転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ

文字の大きさ
225 / 319

記憶の欠片は蝕む

しおりを挟む
 トーラディム王国の王城にお風呂作りに来ることになるなんて思ってなかった。

 私はたしかに作りましょうか?と聞いたけど、まさか城にまで作る事は想定外であった。長い歴史あるこの王国の王城に温泉のお風呂ができるとは歴代の王の誰が想像できただろうか。

 カーンカーンカーンと石を削る音がする。建築士のグレアムが、まさか王宮にくるなんて!と驚いている。

「でもこんなチャンス、めったになくて、光栄すぎて死にそうです!」

 顔を紅潮させてそう語る。トーラディム王国の王家は人々に畏敬と畏怖の念を持たれている。そう感じる。ウィンディム王国の王家はまだ親しみやすい方かもしれない。

「そうなのね……あ、ここはサウナにしましょ」
 
 ハイ!とめちゃめちゃいい返事が返ってくる。低温のサウナも作ることにした。王様業は忙しいから、ゆっくりとできるところもあると良いかもしれないと思ったのだ。

 私は王宮の中を歩く許可証をもらったので、許された範囲のみ、行くことができるので、休憩がてら散策してみることにした。ちょっと他国の王宮で、誰かに見咎められないか、緊張するけど、なかなかこんな機会はなさそうだものね。

「おやー?セイラさんじゃないですかー」

 いきなり声をかけられて驚いて振り返ると、そこには大神官長様がいた。

「びっくりしました!」

「驚かせてしまいましたか?お仕事に来てるんですね」

「あ、そうなんです。王宮にも温泉のお風呂を作ることになりました」

「あ~。いいですね。我が家に温泉なんて!王の特権ですかね。私の家にも、ここが終わったら頼みたいです」

 ……個人宅に作るのはけっこうお金がいるんだけど。まぁ、大神官長ともなると持っていそうだし、そこは心配ご無用なのかな。

「いいですよ!ぜひ、承ります」

「老後の楽しみに、温泉、良いですよねぇ。ミラが大神官長になってくれたら、平穏な老後を送れるんですけどねー」

 はぁ……と憂いるように、頬に手をやる。

「わたし達、ルノールの民は、あの神殿深部の映像以外にも過去を知る事ができるんですよ」

 え?と私は唐突に話し始めた内容に驚き、聞き返す。

「ルノールの民の中でも魔力の高い者は、血の呪いのように、過去を夢で見ることになっています。ルノールの民の歴史を忘れるなと言わんばかりに本人の意思とは関係なく、見せられる。その夢にいる中心的人物が、あなたも見た、ミラにそっくりのルノールの民を統べる長です」

 シンッと静まった廊下に響く声。いつの間にか大神官長様は防音と姿を隠す魔法を発動させていた。アメジスト色の目が私をジッと見る。いつもののんびりした雰囲気てはなく、どこか神秘的ですらある。

「わたし達、ルノールの民はここに3つの神が降り立つ前の先住民族です。天と地に住まうルノールの民はいつしか神々と人々に恐れられていく。迫害を受けたり、高い魔力を利用されたりしてきました」

「なぜ、私にそんな話を教えてくれるんですか?」

「たぶんあなたは世界を『繋ぐ者』です。離れてしまった心。ルノールの民、3つの神、国を繋いでいる」

「『繋ぐ者』?私はそんなこと……」

 大神官長様は買いかぶりすぎだと思う私だった。温泉を作っているだけのような気がするんだけどな……。

「ミラのこと、よろしくお願いします。あの子はルノールの民の長の記憶を持っている。それに飲み込まれないようにしてやりたい。まるで病のように記憶に蝕まれ、今の自分を忘れていくかもしれない」

 愛弟子を労るような人間味溢れる大神官長様を見た気がした。いつも微笑んでいるのに、今は苦しげで、悲しい表情をしていた。初めて見た。

「私にできることなら、助けとなれるなら何かしたいです……ミラは私にとって、もう大切な友人ですから」

「すいません、ちょっと弱気になってしまって。これから起こることが、わたしには怖いんですよ。誰かが犠牲になるようで……そんな予感がします。あなたも気をつけてくださいね」

 大神官長様の予感は馬鹿にできない。なにせ以前、リヴィオに護符を必要と感じて渡し、それをシンに託してカホを助けている。漠然としたもののようだが、何かを感じ取る力が、大神官長様にはあるのかもしれない。

「お心遣いありがとうございます。気をつけます」

「なんで、この時代なんですかねぇ。何事もなく大神官長の役目を終えたいだけなのになあ」

 そう言って、大神官長様はパチンと指を弾き、結界を解くと、いつも通りの、のんびりとした口調の彼に戻っていたのだった。

 私やリヴィオのような記憶ならば、まだ良いのかもしれない。少なくとも私はカホの記憶に救われた。でもミラはどうだろう?決して良い記憶では無い。それは自分の人格すら蝕んでいくかもしれない……私になにができるだろうか?  

 気になりながらも、トーラディム王国を後にした。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...