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3日目 踏んで拾って
しおりを挟む「わぁ、すごい黄色いねー!」
初めて出てくる感想にしては味気ないなと思いつつも、私も同じ言葉しか返せそうにないので何も言わないことにしました。
なにせ、一面の黄色。見渡す限りの黄色。
どこもかしこも黄色黄色で、木々のすき間から除く遠くの山々に少し赤が散っている程度。
そんな黄色一色の世界に、今日はたどり着いたのでした。
「イチョウって言うらしいよ。」
「へー。」
植物の名前にはさして興味がないのか、生返事をしながらキョロキョロと落ち着きなく視線を動かしている同行人。
まあ、気持ちはわかります。落ち葉狩り、と言うのでしたっけ。はやくやってみたいです。
でも、せっかくの知識を披露できる機会を素通りされるのは少しムっとしてしまいます。
ここはひとつ、日ごろの仕返しも含めて悪戯でもしてみましょうか。
ほら、ちょうどターゲットがイチョウの実を興味深そうに眺めています。今にもつまみ上げそうです。しめしめ。
「チカ、ストップ!触っちゃダメだ!」
「え、ハイ!」
日ごろの教育の賜物か、ターゲットは私の言葉を聞いてすぐに動きを止めました。
素直でいい子です。可愛いですね。これから何が起こるかも知らずに。
「その実はな、中の種がとっても美味しいんだ。でも、外側に毒があるから触ると大変なことになるぞ。」
「じゃ、じゃあどうしたら・・・」
「茎の部分があるだろ、そこを足で踏みながら、もう片方の足で実を潰すんだ。種は潰さないように気を付けるんだぞ。」
「わかった!やってみる!」
説明通りに、恐る恐るイチョウの実を踏み潰すターゲット。すると途端に、何かが腐ったような独特な刺激臭が漂いはじめました。
私も初めて嗅ぎましたが、なるほどこれはなかなか。
「ヴぁ!く、くさい!」
身構えていた私とは違い、不意打ちを食らった形のターゲット。
あまりの衝撃に、その場から一歩も動けなくなっているようです。
その様子を見ていると、つい吹き出してしまいました。
「・・・ぷっ。」
「は、はーちゃん?」
「あは、ああはははは!」
「はーちゃん!」
どうやら、からかわれたことに気づいたようです。
怒った様子の顔だけこちらにむけながら、それでも体はイチョウの実を踏んだまま。
動物のフンを踏んでしまったときと同じ感覚なのでしょうか。すぐに足をどけるという発想が出てこないようです。
「ふふ、ご、ごめんね。でも大丈夫だから。毒じゃないし。・・・ふふ。」
そんな彼女の様子が可笑しくて、なかなか笑いが収まりません。
「は、はーちゃん!これどうしたら・・・。」
「だ、大丈夫。あとでちゃんと洗ってあげるから。たしかこの前洗剤見つけてたよね。それに、中の種が美味しいってのはホントだよ。」
「え、そうなの!?」
途端に顔を輝かせる愛すべき同行人。さっきまでこの世の終わりのような顔をしていたのに、現金なやつです。
ただ、身体はまだ固まったまま。ちょっと面白いからあまりこちらを見ないで欲しいです。
「それにどうせここを歩いてたら、わたしもチカももっと踏むことになるよ。ほら。」
そう言って私が周りに目を向けると、チカもそれに合わせて辺りを見渡しました。
一面の黄色い絨毯に交じって、コロコロした実が顔を覗かせています。
「後で全部洗えばいいからさ、気にしないで歩こう。ついでに種も集めながらね。」
チカの手を引いてやると、やっと体の動かし方を思い出したかのように足を上げました。
「わあ、ほんとに種が入ってるね!どんな味がするのかな。」
「わたしも食べたことはないけど、なんか苦甘い?らしいよ。」
「えー、それほんとに美味しいの。」
「ほんとだってば。ちゃんと図鑑に書いてあったんだから。」
チカと手をつなぎながら、黄色のアーチを歩きます。
見つけた端から種を集めていたら、すぐに封筒がいっぱいになってしまいました。
「もっと取ってくればよかったね、封筒。」
「仕方ないよ、あんまりたくさんは積めなかったし。」
そのあとは、なんとなくふたりとも口数が少なくなっていって、葉を踏むふたり分の足音を聞きながらゆっくりと歩きました。
10分ほど歩いたでしょうか。気づけばイチョウ並木の出口までたどり着いてしまいました。
「きれいだったねー!」
「そうだな。ギンナンもたくさん集まったし、しばらく食べ物には困らないかも。」
「ぎんなん?」
「ああ、うん。このイチョウの実がさ、ギンナンって言うんだよ、たしかね。」
「ふーん。」
また生返事。まあいいです、たくさんギンナンが集まって機嫌がいいので許してあげましょう。あ、そうだ。
「はーちゃん?どうしたの?」
「ううん、なんでもない。」
突然しゃがみ込んだ私を、同行人は心配そうにのぞき込んできました。
そんな優しい彼女に心配ないと伝え、笑顔を見せた私はすぐに立ち上がります。
「それじゃあそろそろ戻ろうか。ギンナンも洗い落とさないとな。」
「そうだった!思い出したらくさくなってきた!」
そうして私たちは、もう一度黄色い絨毯の上を歩き始めました。
さっきよりもゆっくりと、この黄色い空を目に焼き付けながら。
その後。
案の定というかなんというか、靴や服についたにおいはなかなか落ちてくれなくて。
しばらくふたりでギンナン臭に包まれながら過ごすことになるのでした。
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