ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第6章 泡沫

第28話

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「例え嫌がろうったってなにしようったって、それからは逃れらんねぇかんな。おめぇの身柄は、俺のもんだ」


甘い、残酷な、台詞。


「だから、おめぇは黙って俺のそばにいりゃいんだよ、馬鹿」


歳三のこういうところに、女たちは落ちてゆくのだろう。

この人が、好かれる理由がわかったような気がした。

現に、私も、おちて――――――
そう、思いそうになった自分にはっとして、牽制を掛ける。


分っている。
貴方は、特別視しているわけじゃなくて、ただ病み上がりの私を慰めてくれているだけだって。


けど。


「…………とし、ぞ」


分っているから、今だけは、その温もりに、甘えていてもいいのかな?

そう思って、ぎゅっとあなたにしがみ付いた。
けして離れまいと言いたくなる気持ちを、どうにか押さえて心に蓋をして。

だって。

帰らなくては、いけないの。

私は、この時代では異端者なの。

いては、いけない存在なのに。


如何してこうも、切ない。
如何してこうも、泣きたくなる。

ああ、神様。

如何して、私をこの時代に飛ばしたの?
如何して、この人に逢わせたの?

本当に、そう、思う。
勿論、さっきまでとは、違った意味で。

だって、そんなの、酷いじゃない。

ぎゅっと己の胸を押さえて。

淡く痛む、心の底の玉響に。
どくどくと、脈打つ鼓動に。

気付かないふりをした。

……………いつか帰らなくてはいけないのなら、
―――――――――こんな気持ちなんて邪魔になるだけだから。



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