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4日目 両手を合わせて
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「ねえはーちゃん!あれとかどうかな!美味しそうじゃない?」
チカの視線をたどった先には、木の根元から顔を出しているキノコ、のようなものがありました。
「・・・本気で言ってるのか?」
「え、なんで?はーちゃんキノコ嫌い?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
そのキノコ?のようなものは、見た目こそたしかにキノコの形をしていますが、問題は色です。
ピンク。あまりにもピンク。目が痛くなるような、彩度の高さです。
あんな色のモノ、口にしていいわけがありません。
「どう見ても食べちゃダメなやつだろ。」
「えーそうかなー。可愛いじゃん。」
「可愛いのと食べれるかは関係ないんだよ。」
食べてみようよー。と諦めの悪いおバカを引っ張って、そのキノコのような何かから離れます。
とはいえ、彼女の気持ちも分からないわけではありません。なにせ、ここ数日は食料を切り詰めて切り詰めて、満足に食事ができているとは言い難い状況なのです。
私だってお腹がすきました。
それからしばらく歩きまわってみましたが、めぼしいものは見つかりませんでした。
水辺があれば魚でも捕れるかと思い虫取り網を持ってきたのですが、残念ながら出番はなさそうです。
さっきのキノコもどき、どれくらい火を通せば食べられるかな。などと本気で考え始めたころ、草をかき分けるような音が聞こえた気がしました。
「チカ、静かに。なにか聞こえた。」
「えっ、ほんと?」
その場で足を止め、息をひそめて気配を殺します。
よく見てみると、目の前の草むらが風もないのに微かに揺れています。
「あそこだ。なにかいる」
チカに動かないよう合図をして、身をかがめて待ち構えます。
しばらくすると、草むらの揺れが徐々に大きくなっていき、ひときわ大きい音とともに獲物が顔をだしました。
「ウサギだ!」
「あっ、バカ!」
大きな声を出すなこのおバカ。
案の定、おバカ狩人の声に驚いたウサギは、一目散に逃げていきます。
「追いかけよう!」
そう言いながら駆け出すチカに、私は持っていた虫取り網を投げました。
「チカ!それ使え!」
「ありがとうはーちゃん!」
器用に網をキャッチしたチカは、そのままウサギを追いかけていきました。
おー、速い速い。あっという間に木々の合間に姿が吸い込まれていきました。
私は足が速くはないし、獲物を捕まえるのはハンターチカに任せましょう。
捕まえられなかったときは仕方がありません。諦めてピンクキノコに運命を委ねることにします。
チカが走っていった方向へ歩きながら、焚火につかえそうな木の枝を拾い集めます。
久しぶりのお肉にありつけそうなので、今日は早めにキャンプを張って休みましょう。
しばらくすると、ウサギハンターが戻ってきました。
晴れやかな表情を見るに、獲物はばっちり捕獲できたのでしょう。お見事。
「おまたせはーちゃん!すぐに焼いてたべよー!もうお腹ぺこぺこだよー。」
そう言いながら、既に動かなくなっているウサギを下ろすチカ。
いつも食事を用意するのはほとんど私ですが、今日のような野生動物の日はチカの担当です。
別に相談したわけではないのですが、そうなりました。
そうするように、彼女がしてくれました。
「それじゃあ、テント組み立てとくね。」
「うん、おねがいねー。」
私は別に、動物が嫌いなわけではありません。
私はただ、怖いだけ。動物の、生き物の命を奪うという行為が、怖いだけ。
我ながらズルいとは思います。魚は平気で捌くし、缶詰のお肉だって食べるのに。
ついさっきまで私を見つめていた眼の光を、私自身の手で消すことがどうしても怖いのです。
彼女はそれに気づいていて、何も言わずに私の代わりをしてくれるようになりました。
今日だってそう。私が怖がらないように、ウサギを殺してから戻ってきてくれました。
でも、私は気づいているのです。
彼女がナイフを振り下ろす手が、いつも震えていることに。
彼女だって、何も感じていないわけがないのです。
気付いているのに、私は彼女にぜんぶ押し付けて。
「・・・・・・。」
私は、テントを組み立てる手を止めて振り返りました。
そして、私に背を向けながらナイフを握る彼女に声を掛けます。
「チカ」
「あ、はーちゃん!まだ終わってないよ!そっちでまってて!」
すると彼女は、慌てて私の視界からウサギを隠そうとしました。
本当に優しいね、アナタは。でも、もういいのです。
「チカ。わたしもいっしょにやる。」
なんでもないように言うつもりだったのに、声が少し上ずってしまいました。
気づかれたかな。心配かけないつもりだったのに。
でもきっと、目を背けてはいけないのです。生きるために、命を貰うのだから。
「・・・。」
彼女は、ほんの少し驚いたような表情を見せました。
でも、すぐに頬を緩めて。
「うん、わかった。」
そう、笑いかけてくれました。
その日の夕食は、チカに教わりながら捌いたウサギのステーキになりました。
やっぱり怖くて泣きそうになったし、きっと怖くなくなる日もこないのだと思います。
でも、彼女とふたりでなら。この怖さも抱えることができると、そう思うのです。
そんなことを考えながら食べていると、いつの間にかお皿は空っぽになっていました。
私とチカは顔を見合わせて微笑み合って、それぞれ両手を合わせました。
「「ごちそうさまでした。」」
チカの視線をたどった先には、木の根元から顔を出しているキノコ、のようなものがありました。
「・・・本気で言ってるのか?」
「え、なんで?はーちゃんキノコ嫌い?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
そのキノコ?のようなものは、見た目こそたしかにキノコの形をしていますが、問題は色です。
ピンク。あまりにもピンク。目が痛くなるような、彩度の高さです。
あんな色のモノ、口にしていいわけがありません。
「どう見ても食べちゃダメなやつだろ。」
「えーそうかなー。可愛いじゃん。」
「可愛いのと食べれるかは関係ないんだよ。」
食べてみようよー。と諦めの悪いおバカを引っ張って、そのキノコのような何かから離れます。
とはいえ、彼女の気持ちも分からないわけではありません。なにせ、ここ数日は食料を切り詰めて切り詰めて、満足に食事ができているとは言い難い状況なのです。
私だってお腹がすきました。
それからしばらく歩きまわってみましたが、めぼしいものは見つかりませんでした。
水辺があれば魚でも捕れるかと思い虫取り網を持ってきたのですが、残念ながら出番はなさそうです。
さっきのキノコもどき、どれくらい火を通せば食べられるかな。などと本気で考え始めたころ、草をかき分けるような音が聞こえた気がしました。
「チカ、静かに。なにか聞こえた。」
「えっ、ほんと?」
その場で足を止め、息をひそめて気配を殺します。
よく見てみると、目の前の草むらが風もないのに微かに揺れています。
「あそこだ。なにかいる」
チカに動かないよう合図をして、身をかがめて待ち構えます。
しばらくすると、草むらの揺れが徐々に大きくなっていき、ひときわ大きい音とともに獲物が顔をだしました。
「ウサギだ!」
「あっ、バカ!」
大きな声を出すなこのおバカ。
案の定、おバカ狩人の声に驚いたウサギは、一目散に逃げていきます。
「追いかけよう!」
そう言いながら駆け出すチカに、私は持っていた虫取り網を投げました。
「チカ!それ使え!」
「ありがとうはーちゃん!」
器用に網をキャッチしたチカは、そのままウサギを追いかけていきました。
おー、速い速い。あっという間に木々の合間に姿が吸い込まれていきました。
私は足が速くはないし、獲物を捕まえるのはハンターチカに任せましょう。
捕まえられなかったときは仕方がありません。諦めてピンクキノコに運命を委ねることにします。
チカが走っていった方向へ歩きながら、焚火につかえそうな木の枝を拾い集めます。
久しぶりのお肉にありつけそうなので、今日は早めにキャンプを張って休みましょう。
しばらくすると、ウサギハンターが戻ってきました。
晴れやかな表情を見るに、獲物はばっちり捕獲できたのでしょう。お見事。
「おまたせはーちゃん!すぐに焼いてたべよー!もうお腹ぺこぺこだよー。」
そう言いながら、既に動かなくなっているウサギを下ろすチカ。
いつも食事を用意するのはほとんど私ですが、今日のような野生動物の日はチカの担当です。
別に相談したわけではないのですが、そうなりました。
そうするように、彼女がしてくれました。
「それじゃあ、テント組み立てとくね。」
「うん、おねがいねー。」
私は別に、動物が嫌いなわけではありません。
私はただ、怖いだけ。動物の、生き物の命を奪うという行為が、怖いだけ。
我ながらズルいとは思います。魚は平気で捌くし、缶詰のお肉だって食べるのに。
ついさっきまで私を見つめていた眼の光を、私自身の手で消すことがどうしても怖いのです。
彼女はそれに気づいていて、何も言わずに私の代わりをしてくれるようになりました。
今日だってそう。私が怖がらないように、ウサギを殺してから戻ってきてくれました。
でも、私は気づいているのです。
彼女がナイフを振り下ろす手が、いつも震えていることに。
彼女だって、何も感じていないわけがないのです。
気付いているのに、私は彼女にぜんぶ押し付けて。
「・・・・・・。」
私は、テントを組み立てる手を止めて振り返りました。
そして、私に背を向けながらナイフを握る彼女に声を掛けます。
「チカ」
「あ、はーちゃん!まだ終わってないよ!そっちでまってて!」
すると彼女は、慌てて私の視界からウサギを隠そうとしました。
本当に優しいね、アナタは。でも、もういいのです。
「チカ。わたしもいっしょにやる。」
なんでもないように言うつもりだったのに、声が少し上ずってしまいました。
気づかれたかな。心配かけないつもりだったのに。
でもきっと、目を背けてはいけないのです。生きるために、命を貰うのだから。
「・・・。」
彼女は、ほんの少し驚いたような表情を見せました。
でも、すぐに頬を緩めて。
「うん、わかった。」
そう、笑いかけてくれました。
その日の夕食は、チカに教わりながら捌いたウサギのステーキになりました。
やっぱり怖くて泣きそうになったし、きっと怖くなくなる日もこないのだと思います。
でも、彼女とふたりでなら。この怖さも抱えることができると、そう思うのです。
そんなことを考えながら食べていると、いつの間にかお皿は空っぽになっていました。
私とチカは顔を見合わせて微笑み合って、それぞれ両手を合わせました。
「「ごちそうさまでした。」」
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