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5. 全ては妻のせい side.リオン
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その後も何度かリーヴィス公爵家へ直談判に言ったが、取り付く島もなかった。輸送料が値上げした以上、商品の製造費用を下げるか、あるいは製品の価格を上げるしかない。
我が領の鉱石やその加工品は安価で高品質が売りである。俺は職人や鉱夫などの賃金を下げることにした。だが収入の下がった職人たちは怒り、ストライキを起こした。
このままでは製造が止まってしまう。やむを得ず賃金を戻し、製品の価格を上げることにした。
そうすると、今度は顧客が離れていった。彼らは一様に「この値段でこの品質なら、他領から購入する」と言ってくる。
「アスター商会やバンクス伯爵家からも、取引を打ち切るとの連絡がありました」
「なぜだ!?彼らとは長く信頼関係を築いていたはず。同じ価格ならば、長い付き合いのある取引先を選んでも良さそうなものを」
「リーヴィス公爵家を怒らせた相手との取引は遠慮すると」
事業は縮小の一途。伯爵家の収入は激減した。
別邸を手放しただけでなく、使用人の一部を解雇した。そのせいか、この本邸も何となく寂寥とした雰囲気がある。
「茶葉を変えたのか?」
「はい。今までの茶葉は奥さ……ナタリア様が取り寄せておられた物でしたから」
「前の味の方がいい。同じ物を買え」
「ナタリア様はリーヴィス公爵家の売買ルートを使っておられました。我が家では取り寄せることができません」
俺は舌打ちした。またナタリアか。
グレンダもいなくなってしまった。エアリー子爵家へ会いにいくと「娘は修道院にやった。公爵家に睨まれたくないから、二度と来ないでくれ」と門前払いを喰わされた。
なんだか酷くイライラする。全部ナタリアのせいだ。あいつが居なくなってから、何もかもうまく行かない。
俺は伝手をたどり、ナタリアがウォルシュ辺境伯家に滞在していると知った。何度か手紙を出したが、「私には関係ありません」と一度だけ返事が来た後は梨の礫だ。何様のつもりだ、あの女は。
「こんばんは、フォレット伯爵夫人」
「あ、あら。ヘイワード伯爵、ごきげんよう」
俺はその日、王弟殿下の誕生パーティへ出席するため王宮へと出向いていた。正直に言ってそんな場所に出る気分ではなかったが、主立った家の当主は全て呼ばれている。参加しないわけにはいかなかった。
今まで俺に煩いくらい纏わりついていた女どもは、俺へ近づいて来なかった。話し掛けてもそそくさと逃げていく。リーヴィス公爵家を恐れているのだろう。
男性たちもだ。高位貴族は勿論、下位貴族すら俺を遠巻きにしている。こっちの羽振りがいい時はへこへこしていたくせに、手の平を返しやがって。
話し相手もなくポツンと立っていた俺の耳に、夫人たちの甲高い声が届いた。入口の方だ。
「まあっ、あれはナタリア様じゃありませんこと!?」
「隣にいらっしゃるのはウォルシュ辺境伯のご令息ですわ。なぜナタリア様とご一緒なのかしら」
ナタリアだと!?
人混みをかきわけてそちらへ向かった俺が目にしたのは――。
アーネスト・ウォルシュ辺境伯令息にエスコートされ優雅に歩くナタリアの姿だった。
柔らかな微笑みを浮かべる彼女は碧色のドレスを身にまとっていた。アーネストの瞳の色と同じ色。それの意味することくらいは分かる。
アーネストは魔法学の高名な研究者で、数々の新技術を打ち出していると聞く。確か、次男であるため辺境伯が持っていた伯爵位を継承していたはずだ。その男が何でナタリアなんかと……?
そうか。きっと、自分が他の男と共にいる姿を見れば俺が嫉妬すると思っているのだ。ナタリアが他の男に目を向けるはずはないからな。
辺境伯令息まで巻き込むとは、全くもって傍迷惑な女だ。
俺は足音荒くナタリアへ歩み寄り、彼女の名を呼んだ。
我が領の鉱石やその加工品は安価で高品質が売りである。俺は職人や鉱夫などの賃金を下げることにした。だが収入の下がった職人たちは怒り、ストライキを起こした。
このままでは製造が止まってしまう。やむを得ず賃金を戻し、製品の価格を上げることにした。
そうすると、今度は顧客が離れていった。彼らは一様に「この値段でこの品質なら、他領から購入する」と言ってくる。
「アスター商会やバンクス伯爵家からも、取引を打ち切るとの連絡がありました」
「なぜだ!?彼らとは長く信頼関係を築いていたはず。同じ価格ならば、長い付き合いのある取引先を選んでも良さそうなものを」
「リーヴィス公爵家を怒らせた相手との取引は遠慮すると」
事業は縮小の一途。伯爵家の収入は激減した。
別邸を手放しただけでなく、使用人の一部を解雇した。そのせいか、この本邸も何となく寂寥とした雰囲気がある。
「茶葉を変えたのか?」
「はい。今までの茶葉は奥さ……ナタリア様が取り寄せておられた物でしたから」
「前の味の方がいい。同じ物を買え」
「ナタリア様はリーヴィス公爵家の売買ルートを使っておられました。我が家では取り寄せることができません」
俺は舌打ちした。またナタリアか。
グレンダもいなくなってしまった。エアリー子爵家へ会いにいくと「娘は修道院にやった。公爵家に睨まれたくないから、二度と来ないでくれ」と門前払いを喰わされた。
なんだか酷くイライラする。全部ナタリアのせいだ。あいつが居なくなってから、何もかもうまく行かない。
俺は伝手をたどり、ナタリアがウォルシュ辺境伯家に滞在していると知った。何度か手紙を出したが、「私には関係ありません」と一度だけ返事が来た後は梨の礫だ。何様のつもりだ、あの女は。
「こんばんは、フォレット伯爵夫人」
「あ、あら。ヘイワード伯爵、ごきげんよう」
俺はその日、王弟殿下の誕生パーティへ出席するため王宮へと出向いていた。正直に言ってそんな場所に出る気分ではなかったが、主立った家の当主は全て呼ばれている。参加しないわけにはいかなかった。
今まで俺に煩いくらい纏わりついていた女どもは、俺へ近づいて来なかった。話し掛けてもそそくさと逃げていく。リーヴィス公爵家を恐れているのだろう。
男性たちもだ。高位貴族は勿論、下位貴族すら俺を遠巻きにしている。こっちの羽振りがいい時はへこへこしていたくせに、手の平を返しやがって。
話し相手もなくポツンと立っていた俺の耳に、夫人たちの甲高い声が届いた。入口の方だ。
「まあっ、あれはナタリア様じゃありませんこと!?」
「隣にいらっしゃるのはウォルシュ辺境伯のご令息ですわ。なぜナタリア様とご一緒なのかしら」
ナタリアだと!?
人混みをかきわけてそちらへ向かった俺が目にしたのは――。
アーネスト・ウォルシュ辺境伯令息にエスコートされ優雅に歩くナタリアの姿だった。
柔らかな微笑みを浮かべる彼女は碧色のドレスを身にまとっていた。アーネストの瞳の色と同じ色。それの意味することくらいは分かる。
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そうか。きっと、自分が他の男と共にいる姿を見れば俺が嫉妬すると思っているのだ。ナタリアが他の男に目を向けるはずはないからな。
辺境伯令息まで巻き込むとは、全くもって傍迷惑な女だ。
俺は足音荒くナタリアへ歩み寄り、彼女の名を呼んだ。
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