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第22話
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事件が起こったのは、夏休みも残り数日で終わるという時だった。私は学校の課題もすっかり終わらせて栗栖さんの畑の片付けを手伝っていた。夏のキュウリは終わり、次は秋のキュウリらしい。黒いマルチのマルチ止めを抜いて集めていた。
「助かるよー。もう早生の稲刈りは始まっていて、こっちもあっちもしなくちゃいけなくて忙しい!」
助かるなんて、ほんとに役立てているのかな?きっと子供のお手伝い程度だよねと思いながらも、けっこう楽しく私はしていた。栗栖さんが懐かしくて帰ってきてしまったという意味が最近は少しわかる気がした。
祖父母の家に行った時、とうもろこし畑の間をすり抜けた夏。土の香り、時間によって違う蝉の声、暑くて流れる冷たい小川に水をつけ、そこをすり抜ける小さな魚。
帰りたくなる。そう思わされる気持ちを私も持っていたんだと思った。
「いえ、私も最近は楽しく………」
楽しくなってきてと話そうとした瞬間だった。
「チハルー!」
女の人の声?私と栗栖さんは手を止めた。パッと目に入ったのはスラリとした手足に程よく茶色に染めた髪、整った美人な顔に合う上手な化粧。大人の女の人が着るようなノースリーブのリボンタイのシャツブラウスにスカート。少し高めのヒール。
後ろには気まずげな表情をしている栗栖先輩がいた。
「ミサキ?なんでここに?」
「仕事がやーっと夏休みとれたから、帰省してきたんじゃない!チハルに会いに来たのに……ふーん、タマキが行くなって言っていたのは、このせいなのねー。可愛い女の子と楽しく農作業してたってわけ?」
「うん。まぁ……って、別に僕に会いに来たわけじゃないだろ!?実家に帰省しているだけだろ!?」
栗栖さんがそう言ったが、ミサキと呼ばれた女性はフフッと私を見て、意味ありげに笑った。なんだか……すごく恥ずかしくなって、思わず下を向く。
この人はまさか?……私は冷たい汗が出てきた。
「おい……千陽が仕事終わるまで、家に帰ってろよ。邪魔になるだろ?」
「もー!タマキってば、生意気言うようになっちゃって!あんなに小さくて可愛かったのに!」
「小さかったのは小学生までだ!」
栗栖先輩はもしかして、さりげなく私に気を使ってくれているのかもしれない。凍りついてしまい、言葉も出なくて、足も手も動かない私のために。
「とりあえず家に行っててくれると良いな。忙しい時期だから、まだ帰れないけど」
栗栖さんがそう言うと、ハイハイッと言って、畑から出て行こうとしたが、振り返って私を見て笑って言った。
「もしかして、チハルのこと好きなの?農作業のお手伝いして、点数稼ぎ?」
私は顔がカッと熱くなって、バッと身を翻して、走った。後ろから桜音ちゃん!新居!と栗栖さんと栗栖先輩の呼ぶ声がしたが、振り返れなかった。
自分でも驚くくらい……足が速かった。時々休憩しながら家に帰った時には息が切れて、玄関にしばらく座り込んだ。それから軍手も靴も脱いで、洗面所で何度も何度も手や顔を洗った。
栗栖さんの前で、点数稼ぎ?と言われたことがほんとに……そうかもしれないと思わされて、すごく自分が、みっともなく感じた。
「助かるよー。もう早生の稲刈りは始まっていて、こっちもあっちもしなくちゃいけなくて忙しい!」
助かるなんて、ほんとに役立てているのかな?きっと子供のお手伝い程度だよねと思いながらも、けっこう楽しく私はしていた。栗栖さんが懐かしくて帰ってきてしまったという意味が最近は少しわかる気がした。
祖父母の家に行った時、とうもろこし畑の間をすり抜けた夏。土の香り、時間によって違う蝉の声、暑くて流れる冷たい小川に水をつけ、そこをすり抜ける小さな魚。
帰りたくなる。そう思わされる気持ちを私も持っていたんだと思った。
「いえ、私も最近は楽しく………」
楽しくなってきてと話そうとした瞬間だった。
「チハルー!」
女の人の声?私と栗栖さんは手を止めた。パッと目に入ったのはスラリとした手足に程よく茶色に染めた髪、整った美人な顔に合う上手な化粧。大人の女の人が着るようなノースリーブのリボンタイのシャツブラウスにスカート。少し高めのヒール。
後ろには気まずげな表情をしている栗栖先輩がいた。
「ミサキ?なんでここに?」
「仕事がやーっと夏休みとれたから、帰省してきたんじゃない!チハルに会いに来たのに……ふーん、タマキが行くなって言っていたのは、このせいなのねー。可愛い女の子と楽しく農作業してたってわけ?」
「うん。まぁ……って、別に僕に会いに来たわけじゃないだろ!?実家に帰省しているだけだろ!?」
栗栖さんがそう言ったが、ミサキと呼ばれた女性はフフッと私を見て、意味ありげに笑った。なんだか……すごく恥ずかしくなって、思わず下を向く。
この人はまさか?……私は冷たい汗が出てきた。
「おい……千陽が仕事終わるまで、家に帰ってろよ。邪魔になるだろ?」
「もー!タマキってば、生意気言うようになっちゃって!あんなに小さくて可愛かったのに!」
「小さかったのは小学生までだ!」
栗栖先輩はもしかして、さりげなく私に気を使ってくれているのかもしれない。凍りついてしまい、言葉も出なくて、足も手も動かない私のために。
「とりあえず家に行っててくれると良いな。忙しい時期だから、まだ帰れないけど」
栗栖さんがそう言うと、ハイハイッと言って、畑から出て行こうとしたが、振り返って私を見て笑って言った。
「もしかして、チハルのこと好きなの?農作業のお手伝いして、点数稼ぎ?」
私は顔がカッと熱くなって、バッと身を翻して、走った。後ろから桜音ちゃん!新居!と栗栖さんと栗栖先輩の呼ぶ声がしたが、振り返れなかった。
自分でも驚くくらい……足が速かった。時々休憩しながら家に帰った時には息が切れて、玄関にしばらく座り込んだ。それから軍手も靴も脱いで、洗面所で何度も何度も手や顔を洗った。
栗栖さんの前で、点数稼ぎ?と言われたことがほんとに……そうかもしれないと思わされて、すごく自分が、みっともなく感じた。
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