する様子は見られないからな。
 もしもこれが演技であったなら、齋藤には俳優を目指して欲しい。
 個性派俳優としてネットドラマに引っ張りだこの存在となるだろう。

 頼むから俺の迂闊さが発揮されないでくれよ?

「交換…?いいの!?それは素晴らしいアイデアだね!是非僕からもお願いします!」

 こちらが訝しむぐらいに、齋藤は俺に協力的だった。
 どう見てもあちらが出し過ぎなぐらいには、こちら有利で交換が行われた。

 東雲鈴音にはそっけない態度だったので、協力的だったのは、あくまでも【俺に】だけだ。
 途中で戻ってきたオイラに対してすらも同様の態度だったので、綺麗と可愛いの二大巨頭を差し置く状況に、尋常足らざる居心地の悪さを感じながら。
 言い方は悪いが、齋藤を利用させて貰った。

 齋藤は去り際に俺の耳元で、こう呟いた。

「成木原君の関係者には手を出さないから安心して」

 齋藤が【何か】をしていると直感した俺は。

「同じ学校の招木猫も俺の仲間だ」
 
 そう口にすると、齋藤は一度手を上げて去っていった。

 この日までと合わせて、特に大きな変化は訪れなかった。

 世界を揺るがす大事件が起こったのは、NOT THE GAMEのサービス開始から7日後の事だった。
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