ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
78 / 161
第5章 存在意義

第10話

しおりを挟む



そして、そのあと。
意外と、源さんは、人を調子に乗らせて使うことがうまいことが判明した。

勿論私は、身を持ってそれを実感した。
源さんってば、私が少し物を刻んだり、煮たりするだけでもかなり大げさに褒めてくれるんだもの。

そりゃ、いい気になるじゃない。

昼餉の後に、そうちゃんと平ちゃんに稽古場に連れて行かれて、ゆるい遊びのような手合せをしたり。

山南さんに連れられて、八木さん一家に、挨拶に行ったり。

息子たちの秀二郎、為三郎、勇之介に捕まって、初対面なのに少しだけ一緒に遊んだり。

新八さんと、左之さんに、お酒の話をされたり。

不思議と、歳三と水戸派の人には会わなかったけれど。

そんなこんなで、あっという間に一日が過ぎて、気が付けば、夕方になっていた。


夕餉の準備を手伝おうと、台所へ向かう途中。


「璃桜~!! 俺もやる!!」
「へ、平ちゃん? うわ」


がばりと抱きつかれ(もはや、タックルを受け)て、受け止めきれずによろけた。


「璃桜が手伝うなら、俺も手伝う!」

「え、ありがとう」


どうやら、夕餉の手伝いを一緒にやってくれるらしい。


「平ちゃん、忙しくないの?」

「おう、俺は暇なんだ、今日は非番だからな」

「そうなんだ」


そのまま足をそろえて台所へ向かえば、すでに支度をはじめていた源さんがにこりと笑って迎えてくれた。


「平助も来てくれるなんて、どういう風の吹き回しだい? いつもは頼んだってしぶしぶ、って感じじゃないか」

「え、そうなの?」

「いやぁ、まぁ、ね」


そう言われて、気付かないほど私は鈍くはない。
照れたように頭を掻く平ちゃんを見て、そう言えば、告白されたんだったと思い出す。

一気に、頬にかぁっと血が上った気がした。


「あれー、璃桜、真っ赤だけど、どうかしたの」

「うるさいよ」


誰のせいだと思ってるの。

恐らく朱に染まっているだろう顔で、ぷいとそっぽを向いた。
源さんの含み笑いに気が付かなかったふりをして、何をすればいいか尋ねた。

途端に、仕事モードに切り替わる。

源さんの的確な指示に従って、あたふたと平ちゃんと共に台所を駆け回る事、一時間ほど。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

甘ったれ浅間

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:7

【完結】どうかその想いが実りますように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,346

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:54,445pt お気に入り:6,782

散華の庭

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

無視された公爵夫人

n-n
恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:2,923

歳三様、恋唄 始末記

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

処理中です...