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分からない気持ち
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するといきなり壁に手を突かれ、完全なる壁ドン状態に心臓が持たなくてすぐに視線を落とした。
タカシお兄ちゃんの磨かれた黒い靴を見ながら、早くエレベーターが着く事を願っていると、ため息が落ちてきた。
気になって見上げると、ため息なんて着くような顔ではなく優しい目で微笑む私の大好きだった王子様スマイルがあって聞き間違いだと思った。
これ以上この空間にいたら、血管にある血が全部沸騰してしまう。
エレベーターさん、長すぎます。
早く着いて下さい。
「遥ちゃん、降りて」
そう言われて気が付くと、開けるボタンを押したままのタカシお兄ちゃんが、私の顔を覗き込んでいた。
あんなに早く着いてくれと願っていたのに、ボーッとしていて到着していた事にも気付かなかった私は、謝りながらエレベーターから飛び降りる。
でも降りた先は、あの煌びやかなエントランスではなく、何故か少し薄暗い場所。
一瞬、現状に理解が出来ず辺りを見回していると、後ろでエレベーターの扉が閉まる音がした。
見た感じ、ここは地下の駐車場のよう。
「あれ、なんで?」
「外は雨だし、送ってってあげるよ」
「そんな。悪いので送って貰わなくて全然大丈夫です。それにここ駅直結ですし、折りたたみ傘だって持ってますし……」
慌てて断り文句をたくさん並べる私に、タカシお兄ちゃんは悲しそうに笑った。
「やっぱり、遥ちゃんは俺の事嫌いなんだね。女性に断られたのなんて初めてだよ」
魅惑的過ぎて逃げたくはなるけど、タカシお兄ちゃんを嫌いなわけではないのに。
そんな顔をされるとまた罪悪感が出てきてしまう。
「違います!本当に嫌いとか、そういうのじゃないんです」
今はこんな首だし、なんかアキラに対しての気持ちの整理も付かないし、あまり誰ともいたくない気持ちなだけで。
でも、こんな事はタカシお兄ちゃんには言えないけど。
「そう。じゃあ……好き?」
そんな唐突《とうとつ》な質問に驚くと、背の高いタカシお兄ちゃんが、少し前かがみになって私の顔をじっと覗き込んでいた。
綺麗な顔がいきなり私の視界を埋めたものだから、顔だけ一瞬で真っ赤になった気がした。
「………………え?」
なんでそんな事聞いてくるの?
でも、好き……なのかな?
昔は好きだったけど、今は……?
タカシお兄ちゃんはこの通りめちゃくちゃ素敵だし、雰囲気もめちゃくちゃ好みだ。
『男』が、女の心を考えもしない狼の革を纏《まと》ってる生き物だという事を知っていなかったら、また好きになっていたかもしれないだろう。
そんな事を真剣に考えていると、タカシお兄ちゃんは急に手で口を覆《おお》って肩を震わせ始めた。
「ふっ……ふふ……」
え?笑って……らっしゃる?ナゼ!?
まさか……
「あ、れ……?もしかしてですけど、私……からかわれてます?」
「ごめん、ごめん。つい。本気にするなんて思わなくて。でも、遥ちゃんの反応が可愛くて」
目尻の涙を拭いながら言われてムカっと来た。
でも、こんなからかわれ方は大が付く程に嫌いなのに、そんな綺麗な笑顔を向けられてしまうと怒るに怒れない。
外見がいい人はズルい。
タカシお兄ちゃんじゃなかったら、絶対に今頃ヒールでそのピッカピカの靴に穴を開けていただろうに。
あーあ。
正直、ガッカリを通り越してショックだ。
昔はもっと紳士で、こんな冗談を言うようにな人じゃなかったのに。
初恋の人の見たくない面を見てしまい、落ちた気分で視線を落とすと、エスコートするように肩をふわりと抱いてくるタカシお兄ちゃんを見上げる。
「ほら、行こう」
「え?」
こういう所は昔と変わらない。
昔っから距離が近すぎる。
よくよく考えると、昔から紳士ではなかったのかも知れない。
過去が美化されているだけなのかも。
タカシお兄ちゃんって誰にでもこんな事しているのかな?
そんなんだと、みんな勘違いしてしまいますよ。
……昔の私みたいに。
タカシお兄ちゃんの磨かれた黒い靴を見ながら、早くエレベーターが着く事を願っていると、ため息が落ちてきた。
気になって見上げると、ため息なんて着くような顔ではなく優しい目で微笑む私の大好きだった王子様スマイルがあって聞き間違いだと思った。
これ以上この空間にいたら、血管にある血が全部沸騰してしまう。
エレベーターさん、長すぎます。
早く着いて下さい。
「遥ちゃん、降りて」
そう言われて気が付くと、開けるボタンを押したままのタカシお兄ちゃんが、私の顔を覗き込んでいた。
あんなに早く着いてくれと願っていたのに、ボーッとしていて到着していた事にも気付かなかった私は、謝りながらエレベーターから飛び降りる。
でも降りた先は、あの煌びやかなエントランスではなく、何故か少し薄暗い場所。
一瞬、現状に理解が出来ず辺りを見回していると、後ろでエレベーターの扉が閉まる音がした。
見た感じ、ここは地下の駐車場のよう。
「あれ、なんで?」
「外は雨だし、送ってってあげるよ」
「そんな。悪いので送って貰わなくて全然大丈夫です。それにここ駅直結ですし、折りたたみ傘だって持ってますし……」
慌てて断り文句をたくさん並べる私に、タカシお兄ちゃんは悲しそうに笑った。
「やっぱり、遥ちゃんは俺の事嫌いなんだね。女性に断られたのなんて初めてだよ」
魅惑的過ぎて逃げたくはなるけど、タカシお兄ちゃんを嫌いなわけではないのに。
そんな顔をされるとまた罪悪感が出てきてしまう。
「違います!本当に嫌いとか、そういうのじゃないんです」
今はこんな首だし、なんかアキラに対しての気持ちの整理も付かないし、あまり誰ともいたくない気持ちなだけで。
でも、こんな事はタカシお兄ちゃんには言えないけど。
「そう。じゃあ……好き?」
そんな唐突《とうとつ》な質問に驚くと、背の高いタカシお兄ちゃんが、少し前かがみになって私の顔をじっと覗き込んでいた。
綺麗な顔がいきなり私の視界を埋めたものだから、顔だけ一瞬で真っ赤になった気がした。
「………………え?」
なんでそんな事聞いてくるの?
でも、好き……なのかな?
昔は好きだったけど、今は……?
タカシお兄ちゃんはこの通りめちゃくちゃ素敵だし、雰囲気もめちゃくちゃ好みだ。
『男』が、女の心を考えもしない狼の革を纏《まと》ってる生き物だという事を知っていなかったら、また好きになっていたかもしれないだろう。
そんな事を真剣に考えていると、タカシお兄ちゃんは急に手で口を覆《おお》って肩を震わせ始めた。
「ふっ……ふふ……」
え?笑って……らっしゃる?ナゼ!?
まさか……
「あ、れ……?もしかしてですけど、私……からかわれてます?」
「ごめん、ごめん。つい。本気にするなんて思わなくて。でも、遥ちゃんの反応が可愛くて」
目尻の涙を拭いながら言われてムカっと来た。
でも、こんなからかわれ方は大が付く程に嫌いなのに、そんな綺麗な笑顔を向けられてしまうと怒るに怒れない。
外見がいい人はズルい。
タカシお兄ちゃんじゃなかったら、絶対に今頃ヒールでそのピッカピカの靴に穴を開けていただろうに。
あーあ。
正直、ガッカリを通り越してショックだ。
昔はもっと紳士で、こんな冗談を言うようにな人じゃなかったのに。
初恋の人の見たくない面を見てしまい、落ちた気分で視線を落とすと、エスコートするように肩をふわりと抱いてくるタカシお兄ちゃんを見上げる。
「ほら、行こう」
「え?」
こういう所は昔と変わらない。
昔っから距離が近すぎる。
よくよく考えると、昔から紳士ではなかったのかも知れない。
過去が美化されているだけなのかも。
タカシお兄ちゃんって誰にでもこんな事しているのかな?
そんなんだと、みんな勘違いしてしまいますよ。
……昔の私みたいに。
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