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エスマブル学園長
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魔法について高等教育を受けれる学校を増やすため、要望書を王家の機関に提出すべく、ジーニーとこの数日間、夜遅くまでかかって作成している。
「……まぁ、こんなものだろう。お疲れ様」
「ありがとう。ジーニー……めんどくさいこと頼んじゃって。それに、この要望が通れば、エスマブル学園も忙しくなるわね」
「魔法を使える者を絶やさないようにするためには大事なことだろう。エスマブル学園の研究室でも統計をとっているが、年々減っているのは事実で現代の問題になっていた」
本来なら、王家がもう少し危機感持ってもいいんだがなとジーニーは言う。
まぁ……私とて、アオがいたから気づけたのだ。
今頃、お祖父様とどこへ行っているのか?何をしているのか?謎の二人組である。
「もう終わったのかー?ふぁ~……寝よーぜ」
欠伸をして眠そうなリヴィオ。
「あら?先に休んでいていいのよ?」
ん??リヴィオはいつも自分の時間にさっさと寝ていたはずだ。
「他の男と二人っきりにできるかよ!」
「男って……相手はジーニーじゃないの」
「セイラのそーゆーとこがなぁ!」
「なによ?」
ジーニーが私とリヴィオのやりとりを止める一言を放つ。
「セイラ、一日デートしないか?」
「え!?」
「ジーニー!てめー!」
リヴィオがジーニーの一言に焦りを顕にしたが、ジーニーは穏やかな眼差しを私にむける。そしてピッと人差し指を立てる。
「覚えてないかい?1つだけ僕の望みを叶えるって勝負しただろう?」
「あー…?そういえば?だいぶ時間はたってるけど」
かなり前の新年の話だったような?忘れていた。
「それを明日使いたい。明日は休湯日だろう?」
「え、ええ」
リヴィオが待て待て!と横から止めるがジーニーが良いじゃないかと言う。
「リヴィオ、変なことはしないから1日くらいいいだろう?」
「オレは嫌だが……」
ブツブツ言っているリヴィオ。
「ジーニーにはお世話になってるから、1日付き合うわよ。勝負にも負けちゃったしね」
「セイラ!!」
リヴィオが非難する。……いったい、彼はなんでこんなにジーニーに警戒してるんだろう?私は謎だった。
ジーニーは良かった。じゃあ、明日。といつもと変わらない様子で帰っていく。
「お、おまえ!気をつけろよ!?」
「リヴィオ……さっきから、なんでそんなに警戒してるの?ジーニーとは小さい頃からの付き合いじゃない?むしろあなたの方が仲良いわよね?」
「オレとも小さい頃からの付き合いでこーなってるだろうが!?ジーニーに油断するなよ!?」
ププッと私に笑われる。そんなわけあるわけないじゃない。
「それって、恋愛対象ってこと?ナイナイ!」
じゃー!おやすみー!と夜も遅いので私は自室へ行く。リヴィオだけは困ったように取り残された。
いつもより簡易な服を来て現れるジーニー。学園長のローブを着ていないだけともいえる。
「さて、じゃあ行くよ。エスマブル学園へ!」
「学園!?」
私の驚きの声にジーニーは転移装置を作動させて、彼は来た道をもう一度戻ることになった。
「そうだ。懐かしいだろ?」
視界が揺らぐ。着いた場所は学園長室だった。歴代の学園長の自画像がズラリと飾られている。
「ここに、入ることはなかなか無かったけど、懐かしいわね」
ジーニーが窓の外を指差す。そこから見える寮や学舎の一部。生徒たちは授業中なのだろう。ちらりと見える運動場では訓練している姿が見えた。
「フフフ。変わらないわね」
思わず笑う。ジーニーはそんな私に目を細める。
「そうやって、学園時代も笑っていて欲しかったな」
「………なかなか笑えなかったわね。学園が嫌だったわけじゃないわ。むしろ居場所はここしかなかった」
窓枠に触れて、目を閉じる。家に帰る場所のない私にここは唯一、居ても良い場所であった。
「さて、今日は懐かしい話をしようと思って頼んだわけじゃない」
「そうじゃないかなとは思ってたわ」
お茶とお菓子を用意してくれ、座るように促す。
「リヴィオが持ってきた本を読んだ。セイラも読んでみるといい」
隣の大陸の本!読書好きの私はすぐに興味津々で食いつき、ページをパラリと開く。こちらの言語とは同じであるが、少し訛りがある程度の誤差はあるようだ。
「魔法の理論などは似ているが……魔物がいる、いないとでは魔法の発展、歴史の違いは大きいな。果たして、魔物と対峙したときにこの大陸で戦えるものはいったい何人いる?」
「エスマブル学園卒業生くらいでしょうね」
だからこそ、私はエスマブル学園に頼んだのだ。なるべく多くの国民が教育を受け、魔法の理を理解し、獲得しているようにと。
「セイラは皆が扱える兵器を作れないのか?」
ジーニーが静かにそう言う。ぎくりと身じろぎした。
これはリヴィオに聞かれたくなかったことなのだろう。私にそんなこと頼むな!と怒りそうではある。
「兵器か……私、軍オタではないからなぁ」
「は??軍オタってなんだ……?」
そりゃ、いろいろ兵器に転用できそうなものはある。車、鉄道、飛行機……だからこそ私は家電の日常生活に必要と思われる物しか作らないのだ。兵器に転用してほしくない。
あちらの世界の兵器は怖すぎる。私は首を横に振る。
それに兵器用の術式を考えるとなると温泉旅館や領主をしている暇すらなく……研究をしていかなけれぼならないだろう。
そんな人生を私は望んでないし、この世界に兵器を持ち込みたくない。もう隣の大陸にはあるのかもしれないが、私はしたくない。
「できないわ」
「そうか……魔法が使えない者でも戦える可能性があれば良いと思っただけだ」
もう一人の転生者であろう祖父も『コロンブス』内や部屋を見たところ、兵器を持ち込んでいない。やろうと思えば、私より賢い祖父は簡単にできたんじゃないだろうか?そのあたりは私より慎重だったのかもしれない。
「そう深刻な顔をするな。さて、昼ご飯は食堂でいいか?」
「いいわよ。懐かしの定食が食べたいわ」
食堂はお昼にはまだ少し早く、席が空いていた。本日のおすすめ定食は温かい具だくさんポトフ。小さなポテトグラタン付き……これにしよう。
私がお盆を持って行くと、食堂のおばちゃんが目を丸くして驚いた。
「セイラちゃんじゃないかい!!」
「あ、お久しぶりです。元気にしてましたか?」
白い頭巾に白い服という衛生的な格好をしたおばちゃんは嬉しそうに私を見た。
「うんうん。健康的な顔色をしているよ。今日も美味しいもの食べな!」
てんこ盛りにしとくよ!とポトフを皆の2倍くらい盛り付ける。
「こんなに沢山……私、太ります!」
慌てると首を振る。
「だーいじょうぶ!痩せてる方だよ。しっかり食べて大きくおなり!」
小さい頃からお世話になっていて、皆が休暇でいないときは話し相手をしてくれた。
「立派になってねぇ。頑張ってるんだってねぇ」
「おかげさまで……」
私がニコッと笑うとさらに驚いた顔をされた。
「うん……おばちゃん、嬉しいよ」
涙ぐむおばちゃんにジーニーがそろそろ自分のも盛り付けてもらっていいだろうか?と頼んだ。
「おや?学園長もいたのかい。早く言っておくれ!」
「いや……最初からいたけど……」
若き学園長は食堂のおばちゃんに気圧されて小さい声でそう反論した。
「いっぱい食べてっておくれよ!」
ブンブンと手を振っている。次に来た学生がうおっと驚いている。迫力はあるけど、人を元気にしてくれるおばちゃんだ。
「午後から授業で模擬魔法訓練がある。生徒たちに見せてくれないか?」
「いいわよー。私で良ければ」
午後から魔法をいくつか披露した。私を知ってる人もいるようで……
「本物のセイラさんだ!」
「あの首席だった人だろう?」
「あの人の孫っていう……」
ヒソヒソと何か言われ、恥ずかしくなりつつ、私は模擬魔法を見せていったのだった。
広い演習場は思う存分魔法を使うことができる。久しぶりに私も遠慮なく、使えて楽しかった。
私とジーニーが夕日に染まる学園内の廊下を歩く。
「久しぶりの学園はどうだ?」
「変わらないけど、私が前と違う気持ちで今はここに居るわ。それが不思議ね」
「なるほどね……セイラを変えたのがリヴィオなのかそれとも別の要因があるのかはわからないが……僕は……」
ジッと私を見るジーニーは近寄ってきて、私の髪に触れようとし、手を途中でピタッと止めた。拳を作って、下へスッと降ろした。一瞬ドキッとしたが……いつもどおりの冷静で穏やかな彼は微笑む。
「僕はセイラのこともリヴィオのことも好きだ。これからも良き友でいてくれるか?」
「もちろんよ!いつもお世話になりっぱなしでごめんね」
「いいや、僕自身も楽しい。学園長の職務だけでは息がつまる。最近はやつも旅館や経理の仕事を頑張っているから、楽だ……さてと、そろそろ、セイラを返すかな」
ん??どういう意味!?私はキョトンとした。
「おい……見えてるぞ」
ガタッと音がした。物陰から出てきたのは猫ではなくリヴィオ。
「なっ!?なにしてるの!?」
「通りかかっただけだ」
学園内で??そんな偶然ってあるの!?
「昼頃から学園内でウロチョロしてたな」
呆れたようにジーニーがリヴィオに言うが、彼は認めない。
「見間違いだ!き、気のせいだろ」
ジーニーは肩をすくめ、仕事があると行って、去っていく。
もうすぐ夜が来る。ゆっくりと日が傾いていくのが廊下の窓から見えた。夕暮れは寂しさがある。ふと、足を止め、景色を見た。昔の自分が学園のどこかにいるような気がする。
「学園にいると、あの頃に戻ったみたいね」
「そうだな。こうやって一緒に過ごしたり仕事をしたりするようになるなんて、思いもよらなかったな」
あの頃の自分に言ってやりたい。孤独や寂しさに打ちのめされるな。未来には希望がある。だからもっと笑ったり楽しんだりしても良いのだと。
………一人になるのはもう嫌だ。
「セイラ、これからもずっと一緒にいる」
リヴィオが私の心中を察したのだろうか?そう言うと、そっと手を繋いだ。手が温かい。
夕闇の中、一緒にナシュレへと帰った。
「……まぁ、こんなものだろう。お疲れ様」
「ありがとう。ジーニー……めんどくさいこと頼んじゃって。それに、この要望が通れば、エスマブル学園も忙しくなるわね」
「魔法を使える者を絶やさないようにするためには大事なことだろう。エスマブル学園の研究室でも統計をとっているが、年々減っているのは事実で現代の問題になっていた」
本来なら、王家がもう少し危機感持ってもいいんだがなとジーニーは言う。
まぁ……私とて、アオがいたから気づけたのだ。
今頃、お祖父様とどこへ行っているのか?何をしているのか?謎の二人組である。
「もう終わったのかー?ふぁ~……寝よーぜ」
欠伸をして眠そうなリヴィオ。
「あら?先に休んでいていいのよ?」
ん??リヴィオはいつも自分の時間にさっさと寝ていたはずだ。
「他の男と二人っきりにできるかよ!」
「男って……相手はジーニーじゃないの」
「セイラのそーゆーとこがなぁ!」
「なによ?」
ジーニーが私とリヴィオのやりとりを止める一言を放つ。
「セイラ、一日デートしないか?」
「え!?」
「ジーニー!てめー!」
リヴィオがジーニーの一言に焦りを顕にしたが、ジーニーは穏やかな眼差しを私にむける。そしてピッと人差し指を立てる。
「覚えてないかい?1つだけ僕の望みを叶えるって勝負しただろう?」
「あー…?そういえば?だいぶ時間はたってるけど」
かなり前の新年の話だったような?忘れていた。
「それを明日使いたい。明日は休湯日だろう?」
「え、ええ」
リヴィオが待て待て!と横から止めるがジーニーが良いじゃないかと言う。
「リヴィオ、変なことはしないから1日くらいいいだろう?」
「オレは嫌だが……」
ブツブツ言っているリヴィオ。
「ジーニーにはお世話になってるから、1日付き合うわよ。勝負にも負けちゃったしね」
「セイラ!!」
リヴィオが非難する。……いったい、彼はなんでこんなにジーニーに警戒してるんだろう?私は謎だった。
ジーニーは良かった。じゃあ、明日。といつもと変わらない様子で帰っていく。
「お、おまえ!気をつけろよ!?」
「リヴィオ……さっきから、なんでそんなに警戒してるの?ジーニーとは小さい頃からの付き合いじゃない?むしろあなたの方が仲良いわよね?」
「オレとも小さい頃からの付き合いでこーなってるだろうが!?ジーニーに油断するなよ!?」
ププッと私に笑われる。そんなわけあるわけないじゃない。
「それって、恋愛対象ってこと?ナイナイ!」
じゃー!おやすみー!と夜も遅いので私は自室へ行く。リヴィオだけは困ったように取り残された。
いつもより簡易な服を来て現れるジーニー。学園長のローブを着ていないだけともいえる。
「さて、じゃあ行くよ。エスマブル学園へ!」
「学園!?」
私の驚きの声にジーニーは転移装置を作動させて、彼は来た道をもう一度戻ることになった。
「そうだ。懐かしいだろ?」
視界が揺らぐ。着いた場所は学園長室だった。歴代の学園長の自画像がズラリと飾られている。
「ここに、入ることはなかなか無かったけど、懐かしいわね」
ジーニーが窓の外を指差す。そこから見える寮や学舎の一部。生徒たちは授業中なのだろう。ちらりと見える運動場では訓練している姿が見えた。
「フフフ。変わらないわね」
思わず笑う。ジーニーはそんな私に目を細める。
「そうやって、学園時代も笑っていて欲しかったな」
「………なかなか笑えなかったわね。学園が嫌だったわけじゃないわ。むしろ居場所はここしかなかった」
窓枠に触れて、目を閉じる。家に帰る場所のない私にここは唯一、居ても良い場所であった。
「さて、今日は懐かしい話をしようと思って頼んだわけじゃない」
「そうじゃないかなとは思ってたわ」
お茶とお菓子を用意してくれ、座るように促す。
「リヴィオが持ってきた本を読んだ。セイラも読んでみるといい」
隣の大陸の本!読書好きの私はすぐに興味津々で食いつき、ページをパラリと開く。こちらの言語とは同じであるが、少し訛りがある程度の誤差はあるようだ。
「魔法の理論などは似ているが……魔物がいる、いないとでは魔法の発展、歴史の違いは大きいな。果たして、魔物と対峙したときにこの大陸で戦えるものはいったい何人いる?」
「エスマブル学園卒業生くらいでしょうね」
だからこそ、私はエスマブル学園に頼んだのだ。なるべく多くの国民が教育を受け、魔法の理を理解し、獲得しているようにと。
「セイラは皆が扱える兵器を作れないのか?」
ジーニーが静かにそう言う。ぎくりと身じろぎした。
これはリヴィオに聞かれたくなかったことなのだろう。私にそんなこと頼むな!と怒りそうではある。
「兵器か……私、軍オタではないからなぁ」
「は??軍オタってなんだ……?」
そりゃ、いろいろ兵器に転用できそうなものはある。車、鉄道、飛行機……だからこそ私は家電の日常生活に必要と思われる物しか作らないのだ。兵器に転用してほしくない。
あちらの世界の兵器は怖すぎる。私は首を横に振る。
それに兵器用の術式を考えるとなると温泉旅館や領主をしている暇すらなく……研究をしていかなけれぼならないだろう。
そんな人生を私は望んでないし、この世界に兵器を持ち込みたくない。もう隣の大陸にはあるのかもしれないが、私はしたくない。
「できないわ」
「そうか……魔法が使えない者でも戦える可能性があれば良いと思っただけだ」
もう一人の転生者であろう祖父も『コロンブス』内や部屋を見たところ、兵器を持ち込んでいない。やろうと思えば、私より賢い祖父は簡単にできたんじゃないだろうか?そのあたりは私より慎重だったのかもしれない。
「そう深刻な顔をするな。さて、昼ご飯は食堂でいいか?」
「いいわよ。懐かしの定食が食べたいわ」
食堂はお昼にはまだ少し早く、席が空いていた。本日のおすすめ定食は温かい具だくさんポトフ。小さなポテトグラタン付き……これにしよう。
私がお盆を持って行くと、食堂のおばちゃんが目を丸くして驚いた。
「セイラちゃんじゃないかい!!」
「あ、お久しぶりです。元気にしてましたか?」
白い頭巾に白い服という衛生的な格好をしたおばちゃんは嬉しそうに私を見た。
「うんうん。健康的な顔色をしているよ。今日も美味しいもの食べな!」
てんこ盛りにしとくよ!とポトフを皆の2倍くらい盛り付ける。
「こんなに沢山……私、太ります!」
慌てると首を振る。
「だーいじょうぶ!痩せてる方だよ。しっかり食べて大きくおなり!」
小さい頃からお世話になっていて、皆が休暇でいないときは話し相手をしてくれた。
「立派になってねぇ。頑張ってるんだってねぇ」
「おかげさまで……」
私がニコッと笑うとさらに驚いた顔をされた。
「うん……おばちゃん、嬉しいよ」
涙ぐむおばちゃんにジーニーがそろそろ自分のも盛り付けてもらっていいだろうか?と頼んだ。
「おや?学園長もいたのかい。早く言っておくれ!」
「いや……最初からいたけど……」
若き学園長は食堂のおばちゃんに気圧されて小さい声でそう反論した。
「いっぱい食べてっておくれよ!」
ブンブンと手を振っている。次に来た学生がうおっと驚いている。迫力はあるけど、人を元気にしてくれるおばちゃんだ。
「午後から授業で模擬魔法訓練がある。生徒たちに見せてくれないか?」
「いいわよー。私で良ければ」
午後から魔法をいくつか披露した。私を知ってる人もいるようで……
「本物のセイラさんだ!」
「あの首席だった人だろう?」
「あの人の孫っていう……」
ヒソヒソと何か言われ、恥ずかしくなりつつ、私は模擬魔法を見せていったのだった。
広い演習場は思う存分魔法を使うことができる。久しぶりに私も遠慮なく、使えて楽しかった。
私とジーニーが夕日に染まる学園内の廊下を歩く。
「久しぶりの学園はどうだ?」
「変わらないけど、私が前と違う気持ちで今はここに居るわ。それが不思議ね」
「なるほどね……セイラを変えたのがリヴィオなのかそれとも別の要因があるのかはわからないが……僕は……」
ジッと私を見るジーニーは近寄ってきて、私の髪に触れようとし、手を途中でピタッと止めた。拳を作って、下へスッと降ろした。一瞬ドキッとしたが……いつもどおりの冷静で穏やかな彼は微笑む。
「僕はセイラのこともリヴィオのことも好きだ。これからも良き友でいてくれるか?」
「もちろんよ!いつもお世話になりっぱなしでごめんね」
「いいや、僕自身も楽しい。学園長の職務だけでは息がつまる。最近はやつも旅館や経理の仕事を頑張っているから、楽だ……さてと、そろそろ、セイラを返すかな」
ん??どういう意味!?私はキョトンとした。
「おい……見えてるぞ」
ガタッと音がした。物陰から出てきたのは猫ではなくリヴィオ。
「なっ!?なにしてるの!?」
「通りかかっただけだ」
学園内で??そんな偶然ってあるの!?
「昼頃から学園内でウロチョロしてたな」
呆れたようにジーニーがリヴィオに言うが、彼は認めない。
「見間違いだ!き、気のせいだろ」
ジーニーは肩をすくめ、仕事があると行って、去っていく。
もうすぐ夜が来る。ゆっくりと日が傾いていくのが廊下の窓から見えた。夕暮れは寂しさがある。ふと、足を止め、景色を見た。昔の自分が学園のどこかにいるような気がする。
「学園にいると、あの頃に戻ったみたいね」
「そうだな。こうやって一緒に過ごしたり仕事をしたりするようになるなんて、思いもよらなかったな」
あの頃の自分に言ってやりたい。孤独や寂しさに打ちのめされるな。未来には希望がある。だからもっと笑ったり楽しんだりしても良いのだと。
………一人になるのはもう嫌だ。
「セイラ、これからもずっと一緒にいる」
リヴィオが私の心中を察したのだろうか?そう言うと、そっと手を繋いだ。手が温かい。
夕闇の中、一緒にナシュレへと帰った。
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